■世界2例の海水の湧水

by 山田 海人

海人のビューポート
 
2007年12月17日

 先日沖縄へ行ってきました。 そこで海水を湧き出す「塩川」を見てきました。  皆さんにご紹介したいと思います。

 私達が知っているわき水と言えば山からの真水ですが、沖縄には珍しい海水の湧き水があるのです。それも世界中でたった2カ所しか知られていないうちの1つなのです。
 日本一の入場者数を誇る沖縄美ら海水族館は沖縄北部の本部(もとぶ)半島にありますが、沖縄美ら海水族館の少し手前にその場所があります。本部町の塩川(しおかわ)と呼ばれるその場所は琉球セメントの工場や本部採石場があって石灰岩の採掘を行っている山の直ぐ近くにあります。
 道路から山側へ入ると川幅4mほどの川が“塩川”です。きれいな水がとうとうと流れていて、川底から緑色の長い藻が流れに揺れています。きれいな水ですからちょっと舐めてみると甘い塩っ気を感じます。海の水と比べると薄いので“汽水”のようです。

川底で緑色の長い藻が流れに揺れている

 曲がりくねった川に沿って上流に向かうと、川は突然壁にぶつかっています。石灰岩の壁から泉のように水が湧きだしているのです。湧きだす量もそれほど多くはなくきれいな水が静かに流れ出ています。
塩川の水源

 この川を越えて行くともう一つの川があってこちらの川の方が流量が多く、ボラが数匹群れています。この川も同様に石灰岩の壁からとうとうと水が湧き出ています。この2つの川は下流で合流して海へ下っていきます。
 2つの川の周りは公園のようにきれいに整備され、川の由来が次のように看板に書かれています。
塩川の由来の看板
国指定天然記念物 塩川

 この塩川は海岸線より150m余の陸地内部にあって海面上、1.29m〜1.42mの岩間から常時塩水を湧水している珍しい川で昭和47年5月15日、国の天然記念物に指定された。この塩川の湧出機構については岩塩層説、サイフォン説、地下空洞説などいろいろあるが確定的なものは未だない。
 これまでの調査によれば
@ 潮位と水位(湧出量)は比例する。
A 湧出量と塩水濃度は逆比例の関係にある。
B 海水に陸水が混合したもので岩塩層説は全く否定される。
 塩水の流れる川は世界でもここ「塩川」とプエルトリコの二カ所しかなく貴重な川である。
 この地域において許可なく現状を変更し、又は、保存に影響を及ぼす行為をすることは法律で禁じられています。
 また、この説明の脇には二つの川が合流して道路を越えて海へ流れている図が描かれています。
 これまで世界で二カ所しか見つかっていない塩水の流れる川“塩川”は海までの長さは300mと短く、日本でもっとも短い川と言われています。これほどまでに珍しい川ですが、多くの人が訪れている様子もなく、上で行われている石灰岩の採石によっては塩川の湧き出しが止まってしまうことはないのでしょうか?と心配してしまうほど保護されている天然記念物というイメージではありません。
道端を流れる塩川

 塩川について書かれた本を調べてみると、次のように紹介されていました。
 塩川とは、塩水の河川、直接海水の影響を受けずに水源地から塩分の高い水が流出する特異な現象と言われています。
 海水面より上に湧水口があり、水分は塩化ナトリウム型で海水の組成比に近い。よく知られているものに本部町の「塩川」、今帰仁村(なきじん)の上運天(かみうんてん)、および湧川(わくがわ)の湧水の三カ所があります。
 また、「流水量、塩分濃度は異なるが、特に本部町の塩川は規模が大きく水量が豊富(1日に1〜3トン)である。」とも書かれていますが、見た目には少なくとも1時間に1トンはあるように感じます。
 塩川は湧水口は3カ所あり、古生代石灰岩の隙間より水がたえまなく湧出し、小川となって海に流れ込む。湧水機構については、
@地下深部の多孔質の岩盤中を通って海水が陸水に混入し、潮位によって押し上げられ湧出する。
A海水と陸水が地下で混合し、重力バランスによって塩水が湧出する。
B陸水の湧水現象にともなう吸引作用によって海水が混入し湧出する。
C陸地の上昇のため、隆起以前に多孔性岩石中に浸透していた塩分が徐々に流出する。
などが想定される。地下に岩塩があるとの説もあったが、考えがたい。@またはA説を支持するものが多く、地下の流水路については、断層・割れ目・空洞・地下河川の各説がある。
 水質の特徴については、
@塩分濃度は海水のおよそ1/3〜1/10で潮位・降雨の影響を受ける。
A湧水の水温は年間を通じて変動が小さく年平均気温に近い22℃。
B満潮位には湧水量が増すが、塩分濃度は下がる。
C湧水量・塩分濃度のピークと潮位・降水量のピークとは若干ずれる。
などである。
 この塩川には緑藻類10種、紅藻類など28種が生育している。海産種としてアミアオサヒラアオノリウスイロジュズモが生育し、アミアオサは川の両岸に、ヒラアオノリは流れの早いところに繁茂する。また、種子植物のカワツルモは中流域の砂底に生育している。紅藻類のシオカワモッカは日本ではここ塩川にのみ生育している。
 塩川の水温は年間を通じてほぼ一定(22〜23℃)に保たれている。
 動物は、ボラユゴイミナミクロダイチチブボウズハゼの魚類。貝はエボシガイ、甲殻類では盲目のムカシエビなど珍奇な動物や地下水に潜り込んだヒラテテナガエビトゲナシヌマエビも生息している。また、純地下水性のチカヌマエビアシナガヌマエビも生息している。
 このように魅力溢れた珍現象”塩川”は沖縄美ら海水族館の少し手前にあります。ぜひ世界で2ヶ所の塩川をご覧ください。

参考:

沖縄の島じまをめぐって 沖縄地学会編
沖縄大百科事典(中)
沖縄の文化財 昭和62年10月 沖縄県教育委員会
本部町史 資料編2 
沖縄最短の川を見に行く
沖縄県内の天然記念物 塩川
No465 塩川
地域のおはなし 塩川

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