(初出:2008/7/24)
(更新:2008/7/26)
無価値に等しい調査捕鯨の科学性
──鯨研発の学術論文を徹底検証──
チリ・サンチアゴで開かれた2008年度のIWC総会が比較的静かに幕を閉じて半月ばかりが過ぎた7月11日、日本鯨類研究所のホームページ上に、JARPA/JARPAUすなわち調査捕鯨のデータに基づく論文のうち、査読制度のある学術誌に発表されたもののリストが掲載されました。ここに掲げられたのは、鯨研に所属している科学者が関わったもののうち、科学誌の編集者など第三者によるレビューを経た、客観的に見てレベルの高い選りすぐりの論文ということになります。http://www.icrwhale.org/03-A-a-08.htm
実をいうと、これには前段があります。米英独を中心に、科学雑誌で日本の調査捕鯨に基づいた研究論文の掲載が相次いで拒否される事態が起こっているのです。それは、主として野生動物や実験動物の取扱に関する倫理的な基準を満たしていない、言い換えれば、研究内容が致死的手法を用いるに足る水準に達していないという理由によるものです。(*1)
実際、最も権威ある科学誌のひとつサイエンス誌で、調査捕鯨のレビューを行った数名の科学者のコメントが紹介されていますが、「根拠なし」「データも貧弱」「こんなもんは"かがくごっこ"にすぎず、科学と呼ぶのは科学そのものに対する侮辱だ」と散々な言われよう・・。ノルウェーの水産資源学者だけは「捕鯨をやるんならあっていい調査だし、やらないんなら要らない調査だ」と言っていますが、毎年数百頭捕殺する必要性について問われると「コメントは控える」とのこと。。国際捕鯨条約の起草に携わった初代IWC議長は、条約で定義されるところの"一般的な調査捕鯨"の捕獲数を10頭以下と想定していたとも。調査捕鯨の立案に関わった日本の鯨類学者である粕谷氏もそれに近い認識を示しています。(*2)
同様に、オーストラリアでも3名の科学者がJARPAT/Uのレビューを行い、「0点」という評価を下しました。また、今年のIWC総会では、沿岸をサンクチュアリに設定した開催国チリの代表から、日本の調査捕鯨の科学的な成果について初めて(!)論議されることへの期待が表明されましたが、なんと日本政府代表は「とやかくいうのはルール違反だ」ととんでもないことを言い出す始末。内外の批判に対して、科学的必要性を錦の御旗に南極で年間数百頭もの野生動物を捕殺してきた"建前"を、自ら根底から崩しかねない台詞です。「ぜひ隅から隅までチェックしてください。どうです、素晴らしい成果でしょう?」と、なぜ胸を張って声高らかに謳えないのでしょうか?? これはいわば、誰にも注文を付けたり、検証を求めることは許さないという、科学的・合理的姿勢とは真っ向から反するものと言わざるを得ません。(*3)
で、こうした批判に対する1つの回答として、鯨研が「いや、成果ならちゃんとあるんですよ」と出してきたのが、上記リンクのリストというわけです。
論文の検証に移る前に、まず調査捕鯨でどのようなデータが収集されるのかを見てみましょう。表1はJARPA終盤の2002/2003漁期に採集された標本のリスト。たくさんあるようですが、用途別に分けているので重複しているものもあります。基本的には、≪身体測定≫≪卵巣・精巣・乳腺等の生殖組織及び胎児≫≪遺伝子サンプル≫≪化学分析用サンプル≫≪胃内容物≫≪年齢査定用耳垢栓・髭板≫に分けられます。捕殺したすべての個体から採取しているのは53項目のうち25と半数以下(表の黄色部分。一部事故かミスで取りこぼしたものもあるようですが・・)。大事な"副産物"の鮮度が落ちないように、手際よくさばいて冷凍庫に放り込む必要があるからですね・・。
他の野生動物で同様の生物学的情報を得る場合、自然死した個体を見つけるか、有害駆除などの事情で入手した死体を使うのが基本です。大型の野生動物で標本採取を理由に毎年数百頭を殺し続ける動物学は、日本の鯨類学以外に存在しません。動物学一般に当てはめるなら、ストランディングや先住民捕鯨、混獲によって入手した情報だけで十分であり、残ったリソースはすべて非致死的手法に振り向けるのが"常識"ということになるでしょう。致死的調査を含め、死体を拝める"幸運"に巡り会えたなら、徹底的に余すところなく科学研究のために供するのが、捕鯨擁護派市民の好きなフレーズを使うなら、命を粗末にしない科学の道といえます。キャッチャーが次々に運んできて順番待ちをしているうちに"副産物"が体温で傷むのを気にして、解体処理の合間を縫うように大あわてで最小限の標本のみ回収するというのは、本物の動物学者の研究姿勢とは相反するものです。
クジラの場合、体重や各部体長などは生体を捕捉して測れない特殊事情はありますが、それでも身体測定のためにわざわざ毎年数百頭殺す動物学者はいません。遺伝子はバイオプシーでOK。もちろん他の野生動物も同じ。部位毎に入手するのは単なる贅沢。鯨研はバイオプシーについて面倒だと言わんばかりの愚痴をこぼしていますが、貴重な標本を銛で破損させてしまう(表注)ような乱暴な手法よりどれだけマシでしょうか。
鯨研が「生態系解明に役立つ」と前面に押し出している「胃内容物」は、実際には捕殺個体の一部からしか採取されておらず、どのみちこれもバイオプシーでの脂肪酸解析より精度が低くなり、それを毎年繰り返すのは意味がありません。その証拠に、もともと商業捕鯨時代からあった餌生物に関する情報は、非致死的な観察によってピグミーシロナガスなどいくつかの鯨種で覆されました。
有害物質の汚染を調べる化学分析用サンプルは、表だと全個体から抽出しているようにみえますが、実際に調べているのは"食用として販売する"筋肉のみです。重要なはずの腎臓のデータは、IWCに報告しているレビュー上には何故か見当たりません。肝臓については、JARPA初期には百頭前後からサンプルを採取・分析していましたが、年々数が減っていき、捕獲頭数が増えたはずのJARPAUでは何故か20頭分しか採集しないと調査計画に記してあります。致死的調査をする以上は、ある意味では最も科学的に有用なデータのはずなのですが。まあ、分析費用(専門機関に外注)がバカにならないという事情もありますけど・・。もっとも、それも野生動物一般では「毎年分析のために数百頭殺すようなバカげた真似はしない」理由となっているわけです。そしてまた、対象種への影響を調べるなら年間数百頭の捕殺は本末転倒ですし、生態系中の化学物質の挙動を知りたいのであれば"薄く広く"調査しなければ意味がありません。不思議なのは、化学分析用の乳汁がわずか1頭分しか採集されていないことです。乳汁には脂溶性の有害物質が溜まりやすく、また母子間汚染の状況を調べる必要から、環境化学上の観点からは可能な限り多くのサンプルを収集するべきなのですが・・。
結局、意味がありそうに思われるのは、年齢査定用の耳垢栓(ヒゲはおまけ)と繁殖関連情報収集のための生殖組織の収集のみ。しかし、商業捕鯨の新しい管理方式であるRMPは、自然死亡率など推定の精度が低い各種のパラメーターを必要としないため、そもそもそれらのデータを集める必要はないのです。
それでは、ここで掲載された論文101本を1つ1つ検分していきたいと思います。表2は、掲載誌(一部雑誌の体裁でないものも含まれる)が1.IWCのレポート、2.日本の科学誌、3.それ以外の科学誌に分けたもの。2.の日本の科学誌というのは、読んで字の如く発行元が日本国内の学会等のもの、言い換えればローカルな雑誌ということになります。専門の学術論文掲載誌ですから、雑誌タイトルまで基本的に英文ですが、中には論文自体が日本語で書かれているものも入っているようです。南極海での調査に関する論文の発表の場としては、あまり相応しいとはいえませんね・・。実際、それらの科学誌に掲載されている他の論文の多くは、国内の動物を対象に国内で行われた研究が中心です。1.IWCのレポートに掲載されるのはいわば当たり前の話です(ここでハネられるようなら「International Cetacean Research」の看板は即下ろさざるを得ないでしょう・・)。ですから、本当の意味で、内輪のみの評価でない国際水準の研究と(一応)いえるのは、それ以外の雑誌に掲載されたものということになります。表を見る限りでは、該当する論文は全体の半数に満たないことがわかります。水産庁の担当者が「科学性は半分程度」というのも、この辺りからきているのでしょう。
表3は、各論文を1.非致死的手法を用いた研究、2.非致死的な代替手法が存在する研究、3.致死的研究だが、少量のサンプルのみ使用、もしくは経年研究の価値が低い単発の研究、4.調査捕鯨ならではの致死的研究、に分けてそれぞれ集計したものです。1.は主に目視調査。2.は主に遺伝子採取や餌生物判定などバイオプシーで可能なもの。分類はタイトルから著者が判断したものなので、多少ブレている可能性があります。実は、鯨研は調査捕鯨の成果と言いきっていますが、日本の調査捕鯨船団は彼らが主眼とする致死調査だけでなく、IWCに委託された目視調査と、バイオプシーなどの非致死的調査も行っているのです。非致死的調査に関しては、さも片手間にすぎないといわんばかりの表現をしていますが、蓋を開ければご覧のとおり、査読論文の3分の1以上、38本は非致死的研究、若しくは非致死的な代替技術が存在する研究となっています。調査捕鯨の科学的な成果をアピールしたい一方、非致死的調査が注目されるのは避けたい立場の鯨研としては、付随的に行っている非致死的調査のおかげで(!)何とか評価されているという現状は、かなり悩ましいものがあるのでしょう・・・。
続いて、各年度毎の論文を個別にチェックしていくことにしましょう。──というわけで、ざっと見てきたわけですが、20年かけて1万頭を越えるクジラを殺す必要のあった研究とその成果はやはりゼロでしたね・・・。調査捕鯨ならではの研究といえるものは、101本のうち5分の1の21本、「前代未聞の一大捕殺調査から一体何が飛び出してくるのか」という一抹の期待もあった、JARPA1が始まってほどない頃のものばかりです。2000年以降はたったの1本、それも2005年の人道的捕殺に関する研究のみ・・・。論文数を稼いだ最大の功労者は、ウシとクジラを掛け合わせたりブタとの比較研究を進めた帯広畜産大の福井氏でした・・・。
- 1989年の2本は調査捕鯨そのものの論文ですが、1本は予備調査の報告、もう1本は捕獲データの精度に関する数理解析モデルの話なので、調査捕鯨をやるため"だけ"に必要なシミュレーションであり、生物学的な新しい知見とも無関係です。商業捕鯨から間髪入れずに移行する前提さえなければ、まず机上で時間をかけて練るべきところでしょうが。。
- 1990年は予備調査の論文が8本。1本は調査船の航行、1本は目視調査に関するもの。国立極地研の発行誌に「日本のオキアミトロール船と(クロ)ミンククジラが南極オキアミの分布集中を促す」という研究が掲載されてますが、漁船と比較すんならオキアミの捕食者全部調べないとね・・。あと、ミンクの脂肪組織の研究が「YUKAGAKU(油化学)」に。これは日本油化学会等が95年まで発行していた、基本的には石油化学工業系の雑誌。商業捕鯨時代にいくらでもできた内容ではありますが・・。「Nature」に掲載された長崎氏の調査捕鯨を概括した論文は有名。といっても2ページのざっくりしたもので、どちらかというと専門誌より一般誌向けの内容。当時の科学界は「お手並み拝見」という姿勢でした。そして、20年近く経て振り返ってみた結果がNIL(ゼロ)だったというわけです。
- 1991年は9本で、JARPATが本格始動したばかりのこの年が論文数では最多。もっとも、予備調査の目視データの解析の続き1本を含め、7本がIWCのレポートです。標本から得た生物学的知見ではない、耳垢栓の年齢査定(今でももめている)と数理モデルの"手法の検証"も。系群解析の論文2本のうち1本は、なぜか生物学でも水産学でもない統計数理研究所の年報に(出版社はSupuringarlinkですが)。実は主筆の岸野氏はこの統計数理研究所の方。要するに、数学の専門家に入ってもらったわけです。そして、この1本がバイオサイエンス(2003)やネイチャー(2005)誌上で、科学的意義を持つ査読論文として挙げられた唯一の論文。つまり、初っ端の予備調査のデータをもとに外部の研究者に書かせたものがいちばんまともで、それ以降、これを越える論文を鯨研は1本も発表できなかったのです。(*4) 当時はまだ確立されていませんでしたが、遺伝子サンプルはバイオプシーで入手できますし、クロミンクを対象に同じ海域で調査を継続するプライオリティなし。加藤氏の性状態による分布の変化はおもしろい話ではありましたが、これも捕獲のバイアスをどうやって修正するかという難問に活かすのであれば、まだ意義があるんですけどね。。
- 1992年は2本でいずれもIWCの報告。まだ管理方式が確定していなかったこともあり、数理モデルは科学委内でつつかれて毎年のように修正していたようですね。もう1本は自然死亡率の推定精度の"(不)確実性"について。RMPではもはや必要とされなくなったパラメータなのですが。一般の野生動物研究者であれば、数字よりも死亡原因そのものや人為的要因との因果関係を深く調べたくなるはずなんですけどね。。
- 1993年はIWC宛4本(2シーズン分のまとめの報告含む)+3本。また「油化学」に寄稿してます・・。今度は年度が違うのとドワーフミンクを入れただけ。しかも本文日本語。これで査読論文扱いなの? あと、有害物質関連が2本。1本は「有機塩素化合物の大洋の大気及び海水中の分布と地球規模の輸送・循環における海洋の役割」と銘打ったものなのですが……JARPAのデータを使ったにしても、それだけではまったく成立しませんね。もう1本はセレンの話(採取した尿を分析しただけの模様)。有害物質調査については上述のとおり。
- 1994年は3本。1本は石油汚染に関するJARPAと直接関係しないもので、読まないと詳細は不明・・。カナダの動物学誌に載ったのは、筋肉中のプロゲステロン(黄体ホルモン)の同定技術に関する単発もの。クロミンク特化では"調査捕鯨のための研究"以外じゃ役に立ちませんね。。
- 1995年、同じくたった3本。この年から帯広畜産大の福井氏と鯨研との共著論文が登場。基本的に鯨研は材料を提供しただけですが。クジラの人工繁殖を視野に入れた研究のようですが……弟子に「ウシの卵子にクジラの精子を受精させる」なんて馬鹿(牛鯨?)げた研究をさせたり、もうムチャクチャです。まあ、ネタは考えようと思えばいくらでも思いつくわけですが。掲載誌の「The Journal of Reproduction and Development」は、名前だけではわかりませんが、日本繁殖生物学会発行の"ローカル誌"です。次のも掲載誌は日本獣医学会発行。ヒゲクジラのヒゲの発達過程に関するものですが、当然毎年クロミンク数百頭は要りませんね。残りの1本は目視調査だけでいいハズ。
- 1996年、7本。1本目は北大西洋のミンクの研究に情報提供しただけ。2本は筆頭が南アのButterworth氏。反捕鯨に含むところがあるようで、鯨研との共著論文の多い方。
- 1997年、3本のうち2本が帯広の福井氏。
- 1998年は7本中4本が国内誌。福井氏が凍結精子の活性についての研究で2本も。人工繁殖と商業捕鯨再開を前提にした調査捕鯨は、ある意味矛盾する関係にあると思うんですがね。。別の石油化学系雑誌、さらに県立山形博物館の会報まで。骨格標本の計測で論文書くために毎年数百頭野生のクジラを殺しているんですか?
- 1999年、3本。波がありますね。海外の研究者がJARPAの致死データと非致死データを使った対照的な論文を出しています。
- 2000年、5本中、生殖組織を使った研究が3本。毎年毎年大量の新しい標本を調達できる立場は、他の野生動物研究者の中には羨ましいと思う方もいるかも・・。番いの形成から子育て、巣立ちのリアルな過程を観察するほうが本丸で、死体からの情報は補完だという考え方が主流でしょうが。もっとも標本の方からどんどんやってくるものだから、いろいろメニューを考えてやりくりしているというのが近いかもしれませんね。逆に、すべての野生動物で同じことをやり始めたらと思うとぞっとします。。
- 2001年、また3本。全部福井氏が関わった繁殖生理学的研究。もう「これでもか」って感じです。動物学全般の中でのバランスとかって、全然気にならないんですかね?
- 2002年、6本ですが半分は日本の水産資源学系統で、うち2本が日本の水産学会70周年国際記念シンポジウム上のもの。1本個体識別の論文あり(もちろん、これは資源学の方ではありません)。シンポジウムの1本は「大型鯨類の管理・保護におけるDNA解析の有用性」についてですから、バイオプシーの長所・短所についても論じられているんでしょうが・・。"致死的であること"自体を短所として認識できないところが日本の鯨類学の何よりの問題点かもしれません。。
- 2003年、4本のうち「Mammalian Science」は日本の哺乳類学会誌で、論文も日本語表記。3本は遺伝学、残り1本はブルセラ菌感染に関するもので、使っているのはJARPNのデータです。鯨研はHPの標題でJARPAの論文としていますが、この後も何本か混ざっています。
- 2004年、8本中5本が国内誌で、なんと全部福井氏の関わった繁殖生理学系。1本は脂質のブタとの比較研究だってさ!
- 2005年は6本中4本が国内誌。「Global Environmental Research」は名前はグローバルですが、国際環境研究協会という日本の社団法人が発行しています。国内誌に発行されたうちの1本は、人道的捕殺の研究。2本は系統遺伝学ですが、クロミンクのみでないので当然バイオプシー(であるべき)でしょう。
- 2006年、8本。9種のクジラ・イルカの比較遺伝学的研究がありますが、調査捕鯨のデータを使う意味はまったくありませんね。南極生態系中の水銀の動態を調べるのも、やはりクロミンクだけでは話になりません。脂皮の特性の研究がなぜ今頃・・。オキアミ捕食者の動態モデル計算、クロミンクだけ致死調査使ってもしょうがなし。南極深層水の研究? しらせでやったら?
- そして2007年の7本、ブログ記事上で解説しましたが、追加情報を交えてもう一度。
1本目の掲載誌、「Japanese Journal of Zoo Wildlife and Medicine」とHP上ではなってますが「Japanese Journal of Zoo and Wildlife Medicine」の記載ミスですね。他の雑誌名やページ数の間違いもいくつかあり、鯨研のリストはかなりやっつけで作成されたものと思われます。発行元は日本野生動物医学会、会長は有名なズーラシアの増井氏。評議員に鯨研石川氏が名を連ねています。これともう1本が福井氏系。2本は海外の科学者によるシロナガスに関する研究で、目視情報の提供のみと思われます。日本動物学会発行誌に掲載された2本は遺伝学系で、鯨種間の比較研究なのでバイオプシーであるべきもの。2本目に出てくるTbx4は後ろ脚の形態形成に関するもので、九大の研究者に遺伝子サンプルを投げただけの模様。太地でハラビレ(後肢)付イルカが捕獲され、現在同町内の水族館で飼育されていますが、この個体を使えば皮膚でも唾液でも糞でも好きなだけDNAを採取できるわけで、通常の個体と比較して遺伝子の塩基配列差やスイッチのオンオフ状態を調べたほうが、よっぽど手っ取り早く費用もかからず有意義な研究成果があがるはずなんですけどね・・。最後は、北のミンクで地球温暖化による分布域の変化を見た論文。調査捕鯨の必要がまったくない研究ですね。ミンク以外のデータもそろえて初めて意味のあるものですし。
鯨類学者でもないのに評価が手厳しすぎないか、とおっしゃる? とんでもない。大甘もいいところです。上述の海外の研究者や科学誌の編集者のレビューのコメントを見れば一目瞭然。ニューサウスウェールズ大学アーチャー理学部学部長も、「カタリスト」(オーストラリア公共放送局)で「調査捕鯨の致死的データが必要だった査読論文は、18年間のうちたった4本にすぎない」と語ったとのこと。(*4) 筆者が挙げた数字のさらに1/5ですね・・。
さて、鯨研さん。こんなレベルでいいんですか??? あなたたちの科学研究機関としての存在意義って・・・・。広報に年6億円もつぎ込んだり、学校に出張して「鯨肉が給食に出たら文句を言わずに食べよう」なんて宣伝をしている場合じゃないんじゃないですか。「第三者の評価なんて受ける筋合いはない」「IWCでとやかく言われたかない」と開き直りたくなる気持ちはわかりますが、そのような開き直りはすなわち科学研究に携わる者としての使命を放棄することに他なりません。
ところで、学術論文のクオリティを判断する一つの基準に引用数があります。どうですか、鯨研さん。内輪を除いた引用実績とか、出してもらえませんかね。
■参考・引用文献/リンク:
「なぜ調査捕鯨論争は繰り返されるのか」(『世界』'08/3)
「捕鯨ナショナリズム煽る農水省の罪」(『AERA』'8/4/7) (*1)
3500−13−12−2−1(by Adarchismさん)より3本
http://3500131221.blog120.fc2.com/blog-entry-28.html (*2)
http://3500131221.blog120.fc2.com/blog-entry-32.html
http://3500131221.blog120.fc2.com/blog-entry-33.html
拙ブログ(Beachmolluscさん、赤いハンカチさんのコメント)
http://kkneko.sblo.jp/article/17150681.html#comment (*3)
http://kkneko.sblo.jp/article/17287129.html#comment (*4)