■カップ麺容器の圧縮について

by JAMSTEC 広報課 山田 稔

海人のビューポート
 
2006年9月8日オープン

はじめに
 日清食品株式会社のご協力のもと実施している「深海の高い水圧」を表現する“カップ麺容器の圧縮したもの”は、今ではJAMSTECならではの深海グッズと高く評価されています。

加圧する目的
 JAMSTECではかねてより深海の高い水圧を理解して頂く、何かよいグッズはないものだろうか?と探していました。潜水実験で見つけた日清食品鰍フカップ麺容器が、高水圧で均等に縮小されて、なおかつ圧力を戻しても復元しないことから、「深海の高い水圧」を理解していただくのに最適で、レプリカでなく“ホンモノ”が提供できる良さもあり、高圧実験水槽を見学頂いた見学者に圧縮した容器を贈呈しています。
 この容器はミニサイズで、「しんかい6500」の潜航深度水深6500mに圧縮した1/8(容積が)容器です。当初はレギュラーサイズでしたが、ミニサイズは加圧するのに一度に多くを加圧できること(生産コスト)、見学者が持ち帰りやすいことから、ここ数年はミニサイズのみ圧縮しています。
 見学者には1/8に縮んでも成分表などの細かい字が読めること、均一に縮んでいること、水圧は各部に均等に掛かることを伝えています。
 縮小されると、こんなサイズ(高さ8.5p→4.7p 口径 8p→4p 厚み3ミリ→2ミリ )になります。

圧縮したカップ麺容器のPR効果
 JAMSTECの圧縮したカップ麺容器はすでに有名なものとなっていて、博物館の深海コーナー、新聞・雑誌の深海特集号などに紹介されて、「わかりやすい深海の環境」と好評を得ています。また、見学者に差し上げる際にも、家族の方や兄弟にこれで「深海の水圧」を説明してあげて下さいと言っています。

(圧縮したカップ麺容器が載っているURL)
ブルーアース

東海大学海洋博物館

スギノマシンの研究所案内その2

圧力試験器での加圧実験
 最近、JAMSTECは中の様子が見える水深1000mまでのアクリル圧力試験器を使って、子供達の前で加圧する実験が行われるようになりました。 目の前でカップ麺容器が1/5(容積が)サイズに縮んでしまう様子には子供達も興味津々で、展示会でも好評です。
 基本的に“深海の高い水圧”を理解してもらうためですから、最初はカップ麺容器を加圧して興味を引き、次に深海に関係のある“もの”を加圧してさらに理解を深めてもらいたいのですが、深海に関係のある“もの”で加圧して変化のあるものがなかなか見つからず(これまで“軽石”“生卵”など加圧)、カップ麺容器一辺倒で加圧実験しているのが現状です。
 加圧実験で伝えたいことは、加圧前に水中のカップ麺容器を見て、水中では屈折率の違いから1.3倍大きく見えます。さらに円筒形のアクリルのレンズ効果で大きく見えています。水圧は水深10m毎に1気圧(1キログラム/平方センチ)づつ上昇します。水深1000mでは100気圧、1平方センチに100sの力がかかってきます。
 そして1000mの加圧を終えて、「初島沖のシロウリガイはこのような水圧のもとで生活しています。」または、「チョウチンアンコウはこのような水深に棲んでいます」と伝えています。

カップ麺容器の加圧・減圧
 発泡スチロール(発泡ポリプロピレン)は小さな原料ビーズ(セル)からできています。
 このセルはスチロールの素材を蒸気で過熱(100℃以上)して体積が10倍ほどで成形しています。素材(ビーズ)には炭化水素ガス、ブタンガスなどが含まれています。こうしてできたカップ麺容器を水圧で加圧すると無数の“空気の部屋”のガス部分が小さく縮小され、セルもこれに伴って小さくなり一部が壊れます。
 加圧された状態ではまだガスは中に入っています。減圧されるとガスは膨張しますが、セルの壊れた部分から逃げ出してしまうので、セルは大きくならずに加圧された状態のままです。逃げ出したガスは容器の表面についているので、表面付近の水圧になると泡となって表面にくっついてるのが見えます。この泡をみせることでカップ麺容器からガスが抜けて縮んだことが目でわかります。また、爪ではじくと堅い音がして発泡断熱材とソフトな感じがなくなっています。

きっかけ
(1)夜食
 300m飽和潜水実験が開始された1977年潜水シミュレーターでの模擬潜水実験(海での深海潜水に備えての環境圧潜水実験)のダイバーとして参加した私は、夜食に出たインスタントラーメンの容器が縮んで汁や具がこぼれた場面に興味を持ちました。
 あまりにもきれいに容器が縮んでいたので、シミュレーターの中から日清食品のお客様対応係に縮んだ容器とともに手紙を出しました。 早速お礼の手紙とサンプルのカップ麺など段ボール1杯頂きました。 

(2)最初は食べた容器を加圧していた
 この後、模擬潜水実験に来られた方々(科技庁の上層部、大学の先生など)に縮んだ容器をプレゼントしていました。食事などの出し入れに使うサービスロック開閉時の加圧操作でしたから、せいぜいサイズも1/2程度でしたが、皆さん喜んで大事に持ち帰られました。容器は中身が入っていましたから、臭いも色も付いて偉い方に差し上げるには申し訳ないと思っていました。

(3)日清食品への協力依頼
 模擬潜水実験後に新宿の日清食品鰍訪問して、圧縮したカップ麺容器のための容器の提供をお願いしたところ、日清食品としてもPR効果が期待できることからと容器の提供のご了承を頂きました。以降、現在まで毎年多大なご支援を頂いて“深海の高水圧”を多くの方々へ理解頂いています。日清食品株式会社のご支援に厚く感謝いたします。

潜水調査船の潜航記念に
 JAMSTECで運航している有人潜水調査船(しんかい2000、しんかい6500)で調査潜航した研究者は、このカップ麺容器に潜航日や署名して潜航前に潜水調査船の船体に取り付けて、縮んだ容器を大切に保管しています。最近ではハイパードルフィンなどの無人探査機でも行っているようです。

Q&A
 カップ麺容器に中身を入れたまま加圧したら?
回答:やってみました! 麺が硬いままなので容器が小さくなれずに、硬い麺を包むように薄くなっていきます。シュウマイのようにと言う表現で分かりますでしょうか。

 日清食品以外のカップ麺容器を加圧したら?
回答:一般のカップ麺容器は容器の表面がコーティングされています。加圧してもこの表面のコーティングが邪魔になって小さくなれず、薄くなるだけでねじれたような容器になります。

 縮んだカップ麺容器にお湯をかけたら元に戻りますか?
回答:縮んだ容器はセルが小さく壊れているので元には戻りません。


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