■窓を眺めながら-名護市国際海洋環境情報センターとその周辺

by 普及・広報課 山田 稔

海人のビューポート
 
2004年8月23日

 名護市国際海洋環境情報センター(GODAC)周辺で研究者等が関心のあると思われる自然科学系の名所を参考書から抜粋しました。かなり知る人ぞ知るマニアックな個所も含まれますが、興味深い個所を列記しましたのでご利用下さい。

那覇から北部へ
那覇からバスで国道58号線を北上するとひろびろとした嘉手納アメリカ空軍基地があります。1972年の本土復帰までは1号線と呼ばれ重要な軍事道路でした。

 嘉手納を過ぎ読谷村へ入ると山地が見えます。崖にみえる赤土は国頭マージとよばれる赤色土土壌です。この赤土は古・中生代の古い岩石が主に風化した土壌です。

 読谷を越えると山原(やんばる)とよばれる北部コースに入ります。恩納村から名護までは、ビーチがあり、干瀬とイノーからなるサンゴ礁からなり、幅広い裾礁(きょしょう)となっています。
 ヒンブンガジュマルで有名な名護の市街地を抜けると本部半島に向います。

 海洋博記念公園の裏山にあたる本部富士一帯にあるのがカルスト地形です。渡久地(とぐち)から今帰仁(なきじん)城跡へ行く道の山里(やまざと)・大堂(うふどう)でこのカルスト地形がよく見物できます。
 30mほどの高さの円錐形をした丘がいくつも並ぶ地形が見られます。頂上部にはゴツゴツした石灰岩(中生代三畳紀の古い石灰岩)が露出して、カレンと呼ばれるものになっています。
 特に大堂には地下に鍾乳洞のあることが知られています。この地域は代表的な熱帯カルストですので、中国の桂林の地形の日本版といえるものです。
 近くの今帰仁城跡の城壁の石は琉球石灰岩ではなく、中生代の古期石灰岩です。

 1月下旬には日本で一番早く咲くカンヒザクラも見物できます。

国頭-山原の山々
 むかしから山原(やんばる)とよばれてきた沖縄島の北部地域です。400m級の山々がならび、古い時代の地層からなる山地です。
 昔の山原ははるか地の果てを想像させる響きがありました。
 名護から辺土岬(へどみさき)にかけては結晶片岩とそれに貫入する岩脈、古い時代の石灰岩、砂岩、それに今つくられつつあるビーチロックなどが観察できます。
 また、塩屋(しおや)から宇出那覇(うでなは)を経て嘉陽までのコースでは嘉陽層中のカヘイ石、生痕化石、そしてみごとな横臥褶曲(おうがしゅうきょく)などがみどころです。
 これら山原の森にはシイの林があります。シイの林にはスダシイ、タブノキ、シバニッケイ、イジュ、タイミンタチバナ、モチノキ、モッコク、コバンモチ、イスノキ、フカノキ、リュウキュウチク、ヤマヒハツ、シマミサオノキ、イヌマキ、ギーマ、オニヘゴ、シラタマカズラ、センリョウ、リュウキュウテイカカズラなどがあります。

 北部のマングローブ林には名護の大浦川の河口や羽地内海があります。マングローブ林は沖縄を特徴付けるもので大切にしたいものです。

 与那覇岳は沖縄島の最高峰で標高498mの山です。標高450m以上の山頂部は天然保護区となっています。ここには珍しい動物達が生息しています。ケナガネズミ、オキナワトゲネズミ、ヤンバルクイナ、ノグチゲラ、ホントウアカヒゲ、イイジマムシクイ、リュウキュウヤマガメ、クロイワトカゲモドキ、イボイモリ、オオゴマダラ、コノハチョウ、フタオチョウ、オキナワノコギリクワガタなど。

 名護の海にはジュゴンの生息が最近確認されました。ジュゴンは沖縄島では「アカングワーイユ」と呼ばれていて昔は多くのジュゴンが棲んでいたようです。

国会議事堂の大理石:水と空気の作用で再結晶し、堅くて緻密になった石灰岩は、「トラバーチン」(大理石)とよばれています。沖縄の屋慶名(やけな)産や瀬底島産の大理石が国会議事堂中央広場の一角に使用されていることが良く知られています。

塩川:名護から本部半島へ向かうと石灰岩のはげ山が切れるところに塩川の集落があります。
 その南のはずれに小川があります。上流に向かうと東塩川橋があり、上流20mのところで、川は二つに分かれます。そして二つともそこから数十mほど行ったところで石灰岩の大きな岩の間から地下へ潜っています。
 この小川の植物や魚を観察すると海藻や海水魚です。水を舐めると海水真水の混ざった汽水と判ります。山からどうして海水が流れているのでしょう。
 このような現象はこことプエルトリコの2個所でしかみることができません。大変貴重なもので本部七不思議の一つで国指定の天然記念物になっています。

名護市羽地内海のマングローブ林:地球温暖化の影響で潮の満ち引きする潮間帯に生育するマングローブ林の関心が高まってきています。ここのマングローブ林は地元中学生が10年前から植林を行っていて、もともと羽地内海に生育しているオヒルギ、そして植林されたメヒルギを見ることができます。
 近寄るとこの2種の見分け方、タコの足のように広がった根、塩分を排除する機能を持つ根の様子、ゴツゴツした樹皮、落ちた葉を食べる巻き貝やカニなど、マングローブ林に好んで棲む生き物達、泥などがたまり豊富な生き物達の生息環境など学ぶことができます。

天狗の爪:沖縄県佐敷町新里の新里層の模式地付近、宮古平良市の市営グランドと島尻海岸付近の地層からカルカロドン・メガロドンの歯が発掘されています。太古の大型サメの三角形をした大型の歯は、「天狗の爪」と呼ばれている。長さ8センチにも達します。

沖縄の古生代の化石:1932年東北帝国大学の半沢正四郎教授は本部半島の北東に位置する今帰仁村玉城の南からフズリナ化石(古生代二畳紀後半のもので初めて沖縄県に古生代の地層があることをあきらかにしました。

サンゴ化石:本部半島の南西部、本部町字崎本部の海岸側にある与那嶺層から沖縄初のサンゴの化石が九州大学石橋毅教授によって報告されました。四射サンゴ類のサンゴで琉球列島の初めての古生代のサンゴ化石の記録です。

ヤンバルクイナ:1981年沖縄北部の国頭村の山中与那覇岳の近くでヤンバルクイナが発見されました。
 これは1887年のノグチゲラの発見以来、じつに94年ぶりの新種発見です。まさにイリオモテヤマネコに次ぐ大発見です。この発見でますます沖縄が東洋のガラパゴスであることが明らかになりました。
 ヤンバルクイナは体長30センチ、くちばしと足は太く、それぞれ鮮やかな紅色をおびています。胸は白と褐色の縞もよう、背中にはつややかな茶色の羽がかぶさっています。目尻から首にかけて白い羽毛が一筋見られます。
 主に低木の間の草原地にすみ、羽が退化しているためふつうの鳥のように空を飛ぶことはできず、すばやい動作で地面を走り回っています。餌はクモ、昆虫、虫、草の実、葉っぱを食べています。クコックコックコッ・・・・と鳴きクイナ科に属する野鳥です。

海洋博記念公園のアンモナイト:1975年「海-その望ましい未来」をテーマに沖縄国際海洋博覧会が開催されました。
 アクアポリスのあった左側の海岸の地層には石灰岩と凝灰質泥岩の互層からできた露頭があり、海へ向かって45度の角度で傾いています。この層の表面に見られる渦巻き模様のものがアンモナイトの化石です。大きさは数センチですが時に10センチを越す大型のものもあります。
 今帰仁層から14科27属44種のアンモナイトが知られています。主な産地は本部町字山川の大石原(おおいしばる)海洋博記念公園内、瀬底島 辺戸岬です。このうち記念公園内は天然記念物(1974年)に指定され保護されています。

オウムガイの化石:殻や殻の内部のつくりがアンモナイトそっくりなのがオウムガイです。1977年本部町字山川に分布する今帰仁層から発見されました。

コインをおもわせる貨幣石:名護市有津原(あっつばる)の北西400mやまと川の河口の露頭から底生大型有孔虫の仲間、ヌンムリテスの化石を発見しました。このヌンムリテスはおおきなものは直径10センチにもなり、コインにたとえて貨幣石と呼ばれています。
 これは新生代古第三紀始新世の重要な化石です。

名護市嘉陽の海岸は化石が豊富:名護の嘉陽層は化石によって古第三紀始新世の時代の化石が多く出土しています。嘉陽層は堆積深度の深い環境の堆積物です。嘉陽の海岸の中央のはげた崖下で生痕化石が観察できます。
 砂岩の地層面に数ミリの盛り上がった渦巻き状や不規則な形をした生痕が観察できます。直径12センチ
 名護市安部には長さ12センチの生痕の化石があります。
 名護市仲尾次の層には、シドロガイ、モシオガイ、イタヤガイ、また、名護市我部祖河(かふそか)旧名古我地(こがち)の地名のついたアナダラ・コガチエンシス(フネガイの仲間)が発見されています。さらに名護市田井等(たいら)からはイタボガキが発見されています。

赤土流出:沖縄本島は表層が赤味をおびた厚層風化層が発達しています。この風化層は、高温多雨気候による森林の繁茂によって、たとえば台風などによる多量の雨が降っても表層が保護され、直接露出することが少なかったようです。
 ところが近年の開発によって厚層風化層が直接むき出しになると、雨が降った時、風化層は雨とまざり合い赤い水となって、まわりの道路に、川に、そしてサンゴ礁の海に流れ出てしまいました。
 本部半島の屋部川流域で土地が開発されたことによって1970年から1977年の8年間に、年間にして地表面が10センチも低下したと指摘されています。この浸食のスピードは自然のそれより2000から10000倍にも達する値と言われています。
 この赤土ですが琉球石灰岩の分布する地域には必ず赤土(島尻マージ)がありますが、その中にヒージャークス(ヤギの糞)と呼ばれる黒色のかたまりがときどき見つかります。これは琉球石灰岩が風化して赤色土ができる過程でできるマンガンノジュールです。

山里の円錐カルスト(本部半島):本部半島のクシマガヤー森とよばれる丘は海抜230mで人家のある190mと高度差40mぐらいあります。この山は三畳紀と呼ばれる中生代前期の石灰岩からできています。(約2億年前)
 この地形は円錐カルストとよばれ、中国桂林の塔カルストに類似しています。 このような地形は熱帯の石灰岩地域に特有の地形なので広く「熱帯カルスト」と呼ばれています。まさに山水画の世界のようです。

山里のフズリナ化石:本部町役場前から200mほど伊豆味(いずみ)に向かったところから左に折れ、本部小学校の横を通って今帰仁に抜ける坂道を2.5`ほど登ります。峠の手前で右に折れ、500mほどのところに石灰岩の露頭があります。
 琉球石灰岩と違い、堅くて緻密な灰色の石灰岩です。塩川でみた石灰岩と同じ本部石灰岩です。道路から2mの高さを念入りに調べると直径が5〜10ミリほどの楕円形で、うずを巻いたような化石が見付かります。これがフズリナの化石です。

名護市喜瀬の山(円錐丘):この山は石英はん岩と呼ばれる火成岩(約2000〜1000万年前の岩石)からできています。標高141mの高さがあります。

沖縄に高山があった:沖縄南部の馬天港には、150万年前に海抜1500m〜2000mほどの高山があったと予測されています。ここの新里層の露頭からスギやヒノキの木の幹(直径30センチ)の化石が観察され、亜熱帯のこの場所でスギやヒノキの生育条件を満たすのは2000mほどの高い山があったとする以外考えられないようです。

沖縄北部は高島(こうとう):沖縄島の北部は山地をもつ高い島であるのに対し、その中南部は台地だけの低い島です。北部は高島(こうとう)、中南部は低島(ていとう)と分類して呼ばれています。石垣島や西表島も高島と呼んでいます。
 高島の地学的な自然の特徴(大陸性島、山地があり、地質は古期岩類、火山岩、土壌は赤黄色土、水文系は河川系がこれらの地域に見られます。低島はサンゴ礁で山地はなく、低地は海岸低地で地質は琉球石灰岩(第三紀島尻層)、土壌はテラロッサ、水文系は地下水系です。

イルカ狩り:名護湾では「ヒート狩り」とよばれるイルカ漁が行われていて沖縄でも有名なイルカ漁の場所です。

羽地(はねち)の化石層:名護市役所の羽地支所の裏に砂れき層からなる露頭があります。砂層には多くの化石が含まれています。
 産出する化石としては、二枚貝、巻貝、有孔虫、サンゴ、ウニ、ツノ貝などがあります。特に有孔虫は砂層の下部の方に密集して出てきます。この有孔虫は直径7ミリほどの円板状になっており、うず巻き型のものです。これはオバキュリナと呼ばれ、この密集部は、我部祖河(がぶそか)や仲尾などにも見られます。

沖縄美ら海水族館
 我が国唯一の国営水族館である美ら海水族館は世界で二番目の水槽容量を誇る最大級の水族館です。もともと海洋博の跡地に建設された国営沖縄記念公園水族館は長い歴史があり、館長(内田 詮三)はサメの専門家でミズワニはじめシュモクザメなど外洋性の大型サメが長期飼育されています。

 海洋博公園『沖縄美ら海水族館』は、「沖縄の海との出会い」をテーマに、沖縄の自然特性や現水族館の世界的な飼育実績などを活用し、
「沖縄の海の水族を代表する巨大回遊魚を世界で初めて繁殖飼育展示(大型水槽導入)」
「沖縄の海の象徴であり、世界でも有数の美しさを誇るサンゴの大規模飼育展示」
「熱帯海域にすむ多彩な海洋生物の神秘と出会いを世界へ発信」
以上、3点を基本に展開されています。

 施設の目玉は、世界初のジンベエザメの飼育繁殖を目指す、超大型魚類飼育展示用大水槽(長さ=約37m、奥行き=27m、水深=10m、海水量=約7,500トン)と、つなぎ目のない一枚のアクリル板で作られた世界一の規模となるパノラマウィンドウ(厚さ=60cm、高さ8.2m、長さ=22.5m)です。そこでは、ジンベエザメ、マンタ、マグロ類、カツオなどが悠然と泳ぐ姿が観覧でき、ジンベエザメの特徴である垂直で餌を食べる姿を見ることができます。

 また、世界でも例がないといわれる大規模なサンゴの生態飼育を目の前で観察できます。さらに、沖縄の海の特性であるリーフを体験・体感できる水槽(タッチプール)を設置し、リーフの魅力を楽しめる体験学習もできます。

 『沖縄美ら海水族館』は熱帯の海洋に生きる多様な生き物や、豊かな海の壮大な生命のドラマを楽しむことができる、世界最大級の水族館です。

琉球大学 熱帯生物圏研究センター瀬底実験所
 美ら海水族館の手前にある瀬底島には琉球大学瀬底実験所があります。この実験所は琉球大学理工学部付属臨海実験所として1972年に設立されたのが始まりです。その後、熱帯海洋科学センター(学内共同教育研究施設)を経て、1994年に農学部附属熱帯農学研究施設(西表島)と統合して現在の施設になりました。

 熱帯生物圏研究センターの設立目的は「熱帯・亜熱帯における生物および環境に関する研究」を行うことです。瀬底実験所では、このうちサンゴ礁やマングローブ水域に生息する動物の生命機能を生理・生態面から研究することに加えて、サンゴ礁生物研究での全国的、国際的な活動拠点となることを目指しています。

 現在、海洋生態学分野(環境生物学部門)と海洋再生産学分野(生物生産学部門)の2分野に教授2名と助教授2名が配置され、それぞれの専門分野について研究を行っております。また、生物圏総合研究部門として客員研究員予算措置がなされており、専任 教官と共同研究や客員研究員独自の研究が行われています。

国内最大の海水淡水化装置:沖縄県北谷浄水場には国内最大の海水淡水化装置(逆浸透膜方式)があり、1日4万トンもの真水が造水されている。

港川人:沖縄南部の具志頭村(ぐしかみ)港川は古くから石材として石灰岩を切り出しているところです。この採石場は、石灰岩の割れ目から、港川人とよばれる古人骨が発見され、旧石器時代の遺跡であることが判りました。
 ここの石材は、大阪銘菓「あわおこし」に色や形がそっくりなため、広く、粟石とよばれています。 この粟状のものは有孔虫の仲間で、直径1〜2ミリの大きさです。星の砂や太陽の石のもとでバキュロジプシナやカルカリーナと呼ばれる種類です。

参考文献
沖縄の島じまをめぐって 沖縄地学会編 築地書館 18982

失われた生物 沖縄の化石 大城逸朗 著 新星図書出版 1987

琉球列島の地形 河名 俊男 著 新星図書出版 1988


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