特許「潜水作業艇」の特異性及び其の利用価値に就て


深海研究所員 西村一松

 現在に於ける海底作業は潜水器使用を唯一の方法とするも、その潜水状況は大略左の如し。
ダイバー潜水器による潜水深度は六十五メートル内外なれども、その深度の海底に於ける作業継続最大時間は僅か二、三分に過ぎず、且つかゝる水圧に於ては心臓を極度に圧迫する故、力を要する海底作業は不可能にして唯海底の物体を観察するにとゞまる。而かもその深度に潜水し得るものは、優秀なる潜水技術者のみにして、その数極めて少く、且つ潜水病にて斃るゝ虞あるを以て、普通安全に作業を爲し得る潜水深度は三五メートル以内に限定せらる。又マスク式潜水器に依る時は、その深度は最優秀技術者によって爲されたる九〇メートルの潜水記録は有すれども、最も効果的潜水作業限度は上述のものゝ如し。

 特詐西村式潜水作業船は、かゝる潜水器の企圖し得ざる深海工業の全部門に互りてその完成を期し、海底千古の謎を解かんが爲め発明考案せる劃期的の特許船なり。構造及び性能は特許によりて保護せられたるものにして、その利用目的により、船型、重要寸法、性能等は各々相違はあれど、その大略左の如し。

一、船体構造及び一般配置
(1)船体は、深水に潜航せしむるため、所要の水圧に耐え得るやう特殊造船規格に準拠し、堅牢に建造せられたるものにして、外板は圧延鋼材を使用し、適当の間隔に肋骨を配置せる独特なる単殻式小型潜水作業船なり。その形状は砲弾型にして、船体中央上部に出入口あり、船首部に作業室、中央部に操縦及電池室、後部に機関室を配置す。

(2)首部作業室の前壁には、海水を透視するための硝子窓あり。又操縦室には船体外前端に突出したる作業棒を自由に操縦する装置あり
 作業棒は本『潜水作業船』独特の創案になり、船体外部の水圧を巧みに利用せし特殊装置にして、一個の『バルブ』の操作簡単なる開閉により、人間の手腕の如く巧妙に上下、左右、前後任意の方向に動かし得るものなり。
 且つその棒の先端には、作業目的により鋏若くは錐鑿?等を取付け、物体の把持、穿孔或は破壊等、諸種の作業を自由に爲し得る装置となれり。

(3)船首部には水底に於ける特殊装置の浚渫用大型『ボンプ』を備付けある故、沈没船内外の土砂を吸出或は吹除け橋脚、港湾の浚渫、或は砂金、砂錫の採取等に応用するときは画期的能率を発揮し得るものなり。

(4)首部適当の個所に潜水室を設備し潜水夫の海底へ進出するための出入口あり。作業申必要に応じ潜水夫を船外に出入せしめ、その呼吸用空気は特殊装置により船内より送気及還元浄化なさしむることを得。

(5)船底中央部には『バラスト』用の水槽及び燃油槽の設備あり、タンク上部の船側左右に電池を配置す。中央上部の出入口周壁には、硝子窓を設け操縦の便に供す。

(6)後部の機関室には『ディーゼル』機関、『モーター・ゼネレーター』及び『ボンプ』類其他諸種の機械を据付く。