ハインラインは、数多くのジュヴナイル物はもちろん、大人向けの作品の中にも、読者に向けて強烈なメッセージを盛り込んでいます。「月は無慈悲な夜の女王」に登場する老教授デ・ラ・パスは、実力以上のことを知ってるようなふりは絶対にせず、かつての教え子と一緒に金を出し合ってでも学び続けようとしてきた人です。主人公マニーは教授を「無器用にゆっくりとではあったが、自分の心を拡げることが嬉しかったのだ/ Prof tried to stick with me, thumb-fingered and slow, but happy to be stretching his mind」p.44と評しています。私も教授のように学び続けることを喜びとしていきたいものです。
このほか、「月は無慈悲な夜の女王」では「余計なことはするな/ Mind own business」p.11、「カードはいつも切れ/ Always cut cards」p.11、「無料の昼食はない(タンスターフル)」p.254、「人は支払った分だけを受け取るものだ」など、短いけれども意味深いメッセージが盛り込まれています。
特に「余計なことはするな」は、一見、ハインラインらしくない言葉ですが、多忙すぎると本当に大事なことがおろそかになってしまう、と勝手に解釈して自分の仕事上の心得にしています。
「銀河市民」でも、主人公ソービーがやるべき雑用に追いまくられ、本当にやるべき仕事、本当にやりたい仕事がまったくできないと嘆いているとき、老弁護士ガーシュは、「きみ、それはだれもがそうさ。そこで、自分をだめにしてしまわない秘訣はだな、ときどきでいいから、なにはともあれ、自分のやりたいことをやることさ。/ The way to keep that recipe from killing you is occasionally to do what you want to do anyhow.」と諭します。これはまさに自分自身の毎日にそっくり当てはまる気がします。「ダブルスター」では、誘拐された大統領候補ボンホートの替え玉となった主人公ロレンゾ・スマイスが、記者たちの前で即興の演説をぶつはめになる。そこである記者から、「その演説を、この前の2月にも聞いたような気がしますが」とつっこまれるのですが、「次の2月にも聞くだろうよ。1月にも、3月にも、どんな月にも。真理はなんどくり返しても、それで過ぎるということはない/ You will hear it next February. Also January, March, and all the other months. Truth cannot be too often repeated.」と答えます。いろいろ話題が豊富である必要はないんだ。大事なことだけ、それを繰り返すしか能がない人間で構わないんだ、と救われた気持ちになりました。
まだまだほかにもありますよ。
短いメッセージだけでなく、ひとつの教科書にもなりうるノウハウが含まれていることに驚かされます。・追手からの逃れ方(銀河市民、もしこのまま続けば)
・物乞い業のコツ、実業家になる方法(銀河市民)
・違う文化と接する方法(銀河市民)
・懸賞に当たる方法(スターファイター)
・革命を成功させる方法、世論操作の方法(月は無慈悲な夜の女王、もしこのまま続けば)
・勇者になる方法(栄光への道)
・変装のコツ(太陽系帝国の危機/ダブル・スター)
・出産準備(自由未来)
・核シェルターで自給自足する方法(自由未来)
・農業、土壌改良(ガニメデの少年)
・月を売る方法(月を売った男)
・赤ん坊を世話する方法(ポディの宇宙旅行)
・サバイバルの方法(ルナ・ゲートの彼方に)
・原始政府を作る方法(ルナ・ゲートの彼方に)
・どんなパンにも酵母は必要だ。厄介な連中をすっかり取り除いてしまった社会は下り坂になる。・筋が通った千の意見も、渦中に飛び込んで発見するひとつの事実にはおよばない。
・多数決の原則は、残酷な強者が充分な自由を得て、その仲間を弾圧するってこと。
・人間は他人の経験からほとんど何も学びはしない。
・信じることは学習の邪魔になる。
・身をかわすことが出来るときには決して戦わない。
・歴史を無視する世代に過去はない−そして、未来もない。
・もし自分自身が好きでないなら、他人を好きになれるわけがない。
・人間はなんでもできるべきだ−おむつを取り替え、侵略をもくろみ、豚を解体し、船の操舵を指揮し、ビルを設計し、ソネットを作り、貸借を清算し、壁を築き、骨をつぎ、死にかけている者をなぐさめ、命令を受け、命令を与え、協力し、単独で行動し、方程式を解き、新しい問題を分析し、肥料をまき、コンピュータをプログラミングし、うまい食事を作り、能率的に戦い、勇敢に死んでいくこと。専門分化は昆虫のためにあるものだ。/ A human being should be able to change a diaper, plan an invasion, butcher a hog, conn a ship, design a building, write a sonnet, balance accounts, build a wall, set a bone, comfort the dying, take orders, give orders, cooperate, act alone, solve equations, analyze a new problem, pitch manure, program a computer, cook a tasty meal, fight efficiently, die gallantly. Specialization is for insects.
・「われわれ(ぼく)(きみ)は、とにかくやらなければいけない・・・」という文句は、する必要のない何事かを示している。「それはいうまでもない」とは、赤信号だ。「もちろん」とは、自分でそれを調べるべきだということだ。これらのささいな決まり文句は、その同類とともに、正しく読まれた場合には、信頼できる水路標識となる。
・子供たちの生活を容易にすることで、かれらにハンディキャップをおわせるな。/ Don't handicap your children by making their lives easy. Read more at: https://www.brainyquote.com/authors/robert_a_heinlein
・人間の愚かさが持つ力を決して見くびるな。/ Never underestimate the power of human stupidity.
・ひとつの分野での専門的知識は、他の分野について当てはまらない。だが専門家はしばしばそう考える。その知識の範囲が狭いほど、彼らはそう考えるようだ。