■チョウチンアンコウのオス

by 山田 海人

海人のビューポート
 
2007年1月5日更新

 海人のビューポートへようこそ! 深海は最後のフロンティアです。そこにはジャイアントな生き物、恐い顔した深海魚、奇妙な体形、変わった習性などとても個性的な生き物が生息しています。
 今回ご紹介する深海魚は、謎に満ちたチョウチンアンコウのオスです。同じ種類なのに何故こうまでオスは違うのでしょうか? どうやってメスを見つけているのでしょうか?

1.チョウチンアンコウ
 チョウチンアンコウの仲間には、アカグツをはじめいろいろな科があります。ここではオスがメスの体に寄生するミツクリエナガチョウチンアンコウヒレナガチョウチンアンコウビワアンコウオニアンコウを中心に紹介いたします。
 チョウチンアンコウの大部分はヒレのある軟らかいテニスボールのような形をしていて、あまり大きくなりません。胸ヒレを持っていないことも特徴の一つです。水深300〜4,000mの深海の中層に生息しているので、水の動きとともに浮きもせず、沈みもせず、漂うように生活していて、あまり速くは泳げません。
 目は小さく、柔軟な薄い骨格を持っていて、ゼリーのようなやわらかい肉でおおわれています。そして皮膚は非常に薄くできていて、人の手が触れたり、網で触られたりすると容易に剥がれてしまいます。
 体の色は黒または灰色で目立たない色をしています。このチョウチンアンコウの色は、他の発光器を持つ魚などからの青白い光を吸収してしまうため、暗い深海でも見えにくくなっています。
 チョウチンアンコウは肉食で、発光器官はメスだけが持っています。ルアーと呼ばれる頭の前の器官に発光器があって、これで獲物を誘き寄せて捕食しています。発光はバクテリアによる青白い発光で、この光は遠くまで届きます。チョウチンアンコウの仲間にはこの発光器が顎の下にあるものもいますが、大半は頭の前に竿のような状態のルアーを備えています。

2.チョウチンアンコウのオス
 チョウチンアンコウのメスは何百万個もの卵を産卵しています。産卵した卵の性比は1:1と言われています。しかし、繁殖するにはメス1に対してオスは16必要、あるいはメス1に対してオス6が必要などといろいろな説があるようです。
 ともかくオスとメスの大きな違いは体のサイズです。ミツクリエナガチョウチンアンコウではオスは2p、メスは40pです。ある例ではオス5.5pに対し、メスは30pでメスの腹部の後ろに逆さまの状態のオスが寄生していたそうです。
 チョウチンアンコウの産卵は深海の中層で行われていますが、は浮力があるので海面に浮上してふ化します。ふ化した稚魚幼魚は餌の豊富な浅い海域プランクトンを食べて育ち、成長に従い深海の中層へ降りてきます。
 チョウチンアンコウの選択肢は、メスを大きく育てて子孫を繁栄させる方法を選らんだので、メスには獲物を捕らえるルアーを与えたのです。そしてオスは成熟するまで孤独な生活をしていますが、発光器すらないのです。代わりに目はメスに比べると大きく、優れた嗅覚を持っています。また、鋭い歯も発達しています。ところが消化系は貧弱なようです。
 一方、メスは食欲が旺盛で成長も早く、顎も歯も強力で胃は大きく膨張できるので、大きな獲物も呑み込むことができます。成熟するに従い、発光器官などが発達するとともにフェロモンを放出するようになります。こうしてオスを誘惑するのです。

3.オスとメスが出逢った後
 成熟が進んでくるとメスはオスを複数従えて泳いでいると言われています。深海の中層でどうやって繁殖のパートナーを見つけているのでしょう。偶然だけではなかなか出逢えません。オスは絶えずパートナーを捜し出す努力は惜しまないようです。さらに高度に発達した嗅覚でメスのフェロモンを感じ、近寄ってくるようです。
 オスは同じ仲間のメスと判ると体に噛みつきます。この時、先に説明した皮膚は薄く、ゼリーのような肉が効いてくるのです。オスは鋭い歯で噛みつき、さらにくさびのようなもので外れないように工夫しています。こうして暫くするとオスの口からメスの体へ“融合”を促進する酵素がリリースされます。するとオスの唇とメスの皮膚が血管レベルまで融合して行きます。こうしてメスの血管から栄養を摂るようになります。
 寄生したオスは次第に退化がはじまります。目は小さくなり、結局は目が消滅します。呼吸も自分では行わなくなりますが、栄養をもらってやや大きくなるようです。こうなるとそれらの体は一種の雌雄同体を形成します。この間にもメスは積極的にオスを誘惑し、他のオスが噛みついて寄生がはじまることもあります。
 メスの卵巣が発達してくると、血液中のホルモンから寄生しているオスの精巣も同様に発達してゆきます。少し大きくなったオスは内臓まで失われてゆきますが、精巣だけが大きくなります。さらに産卵のタイミングも血液ホルモンを通じてオスに伝わり、タイミング良く産卵と放精が行われるのです。こうしてチョウチンアンコウは、繁殖のパートナーを探すのに困難な深海で、メスはオスを寄生させて繁殖の機会を逃さずに産卵できるのです。

4.チョウチンアンコウのオスの発見
 科学者が最初にチョウチンアンコウを捕らえた時、標本のすべてがメスであることが分かりましたが、オスは見つかりませんでした。しかし、それらのほとんどすべてに寄生生物が付いていました。そして後に、これらの「寄生生物」がオスのチョウチンアンコウだったことが判明したのです。こうして驚異のオスの生活が明らかになりました。
 今でも深海生物を代表するチョウチンアンコウですが、まだまさその生活は謎に満ちています。
(関連リンク)
Deep Sea Anglerfish

Anglerfish

The Deep Sea Anglerfish

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