■ジャイアント オクトパス
- Giant Octopus -

by 山田 海人

海人のビューポート
 
2007年3月オープン

 ようこそ"海人のビューポートへ来て頂きました。
 海の生き物の中でも賢者と呼ばれているタコは、無脊椎動物の中で最も複雑な脳を持っています。脊椎動物のように記憶も持っていますので、漁網に囲まれても小さな網目から逃れる術も知っている知恵者でもあります。
 今回は日本の近海にも生息し、沈んだヘリコプターの捜索に向かった深海ダイバーを恐怖にさらしたミズダコをはじめ巨大なタコについて報告します。

巨大タコの学名:Enteroctopus dofleini
巨大タコの和名:ミズダコ
巨大タコの英語名:North Pacific Giant OctopusSouthern Giant Octopus (Enteroctopus magnificus)
俗    称 : kraken クラーケン

1,巨大なタコの情報
 2002年3月28日付けのBBCニュースでこんな情報が流れてきました。 ニュージーランドのWellington発で、これまで最大の大きなタコが捕獲されたというものでした。ニュージーランドの研究船(NIWA)が10月にチャタム諸島(Chatham Islands)の東方で、水深920mから捕らえました。それは、体長4m、体重75sもの大きなものでした。これまでの記録であった体長2.9m、体重61kgのサイズを大幅に超えた巨大タコでした。他にもアフリカ南部から南アメリカに生息する E.magnificusE.megalocyathus が巨大タコとして知られています。

2.北太平洋の巨大タコ
 現在、世界で最も大きくなるタコとして有名なのは、北太平洋のGiant octopus (Enteroctopus dofleini)で水深750mまで生息しています。
 この種は日本近海にも生息していてミズダコと呼ばれています。日本ではオスが体長3m、本州中部以北に分布すると書かれています。この種類はタコ類中でもっとも大きくなるサイズで、通常は体長4.3m以内(14 ft)、体重約15kg(33?|ンド)です。しかしながら、大きなサイズでは体長9m(30 ft)、体重272kg(600ポンド)までの標本記録があります。
 私も日本の巨大タコの話を聞いたことがあります。それは日本海での深海作業でした。水深百数十メートルにダイビングベルで潜ったダイバーが巨大タコに遭遇したのです。ダイビングベルからロックアウトして水中作業を行い、戻ろうとしたところ、ダイビングベル(白色で直径3m)が2つ並んでいて、近寄ったところ、1つは生きた巨大タコの頭で、ダイバーを睨んでいたそうです。直径3mもの頭で"まさにクラーケン(海の怪物)"を見た恐怖だったそうです。深海にたった一人で作業しての巨大タコの遭遇ですからさぞ恐かったでしょうね。当然、その日の残り作業は"危険な生物"の接近で中止になったそうです。日本のミズダコでも大きくなるのがいるのですね。
 ダイバーとの遭遇の記録を調べてみましたが、相手がとても大きいので恐怖感がありますが、巨大タコは性格が温和で好奇心が強く、これまでダイバーが襲われた例はないようです。
 もし巨大なタコに遭遇した場合の役立つ情報は、巨大タコの体色変化です。通常は茶色ですが、恐れると白色に変わり、怒り始めると赤になるそうです。先ほどのダイビングベルの白と同じ色だったのは、巨大タコも恐怖感をもって白色になったのかも知れません。

3.絶滅が心配される巨大タコ
 タコは一般に、エビカニホタテガイアワビハマグリおよびを捕獲します。獲物を捕らえた後、キチン質のタフな口(カラストンビ)で砕いて食べています。巨大タコはサメを獲物にしている様子も観察されています。一方、大きなタコは、マッコウクジラをはじめゴマフアザラシラッコなどの餌にもなっていて、北太平洋の巨大タコは、これらの貴重な海獣類になくてはならない生き物になっています。
 北太平洋の巨大タコは、レッドデータブックに登録されていませんが、寿命は短く、自然界では3〜5年と考えられています。比較的短い寿命ですから種の保存を補うために、非常に多くの卵(20,000〜100,000個)を産卵しています。しかしながら、水質汚濁には敏感な動物なので、将来、積極的に種の存続を努力する必要があるかも知れません。

4.巨大タコの結婚
 巨大タコのオスは、一匹のオスに対して複数のメスを連れ添っている場合があります。結婚は一般のタコと同様に精液の詰まった精莢(spermatophores 巨大タコでは長さが1mにもなります)をメスの体内に入れて交接します。オスはその後数ヶ月以内に死んでしまいます。メスはその精莢を体内で保存し、産卵を行います。

5.巨大タコの子供時代
 岩場の巣穴などに産み付けられた卵は、孵化するまでメスが世話をしています。ふ化までは1ヶ月以上にもなりますがメスは餌もとらずに、卵を捕食者から守り、新鮮な海水を取り込んでいます。そしてふ化させた後にメスは死んでしまいます。
 ふ化した子ダコは海面近くのプランクトンの中で3ヶ月ほど漂ってすごし、プランクトンを食べて十数oになります。その後は、海底の巣穴で成長します。この巣穴は、捕食者から身を守るための大切な家で、岩棚、石の下、割れ目などのスペース、あるいは砂の中の発掘された穴などを利用しています。

6.獲物を捕らえるメカニズム
 巨大タコは、大きなカニを襲う際に8本の腕で拘束し、噛みついて、獲物を弱らせてから捕食していますが、獲物を弱らせるために3つの異なるメカニズムを使っています。
@ 殻を軟らかくする:唾液を出す乳状突起からの分泌液は甲殻類の殻を軟らかにします。
A 獲物を麻痺させる:軟らかくなった殻は歯舌で小さな穴があけられ、乳状突起からの分泌物は獲物を麻痺させます。
B 結合組織を溶かす:乳状突起からの分泌物は結合組織を溶かす毒素を分泌し、結合組織を引き離し易くします。このようなタコの毒素は、人間も殺してしまう小さなヒョウモンダコの毒が有名です。

参考:
Giant Octopus(モントレー湾水族館)

Giant octopus puzzles scientists(BBCニュース)

Giant Octopus(MarineBIO.org)


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