この海底捜索について、「沈まぬ太陽(三)御巣鷹山編」(1999、山崎豊子、新潮社)のp.231-p.234の3ページ半にわたって書かれている。「かいよう」捜索の突然の打ち切りに疑問を抱く記述があるが、最初からアルミの破断面の疲労亀裂進展が海水で解けるまでタイムリミットがいつまで、ということで捜索期間が決まっていたような記憶がある。
「かいこう」ランチャーに装備されているサイド・スキャン・ソーナーは、ビーム幅約2度の扇形ビーム(左舷38kHz、右舷42kHz)を発射。海底から100〜200mの高さで約0.5ノットで曳航する。探査幅は、片側1000〜1500m。探知可能な物体の大きさは1m以上。
=>HYFLEX(NASDA)
事故発生時、「なつしま」はドック中で、突貫工事で工期を切り上げての出動だった。1月23日に神戸出向、同25日に現場海域に到着後、翌26日には曳航体のサイドスキャンソーナーで異常反射を発見。翌27日には曳航体のTVカメラで船体を確認。油が洋上に漏出していたことが迅速な発見に繋がった。
やはり3月中旬まで定期点検でオーバーホール中だった「ドルフィン3K」の工期を1ヶ月半も短縮し、2月7日に「なつしま」に搭載して舞鶴港を出港、9日に<ナホトカ号>であることを確認するとともに、漏出状況の詳細な調査を開始した。2月15日にドルフィン3Kのテザーケーブルにキンク発生。翌16日にケーブル交換終了して調査を再開。
この調査では、見えない部分で大変なドラマがあった。まずは「なつしま」と「ドルフィン3K」の工期短縮のための徹夜続きの作業があった。支援物資を陸送するにも雪道で苦労している。調査中に「なつしま」のサーバーが故障し、当時建造中だった「みらい」のサーバーを陸送して換装したというエピソードもある。
さらに、冬の日本海の厳しい海象条件下(1/28-29、2/1、2/10-13、2/16、2/19-21の5度にわたって避港・荒天待機)で、ドルフィン3Kのテザーケーブルのキンクが3度発生し(2/15光ケーブル断線、2/16ケーブルウィンチ積替え。) 、新たに製作したばかりのケーブルと旧ケーブルを換装しながら調査が続けられた。一度キンクしたテザーケーブルはその箇所で切断して末端処理して再使用するので、修理のたびに短くなっていく。その結果、水深2500mに対して、ほとんど長さに余裕のないテザーケーブルで調査が行われた。つまり、「なつしま」がいつも「ナホトカ号」の真上にいるように高度な操船が行われたことになる。
=>ナホトカ号調査(JAMSTEC)
・12月3日:「かいれい」が現場海域に到着。SeaBeam 2112による海底地形調査を開始。
・翌4日:船上で広域反射強度図の処理を行い、「対馬丸」らしき特異点を捉える
・同SeaBeam 2112のチャープ式サブボトム・プロファイラ及び「かいこう」のパラメトリック式サブボトム・プロファイラにより、特異点が地質構造的な岩石などではないことを確認
・同日のうちに「かいこう」のサイドスキャンソーナー調査を開始し、対馬丸らしき船体を確認。その後の船上での画像処理によって、大正時代の三島型船型の特徴である直立型船首と切れ上がった船尾を持つことが判明し、対馬丸であることが確定的になる。
この画像処理された音響による対馬丸の陰のリアルさには驚かされた。
・12月11日、「なつしま」が現場海域に到着。「ドルフィン3K」の新スーパーハーブTVカメラにより、対馬丸の船名を確認。
この調査で活躍したのは、この年の3月末に完成したばかりの「かいれい」搭載のSeaBeam 2112 である。浅・中深海モードでは151本の送波ビームを左右あわせて120度の方向に発射。深海モードでは91本の送波ビームを90度の方向に発射。その反射波を幅2度の狭い受波ビームで受信することによって、2度×2度のシャープな測深ビームを作る。
これによって、水深の2〜4倍の幅で海底地形を作成することができるだけでなく、サイドスキャンソーナー機能も兼ねていて、音響反射強度図も作成できる。
その分解能は水深1000mで約30mであり、このお陰で迅速な発見に繋がった。
とにかく完成したばかりの「かいれい」の完成度が高く、SeaBeamのスイッチを入れた途端になんの調整も要せずに画像が出てきたという担当者の感想が印象に残っている。
私は冬至、沈没船のソーナー画像からどの時代に建造された船か推定できないかアドバイスを求められ、船舶の歴史研究家でも有名な寶田直之助(横浜国立大学元教授)氏を紹介。先生は大正時代に建造された船の特徴として、直立した船首と切れ込みの大きい船尾の三島船型から、対馬丸の可能性が高いと鑑定された。
=>対馬丸の調査(JAMSTEC)
・11/19〜12/3:「かいれい」航海
シービーム調査によって海底地形図を作成。「かいこう」ランチャーのサイドスキャンソーナーにより音響反射異常を何点か発見。11/27にエンジンセクションを発見。
・12/19〜12/26:「よこすか」航海
4000m級ディープトウ(ソーナー曳航体及びカメラ曳航体の24時間運用)によって、クリスマスイブの12/24にエンジン本体発見(水深:2914m)。
・1/5〜1/13:「なつしま」航海
「ドルフィン3K」でエンジン本体の詳細なTV撮影及び部品14個を回収。
・1/17〜1/27:新日本海事(株)「新日丸」航海
米フェニックス・マリン社「Remora 6000」でエンジン本体、液体酸素ターボポンプ及びノズル・スカートを回収。
=>H-IIロケットの調査(JAMSTEC)
渡辺正之、門馬大和、2000、"H-IIロケット8号機の捜索とエンジンの回収"、TECHNO MARINE(日本造船学会誌)、No.854、pp.497-504
音響トランスポンダのない、または、音響トランスポンダの不具合で応答がない場合、1m程度の物体を海中で識別するには、現在のところ、海底から100〜200の高さからのサイドスキャンソーナーによる調査を行うしかない。曳航体ではケーブルの抵抗のために0.5〜1ノットという人の歩く速度でしか曳航できない。また、曳航作業は海象条件に大きく左右される。
これを大幅に効率アップするには、ケーブルのない自律型無人機(AUV)によるソーナー調査が有効であり、「うらしま」の完成によって、実現に向かって大きく前進した。
さらに将来の夢であるが、洋上からのマルチナロービーム調査に合成開口技術を適用することによって、広い探査幅のままで高解像度化する方法がある。衛星ではずでに合成開口レーダー衛星が活躍しているが、動揺のある船又は潜水船からの合成開口ソーナーはまだまだ夢の技術だという。