「自由未来」には、親子の断絶、夫婦の断絶、東西陣営の断絶、人種間の断絶といったさまざまな断絶が描かれている。ハインライン作品の主人公は不屈の精神で困難を乗り越えていくのが常だが、本作品の主人公で50過ぎの土木請負業経営者のヒューバート・ファーナム(ヒュー)は、これらの断絶を結局、克服することができない。このように、ハインライン作品には珍しい悲観主義が随所に現れている。
こうした悲観主義は、他の作品の中にも、時折、顔を覗かせている。
■親子の断絶
「自由未来」では、ヒューの息子のデュークは、父親の母親への態度や専制的姿勢に反発する。一時、息子は父親を理解するものの、その後、悲劇的な結末を迎える。
■夫婦の断絶
「自由未来」では、アル中で怠惰になってしまった妻グレイスは、未来世界へのタイム・ジャンプ後に料理人として立ち直るが、娘カレンの死によって夫を徹底的に拒絶するようになる。「月を売った男」では、主人公のディロスは、夫の月旅行の夢を認めようとしない妻シャルロッテに手を焼く。グレイスもシャルロッテも、結婚当初の貧乏生活では倹約家で働き者であったのに、裕福になるにつれて贅沢で怠惰になる点が共通している。
「自由未来」では、ヒューは理想の女性バーバラ・ウェルズと再出発する。「ヨブ」では、妻アビゲイルと無味乾燥な夫婦生活を送っていたらしい主人公のアレックは、理想の女性マルガレーテと再出発する。ハインライン自身が最初の妻と破綻し、再婚したジニーと生涯を供にしたことが反映されているのだろうか?
■人種間の断絶
「自由未来」では、黒人のハウスボーイのジョフに対し、雇い人であるヒューは、人種差別に囚われない姿勢を貫いたが、有色人種が支配層である未来社会で立場が逆転してから、ヒューとジョゼフの友人関係は破綻する。
「ウロボロス・サークル」では、主人公たちは、対等の人間として扱おうとした宇宙居住地のスラム街出身の少年に裏切られる。