(初出:2010/4/21)
(更新:2010/4/22)

持続的利用原理主義すらデタラメだった!
──反科学・反文化・人種差別的な感情論で不合理な鯨殺フェチに走る捕鯨ニッポン──

 今年2010年4月17日の朝日新聞朝刊のオピニオン欄「異議あり」に、小松正之政策研究大学院大学教授の主張が掲載されました(以下、A紙記事)。
「タフ・ネゴシエーター」「ミスター捕鯨問題」の異名をとる小松氏は、一貫して日本の捕鯨政策を担った水産官僚の中心人物でしたが、2005年に肩たたきで水産総合研究センターに出向、2年後に退職。一説には、強硬な捕鯨推進政策のツケに対する責任を負わされたとも(「調査捕鯨担当者の辞表」'08/4/7『AERA』)。実際のところ、小松氏が主導したJARPA2/JARPN2(第二期南極海・北西太平洋鯨類捕獲調査)で対象種を広げ捕獲量もほぼ倍増したおかげで、鯨肉在庫と赤字・財政負担の山が築かれたうえ、出口の見えない袋小路に陥る外交上深刻な事態を招いたことは否定できません。退職後、環境保護団体グリーンピース主催の持続的漁業に関するシンポジウムにパネリストとして出席したり、深刻な漁業資源の枯渇に対する水産行政の問題点を直言し、出身庁に反旗を翻したかと思いきや、捕鯨問題に関するスタンスは相変わらず・・。現役時代に自庁の無策ぶりを変えられず、環境保護派の批判を聞き流してきたことに負い目を感じた分、フリーの身になってやっと物申す気になったのかもしれませんが、 無謀ともいえる計画拡大・増産は、小松氏にとっては国家エリート現役時代に成し遂げた輝かしい功績であり勲章。ま、著書も山ほど発行して印税もそれなりに手に入ったでしょうし、水産庁の本業をいくらけなしても、「自分の仕事だけはひっくり返されたくない」というのが本音なんでしょうね・・・・
 小松氏は前日の16日にも、朝日ニュースターの番組「宮崎哲弥のトーキング・ヘッズ」上で「マグロって食べられなくなるの?」をテーマにゲスト出演。内容的には朝日オピニオンと同じく、従来どおり(耳タコ)のカガクとブンカの二本柱による捕鯨礼賛節。長年にわたって収拾のつかない状態が続いているIWC(国際捕鯨委員会)ですが(その責任の過半は小松氏にあるといってもいいでしょう・・)、そうした現状を打開すべく、2007年からは落としどころを探る試みがなされています。日本の姿勢は真の譲歩からは程遠く、ホガース前議長(米国)とデソト小作業部会議長による仲裁案は昨年マデイラで開かれた年次総会でいったんご破算になりましたが、今年はマキエラ議長(チリ)のもとで新提案の検討が進められています。ところが、小松氏はこれを「大問題です」(A紙記事)と切って捨てました。要するに、「現行の膠着状態を維持せよ」あるいは「外交破綻を恐れるな」と言いたいわけですね。歩み寄りなど言語道断とする小松氏の主張からは、相手の立場を尊重する姿勢など微塵もうかがえません。臆せず唯我独尊を貫く強気一点張りの姿勢は、しかし、氏曰く「自らの保身、組織の防衛を何よりも優先させて」(『世界クジラ戦争』PHP研究所)いる産官学政一体の捕鯨サークルによって都合よく利用されるばかりです。官民癒着の温床と関係者の慢心を育てあげた張本人もまた、小松正之氏自身に他なりませんが。海洋環境保全と持続的漁業で日本のずっと先を行っているオーストラリアとは対照的に、小松氏も憂えるほど危機的状態にある漁業資源と健全な漁業者のためにこそ充てられるべき水産予算を、漁港整備・護岸の名の下にふんだんにコンクリートに注ぎ込んで沿岸の豊かな環境を台無しにしてきたのは、水産官僚と彼らに天下り先を提供してきた水産ゼネコン業界団体です。ゼネコンの美味しい“飯の種”ODA(政府開発援助)事業の中でも不透明性で抜きん出ている水産ODAを、日本政府がIWC票買収工作のためのカードとして駆使してきたことに対し、「何も悪いことはない」とさらりと言ってのけたのも、やはり省益第一を旨とする官僚の一人であった小松氏本人(「国際捕鯨委員会」Wikipedia)。
−「小松正之」(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B0%8F%E6%9D%BE%E6%AD%A3%E4%B9%8B
−「国際捕鯨委員会」(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%9B%BD%E9%9A%9B%E6%8D%95%E9%AF%A8%E5%A7%94%E5%93%A1%E4%BC%9A
 氏が最初に打ち立てた「原理原則」の看板は、「ミスター捕鯨問題U世」森下丈二参事官や水産庁捕鯨班の担当官僚らに引き継がれましたが、それでも小松氏ほど原理主義に忠実な人もいないでしょう。まさに筋金入りのファンダメンタリスト。もっとも、「ミンククジラは海のゴキブリ」という科学性の欠片もない妄言や、後任者にもつれなく否定されているトンデモ鯨食害論生みの親であるだけに、小松氏のカガク的主張の中には首をかしげるものも少なくありません。例えば、「クジラの繁殖率は生息数の4%といわれ、絶滅なんてするわけがない」(A紙記事)。捕鯨擁護論のベースを提供してきた小松氏ならではの主張ですが、大間違いです。基本的に野生動物の絶滅は、乱獲と生息環境の破壊(多くはそのセット)が原因ですから、 レッドリストに載った野生生物種で繁殖率4%なんてザラです。ジャイアントパンダの方がミンククジラより繁殖率が高いんですよ。かつてはジャイアントパンダも「資源として商業利用」されていましたが、現在の「捕獲枠」はゼロ。小松氏の理屈を通せば「パンダはクジラ以上に絶対絶滅するわけがない」ことになってしまいます。
 つづいて、小松氏は興味深いIWCの内幕を披露しています。「日本の研究者たちが英語の複雑な議論についていけず、沈黙していた」(A紙)って、いや、そこまで無能じゃ科学者失格でしょ(--;; 環境保護運動の興隆の背景には、ITの進歩とも連動する形で、生態学を中心にした生物学・環境科学の目まぐるしい発展があったわけです。以前の日本の御用学者たちは、旧態依然とした水産資源学畑から一歩も出ようとしなかったために、「議論が噛み合わなかった」ということでしょう。小松氏のいうところの、海外の専門家からアドバイスを得て施した調査捕鯨の原案に対する「修正」とは、「生態学の装い」をそこに付け加えること。つまり、カモフラージュですね。
 確かに、日本の拡大調査捕鯨の計画書・報告書には、至るところに「生態」「生態系」の文字が散りばめられています。その典型が、調査捕鯨のデータを使用した生態系モデル。
−「海産哺乳類を中心とした生態系モデリングの為の数理統計学的研究」(水研センター研報no.10) (以下、論文O)
http://rms1.agsearch.agropedia.affrc.go.jp/contents/JASI/pdf/JASI/69-2577.pdf
−"Development of an ecosystem model of the western North Pacific" 「西部北太平洋の生態系モデル開発」(IWC-SC/J09/JR21) (以下、論文I)
http://www.iwcoffice.org/_documents/sci_com/workshops/SC-J09-JRdoc/SC-J09-JR21.pdf
 上は遠洋水産研究所・岡村寛氏の博士論文(2001)、下は昨年の年次総会前に公開された日本側のIWC提出論文。
 ただ、取ってつけた付け焼刃の生態学モドキ研究は、内外でさんざんな批判を浴びました。
 以下は同業の水産学者である三重大勝川俊雄教授の指摘。全文必読!
−「鯨害獣論について考えた」(勝川俊雄公式サイト)
http://kaiseki.ori.u-tokyo.ac.jp/~katukawa/blog/2007/11/post_237.html
「パラメータの設定によって結果が大きく変わるから、生態系モデルは信用ならない。だから、単一種で頑健なRMPをつかいましょう」と言えるように準備しておくべきなのだ。(引用)
 上掲のように、勝川氏は「捕鯨再開を目的にしているのに、なぜ再開を遅らせる泥沼にわざわざ足を突っ込むのか?」と首を傾げています。むしろ、足どころか頭から飛び込んでる感がありますが・・。逆説的に言うなら、鯨研側がわざわざ海外の助っ人を頼んで生態系モデルを売り出したのは、いつまでも結果が出ず延々と仕事ができるところが、現行の国策調査捕鯨スタイルを存続させるうえで都合がよかったからとも受け取れます。
 日本のエコパス/エコシム生態系モデルの問題点に関しては、Yahoo!掲示板上でのaplzsiaさんとr13812さんのやりとりの中で詳細に論じられています。
−「北西太平洋へのEcopath/Ecosimモデルの適用」以下の一連の投稿
http://messages.yahoo.co.jp/bbs?.mm=GN&action=m&board=1834578&tid=a45a4a2a1aabdt7afa1aaja7dfldbja4c0a1aa&sid=1834578&mid=34038&thr=34038&cur=34038&dir=d
−「サイエンス誌2月13日号」
http://messages.yahoo.co.jp/bbs?.mm=GN&action=m&board=1834578&tid=a45a4a2a1aabdt7afa1aaja7dfldbja4c0a1aa&sid=1834578&mid=33370&thr=33370&cur=33370
 では、筆者の気づいた点をば。以下の解説は、上掲リンクの論文IのTable2と論文OのTable15、もしくは下掲の2つの表をご覧いただきながらお読みください。
 まず、末尾の付表でシミュレーションに用いた各種のインプット・データの出所が示されています。多種モデルである以上、開発者も「データの不確実性がバラバラなのは仕方ない」と認めつつ、データの扱い方に注意を喚起しているわけです。ところが、IWC-SC(科学小委員会)で遡上に上った肝心の論文Iの方は、論文O以上にテンデバラバラですね。「データがないので他種のを借りた」ってのがいくつも。論文Iと元になった論文Oとの間にも相当な食い違いがあります。特に重要なPB(production/biomass:単位バイオマス当り生産量。モデルでは資源が平衡との前提でZ:自然死亡率+漁獲死亡率を用いている場合が多い)に関して、メインの大型鯨類で3〜5倍もの開きが。論文Oの方は別の研究者の同じエコパス/エコシムモデルのデータを拾ってきたものですが、論文IはIWCの評価を経た数値。ニタリクジラで2006年のワークショップで合意された数値を使っているのに対し、どういうわけかミンククジラはもっと古い2000年のデータを使っています。2006年の数値は信頼区間のとり方次第でゼロになったりマイナスになったりしちゃうもんだからオカシイと槍玉に挙げられましたが、それで引っ込めたのでしょうか。このときの平均4%の自然死亡率/繁殖率が、小松氏をはじめいま関係者が使っている数字のはずですが。さらに、イワシクジラはJARPNUで年間100頭も獲り始めたのに、そちらは使わずなんと1976年のバイアスのかかった古い商業捕鯨時代のデータを採用。ミンククジラのPBは論文Iで0.12、海鳥の0.1より高いのはどう考えてもおかしな話。「捕獲しないと50年後に魚が減る」という結論ありきで、再生産率を大きくとったと受け取られても仕方ないでしょう。逆に、競合種の海鳥は論文Oの0.8に対し論文Iでは8分の1に。胡散臭いことこの上ないですね・・・・
 北西太平洋の総合的生態系管理モデルを謳いながら、重要な漁業対象種で競合問題絡みで沿岸調査捕鯨を行うきっかけでもあったはずのイカナゴやコウナゴが含まれていないことも、aplzsiaさんが指摘されています。ミンククジラの主食の一つとされるイカナゴですが、そのイカナゴの資源量を左右する最大の天敵はイカナゴ(親)。エコシムはエコパスを餌生物構成に対応させた改良モデルですが、未成熟群と成熟群のグループ分けに加え、年級群毎の加入と死亡をリンクさせて共食いを反映させることまでできるんでしょうかね。イカナゴタイプの食性・生活史を持つ魚種も多いはずですが。実際と同様、フィードバックが働いて極端な振動現象を起こすんでしょうけど、vulnerability(バルネラビリティー:調整用のパラメータ)次第じゃ、「イカナゴのせいでイカナゴが消滅した」なんて結果まで導き出せそうです。「クジラのせいで30年でサバが消滅」じゃないけれど・・。いろいろ都合が悪くて外したんでしょうが、結局生態系モデルなんてその程度の代物だということですね・・・
−「沿岸調査捕鯨が日本の漁業の役に立つ!? んなアホな!!」(拙ブログ)
http://kkneko.sblo.jp/article/29420593.html
 日本の捕鯨プロモーション用生態系モデルの最大の欠陥は、全体として少なすぎるうえ選り好みされた構成種の中でも、とりわけある1つの種が含まれていないことにあります。そう、シャチ。捕鯨業管理にしろ食害の検証にしろ、クジラを中心にした多種モデルで捕食者のシャチを含めないのは致命的というほかありません。繁殖率の低さにかけちゃ海洋生態系でトップクラスのシャチに対する捕獲の影響、シャチの摂餌生態の変化に伴う個体数の少ない大型鯨類への影響、その他の餌生物を通じた食物網全体に波及する影響を無視して、生態系モデルもへったくれもないでしょう。
 そして何より、生態系モデルのパラメータとしての餌生物構成データは、スナップショットに過ぎない胃内容物データではる必要はまったくなく、膨大な過去の資料、別種の資料、あるいは精度の高いバイオプシーによる資料を使えば十分だということです。他のインプット・データは適当に過去の論文から拾ってるものばかりなのに、パラメータの一つにだけ突出した信頼度を求めることはまったくもって無意味です。生態系モデルの構築に調査捕鯨は文字どおり不必要なのです。
 同様に、机上の数値モデルでは現実の自然をきわめて大雑把な形でしか捉えることができません。個体数が激減しても返って漁業被害が増加しているトドのようなケースを反映させることは、どのモデルを用いても不可能でしょう。
 真面目な水産学研究者の方によるEwE(Ecopath with Ecosim)の解説はこちら。Mori & Batterworthモデルの問題点などにも言及されています。
−「海洋生態系モデルの分類と解説」(遠洋水研外洋生態系研究室) (以下、解説K)
http://cse.fra.affrc.go.jp/kiyo/home/ecosis/Existing_Models.html
 EwEは「空間的な不均一性を明示的に考慮できない」(解説K)とありますが、部分的に海域設定してそこに高度回遊性動物を組み込もうとすること自体、EwEに向かないことを無理やりやろうとしているとしか思えません。
 鯨研はトレンドに飛びついて「生態系」「生態系」と連呼し、EwEだけでなくMRMモデルの構築にも着手。上掲勝川氏の疑問を裏付けるように、並行していつまでもグズグズ議論を続けることで、調査捕鯨の延命を図りたいという意図がありありとうかがえます。MRMについては、「想定外の種や環境変動の影響については考慮できません」(解説K)とのこと。魚種交代や地球温暖化の影響を的確に反映できない机上の演算作業に多額の予算を注ぎ込み続けることは、官民癒着の構造だけでなく、沿岸の資源枯渇と漁業者の苦境を更に引き伸ばすことにしかなりません。
 筆者は数理統計学の専門家でも何でもないですから、中身に関するこれ以上の突っ込んだ議論は、他の方々にお任せするとしましょう。ま、シミュレーション自体は、プロの研究者にとっちゃ、ソフトにパラメータぶちこむだけで「レンジでチン」みたいなもんなんでしょうね。むしろ、描いたとおりの結果をはじき出すための数値選びにW/Lがかかりそうですが・・。
 さて、実は二つの論文に目を通しているうちに、筆者は別のことに気づきました。これらの研究はそもそも命題設定が間違っているんじゃないかと。私たちの実社会(国際社会でも日本国内でも)にとっての価値・有用性が低すぎる研究ではないかと。個人の研究者が、所属する大学や研究機関からわずかに支給される予算で、沿岸や近海をフィールドに法に則って細々とやる分には、まあかまわないでしょう。しかし、聖域扱いして多額の公金を投じて行う国家的一大研究プロジェクトには到底相応しくない内容です。鯨研/共同船舶/水産庁によって実施されている調査捕鯨は、まさにそうした扱いを受けているわけですが。
 農水省の調査捕鯨事業(沿岸調査含む))に係る補助金は、直接関係するものだけで年間約11億円。それに対し、沿岸水域資源調査推進事業費の名目で付けられた予算はたったの2億円弱にすぎません。海面漁業生産額の1%に満たない特定事業者のために、苦境に立つ多数の沿岸漁業者すべてのために使われている研究予算の5倍以上もの国費が注ぎ込まれているのです。後者の方が、資源枯渇に対処するうえでも各種の研究調査を行うはるかに高い緊急性・重要性を有しているはずで、必要ではないが「改善」に資する「可能性がある」とか「かもしれない」とかいろ〜いろな修辞が付くようなドウデモイイ研究が優先されるなど、公平な科学研究予算の配分の観点からも絶対にあってはならないことです。
−「鯨研の財務諸表&農水省概算要求を徹底検証」(拙ブログ)
http://kkneko.sblo.jp/article/34484278.html
 調査捕鯨に基づく生態系モデルの動機は以下の3つ。
A)日本の漁獲高の急激な低下に対処する必要がある。その“補助”として捕鯨による生態系管理がアリかどうか検証する。
B)海棲哺乳類と漁業の競合を調べる。
C)生態系アプローチによる漁業(EAF)の国際的認知。

http://messages.yahoo.co.jp/bbs?.mm=GN&action=m&board=1834578&tid=a45a4a2a1aabdt7afa1aaja7dfldbja4c0a1aa&sid=1834578&mid=34062&thr=34038&cur=34038&dir=d
 これを正しい命題に設定し直してみましょう。「何が本当に必要な研究なのか」は、そこから自ずと導かれるはず。
A’)日本の漁獲高の急激な低下に対処する必要がある。メインの対策が欠けているのに、“補助”にカネかけてる場合じゃない。
B’)漁業と競合している捕食者には何がいるか調べる。その影響はどれくらいか、特に被害が大きいのはどれか調べる。競合している生物を除去すれば、果たして問題が解決するかどうかも検証する。そして、何が有効な方策かを探る。いずれにしても、A’)が当然最優先課題
C’)なし! 
「生態系がいま世界でウケてる」ってんで、海外のアドバイザー呼んでやり始めたヒトたちが、よくまあ恥ずかしげもなく言えるよね・・・・。「限界をきちんと認識して正しく使う」のが次のトレンドでしょ。
 論文Iに記されているところの、水産庁の発表した漁業の基本方針「第一優先順位は、日本の排他的経済水域内の漁業資源を科学的基礎に基づいて管理し、持続可能な利用を行う」、これはまさしく正しいことです。問題は、各論(上のA、B、C)が総論から外れていること。
 ──漁業資源枯渇の主因は乱獲であり、汚染や開発による藻場・サンゴ礁などの環境破壊がそこに加わり、魚種交代や気候変動の要素も絡んでいる──
 捕鯨関係以外の現場を知る真面目な水産学者であれば、誰もが認めるところでしょう。「クジラの所為だ!」などと言えば科学者として恥を掻くだけです。
 乱獲・開発・汚染は、賢明で実行力のある優れた行政機関なら制御できるもの。科学的知見の蓄積が重要な温暖化・魚種交代のメカニズムの研究も含め、必要なところに必要な予算とリソースを投じ、管理手法を確立することを最優先課題とし、実行に移しているでしょう。それこそが、国際的なリーダーシップをとる資格のある漁業先進国・持続的利用先進国というものです。
 A’)がてんでなってない時点で競合云々などとほざいている場合ではないのですが、B’)に沿った資料を2つまとめてみました。

 これは論文IのTable2を元にしたもの。28の底生無脊椎動物は論文Iになく、論文OのTable15から拾っています。11海鳥のPBも論文Oの値を併記。上記したパラメータ設定の問題点(特にPB)にも注意しつつ眺めてみてください。
 右半分が作成者が算出した数字です。Pは再生産量。この数字が高いものほど、資源に与える影響を抑えながら漁獲できる生産量が高いことを意味します。Qは消費量。食害量に直結します。厳密にはもちろん、餌生物構成をもとに捕食対象のうち漁獲対象種がどのくらいの割合含まれているかで判断しなくてはなりませんが、胃内容物調査はPとQをもとに進めるのがスジ。C/P、C/Qは再生産量と捕食量(食害)に対する“開発度”を表します。数字が低いものほど、再生産量、あるいは食害の影響が大きい割に、十分に利用されていないということを意味しています。国民の税金をもとにした研究費、補助金は、合理的・効率的に運用されなければなりません。ポテンシャルがあるにも関わらず、開発が遅れている分野に対して投じられるべきなのです。
 P、Q、C/P、C/Qそれぞれの項目の右側の数字は「ランキング」。 デトリタスを除く32種について、海洋生物資源の持続的利用を考える際に考慮すべき項目について優先順位をとってみたものです。そして、赤で塗られた部分がJARPNUの捕獲対象3種(ミンククジラ、ニタリクジラ、イワシクジラ)より上位にランクインした種。水産庁/鯨研が注目したクジラ3種は軒並み20位以下。ついでにいえば、鯨研・岡村氏のように選り好みせず、生態系構成種すべてを対象にして測定した場合、大型鯨類の順位がさらに下降することは避けられないでしょう。研究&利用と公費投入のバランスが、鯨類とそれ以外の海産生物資源との間で極端に崩れてしまっていることは否定のしようがありません。赤松農相は記者会見で「多すぎて困るのはクジラぐらい」と、あまりにも情けない発言をしてしまいましたが、真っ赤な嘘もいいところ。本人は嘘を吐いた自覚すらないでしょうが。赤松氏は誰よりも農相に向かないヒトでしたね・・。モロッコに出向いて世界に大恥を晒す前に替えてもらいたいものです・・・・
−「赤松農林水産大臣記者会見概要」(4/9,農水省HP)
http://www.maff.go.jp/j/press-conf/min/100409.html

http://blogs.yahoo.co.jp/marburg_aromatics_chem/63091024.html
 一点付け加えると、C/PがEEと同等だったり上回っているものは、漁獲によってニンゲン以外の捕食者の取り分をすべて奪ってしまっていることを意味します。上記したシャチに関する解説とも関連しますが、種間関係に配慮する生態系管理型漁業としては、絶対あってはならないことです。要するに、商業捕鯨は生態系管理型漁業でも何でもないわけです。
 確かに、植物プランクトンやコペポーダなどの小型プランクトン、底生動物の一部については直産業利用とはなかなかいかないでしょうが(ただし、研究の余地は十分あります)、これまで、そしてこれからも調査捕鯨に投じられかねない補助金と研究費をすべて振り向ければ、食糧問題の解決に決して資することのない特定地域のみのブンカ的高級嗜好品・鯨肉などよりはるかに人類に貢献することは間違いなく、商業ベースでも漁業として成り立ち得る可能性のある対象種がこの中にあります。17ハダカイワシと21深海イカ
 世界中の中深海層で海底とみまがうほどウヨウヨしているハダカイワシも、「クジラが何億トンも食べている」云々のキャッチフレーズの数字の相当部分を占めながらびくともしていない深海イカも、再生産量で比較すれば3桁も4桁も上でクジラと比較になどならないのに、漁獲量はゼロ。ついでに食害も半端じゃありません。ハダカイワシはサンマと餌がかぶる競合種、バイオマスを考えれば、影響はミンククジラの比ではありません。漁師にとっちゃ、ミンククジラの食害などカワイイもんで目の敵にする理由は何もないでしょう。捕鯨問題ではひた隠しにされる競合の問題は以前から知られており、漁獲対象以外の種としては比較的研究が進んでいるようですが、資源量や競合の可能性も含めクジラ以上の成果が挙がっているとはいえません。
−「ハダカイワシはサンマの敵?」(水産庁)
http://www.jfa.maff.go.jp/rerys/12.09.14.3.htm
−「春季の黒潮・親潮移行域および黒潮続流域における小型浮魚類と中層性魚類の生態的な相互作用」(中央水研ニュース)
http://nrifs.fra.affrc.go.jp/news/news36/1/01.html
 で、どちらも決して食えないわけじゃないんですよ。高知や三重では、底引き網に入ったものが干物として利用されることがあるようです。他の地域では網にかかってもポイされてるんですね・・。消化できないワックス類を含むとのことですが、多食しなければ問題なし。下痢くらいで、水銀みたく神経性の慢性中毒にはなりませんから。。水産庁が一部地域の文化であることを認めている鯨肉食と同じなのですから、研究費・ハダカイワシ食の普及啓発用宣伝費・その他の補助金は少なくとも同等以上に投入されるべきですね。捨てられているものの有効利用を図るという意味では、こっちの方がはるかに重要です。
 深海イカの方は、体内の塩化アンモニウムがネックですが、魚食文化が世界への売りになってる捕鯨ニッポンですから、美味しく食べるための工夫はできるでしょう。同様にアンモニア臭が気になるサメ・エイ類も加工によって食用にしている地域があるのですから。海外でも、南米諸国で輸出のための食用研究がなされているとのこと(お目当ての国はたぶん・・)。こりゃ、自称漁業国のリーダーとして負けちゃいられませんね。
 大量に資源があるのに、持続的に利用されず、ごく一部の地域でしか利用されていないのは、持続的利用原理主義の観点からはきわめて不合理で大きな問題といえます。日本ハダカイワシ類研究所・日本深海イカ類研究所を設立し、調査捕鯨用の年間10億の補助金は全部そっちに回して、食べやすさを追及する研究を行ったり、学校給食への導入や啓蒙・普及活動を直ちに始めるべきでしょう。「ハダカイワシのポワレカキのフライ添えカフェドパリバターソース」だって、「ダイオウホオズキイカとモッツァレラチーズのコルドンブルーカボチャのプリン添え」だって、きっといくらでも創作できますよ。
 小松氏が主張するように(A紙記事)、南極のクジラにこだわる限り、100云億円ものバカげた設備投資を要する新造母船、莫大な電力と冷媒による環境負荷を新たに生み出す超低温冷凍庫を導入し、なおかつ小売・外食店で新開発の解凍技術まで導入しなければ、マズくてさっぱり売れない鯨肉の品質は改善しませんが、それに比べりゃハダカイワシや深海イカなら、環境にやさしい伝統的な加工法・調理法で食用に供することが可能になるはずです。
−「ハダカイワシ」(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%8F%E3%83%80%E3%82%AB%E3%82%A4%E3%83%AF%E3%82%B7
−「ダイオウイカ」(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%80%E3%82%A4%E3%82%AA%E3%82%A6%E3%82%A4%E3%82%AB
 ハダカイワシは深海魚だけに重金属の濃度は表層性魚類に比べ高くなっていますが、食物連鎖の下位ですから、スジイルカ(太地)で200、アカボウクジラで440、マイルカで600、さらに和歌山県で販売されていた肝臓食品中の2000(単位はいずれもμg/mg)といったきわめて高濃度の汚染物質の蓄積が確認されているハクジラ類とは、食品としての相対的な安全性がはるかに高いことは言うまでもありません。DDTやPCB等の脂溶性の有機塩素化合物なら、脂皮中にどっかり溜め込む鯨類よりさらに安全。海水から生体への濃縮係数は、PCBの場合ハダカイワシで31万倍、イカで16万倍なのに対し、スジイルカは3700万倍と100倍もの差があります(いずれも北西太平洋、Tanabe,1984 他)。
 何にせよ、国民の健康に細心の注意を払う他の国と違い、日本じゃキンメダイもイルカもクロマグロもOK。FAO/WHOの勧告があろうが妊婦への注意喚起のみで済ませてしまえる捕鯨ニッポンですからね・・。そっちが食べられるヒトならノープロブレム。有害物質汚染はイタチごっこで規制されても次々に新たな化学物質汚染が発覚しているのが実情で、近年も有明海産のスナメリから高濃度のHHCB(人工香料)が検出されています。食物連鎖の低位であれば確実に低リスクで、食品の安全性の観点から見た優位性は揺るぎません。
−「市販鯨肉の水銀汚染と安全性」(科研)
http://kaken.nii.ac.jp/ja/p/14572112
−「海洋汚染と鯨類」(中田晴彦,『鯨類学』)他


他の出典一覧(リンク付):
−"Population Estimates"(IWC)
http://www.iwcoffice.org/conservation/estimate.htm
−「イワシクジラ」(Wikipedia)
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A4%E3%83%AF%E3%82%B7%E3%82%AF%E3%82%B8%E3%83%A9
−「日本が調査で捕獲しているクジラ類の資源量」(日本捕鯨協会HP)
http://www.whaling.jp/shigen.html
−「南極のあざらしの保存に関する条約」(外務省HP)
http://www.mofa.go.jp/Mofaj/Gaiko/fishery/ccas.html
−鰭脚類関係(日本バイオロギング研究会)
http://bre.soc.i.kyoto-u.ac.jp/bls/index.php?%A5%C8%A5%C3%A5%D7%A5%DA%A1%BC%A5%B8
−「南極豆辞典」(国立極地研)
http://polaris.nipr.ac.jp/~academy/jiten/ikimono/05.html
−「ペンギンの種情報」(北関東ペンギン帝国)
http://www.ucatv.ne.jp/~pengin/suizokukan/penguin/index.htm
−「マジェランアイナメ」(国際漁業資源の現況・水研センター)
http://kokushi.job.affrc.go.jp/H19/H19/H19_70.pdf
−「ナンキョクオキアミ」(〃)
http://kokushi.job.affrc.go.jp/H20/H20_69.html

 続いて、表2は同じく持続的利用度ランキング南極海版。ベースは’90年発行の『海の哺乳類』の河村氏の論説ですが、個体数は最近のものを採用。大型鯨類の個体数で、IWCで合意されているのは緑色のシロナガスとザトウのみ。クロミンクについては、小松氏もA紙記事で今年合意されるだろうと言っているIDCR/SOWER(国際鯨類探査計画)3周目の数字の2パターン。ヒョウアザラシとカニクイアザラシも推定生息数の上と下を併記。ペンギンの数字は本来海鳥に含まれるものですが、ソースが違うので別個に分けて考えてください。捕獲許可量は、クジラについてはJARPAUの計画捕獲頭数の上限、鰭脚類はアザラシ条約の許容量、マジェランアイナメとナンキョクオキアミはCCAMLRの制限量(海区合計)。オキアミのバイオマスは大雑把な推測ですし、CCAMLRで管理されているはずのマジェランアイナメやライギョダマシも含め、他の生物群の資源量に関しては有用な情報がありません。
 左側が作成者が算出した数字ですが、表1と同じく、PBに論文O(左)と論文I(右)の2パターンの数値を当てはめ、PとC/Pを求めています。PBのシロナガスとザトウはその他のヒゲクジラのもの。鰭脚類は全部キタオットセイ、ペンギンは海鳥に合わせています。その辺はアバウトですが(生態系モデル自体そもそもアバウトですけど・・)、これから見る数字には大きく影響しません。
 赤で着色した部分が、生産量でJARPAU対象種のナガスを上回るもの。
 「その数は少なく見積もっても、ほかの鰭脚類全種を合計した頭数に匹敵するほどです。カニクイアザラシの主食はナンキョクオキアミです。カニクイアザラシが1年間に食べるナンキョクオキアミの量はおよそ1億6000万トンで、現在ではナンキョクオキアミの最大の消費者です」(〜極地研)
 知っている人は知っている、ミンククジラが「海のゴキブリ」ならカニクイアザラシは「海のノミ」。資源量・再生産量・オキアミ漁との競合・大型鯨類の回復のための間引き管理、どの観点からいってもクロミンクより先に議論されるべき“資源”。クロミンクの生息数とPBを過大に、カニクイアザラシのを逆に過少に見積もってさえ、なお10万トンも再生産量に余裕があることになります。
 「オーストラリアが反対するのはけしからん」と小松氏がのたまうザトウですが、キングペンギンはその2倍、ヒゲペンギンやマカロニペンギンはそれ以上。1羽当りの体重はブロイラーの2倍、キングペンギンなら8倍。胸肉、手羽肉も発達していて、鶏好きの方にはイケるんでしょうし・・。40年前まで見向きもされなかったクロミンククジラと同じく、日本古来の焼き鳥ブンカだと言い切ってしまえば、世界は手も足も出なくなるハズです。クジラやオットセイ同様、実際に利用されていた歴史もあるのですから。
 キングペンギンやヒゲペンギンは、IUCNのレッドリストでは絶滅の危険の低い低懸念種。少なくとも、小松氏や捕鯨サークルがいうのと同等の意味では、すべてのペンギンの捕獲を禁止するカガク的ゴウリ的理由はありません。マカロニペンギンは900万羽いてさえ危急種ですが、その理由は漁業との競合ですから、まさにザトウやミンクと同様の境遇なのです。日本政府は“降格”を猛然とまくし立てるべきでしょう。
 ペンギン以外の海鳥全体を見ても、大変な生産量ですね。PB=0.8なら鯨類全体の20倍以上、PB=0.1とした場合でもクロミンクと同等。焼き鳥ブンカOK。
 続いて哺乳類と鳥類以外。CCAMLR(南極の海洋生物資源の保存に関する委員会)で管理されている漁業とオキアミ漁で、最近話題になっているのがメロ、ギンムツの名も持つマジェランアイナメ。『銀むつクライシス―「カネを生む魚」の乱獲と壊れゆく海』(G.ブルース・ネクト著、早川)に詳しいですが、IUU漁業でボロボロの状態。日本は米国と並ぶ主要消費国で、銀ダラの代用にされています。まさに悪しき魚食ブンカの代表ですな・・。ただし、危機が叫ばれCCAMLRの厳しい規制が導入されても、漁獲枠一杯まで消化されているわけではないのです。捕鯨でいえばRMSに相当する厳格な監視体制と、密輸・密漁(混獲)の取り締まり(ギンムツ漁対策で苦労しているのは専らオーストラリアとニュージーランド・・)も含めた総合的管理ができなければ、野生生物資源の持続的利用は成立しないことを証明する見本といえます。逆に言えば、クジラと同列に扱うならギンムツもどんどん獲れるということになりかねませんが・・。
 オキアミも同様で、数字だけでは乱獲の実態は見えてきません。水産庁/水研センターのサイトでさえ、「近年の環境変動をも考慮する必要がある」と述べているほどですが、商業捕鯨管理に環境変動は一切組み込まれていません。
 イカ類は南極海に膨大な数が存在するといわれていますが、未利用の状態。魚類についてはCCAMLRでマジェランアイナメのほかライギョダマシやコオリウオなどオキアミを除いて12の漁業が規制されていますが、漁獲対象種も含め資源状態はよくわかっていません。「たくさんいるんだから、不確実だからといって獲らないのはオカシイ!」という反反捕鯨論者の声が聞こえてきそうですね。底生動物は低緯度海域と異なり代謝が遅いことで知られますが、クジラよりはマシでしょう。
 南極条約により、大陸上の鳥類・哺乳類の捕獲は原則として禁止されています。鰭脚類については、アザラシ条約で捕獲許容量が設定されているものの、「水中にいるアザラシの猟殺」が禁止されています。まあヘンな話ではありますけど(CITESの公海資源の附属書U例外規定に比べりゃマシだろけど・・)、二つの条約をセットにすれば獲るのは不可能ということに。ただし、調査捕鯨と同様の致死的調査は認められています。
 捕鯨ニッポンの持続的利用原理主義の立場から見れば、カニクイアザラシやキングペンギンの捕獲が禁止されるのはオカシイ、マチガッタことになります。ただちに年間数千、数万頭レベル(統計的水準を合わせれば)大量経年致死的調査・調査捕アザラシ調査捕ペンギン事業に着手しないのは、まったくもって非科学的で非合理的なことなのです。
 実は、再生産率でミンククジラの倍はあり食害も半端じゃないはずのキタオットセイは、科学的知見に関わりなく捕獲が禁止されています。それも日本の法律で(明治45年制定、今もイキ)。モラトリアムは「当分の間」という実にいい加減なもの。これも調査捕オットセイは除きますが。環境省を力づくで押さえた水産庁の号令でガンガン駆除しているトドは、むしろ絶滅危険度でいえばオットセイより高いほどですから、やはりオットセイを捕殺しない科学的理由はないといえるでしょうね。ラッコよかずっと近縁だし・・・・
−「「臘虎膃肭獣猟獲取締法」って何と読む? 明治生まれの忘れられつつある法律」(生きもの通信)
http://ikimonotuusin.com/doc/279.htm
 同様に、科学的根拠と無関係にある種を殺すことを許可したり禁じたりする国内法はまだまだあります。「鳥獣保護法」「動物愛護法」「文化財保護法」。「科学的データをもとに議論するという原則」(A紙記事)に従っていないのです。「ものごとが恣意的に決まってしまって」(A紙記事)いるのです。オットセイも、ペンギンも、アザラシも、イカも、ハダカイワシも、奈良公園のシカも、箕面山のサルも、「捕獲数を減らす根拠がない」(A紙記事)のです。「持続的な利用が可能な資源なら禁止するほうがおかしい」(A紙記事)のです、明らかに。小松氏をはじめとする捕鯨推進論者にいわせれば。
 いや、おかしいのは禁止することではありませんね。効率的・効果的な持続的利用とは、研究・開発が進んでおらず、より豊富で、より再生産率が高く、食害抑制の効果も見込めそうな、それでいて地産地消という大切な文化にも反することなく、環境負荷も低く、深刻な外交対立を招くこともなく、そのために余計な公金を支出させられることもない、沿岸の漁業資源を利用することのはずです。それをすることなく、正反対に最も持続的利用が困難な対象に対してばかり多額の税金を投入し続けること自体、あまりにもおかしいのです。採算性は考慮すべきでしょうが、商業捕鯨に国費が投じられるのは、経済的なプライオリティがあるという理由でさえありません。産業継続の前提として多額の補助金を要する致死的調査の継続を必要とし、国民に負担を押し着せるような国策事業である時点で健全な産業とは到底呼べません。第一、参入企業がないのですから。
 フィーバーしたタマちゃんの親戚・カニクイアザラシも、鯨肉販売で知られる長崎ペンギン水族館のアイドル・キングペンギンも、殺すことを禁止してはならない? ハダカイワシ、銀ピカでオメメパッチリでカワイイですね。だから利用しない? イカも頭いいんですよね。自意識があるんじゃないかとの研究も(共食いし放題だけど)。利口だから大量経年致死的研究をしない? ずいぶん昔の話ですが、氷に閉じ込められたアラスカのコククジラの救出騒動が取り上げられた報道番組で、捕鯨推進プロパガンダの立役者である梅崎義人氏(水産ジャーナリストの会会長)らが出演者とともに「クジラは汚い」と笑い合っていましたっけ。醜い、バカなクジラは、いくら不合理だろうと多額の税金をかけて、はるか南極まで押しかけて殺し続けナクテハナラナイ? アキバ系アイドルじゃないけどカワイイが売りの日本人・優れた電器製品や車を世界に送り出したメガネが似合う頭の良さが売りの(今は学力テストの平均も他の新興国に抜かれたけど・・)日本人のイメージに通じるハダカイワシやペンギンやアザラシは「殺さない」が、図体のバカデカイぬぼっとしたアングロサクソンみたいなクジラは「ともかく殺せ」というのは、人種差別ではないのですか???
 人種差別とは、「殺すことを禁止すること」「『殺すな』と言うこと」なのですか? 否、人種差別とは「差別をする」ことです。アイヌや在日韓国・朝鮮人、沖縄県民、同和出身者、障害者、女性、こども・・憲法で禁止されているにも関わらず、今なお影で陰湿な差別が残り続け、捕鯨問題担当官僚がアイヌのサケ漁を禁じる二重基準は「別にあっていいのだ」と平然とのたまうこの国で、「クジラを殺す」ことがなぜ平等な社会を築くための最優先事項になりえるのでしょうか?
 日本はクジラに限らず、様々な動物の種と個体(ヒト含む)を差別しまくっているわけです、現に。クジラも、ウシも、カンガルーも、ハダカイワシも、ペンギンも、アザラシも、ヒト(サル目ヒト科の社会性哺乳類)ではありません。(ニンゲン以外の)動物の取扱を、ニンゲン社会におけるニンゲン同士の平等性の問題に結び付けるのは、実にくだらないことです。そうした主張を展開するのは、合理的思考の出来ない頭の悪すぎるヒトたちです(だからといって殺しちゃダメですよ)。
 ボン条約を無視してオーストラリアの200海里内を回遊する移動性野生動物まで独占しようとする日本の身勝手な主張は、煙草ブンカが優勢を保ってきたこの国でさえ規制が進んでいる公共の場で、「吸わないのはおまえの自由、吸うのは俺の自由だ」と子供の目の前で紫煙を吐くのに等しい傲慢な行為でしかありません。
 梅崎義人氏が種を撒き、欧米に対するルサンチマン・コンプレックスを燻らせ続ける人たちがせっせと肥やしを施したおかげで、あまりにも大きく育ちすぎてしまった反反捕鯨ナショナリズムは、都合の悪い史実を否定する捕鯨ニッポン性善説とセットになって、日本社会にとって非常に深刻な病理現象を引き起こしてしまったといえるでしょう。悪いことに、人種差別の過去に対する反省の程度が日本より高いが故に、欧米社会はそうした合理性の欠片もない強弁に対して戸惑いがちです。官僚&業界による反反捕鯨プロパガンダは、その弱点を狡猾に突いた、まさにカルト的煽動が大成功を収めた歴史的事例として、後世に語り継がれることでしょう。

 小松氏ら捕鯨擁護論者の“二重基準”を是正するために、深海魚や深海イカをどんどん利用し、ペンギンやアザラシやオットセイやシカやサルやイヌやネコをガンガン殺すことが正しいとは、筆者は思いません。クジラと同じく科学的な不確実性が高いとはいえ、オキアミやマジェランアイナメを始めとする南極海生態系の海洋資源は乱獲と違法漁業により危機的な状態にあり、日本の大手捕鯨業者マルハ・日水・極洋が筆頭となって繰り広げたかつての悲劇が再び繰り返されようとしています。個体数が多いはずのカニクイアザラシやアデリーペンギンなども一部で個体数減少が見られ、クジラとまったく同じように、オキアミ漁や地球温暖化の深刻な影響が懸念されます。日本近海でも、イカやオキアミ、ハダカイワシなどの深海魚を大々的に開発することになれば、ハクジラ、ヒゲクジラ、鰭脚類、海鳥類、多くの魚類を始め生態系に大きな影響を及ぼすことになるでしょう。FAOの勧告にもかかわらず、国内でも化粧品や健康食品用に高値で取引されるようになった深海ザメを中心とした深海漁業が脚光を浴びていますが、漁業管理も資源状態の把握も遅々として進んでいない中、非持続的利用に拍車がかかっている状態です。深海ザメやイカをニンゲンが大量に利用するようになれば、マッコウクジラやアカボウクジラの仲間が影響を受けることは避けられません。空白の情報が多い種に対する開発は慎重の上にも慎重を期するのが、本来あるべき持続的利用の考え方です。なればこそ、深海魚やイカ、底生動物、そして特に各種の漁業で混獲されながらクジラと違ってほとんど利用されずに洋上投棄されてきた“食べられる魚”については、研究だけはどんどん進めるべきです。既に枯れた必要のないオマケの研究と広報活動ばっかりやっている鯨研に投入されている予算・リソースは、すべてそちらに振り向けるのが合理的な選択でしょう。
 捕鯨ニッポンは、乱獲と規制違反の重い過去をしっかりと記憶に刻みそこから学ぶことをせず、沿岸の漁業資源を乱獲によってズタボロにしてしまっている時点で、持続的利用の原則を最も疎かにしてきた国──やることなすこと持続的利用のために必要なことと正反対で、アフリカや中南米、大洋州の発展途上国には反面教師として見習ってほしい持続的利用落第国でしかありません。IWC票買収相手を含む第三世界で、未だに500万人ともいわれる児童が栄養失調で命を奪われる中、クロマグロからギンムツ、養殖餌用のナンキョクオキアミまで、世界中の海の生物資源を独占的に胃袋に収めようとし、年間1900万トン以上、世界の食糧援助の総量の3倍に上る途方もない命を無駄に捨てている人口一人当りで最悪の食糧廃棄国家に、持続的利用を推進する旗振り役を名乗る資格などあるはずがないでしょう。南極のクジラにまで手を出そうとする前に、襟を正すべきです。

 気候変動、海洋汚染、過剰漁業、混獲などの人間活動によって生息が脅かされている繁殖率の低いKタイプの大型動物に対しては、「予防原則」に則り、複合的な影響も含めて特に細心の注意を払う必要があります。また、種という大枠ではなく個体群(系統群)単位で保護管理施策を講じる必要があることも今日ではあまりに当たり前の常識。大隈清治氏はじめ日本の御用鯨類学者たちも、さすがに科学者としての自覚と見識を疑われるので誰も否定しませんが。クロミンククジラの系群判別問題に加え、個体数その他の情報がほとんどないドワーフミンククジラや、個体数が非常に少なく内外のNGOが警鐘を鳴らしている北西太平洋ミンククジラの日本海側系統群(Jストック)に対する混獲の影響は決して無視できません。さらに、氷縁にニッチを持つクロミンククジラの地球温暖化に対する脆弱性、森林以上に重要な炭素固定の役割、南極海生態系の高い固有性と脆弱性、資源学的発想の盲点である捕獲圧によるカドミウム生体濃縮問題、捕食者のシャチとその先の食物網に与える影響等々、考慮すべき諸々の問題に対し、現在の科学は予防原則に照らして満足できる回答を寄越してはくれません。「絶滅さえしなければいい」というのは、もはや四半世紀前の時代遅れの発想です。種の多様性・生態系の多様性・遺伝子の多様性を最大限保全し、健全な自然環境を後代に引き継いでいくことを重視する現代の環境保護・野生生物保護のトレンドに関する認識が、他の水産関係者と同様、小松氏には決定的に不足しています。
 水産資源学以外を科学と認めず、持続的利用以外を原理原則と認めず、偏った主張に独り勝手に普遍性を持たせようとし、価値観の異なる相手・地球の裏側の自然にまで一方的に押し付けているのが、小松流の独善的捕鯨ニッポン賛歌。それはもはや、エコファシズムならぬブンカ・カガクファシズムでしかありません。そのカガクとジゾクテキリヨウの原則すら蓋を開ければとんでもないデタラメで、捕鯨のみを特殊な聖域に祀り上げる口実にすぎないとなれば、やはりカルト的な捕鯨ファシズム・捕鯨拡張主義という方が当たっているでしょう。それだけでも、“危険な”公海調査捕鯨を終焉させる根拠として十分なのではないでしょうか──とりわけ私たち日本人にとっては。

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