海人のビューポート- 海人のビューポートへようこそ! 深海は最後のフロンティアです。そこにはジャイアントな生き物、恐い顔した深海魚、奇妙な体形、変わった習性などとても個性的な生き物が生息しています。
今回ご紹介する深海魚は、これまでの深海生物を遙かに超えた深海魚なんです。
- 1.オオクチホシエソ ホウキボシエソ科
- 学名: Molacosteus niger
英語名: Stoplight Loosejau
生息海域:大西洋、インド洋の深海 水深500〜2000m
体長: 15?24p 黒く、ウロコがなく葉巻型
画像:JAMARCの図鑑
- 2.オオクチホシエソの発光器
- 一般の発光器を持つ深海魚は、遠くまで届く青白い光を発光させて生活しています。発光器は以下の目的のために使われています。獲物を引き寄せるため、自分のシルエットを隠すため、捕食動物から逃げるため、パートナーを引き寄せるためです。
しかし、このオオクチホシエソは最新兵器の発光器を持っていて獲物を捕食しているのです。この発光器とは、カメラマンなどが野生生物を夜間撮影する時などにも使われている暗視装置と同じ、赤い光の赤外線照射装置と赤外線感知システムを持っているのです。赤外線の光は海中では遠くには届きませんが、一般の深海生物にはこの赤外線の光は見えないのです(人間にはかろうじて見ることができます)。ですから赤い光でオオクチホシエソだけが獲物を見つけて捕食できるのです。赤外線の光は頭の前方の大きな発光器から"煌めく赤色"として発光されています。また、この発光器からは緑色の発光も確認されていますので、"赤"と"緑"を発光していることになります。
オオクチホシエソは、深海の何も頼るところのない、中層に棲んでいます。この中層に棲む生き物は、身を隠す場所がない、体を保持するつかまる所もない、卵を産み付ける岩場もない、そんな不安定な空間で生きています。ですから捕食者から身を守るために目立たない姿、身(影)を隠す発光など全てに知恵比べをしています。
オオクチホシエソの体が黒いのは目立たないようにしているのでしょう。発光器の大きなのが目の下にあるのは、体の影を隠すというより、獲物を見つけるためのようです。チョウチンアンコウのように獲物を誘き寄せる"ルアー"は細長いものが顎の下にあります。
普通の深海魚は、海面からの太陽の光、月の光の方向(上方向)を見ていて、そこを横切る黒い影を注目しています。黒い影が近づいたら大きな口で獲物を呑み込んでいるのです。
オオクチホシエソは、例えるとアメリカSWAT特殊部隊同様に、闇夜に隠れる犯人ならぬ獲物を赤外線照射装置の発光器で見つけているのです。そこでは誰も見ることができない赤い光ですから、獲物は見られていると感じてはいないのです。このようにして餌となる"赤いエビ"や小魚を捕らえているようです。
また、クロロフィル(葉緑素)を持つ魚として有名で、このクロロフィルを持つ細菌と特殊な発光バクテリアが共生することで赤外線の赤い光を得たのではないかとも推考されています。ともかく、これまで多くの深海生物の発光が研究されてきましたが、赤外線の光を発する深海生物は唯一このオオクチホシエソだけです。
- 3.英語名はルーズな顎
- オオクチホシエソのもう一つの特徴は特異な形の口です。大きな口は体長の1/4にも達し、頭より大きいほどです。その口には立派な顎を持っています。普通の口は、ほほに囲まれた上下の顎があって、かみ砕いたものを食道へ運ぶ役割をしていますが、オオクチホシエソの顎は、ほほなどの膜に囲まれていません、骨格だけの大きな顎を想像してください。ほほや顎の間の膜がないのです。そして大きな顎には、長く、内側を向いた鋭い歯が並んでいます。
この大きな口で獲物を捕らえるのですが、ほほなどがある袋状の口では顎を伸ばすと海水の抵抗で動きが遅くなってしまいます。オオクチホシエソの顎は膜に囲まれていませんので、"むきだしの顎"が獲物に向かって何の抵抗もなく素早く飛び出して行きます。また、膜がないことで可動性が良く、拡張したり、引っ込めたりも早くできるのです。こうして大きく、素早く、動きのいい顎と鋭い歯で獲物を遠くから捕らえ、引っかけ、離さずに口に引き入れることができます。
- 4.オオクチホシエソの未知なる能力
- なぜオオクチホシエソこのような能力を得たのでしょうか?
先にも記載しましたが、クロロフィル(葉緑素)を持っていること、目には、明るい黄色のレンズを持っていること、目の中の黄色のレンズおよび網膜の特殊な特性など、まだまだこの深海魚には未知の能力が秘められているようです。
- 参考:
- Stoplight Loosejaw