■気候システムの自然変動

 地球温暖化など気候に対する人間活動の急激な拡大による影響を理解し、対策を立てるためには、気候システムの自然変動を理解し分離する必要がある。
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2004年11月15日更新

季節変動と年々変動

 人為的影響による気候の長期変化を考える前に、気候の自然の揺らぎを知っておこう。
 ・季節変動の仕組み
 まず季節変動の仕組みは次の通り。
 地球は太陽からの光(短波放射)を受け、一部は雲や雪氷で反射し(反射率=アルベド)、大気、陸域、海洋が暖められ、長波放射(黒体輻射)で宇宙に熱が放出される。低緯度地域では太陽からの入射が宇宙への放射を上回って暖かくなり(熱源)、高緯度では逆に宇宙への放射が太陽からの入射を上回って寒くなる(冷源)。
 さらに水蒸気、二酸化炭素、メタンなどによる温室効果が関与していて、それがなけれは全球平均気温が-18度Cとなってしまうところ、現在のような快適な気候が保たれている。
 ここで地軸が傾いているため、北半球と南半球のそれぞれの日射量が1年間で変化するため、季節変化が生じる。

 ・気候の年々変動
 この温度差(ヒートエンジン)によって、大気と海洋に循環が生まれ、低緯度から高緯度へと熱を運び気温差を平均化しようとする。このうち、海洋は大気に比べて、温まりにくく冷えにくいため、タイムラグを持って熱を輸送する。途中で中層に潜り込んだりすると、年を超えてタイムラグが生じると、気候の年々変動が生じる。

 陸域では、降水と蒸発を繰り返しながら熱を輸送するが、土壌水分、雪氷・凍土、植生などがタイムラグの要因として、あるいは、循環を促進・緩和する作用として働く。そのうえ、海洋、大気、陸域、雪氷、植生などの間で互いに循環を強めあったり弱めあったりする。
 こうした水・熱輸送におけるタイムラグや相互作用が気候の自然な揺らぎ(年々変動)を生み出す。これがエルニーニョ/ラニーニャ現象アジアモンスーン変動、インド洋ダイポール・モード現象北太平洋の十年規模変動などである。

エルニーニョ/ラニーニャ現象と西風バースト
 熱帯では、貿易風赤道海流などの影響で西太平洋側に暖水の偏りが生じる。それによって積雲対流が作られ、強い降水が海表面に薄い淡水層を作ることで、さらに海水温を高め、積雲対流をさらに発達させる。こうした相互作用によって、熱帯西太平洋には世界で最も水温の高い「暖水プール」が形成される。

 この西太平洋の暖水プールが2〜数年に一度、東太平洋側に大移動する現象が「エルニーニョ現象」であり、逆に、西太平洋への偏りが強まる現象が「ラニーニャ現象」である。

=>El Nino Thema Pageエルニーニョ・インデックス

 暖水プール上の積雲対流は集団(スーパー・クラウド・クラスタ)を作り、その集団には1000kmスケールの1〜2ヶ月振動(マダン・ジュリアン振動)が見られる。年によって、暖水プール上で強い西風(東風)バーストが吹くことがあり、それがエルニーニョ現象の引き金の一つと考えられているが、西風バーストの発生メカニズムは分かっていない。双子の熱帯低気圧?

=>西風バーストを介したAOによるENSOの変調(中村 哲ほか)
=>MISMO. 概要と初期結果.(米山邦夫)
=>エルニーニョの発生時期とその後の発達との関係(合同ミニシンポジウム22000044//1100//114、堀井孝憲)

 そこで、積雲対流/マダン・ジュリアン振動/西風バーストの間の相互作用を明らかにする必要があり、これまで、JAMSTECによって熱帯西太平洋でのトライトン・ブイ観測及び「みらい」のドップラーレーダー観測が行われ、また、西太平洋とインド洋の暖水プールを結ぶインドネシア通過流の観測が行われてきた。
 今後、以下の観測が検討されている。
・これまで不足していた100km四方を1kmの解像度で観測する手段として、ドップラーレーダーに加えて、「無人小型気象観測機エアロゾンデ)」という新しい観測が考えられている(H12よりパラオで観測開始)。JAMSTECの「みらい」ドップラーレーダー観測及び海面フラックス観測と協力。
・エアロゾンデでも観測できない5kmを越える上空での観測手段として、パラオでの航空機観測の実施方法が検討されている。
 

インド洋のダイポール・モード現象とモンスーン異常
 最近、インド洋側にも、エルニーニョとは異なる大気海洋変動(ダイポール・モード現象)が日本の研究チームによって発見された。インド洋は現場データの最も乏しい海域であり、ダイポール・モード現象のメカニズム及びエルニーニョ現象やアジアモンスーン変動との関係が明らかでない。
=>INDIAN OCEAN DIPOLE (IOD) HOME PAGE(JAMSTEC)/Dipole Mode index(OOPC)

 このインド洋、上述の熱帯西太平洋、並びに、両者の境界に位置するインドシナ・インドネシア(海洋大陸)の3地域にわたって、大洋スケール・大陸スケールでの水・熱輸送の大要を明らかにすることは、上記の課題を解明し、また、西風バースト発生メカニズムの解明にも役立つ。

 このため、以下の観測研究が開始されている。
・西太平洋の暖水プールを南北に縦断するボランティア船による投下式センサーによる塩分水温観測(XBT/XCTD)、インド洋のボランティア船、漁船によるXBT/XCTD観測、水産庁観測船(1999年は開洋丸、2000年は昭洋丸)による流向流速(ADCP)及び水温塩分観測、海面漂流ブイの投入を開始。
・12年10月にインド洋東部にJAMSTECがトライトン・ブイを設置する際に、ADCP係留系も併設する。

 また、インドシナ〜インドネシア地域を中心として、高層ゾンデ、GPS観測網による広域水蒸気変動観測、水の安定同位体分析により広域の水蒸気循環を解明。

北太平洋の十年規模変動PDOと北大西洋振動NAO
(1)亜表層・中層への潜り込み
 熱帯西太平洋の暖かい海水は、太平洋西岸を北上し、黒潮として日本沿岸を東進しながら、大気に水・熱を放出する。偏西風によって冷却された海水は中層へと沈み込み、あるいは、黒潮に伴って生じる中規模渦による鉛直混合の効果によって、亜表層・中層水を形成する(亜熱帯モード水)。

 北西部北太平洋(亜寒帯)でも、冬季における海水冷却や、強い低気圧の頻繁な通過(ストームトラック)による海面の擾乱などによって海水の潜り込みが起こり、亜表層・中層水を形成する(北太平洋中層水)。

 例年とは異なる低気圧の異常発達などがあると、それによる海面水温の異常が沈み込み/潜り込んで亜表層・中層の熱容量を変動させる。これが数年から数十年の気候変動(北太平洋の十年規模変動)を引き起こすと考えられている。
 この沈み込み/潜り込みは数値モデルでは計算困難であり、そのメカニズムや、どの海域のどの部分で生じているのかもあまり分かっていない。

=>十年規模太平洋振動インデックス

 これまで、黒潮続流域についてはJAMSTECの集中観測海域となっており、北西部北太平洋では振興調整費(SAGE)による観測が実施されている。さらに、中層漂流フロートプロファイル・フロート)による新しい観測手法によって、大洋スケールでの亜表層・中層の海洋変動の大要を明らかにすることが検討されている。

●黒潮の変動メカニズム
 黒潮は海洋における熱輸送の最も大きな担い手である。また、黒潮は亜熱帯循環系と亜寒帯循環系の境界でもあり、その流路が変動すれば気候変動に影響を与え、あるいは、気候変動の影響が流路の変動の原因となる。また、黒潮流域は上記のとおり亜表層・中層水の主要な生成海域でもある。

 このため、黒潮変動を予測できるよう、黒潮変動の新しい観測手法を導入し数値モデルの改良に必要な検証実験を行うことが検討されている。黒潮の上流側の流量変動が大蛇行などに大きな影響を与えること、また、高解像度の数値モデルにおいて海底地形効果を正しく取り入れているかを確かめることが重要との認識から、沖縄〜九州南方海域で以下の観測研究を開始。

・従来の係留式流速計観測に代えて、新しい圧力計付き音響式潮位計(PIES)アレイ観測を導入する。同時に船舶による往復観測で流向流速・水温塩分観測を実施。
・海面漂流ブイにより黒潮再循環系の中規模渦などを観測。
・衛星による海面高度計データ等の解析を実施。

●東アジア梅雨前線帯
 熱帯の積雲対流域から北上する熱帯低気圧が運ぶ水蒸気は、東アジアの梅雨前線帯に供給されることで同地域に大量の降水をもたらす。これは日本の梅雨前線にも影響を与える。

 これまでドップラーレーダーによる観測が試みられたが、雲のない空には無力で、梅雨前線に供給される水蒸気ジェットを捉えることができなかった。

 これを踏まえて、中国長江流域において、風分布の観測手段としてウィンド・プロファイラー1台、バイスタティック受信機2台、自動気象観測装置、ドップラーレーダー(名大2台及び北大1台)による観測が準備されている。

●北極圏
 冷源である北極圏では、海氷や雪氷が太陽からの短波放射を反射するだけでなく、海氷が海にフタをすることによって大気への熱放出を妨げ、いっそう、気候を寒冷化する。

 北極海の海氷は、大陸河川から流入する淡水による特殊な海洋の成層構造(塩分躍層)が対流を妨げ、海氷を作りやすくする。もし、北極圏陸域の降水量が減れば海氷ができにくくなって開氷面積が増え、海洋から放出される熱が増大し、温暖化を促進することになる。

 このように、海氷の存在は北極圏の気候変動をより不安定にする役割を果たす。

 このような北極海の特殊な海洋構造と海氷変動の関係及び大気への熱フラックスの変動に関し、「みらい」北極海観測と協力し、また、水の安定同位体分析などによる観測研究が計画されている。

 また、北極圏では気候変動や地球温暖化の影響が顕著に現れることに着目し、海洋プランクトンが放出する大気微量成分がエアロゾルとなって北極圏の雲量に及ぼす影響について、プラクトンや硫化ジメチル(DMS)などの分析による研究が計画されている。

=>NAOの図解北大西洋振動インデックス
=>北極振動インデックスNAOとAOとの関係

●永久凍土帯
 陸域では降水と蒸発と流出を繰り返しながら、水・熱が循環する。そのプロセスは、積雪(太陽光を反射、水を保持)、土壌(保水又は水を透過)、植生(蒸発を促進、森林はアルベド変化を緩和)、永久凍土(夏季は土壌水分を保ち、植生の成長を促す)などの状態に大きく左右される。
 アジア・モンスーンは、インド洋とアジア大陸の温度差によって生じる季節風のことであるが、これが年によって異常降水などの極端な季節変動となることがある。

 寒冷圏では、積雪・融雪によってアルベドの季節変化が大きいだけでなく、もともと熱帯に比べて雨が少ないため、降水量の少しの年々変動によって熱・水収支が大きく変わり、アジアモンスーン異常など気候の年々変動を左右している可能性がある。
 アルベドの季節変化・年々変動は、同じ積雪地帯であっても、夏季に草本しかないツンドラ地帯(レナ川下流のティクシ)やモンゴルよりも、年間を通じて森林が存在するタイガ地域(レナ川中流のヤクーツク〜上流のティンダ)では緩和される。
 山岳タイガ地域(レナ川上流、ティンダ)は、降水が多く、そのほとんどが流出してレナ川から北極海への淡水供給を支配している点で重要である。

 また、融雪後の夏季においては、永久凍土帯では保水性が高く植生の育成を促し蒸発が盛んであるが、季節凍土帯のモンゴル(ステップ)では植生が成長しにくく夏季の蒸発は乏しい。モンゴルと同じ半乾燥域でも凍土のないカザフスタンでは融雪期の草本成長期の水蒸気放出が非常に大きい。

 チベット高原も永久凍土帯だが、高地効果によってモンスーンによる降水の影響を直接受ける点が異なる。

 タリム盆地はチベット高原の北側にあって、地下水起源の蒸発がもっぱらの乾燥域である。

 アラスカ(ユーコン川流域)は、シベリアの永久凍土帯と似た環境であるが、より多雨な地域で北極海と太平洋の影響を受けやすい地域特性がある。

 以上のように、特徴的な季節変動・年々変動を示す代表的地域において領域スケールでの水・熱フラックスの季節変動・年々変動を観測し、そらが地域の間でどのように影響しあっているか、また、それらがアジアモンスーンなどに与える影響を明らかにすることが必要とされている。

ブロッキング現象
=>ブロッキング現象南極のブロッキング
=>北半球2週間先気象予報(米NCEP)

=>穀物関係のホームページ
=>世界各地の気象状況(気候系監視報告)

=>異常気象レポート2005(気象庁) 地球観測調査検討ワーキンググループ各部会報告4. 生態系、5. 定常観測、6. 自然災害、7. 地理情報、8.エネルギー・資源)9. 地球科学、10. 国際対応、11. データシステム


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