■地球環境を海辺で学ぶ

by 山田 海人

海人のビューポート
 
2009年10月9日オープン

 海人のビューポートへようこそ!
 私たちの生活の中で"地球環境に優しい"をテーマに省エネ、節電、ゴミの分別、リサイクル、カーボンニュートラル、フードマイレージなどの考え方が入ってきています。こうして地球温暖化、地球環境が身近な話題となりつつあります。
 ここでは、日本は長い海岸線という海に恵まれた環境ですから、いつもとちょっと趣向を変えて、禅の修行僧のように「自然の中に身をおいて、まわりの自然から物事を学ぶ」、つまり海辺に出て地球環境を学ぶと言う新しい環境学習を行ってみましょう。

 鎌倉駅から海へ向かって歩いてくると、一の鳥居あたりから海が見えてきます。海面がキラキラと輝いている海を見ると「うあ〜海だ!」とつい足が早くなってしまいます。海辺は視界も広く、新鮮な空気が一杯あって、おだやかな海風、波の音、海鳥の鳴き声などいやされるものが一杯あります。
 砂浜へ腰をおろして目を閉じて風の音や潮騒の音を聞いてみましょう。そして大きく深呼吸してみましょう。心が落ち着いてきたら次へ進みましょう。

1.太陽からの熱、光
 さぁー海辺に出かけてみよう! 海辺は太陽からの光をさえぎるものはなく、明るく輝いています。太陽の光と熱は地球に棲む生き物の全ての源となっています。地球から1億5千万キロ離れた太陽は、ほどよい光と熱を与えてくれています。
 皆さんは、太陽からの光がどのように感じられますか? まぶしいですか? 十分ですか? まだ暗いですか? まぶしいと答えた方が多いですね。確かに地上で感じると太陽の光がまぶしいと感じるのかも知れません。太陽の光は地上の植物を育てるだけのためにこの明るさなのでしょうか? いいえ。太陽の光は地球表面の7割を占める海、さらに水深200mまでの海中を照らしているのです。
 海には植物プランクトンが一杯います。植物プランクトンは海の中を漂っていますので、海面近くだけではなく、水深20m、水深50m、水深100m、さらには水深200mあたりまで漂っているのです。この植物プランクトンは太陽の光を受けて光合成を行っています。水深200mまでの植物プランクトンが光合成をしている姿を想像して見てください。熱帯のジャングルは地上50mほどでしょうが、これが200mもの高さになるのが植物プランクトンの働きなのです。地上の植物すべてが行っても陸地は地球表面の3割ですが、残る7割の海で行われている植物プランクトンによる光合成は相当な量になります。

 ここでちょっと光合成を理解しましょう。光合成とは植物の中の葉緑体が太陽の光を使って、葉から吸収した二酸化炭素と根から吸い上げた水から、でんぷんなどの栄養素と酸素を作りだします。これを光合成といっていますが、海の中の植物プランクトンも光合成を行っていて地球温暖化の原因である二酸化炭素を吸収しているのです。
 海の植物プランクトンは、栄養豊かな海水のもとで大量に育ち、動物プランクトン、小魚などの餌になり、動物プランクトンは魚やクジラなどが食べて食物連鎖を支えています。

 昔、27億年前、海で誕生した生き物の中には、光合成を行うシアノバクテリアがいて、窒素と二酸化炭素しかない空気の中に酸素を少しずつ放出してくれました。やがて大気中に10%近くの酸素が含まれると奇跡的に地球のまわりにオゾン層が取り巻くようになりました。このオゾン層が形成されたことで、地球の大地に降り注いでいた太陽からの強い紫外線はやわらいで、陸地へ海の生き物や植物が4億年前に上陸してきました。今、陸上に棲む生き物の祖先は海の生き物なのです。こうして"母なる海"と呼ばれるようになりました。
 そして陸上の緑色をした植物は太陽からの光のエネルギーを使って、二酸化炭素から炭水化物を作っています。この緑色植物を私たちや動物などが食べているのです。

2.月の力
 海辺を訪れたら、まず波打ち際に棒を立てておきましょう。しばらくするとその棒が波打ち際から遠くなっていたり(引き潮)、その棒が波に覆われていたり(満ち潮)して、潮の満ち引きが体験できます。
 では、なぜ潮の満ち引きが起きているのでしょうか? それは地球から38万キロも遠く離れた月の力によるものです。月の引力は地球を引っ張り、あるいは振り回す遠心力から海面が上がったり、下がったりしているのです。地球は自転しているので1日に2回づつ海面が上がったり、下がったりしているのです。
 赤ちゃんは満ち潮になると生まれるという言葉を聴いたことがありませんか? 月の力は海面の上下に引っ張るだけでなく、人へも影響を与えていて満ち潮とともに赤ちゃんが生まれることがあるのです。
 では、海辺以外で月の力を感じる場所はあるのでしょうか? 川でしょうか? 山でしょうか? 砂漠でしょうか? 月の力を目で見れるのは地球上で海辺だけなのです。潮の満ち引きには月の力が働いていますが、月が満月、新月のときは普段の潮の満ち引きより大きくなって、大潮と呼ばれる時と、普段の潮の満ち引きより小さくなった小潮と呼ばれる時があります。これは月の力に加えて太陽の力が働いているからです。
 こうして海の生き物は生まれてから潮の満ち引きに影響を受けていて、カレンダーの役割をしていたり、大潮の満潮に合わせて産卵したりと海の生き物にとって大切な繁殖のタイミングを月の力が教えてくれているのです。

3.海との触れ合い
 海辺へ来たら、海つまり水に触れてみましょう。私が汲んできますので待っていてください。子供さんだと波にさらわれることもあるので大人が汲んできますね。 汲んできたこの水は海水です。今日はきれいだったので指に付けて舐めてみましょう。どんな味がしましたか? 塩辛いですね。
 これが海水です。地球の水の97%が海の水で、残り3%が淡水なんですが、またその淡水の70%は北極や南極の氷や氷河で、川や湖、地下水の水など私たちの生活に使えるのはわずか0.8%しかないんです。
 私たち人間の祖先、脊椎動物は昔、海から上がってきたので、私たちの身体を循環している血液やお母さんのお腹の中の赤ちゃんを包む水も海水と成分の比率が似ています。私たち人間やいろいろな生き物は水がないと生きていけません。私たちにとって水はとても大切なものです。

 私たちが恵みの雨と呼んでいる雨はどこから来るのでしょうか? 温かい海水が蒸発して雲になり、その雲が雨を降らせています。日本は植物が成長する春から初夏にかけて梅雨と呼ばれる雨の多いシーズンがあります。この梅雨が日本の緑を育てているのです。また、日本の豊かな緑は、哺乳動物、鳥、爬虫類、両生類、昆虫をはじめ多くの生き物を育んでいるのです。
 来年2010年は国際生物多様性年で、名古屋で世界的な会議が開催されます。この生物多様性も海の生き物をはじめ多くの生き物がつながりを持って地球環境を築くところから生まれています。大きな動物から小さな生き物までがそれぞれの役割を果たして地球環境を支えているのです。

 そして雨という水は、豊かな森から栄養豊富な水となって小川となり、ホタルやサワガニなどを育て、メダカやカエルやトンボを育て、ハゼやアユやウナギを育て、海へ下ってきます。 海へ流れ出た森からの水は、さらに植物プランクトンや海藻を育て、海辺の豊かな生き物を育てています。

4.大気との触れ合い
 海辺に来たら、大きく息を吸って下さい。海風が新鮮な空気を運んできます。大気が海面と触れることで二酸化炭素を海が吸収し、新鮮な空気となります。海には風によって波立っていますが、そこでは大気と海とが大きく触れ合っています。海は大気の60倍も二酸化炭素を吸収できるので、大気から二酸化炭素が海へ吸収されているのです。他にも大気の熱の多くが海へ吸収されています。
 海辺にある大きな木をみると幹が大きく陸側へ傾いている所があります。海風が陸へ向かって吹いていると植物が真っ直ぐに伸びずに陸側へ傾いてしまうのです。こうして海風が強い所では海からの新鮮な空気が陸へ向けて吹いています。太陽の熱で容易に温まるのは陸地です。こうして温まった陸地の空気は軽いので上昇していきます。一方、海面はなかなか温まらないので重たい空気が陸へ向かって吹いているのです。こうして海風が陸地にまで穏やかな気候にしているのです。

5.黒潮の恵み
 日本列島を沖縄から関東まで沿うように流れている黒潮は、フィリピンあたりの熱帯から膨大な熱を運んでいます。このために同じ緯度にある国と比較しても穏やかな気候を保っているのは温かい黒潮のおかげなのです。地球の赤道域は太陽からの熱を受けて熱帯の環境ですが、こうして黒潮が赤道域の熱を北の方へ大量の熱を運んでいて、海流が地球環境のバランスをとる役割をしているのです。

 日本では昔から黒潮の存在を知っていて古くは「黒瀬川」と呼んで、船の移動(日本人の祖先は黒潮に乗ってやってきたとも言われています)や漁業の対象、あるいは流れに運ばれる漂着物を生活に利用していました。
 一茶の句で「鎌倉を生きて出でけむ初鰹」と詠われているように、カツオ漁は黒潮の恵みであったようです。

 また、相模湾の生き物の多くは黒潮によって卵が運ばれて、相模湾で育っています。中にはウナギの子供もマリアナ海溝で生まれたものが黒潮によって運ばれて、日本の川で育つこともわかってきました。

 黒潮が運んでいるものに植物の種があります。海流散布の植物には鎌倉の浜辺に咲くきれいなハマユウをはじめ、ヤシの実、ソテツなどがあり、海浜植物の多くが黒潮に種を託して分布を広げているのです。

6.相模湾の深海
 海辺に立って遠くの水平線を見てみましょう。地球が丸いのが分かるでしょうか? 波打ち際に立って沖の方を見ると数キロ先の海面までが見えています。相模湾は岸の近くまで水深200mの深海があります。これは日本では他に駿河湾と富山湾の三箇所しかありません。ですから相模湾にはときどき奇妙な形をした深海魚が打ちあがることがあります。
 鎌倉の坂ノ下海岸に昭和42年の2月に打ち上げられたチョウチンアンコウは、その後江ノ島水族館で飼育され8日間も生きていました。冬場は海水温も低く深海魚にとってこれが幸いとなり、今でも深海魚チョウチンアンコウの飼育世界記録になっています。この飼育で深海魚の発光器官の仕組みなどが研究されました。このように相模湾には多くの海洋生物が生息し、それぞれの役割を担っています。こうして相模湾の海の豊かな生物多様性は多くの子供達の夏休みの宿題をはじめ、多くの研究者を育てました。

 水深200mの海を深海と呼びますが、これは太陽の光りが届かない、闇夜の海として区別しています。深海は太陽の光りが届かないので植物プランクトンは光合成ができません。植物プランクトンがいないと光合成で海水の中の栄養が使われることがないので、深海の水には栄養がたっぷり含まれています。相模湾でも油壺ではこの深海の水「海洋深層水」を利用した温泉や飲み物の製造にも広く利用されています。

 日本人は昔から海洋民族と言われて、海の幸の魚介類を上手に食べてきました。また、海から塩を作ったり、海藻を肥料にしたり、海藻から調味料を作ったり、貝が作る真珠を養殖して外国へ輸出したり、海洋深層水を利用したり、日本人は他の国に比べても海をうまく使う能力が備わっています。
 日本は鉱物資源など少ない国ですが、日本の周りには広い日本の海(日本が優先して海底などの資源を利用できる排他的経済水域)があります。この排他的経済水域は日本の陸地の12倍にもなります。これからも若い皆さんのアイデアでいくらでも日本を豊かにできるのが海です。

7.地球と月
 最後に砂浜や海辺ではいろいろな遊びができますが、砂浜に寝てこんな夢をみてはどうでしょうか? 宇宙船に乗って地球を見てみましょう。この青く大きな星が地球です。地球の大きさは直径が約1万3千キロ(12,756キロ)、赤道をグルーと回ると約4万キロになります。
 人類初の宇宙飛行士は1961年のカガーリンさんですが、"地球は青かった"と名言を残しています。地球表面の7割が海で残りの3割が陸地ですからまさに"海の星"でもあります。私たちは3割の陸地で生活しています。
 陸地で一番高いところはチョモランマの海抜8,850mです。最も深いところはマリアナ海溝の10,920mです。その海の平均水深は3,800mと海のほとんどが水深200mより深い深海になります。地球のこうした凸凹を均してしてみるとマイナス2,395mで海の底へ沈んでしまいます。

 次は月へ行ってみましょう。これまで月面に降りた宇宙飛行士は1969年のアポロ11号が「静かの海」へ着陸し、アームストロング船長の第一歩から1972年のアポロ17号まで12名の宇宙飛行士が月面に降りました。月の直径は約3千5百キロ(3,474キロ)で地球の4分の1の大きさです。私たちも月へ降りてみましょう。満月の月をじっくり見たことがありますね。あの月の大きさの4倍が地球の大きさです。宇宙の深い闇に浮く、美しい青い地球いつまでも見ていて飽きない地球の姿、私たちはこの美しい星に生きています。私たち人間も地球上の生き物の一種であってこれからはもっと自然との共生が望まれています。

おわりに
 皆さんどうだったでしょうか? 海辺でこうして地球環境を考える機会があってもいいと思います。身近な散歩や海辺の遊び、修学旅行で海へ来た時には、ちょっとこんな視点で海辺を見てみましょう。きっと新しい環境問題が見えてくると思います。

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