■Mullerの宇宙塵仮説とネメシス仮説

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2002年2月24日更新

■氷期・間氷期サイクルの宇宙塵仮説

 氷期/間氷期サイクルは、いわゆるミランコビッチ・サイクル、すなわち、「地球軌道の離心率」の変動(40万年、12.5万年、9.5万年周期)、「地球自転軸の傾斜角」の変動(4.1万年周期)、「歳差運動(みそずり運動)」による南北それぞれの半球の日射量が変化するためというのが通説です。

 ところが、Mullerほかによると、最近100万年間の氷期/間氷期サイクルは、「地球の軌道面の傾斜角」が 10万年周期で変動することに支配されているというものです。これは、100万年前に太陽系内のコスミックダストなどが増え、このコスミックダストの軌道と地球軌道が交差する角度が10万年周期で変動するためであるとのこと。

 その根拠ですが、海底堆積物中の酸素同位体比から地球全体の氷床量の増減が求められる。年代と堆積速度を結び付けるために、これまでは自転軸傾斜角による日射量変動モデルでチューニングしていた。それでは鶏と卵の関係で問題がある。そこで放射年代で決めるポイント間は堆積速度一定と仮定して、深海掘削コアの酸素同位体比と年代のグラフを周波数解析してみた。それと、自転軸傾斜や離心率などの変動を考慮した日射量モデルの結果と比較した。

 すると、150万年〜250万年前の堆積層では、日射量モデルにおける自転軸傾斜の 4.1万年周期にぴったり一致する。ところが、100万年以降の堆積層ではきっちり 10万年周期のところにのみ顕著なピークが現れるのに対して、離心率変動による日射量モデルでは40万年周期の大きなピーク、12.5万年、9.5万年周期に小さなピークが出るのみ。
 すなわち、深海掘削コアに顕著に現れている10万年周期のピークは、ミランコビッチ的な日射量変動では説明できないことが明らかになった。

 従って、100万年以降は、全氷床量の変動はどういうわけか離心率や自転軸傾斜による日射量変動の影響が現れなくなってしまって、10万年周期について別の仮説を探さざるをえないとのこと。

 ただし、これはあくまでも全球氷床変動のことで、他のデータ(表層海水温度など)では離心率変動のピークが現れてるコアの例も見つかっており、局所的な気候はミランコビッチ的な日照量変化の影響を受けているとのこと。

 なお、この宇宙塵仮説はまだ疑問に思う研究者が多いようで、歳差運動の1.9万年と2.3万年周期により気候システムが非線形応答して10万年周期が生じるとする説が主流のようだ。

 以下の阿部ら論文では大気海洋結合モデルMIROC3.2に氷床モデルIcIES(Ice sheet model for Integrated Earth system Studies)を組み込んで10万年サイクルを再現。
=>Climatic Conditions for modelling the Northern Hemisphere ice sheets throughout the ice age cycle(A. Abe-Ouchi, T. Segawa, and F. Saito, Clim. Past, 3, 423.438, 2007)


=>R. A. Muller, G. J. MacDonald, "Glacial cycles and orbital inclination", NATURE, Vol.377, p.107-108, Sep. 1995

=>R. A. Muller, G. J. MacDonald, "Glacial Cycles and Astronomical Forcing", SCIENCE, Vol.277, p.215-218, July 1997

■ネメシス仮説
 Mullerはほかにも面白い説を唱えている。その一つが2600万年周期で生物絶滅が起きているというもので、その原因として、太陽の伴星ネメシスが長楕円軌道を2600万年周期で周回している説を唱えている。このネメシスの軌道は安定していないという反論から否定されたかに見えたが、どっこい、不安定ではないと反論している。

=>The Search for Nemesis(2600万年周期)

1) デヴィッド・M・ラウプ,「ネメシス騒動−恐竜絶滅をめぐる物語と科学のあり方」,平河出版社

 また、地球への小天体衝突頻度は、地球誕生以降、減少が続いていると考えるのが常識的であるが、アポロ計画によって月面から回収された衝突生成物質の年代測定の結果、最近5億年間の月面への小天体衝突(すなわち地球への小天体衝突)が増加しているとしている。

=>月面クレータの形成年代


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