■熱水噴出孔
         Hydrothermal Vents

by 山田 海人

海人のビューポート
 
2007年2月12日オープン

はじめに
 温泉は昔から疲れた身体をいやす場所として日本人には身近な存在です。川の水などで40℃前後の快適な温度に調整して人々は"いやしの湯"を楽しんでいます。温泉法では泉源の温度が25℃以上を温泉と言っています。
 深海の底にも同じように深海の温泉があります。地上と異なるのは吹き出す熱水の温度の差です。地上で温度の高い温泉で有名なのは「間欠泉」でしょうか、温水と蒸気が混ざって噴き出し100℃を超えています。
 地上の1気圧では沸点が100℃ですからそれ以上の温度にはなりませんが、深海は高い水圧がかかっていますので沸点は水深50mでも155℃になります。
 もっと深い深海の温泉(熱水噴出孔)はとんでもない激熱の温泉です。ですが地上の温泉と同様に深海の熱水噴出孔の周りにはチューブワームアルビンガイシロウリガイユノハナガニオハラエビなどいろいろな深海生物が熱水噴出孔の恩恵を受けて生活しています。

1.熱水噴出孔の発見
 熱水噴出孔が世界で最初に見つかったのは1976年5月にガラパゴス諸島沖の海底です。発見の経緯となったのは1970年代頃、"深海には高温の海底温泉(hot springs)があるのではないか?”という疑問でした。これに従ってアメリカの潜水調査船「アルビン」は hot springs を見つけようと努力していましたがなかなか発見できませんでした。
 1976年5月、スクリップス海洋研究所の Peter Lonsdale 博士は深海曳航体deep-tow:カメラ、CTD、海水サンプリングなど搭載)によって海底40m上から初めて熱水噴出孔と周囲に生息する生物の撮影に成功しました。それに基づき、同博士は1977年、ガラパゴス諸島沖の hot springs(水深2500m)を「アルビン」に搭乗して自分の眼で確認し、論文「Close proximity to the hydrothermal vent Life (mussels, anemones)」が発表されました。
(ここでは幅30m、長さ100mにわたって熱水噴出孔が散在しており、中でも大きなものは、高さ10m、幅40pのチムニーから水温350℃のブラックスモーカーが発見されている。)
 この後、1979年にナショナルジオグラフィックの映像クルーとして後にタイタニック号の調査で有名になった Robert ballard と Fredrick Grassle が「アルビン」に乗船してこのガラパゴス諸島沖の hot springs を撮影し、煙突のようなものから黒い煙の雲を出し、その周りには有毒な硫化水素の環境で生きているジャイアントチューブワームシロウリガイオハラエビなど化学合成生物群集に生息する生物を撮影しました。特に2mを超えるジャイアントチューブワームはインパクトが強く、ビギナーズラックではありましたが、世界に"深海のオアシス"の衝撃的な映像として流されたのでした。

2.熱水噴出孔の構造
 その後、熱水噴出孔大西洋インド洋、最近では北極海でも発見されました。これまで発見された熱水噴出孔の水深を調べた結果、熱水噴出孔の発見された平均水深は2,100mでした。
 原理的には中央海嶺の尾根では地殻を形成する幾つかの巨大なプレートが個々に移動し、その結果、海洋底に深い割れ目を生じます。海水はその割れ目に流れ込んでマグマによって熱せられています。熱せられ膨張した海水は上昇して海底から噴出するのです。
 この海水は海底の岩石の熱によって熱され化学反応が起き、酸素マグネシウムカリウムが海水から取り除かれています。そして岩石から亜鉛および硫黄のミネラルや化学物質を溶かし、"dark chemical soup"が噴出するのです。これが熱水噴出孔です。熱せられた海水は100℃から400℃にもなりますが、深海の水圧で沸騰はしていません。
 チムニーと呼ばれる煙突から熱水が噴きだしていますが、周囲の冷たい海水(5℃程度)によって、亜鉛および硫黄がミネラル分がチムニーを形成していきます。ある海底地質学者がチムニーの成長を調査したところ、30p/日もの成長が記録されました。また、成長の速いチムニーは倒れやすく崩れてしまいますが、すぐに新たなチムニーが形成されて成長して行きます。
 「ゴジラ」(Godzilla)と呼ばれるチムニーは太平洋のオレゴン沖にありますが、15階建てのビルと同じ高さがあります。
 世界で最も高いチムニーは、大西洋の「ロストシティー」にある55mもの高さのチムニーです。これを発見したのはワシントン大学の研究者でした。

3.ブラックスモーカーとは
 熱水噴出孔から吹き出す液体の様子で「ブラックスモーカー」と「ホワイトスモーカー」に区別されます。
 「ブラックスモーカー」と呼ばれているのは、水深700mから3700mの間の深い海域にあって黒いミネラルの煙を出したような熱水噴出孔です。黒いミネラルの煙は鉄分が主体で硫黄を含んだ熱い液体で、250℃を超え400℃ほどの高い水温を勢いよく噴きだしています。チムニーから噴きだしている箇所の熱水は透明ですが、周りの冷たい水温で冷やされてミネラル分が金属硫化物となって黒い煙になります。
 これまで最も高い水温が観測されたのはゴルダ海嶺の「ブラックスモーカー」で、356℃〜400℃を「アルビン」が観測しています。ブラックスモーカーは海底火山活動の強い海底にあるようです。

4.ホワイトスモーカーとは
 「ホワイトスモーカー」は一般に「ブラックスモーカー」より規模が小さく、流量も少なくよりゆっく放出しています。また、水温もやや低く250℃以下になっています。流体の中には、バリウムカルシウムおよびシリコンの合成物を含んでいますので白い煙を吐き出しています。

5.新しい話題
 熱水噴出孔の新しい話題は、かすかな光の存在です。1980年代の終わりに hot geothermal Ventsからかすかな光の存在が報告されました。
 この暗い深海での自然の光の発見は重要な発見で、そこには光合成バクテリアが生息していて深海での光合成が行われているのかも知れないと研究者は熱い視線を送っています。

参考
Hydrothermal Vents(デラウェア大学)

Black Smoker(デラウェア大学)


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