水深200mより深い海を“深海”と言って、太陽の光が届かない世界です。 その深海にはプランクトンの死骸や抜け殻、魚のフンなどがぼた雪のように集まったマリンスノーが深海の底へ向けて降り続けています。
この“マリンスノー”は今では世界共通の言葉になっていますが、北海道大学で運航していた潜水調査船「くろしお号」が発見した深海特有の現象です。日本人が名付けた深海の言葉はあまりないのですが、この“マリンスノー”は有名になっています。このマリンスノーは深海へ行かないと見ることができませんが、相模湾で何と少女が見たことが記録されています。昭和26年8月17日のことですが、熱海の沖合いでこの「くろしお号」の試験潜航が行われた時のことです。潜水船の運航のリーダーであった教授で後に雪氷学を築いた中谷宇吉郎先生は、この試験潜航に小学1年生の三女である三代子ちゃんを同乗させたのでした。
観測者として乗った三代子ちゃんは、お父さんとともに相模湾の深海を自分の目で見たのです。相模湾は生き物が豊富で、水中にはけん濁物が多いと驚いた中谷先生は、船上に引き上がられてハッチが開かれた直後に「くろしお号」から初めて発したのが、「井上君(運航責任者)、海にも雪があるね! これは君の一生の仕事になるぞ」という言葉でした。
この時初めて潜航した三代子さんは“深海”と“マリンスノー”にどのような印象を持ったのでしょうか? 暗い海中をゆっくり降って行くマリンスノーはとてもきれいだったでしょうね。中谷先生は後に深海の雪である“マリンスノー”を「深海にも雪がある」と世界に広めて頂きました。
三代子さんはその後、ピアノを学び、日本音楽コンクールピアノ部門で三位(1962年)。そしてアメリカの名門ジュリアード音楽院に留学し、現在はニューヨーク在住のピアニストアルバート・ロトさんの奥様であり、ご自身でも音楽活動もされています。幼い頃見た深海の世界“マリンスノー”きっと長く印象に残ったことでしょう。
海人のビューポート