■私の臨死体験

by 山田 海人

海人のビューポート
 
2012年7月29日オープン

 癌の患部摘出手術で呼吸ができずに苦しい時期を過ごしていた。酸素吸入を受けながら苦しんでいると身体からふっと視界が離れて行った。子供のころ名刹の老師から伺ったことのある「自在人(じざいにん)」になったようだ。
 自在人とは座禅を極めると身体はそこにあっても自由にどこへでも飛んで行ける人のことだ。何百年も前の仏教のことばに、「有時高高峰頂立 有時深深海底行」というのがある。この意味は「あるときは、一人で地上最高峰エベレストの高い峰々の頂を立ち、あるときは、一人で地球最深部のマリアナ海溝の深深たる海底へ向かって行く」である。さらには宇宙へ向かうのも残されている。この発想も「自在人」となった経験からのものだろう。

 生死をさまよう苦しさの中で自在人になり、暗闇の中で遠くから自分を見つめる強い力に引き寄せられるように飛んで行った。やがて明るさのなかに深い緑の森とそこの住む人々が見えた。椅子に座す大きな人は大王のようだ。私を見つめていたのはこの緑の王国の大王だった。大王の眼は私たちの眼とは異なってオレンジ色の光を放つ眼だった。眼の上には幅広く長いまつげ、濃く吊り上ったまゆげ、肌はグリーンの凸凹した爬虫類の肌のようだ。 髪は幅広く長い髪の毛が束ねられていた。鼻は高くワシ鼻のように曲がり鼻の孔はやや大きい。 口はやや広く裂け、唇は薄い、口が開くと犬歯が牙のように大きく見えた。

 大きな身体は全身が緑色で背中には甲冑(ハードなバックパック)を背負っていて。戦士のように筋肉質でエネルギー溢れる体形だ。そして顔の表情は未来を見据えた賢者のように見える。身体からは周りの大気、光からエネルギーを得ているような不思議な力に満ちている。まるで動かずしてエネルギーが与えられているかのようだ。
 顔をあわせて敬意をこめて挨拶をすると「まあ 我々の世界を観ていけ」と言ったようだった。大王の周囲には左右に大臣、後ろに知恵者らが控えていて皆優しい目をしている。さらに脇には若者や子供まで緑色で背中に甲冑を備えている。子供達と目が合うとにこやかに、そしてはにかんで若者の脇へ隠れてしまう。女性らしき人の姿は見えない。いったいこの人達は何者なのだろうか? 形態は人で哺乳動物のようだが身体を意識して日に当てているそぶりから光(光合成?)からもエネルギーを得ているようだ。

 こうしている間に気が付けばベッドに戻っていた。
 今見てきたものは何だろう。これが臨死体験なのだろうか? ともかくこれまで見たこともない緑の王国とその大王さまにお逢いすることができた。王様らと会話はなかったが親しく接することができ、仲間に入れてもらえた気がした。

 私が体験したことは夢だったのか、単なる妄想だったのかもしれない。本当の臨死体験だったのだろうか? ともかくこれまで経験したことのない衝撃的な体験だった。わずか数秒と思われる短い時間に観たものは私の想像力をはるかに超えたものばかりで、その世界で見たものひとつひとつに生命への強いメッセージが溢れていた。

(2011年7月入院時の体験です)


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