■キャメロン監督の深海への挑戦

by 山田 海人

海人のビューポート
 
2012年4月20日オープン

 2012年3月26日、ジェームス・キャメロンの世界最深部マリアナ海溝への挑戦は成功し、10,898mに到達した。潜航時間は約2時間半ほど、海底で2時間あまり撮影し、海面までの上昇時間は70分であった。
 これまで「トリエステ」は20分以内の海底滞在であったが、キャメロンは海底に2時間あまり滞在して新しい照明のもと自ら開発した3Dカメラで撮影を行った。2年後に公開予定の「アバターU」に今回撮影した映像が使われる予定。
 潜航後にキャメロンは「地球最深部は、地球という惑星の中で最も遠く、孤立した場所で、海底は荒涼とした月の景色のようだった。一日に、もう一つの惑星に行って、戻って来たように感じた」と述べた。

記録の達成
1.「しんかい6500」が達成した水深6,527m(1989年)を破った。
2.一人乗り潜水調査船の潜航記録:2012年3月6日にキャメロン自身が達成した8,200mを水深10,898mに記録更新した。
3.地球最深部での堆積物のサンプル採取と4台の3D HD cameras映像撮影
4.一人乗り潜水調査船のパイロット年齢記録:57才のジェームス・キャメロン(身長188p)が記録を作った。

一人乗り潜水調査船ディープシーチャレンジャー(Deepsea Challenger)
 “vertical torpedo” subとも呼ばれている。重量12トン、長さ25フィート 垂直型で潜航スピード(speeding the plunge)が速いのが特徴(最深部まで約90分)。これらは海底での調査時間を6時間となるべく長くすることと、潜航開始から浮上までを効率的に使いたいとのミッションからだ。
 また、トリエステが海底に着底したことで堆積物が舞い上がり、長時間覗き窓からの視界をさえぎった経験を排除するため、海底の少し上でホバリングできる能力を備えている。
 一人乗り潜水船「DEEPSEA CHALLENGER」のチーフエンジニアのRon Allumによれば、全体の70%におよぶシンタクチックフォームの設計に18ケ月を費やした。バッテリーはチタニウムイオン電池でthousand pouch-typeのものを使用した。4台の外部カメラはこれまでのHDカメラの10分の1の寸法で抑えた。

今回のトラブル
 当初は海底で6時間滞在する予定だったが、耐圧殻内に僅かな漏えいがあって離底時間を早め2時間半ほどの海底滞在だった。
 堆積物をサンプリングするマニピュレーターが十分機能しなかった。
 右舷のスラスターが十分機能しなかった。
 3Dカメラが十分機能しなかった。

ジェームス・キャメロンのこれまでの潜航実績
 ジェームス・キャメロンはカナダで生まれ、15歳でクストーの海の冒険に興味を持ちスクーバ潜水を習得した。そして映画監督、作家となって「タイタイック」「アビス」「アバター」など制作し、海底の様子を撮影するため、ロシアの「ミール」、フランスの「ノチール」、アメリカの「アルビン」など多くの潜水船に乗る機会を得て、これまで33回の潜航実績を得た。
 2005年(8年前)から深海の様子を撮影するにはどのような潜水船が好ましいのか検討、設計プランを作り始めた。

 深海への潜航準備が整った2012年3月6日にキャメロンはパプアニューギニア沖で試験潜航を行い、水深8,200mを記録した。(この記録で「しんかい6500」の潜航深度の記録を破った。)
 3月26日のマリアナ海溝の10,898mの潜航は、バージン・オーシャニックのリチャード・ブランソンも共通の目的(深海ナビゲーションソナーの開発を共有)があることからグアムにも同行していた、そして「単独で月へ向かい、着陸を果たしたようなものだ」と高く評価している。 バージンオーシャニックも一人乗り潜水船での潜航を目指しているので、ソロでの挑戦の厳しさを十分に理解しているとも述べた。
 リチャードブランソンは将来、ジェームス・キャメロンと深海で同時に潜航し、海域を広く調査するのはバージンの潜水船(海底で12〜15マイルを調査可能)、特徴のある個所を詳細に調査するのはキャメロンの潜水船が得意で、ジョイントダイブの有効性をコメントしている。

世界最深部への挑戦グループ
 世界の海で水深7,000mを越える海底はわずか2%にすぎない。
 マリアナ海溝はChallenger Deepと呼ばれる水深35,800フィート、長さ1,580マイル、幅 43マイルの広さである。
☆1960年1月23日午後1時06分にアメリカ海軍は二人乗り潜水船「トリエステ」にJacques Piccard と Don Walsh が乗って10,916m(35,814フィート)に到達した記録がある。
☆2012年英国のバージンオーシャニック(Richard Branson)は一人乗り潜水船「DEEPFLIGHT-CHALLENGER」plexiglass subで潜航を準備中
☆フロリダのTriton and Google'社は観光潜水船「Triton 」(DOER sub)を使った最深部ツアー(一人25万ドル)を計画

 今回の地球最深部への潜航にはロレックス社も支援して、1960年の「トリエステ」潜航時と同様に特別製ロレックスーシードェラー12,000mDEEPSEA-CHALLENGEを船外へ取り付けている。

マリアナ海溝の調査
 Alan Jamieson of the University of Aberdeen, UK.によれば、これまで2009年にROVの「Nereus」が10,000mを越える太平洋の5カ所の一つであるマリアナ海溝の最深部を潜航調査した。

参考
- National Geographic Daily News: James Cameron Completes Record-Breaking Mariana Trench Dive

- The Christian Science Monitor: What James Cameron saw 6.8 miles deep in Mariana Trench (+video)

- Forbes: Titanic 3D Director James Cameron Mariana Trench Expedition Inspires DIY Underwater Robot Crowd

- Virgin Oceanic: Good on you and your team, Jim!


海人のビューポート