(初出:2002/9/26)

〜 捕鯨ニッポンでタマちゃんフィーバーの不条理 〜

 先般(2002年)、環境省が改正される鳥獣保護法の中で捕獲の原則禁止される保護対象動物に海獣のアザラシ、アシカ、ジュゴンを含めることを発表しました。"タマちゃん騒動"で盛り上がっていた折、「これでタマちゃんも安泰」といった報じ方も多かったようです。ところが、水産庁所管のクジラはラッコやオットセイとともに口出しできない(しない)との立場で同じ海獣ながら対象に含まれません。。
 アザラシを十把一からげに捕獲禁止にしながら、シロナガスクジラにさえ同様の網をかぶせないことには科学的根拠が何もありません。厳密にやろうとすれば、すべての種を個体群ごとに分別することになるのでしょうが・・。「別の法律で適正に管理されている」といっても線引きの基準が明らかに異なるのですから(クジラの方に全部合わせればどうなるかは自明ですが・・)、法律間で指標の統一をしないのであれば、それはどちらかの適用基準が不適正であると表明しているようなものです。何しろ、一方は野生動物を「原則殺さない」、他方は「原則殺す」と正反対の方向を向いているのですから。これは捕鯨擁護派の大好きなキーワードでもある明らかな差別といえましょう。
 環境省はまた、野生動物保護の指針として国民の"愛着"も考慮に含める方針も打ち出しましたが、このような動物保護政策は、欧米人のクジラに対する愛着を不合理だと非難してきた水産庁・捕鯨関係者が「自らの首を絞める」ものとして猛反対すべき代物でしょう。
 それにしても、カガク的、ゴウリ的、ブンカ的に動物を殺すのが正道であり、ニンゲンに資源として利用されずに野生動物が自然に生きることはマチガイであるとして、いくら飽食の限りを尽くしていても南極の野生まで貪らずにはおれない捕鯨ニッポンで、なぜタマちゃんフィーバーが起こり得るのでしょうか??? カルガモフィーバーの前例もあるように、動物に対してきわめて情緒的に反応するのが日本人の体質のようにすら見受けられます。実のところは、絵を求めるマスコミが煽って一時的に人気者に仕立てているだけで、じきに忘れ去られることは(これまでの例を見ても)目に見えていますが・・。以前、アラスカでコククジラが氷海に閉じ込められ話題になったことがありました。大金を投じた救出活動はあまり意味がなかったとはいえ、マスコットにしてただ騒ぐ"だけ"の日本人の反応は欧米人に輪をかけて不条理だといえるかもしれません。当時は捕鯨関係者が出演したTVで「コククジラは汚い」と笑ったりもしてたものですが(要するに見かけで判断するのですね、この人たちは)・・・。

追記1:
※ コククジラといえば、2005年3月に幼若個体が東京湾に迷いこみ、大勢の見物人が詰めかけ話題を呼びました。残念ながら、定置網にかかって死亡してしまいましたが、生きていればタマちゃん並のフィーバーになっていたことは想像に難くありません。「汚い」と嘲笑していた人たちは、命名される前に死んでさぞかしホッとしていることでしょうね。。

 ちなみに、タマちゃんはアゴヒゲアザラシですが、北極圏を中心に棲息する鰭脚類ではタテゴトアザラシ(写真集で有名な・・)に次いで個体数が多いと見られ、当面絶滅の心配はありません。本来の生息域から遠く離れた幼少のはぐれ個体では今後の生残率も0に近く、タマちゃんを保護(してませんが・・いわんや騒ぐことをや・・)しても生態系への影響はなく、環境保護上の意味は皆無です。捕殺・解剖して調査すれば近海の汚染状況を比較・把握する上での貴重なデータを提供してくれるはずです。カガク・ゴウリシュギを重んじる捕鯨ニッポンとしてはこれは是非ともやらなくてはならないでしょう。ついでに"タマちゃんのお肉"とでも銘打って売り出せば有効活用になりますね。薄切りにしてさらせば汚染も大丈夫! アイゴは供養碑を立てて手を合わせれば十分ですよ。。違いますか?
 それができないのなら、捕鯨擁護派の描く虚像の日本人像は捨てて、「野に生きるものは野におく」日本人らしさを素直に受け入れるのがスジでしょう──。

追記2:
果たして三年後、タマちゃん行方不明・・。大方の人の予想どおりフィーバー影形もなし(今旬なのは風太君か!?)。日本人としては合掌する他ないですニャ〜。。。。