未知の深海には我々人間には計り知れない不思議な生態をしている深海魚がいます。 今回の紹介する深海魚ダルマザメは正に未知の深海魚らしくその生態は驚異そのままです。皆さんの豊かな想像力を駆使して深海の世界をイメージ下さい。
ダルマザメは、発光器官をもった深海魚で昼間は水深3千mほどに棲み、夜間は浅い海域へ浮上して餌を取っています。
学名のIsistius(イセト)はエジプトの光の女神に由来するもので、発光器官をもっていることから名付けられました。一般の深海魚は腹側一面に発光器官があって自分のシルエットを消す役割がありますが、ダルマザメの発光器官は腹側にはあるものの、全くシルエットを消すのではなく、真ん中に暗いパッチを浮き上がらせる構造です。
最近の論文では、この暗いパッチで捕食者をおびき寄せていると考えられています。暗いパッチが小さな餌に見えて、それを食べにくるものを逆に襲っているようです。
ダルマザメは肉食で、クジラ、イルカ、マグロ、カジキなどの肉塊をはぎ取って食べています。咬まれたマグロなどはそれはそれは痛いのでしょうが、泳ぐには支障がなく、キズが癒えれば問題なし。餌となる相手を殺さないのもダルマザメらしい生き方ですね。
ダルマザメの英名Cookie-cutter sharkはこのような特異な食性から名付けられたもので、以前は細長い形から葉巻ザメ(cigar shark)と呼ばれていました。
ダルマザメは、卵胎生ですがメスの体内からどれほどのサイズで産まれてくるのかは不明です。
この論文から最新鋭の潜水艦のソナードームのカバーを食いちぎったのはダルマザメの犯行ではないかと推測され、キズ口の形状やかみ切れずに残った部分などからダルマザメの犯行と判明したのでした。
この報告は1984年にFAO Species catalogue Vol 4, Sharks of the world, Compagno, L.J.V で紹介されています。
ダルマザメはオス、メスともに40センチほど大きくても50センチで、小形そして貧弱な体型の泳ぎも遅い深海サメです。しかし、ダルマザメが普段食べているイルカやカジキ、マグロなども原子力潜水艦と同等の30ノットと速い遊泳力があると言われています。30ノットは1秒間に15mの速さです。
これまでの記載では、マグロがダルマザメの"暗いバッチ"を餌と間違えて接近してきた時、これは餌にならないサメだとわかり、反転しようとした瞬間、ダルマザメはこのマグロに襲いかかり、下アゴをマグロの魚体に食い込ませてしまう。驚いたマグロが逃げようとして急速に泳ぎ去ろうとする時、水の流れの抵抗により、サメの魚体が180度回転してしまうため、半円形状の肉の塊が削り取られてしまうのだろうと説明している。
つまり、マグロが反転してスピードが弱まったときに攻撃していると書かれているのですが、本当にそうなのでしょうか?
私には反転での減速が条件ではないと思います。減速できなくても襲えるテクニックをダルマザメは持っているように思えます。
原子力潜水艦以外にもダルマザメの被害があって、1991年にはメキシコ湾で調査中の海底地層探査船のストリーマーケーブルが襲われました。このストリーマーケーブルは、長いケーブルにホースが被っていて中はケロシンで満たされています。この中に水中マイクロホンが付いていて、圧縮空気のエヤーガンの音が海底の各層に当たって戻ってきたものを拾って、海底の地層を調べているのです。
このストリーマーケーブルの外皮であるホースを切られると内部のケロシンが流れ出てしまい、反射音が拾えず調査できません。メキシコ湾ではたった50センチほどのダルマザメによって海底調査が中断されたのです。(メキシコ湾での海底調査は石油・天然ガスの資源調査だったのかも知れません)
ダルマザメの被害はJAMSTECでも発生していました。ADCPの送受波面をダルマザメにかじられたのでした。送受波面は柔らかな樹脂でできていますが、今から5年ほど前、三陸沖水深400mほどで計測中にかじられました。
幸いに切り取られていなかったので計測には支障が出ませんでしたが、代理店の「SEA」がこれはダルマザメに咬まれたものだと判断しました。
これまでいろいろ被害が出ていたようです。
他にもトライトンブイの伝送ケーブルにも被害を受けたことがあります。
恐るべし"深海の忍者"ダルマザメ!!
=>Bizzard Animal: Cookie Cutter Shark
=>Cookie-Cutter Shark(By Nick, Dan, and Mike)
=>Find a Fish, Cookie-cutter Shark Bite
=>Fins and Things - Cookie Cutter Shark and Sawshark(PDFファイル。要Acrobat Reader)