■分析・実験機器−質量分析計:磁場で分離するタイプ

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2008年2月22日更新

安定同位体質量分析計」(IR-MS)と「加速器型質量分析計」(AMS)と「希ガス質量分析計

 経年変化が極めて少なく、自然状態で存在比の比較的大きい同位体を「安定同位体」と呼び、そのうちD(重水素)、C13、O18のような常温で気体となるサンプルの安定同位体比を測定するための質量分析計を「安定同位体質量分析計」又は「安定同位体比(測定用)質量分析計」(IR-MS又はIRMS、IRマスと読むが、あまり普及していない)という。単に「質量分析計」と言ったり、「軽元素ガス用質量分析計」と呼んだりすることもある。
 サンプル・ガスを熱電子の照射によりイオン化し、真空中で電圧をかけて加速した粒子線(イオンビーム)を強磁場で曲げ、質量(と電荷)の違いによる曲がり具合の差によって同位体を分離し定量するもの。(サーモ・フィニガンの"MAT 252"、その安価版の"DELTA Plus"など)

 前処理装置の種類によって、炭素C13/C12同位体比を求めるもの、水素D/H比及び酸素O18/O16比を求めるもの、有機物を分離・計測するものとに大別される。

・炭素C13/C12同位体比測定用
 海水中のCO2をN2ガスでバブリングして抽出したり、堆積物試料の有孔虫の炭酸塩の殻にリン酸を加えてCO2を発生させるカーボネート装置(炭酸塩自動前処理装置)を前処理装置とする。このC13/C12比は、後述するAMSによるC14/C12比測定の補正に使われる。

・水素D/H比及び酸素O18/O16比測定用
 キャリアガスとサンプル水との間で安定同位体比を平衡させる平衡装置(恒温水槽付き)によって、水素又は酸素を抽出する。D/H比及びO18/O16比は、水の蒸発時の気温や大気中の輸送距離によって変化することから、水循環や水塊混合過程の研究に用いられる。

・有機物分離・測定用
 ガスクロ+コンバージョン(GC/C)付きのIR-MS(GC/C-IRMS)は、有機物を成分別に分離したうえで、コンバージョン(燃焼器)でCO2、N2、S?にガス化してから同位体比を計測するもの。

 以上に対し、経年変化が大きく、自然状態での存在比が極めて小さい元素の同位体比を求めるものを「加速器型質量分析計」(AMS)と呼ぶ。強磁場で曲げた粒子線をさらに加速器で加速することによって感度を上げている。宇宙線が大気と衝突して生成するC14が海水や植物に取り込まれてからのC14/C12比の経年変化を利用して年代決定する方法が有名。
 宇宙線強度は太陽活動や地磁気の変動によって変化するため、年輪年代決定法による補正が不可欠。年代決定は精一杯頑張って過去5〜6万年までが限度。HVEE社製のタンデトロンで一躍有名になった。卓上型の登場が待たれているが、高精度のものはなかなか現れない。

 希ガス(noble gases:He, Ne, Ar, Kr, Xe) 同位体比計測用の質量分析計を「希ガス質量分析計」(一般的ではないが「SFMS: sector field mass spectrometers」と称している例もある)という。Ar同位体比は、放射年代測定によく使われる。

=>sector field mass spectrometers (SFMS)

表面電離型質量分析計」(TI-MS又はTIMS)と「誘導結合プラズマ質量分析計」(ICP-MS)と「2次イオン質量分析計」(SIMS)
 より重い元素の同位体比測定又は定量に使用する質量分析計に、「表面電離型質量分析計」(TI-MS又はTIMS、ティムスと読む)と「誘導結合プラズマ質量分析計」(ICP-MS、ICPマスと読む)と「2次イオン質量分析計」(SIMS、シムスと読む)がある。いずれも粒子線を強磁場で曲げて同位体を分離する原理はIR-MSと同じだが、イオン化の方法が異なり、それによって得意とするところも異なる。

 TIMSは、金属フィラメントに塗布した試料を電流で加熱してイオン化させるもの。リチウムLi、ホウ素B、ストロンチウムSr、レニウムRe、オスミウムOs、鉛Pb、ネオジウムNd、トリウムTh、ウランUの同位体比測定、ルビジウムRb、サマリウムSmの定量などに使われている。高レベルのアバンダンス感度を達成するためにエナジーフィルター(RPQplus)を装備する場合がある。(サーモクエストの”MAT 262”、さらに高感度な”TRITON TI”など)

 ICP-MSは、酸溶液にした試料を霧状にしてプラズマと反応させてイオン化したもの。通常は一つの検出器がトラバースしながら多元素を分析する(シングル・コレクター(SC)付きのElement 2(サーモクエスト社)やVG Axiom Plus SC(ThermoElemental社)など)。短時間で大量のサンプルを処理できるが、各同位体を同時に測定できず、プラズマの揺らぎの影響が出るため、同位体比の計測制度がTIMSより精度は2ケタ劣る。

 それに対して、マルチ・コレクター(MC)付きのNeptune(サーモクエスト社)やVG Axiom MC(ThermoElemental社)は、数個の検出器によってある元素の同位体を同時計測するため、SC付きよりも1ケタ高精度なので、TIMSではイオン化が困難な試料(リチウムLi、鉄Fe、モリブデンMo、ハフニウムHfなど)の高精度な分析に使う。

 LA-ICP-MS(レーザーICP質量分析計、Laser Ablation-Inductively Coupled Plasma-Mass Spectrometry)は固体試料表面に高エネルギーレーザーを照射し、蒸発・微粒子化した粒子を高周波プラズマでイオン化して質量を分析するもの。

 SIMSは、1次イオンビームを試料にぶつけて、試料表面から叩き出された2次イオンを使うもの。広大と極地研に導入されている「高感度高分解能2次イオン質量分析計/SHRIMP II」(Sensitive High-Resolution Ion MicroProbe)は酸素やセシウムのイオンをビームにして試料にぶつけることによって、ジルコン粒子ひとつぶの年代を決定できる。最新鋭機はオーストラリア国立研とスタンフォード大の「SHRIMP RG」
=>イオンマイクロプローブ(国立極地研究所 南極隕石センター)
=>英語版Wikipedia

 さらに空間分解能を高めたものがnanoSIMS(二次元高分解能二次イオン質量分析計)。 =>NanoSIMS(ワシントン大)
=>海洋研のCameca NanoSIMS 50(pdf)


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