一、性能
(1)軽荷状態の水上航走はディーゼル機関により、潜没航走は蓄電池の電力によりモーターを通じて推進器を回転し船を推進、潜水或は浮揚せしむるものとす。尚電池の充電は自己のディーゼル機関によりゼネレーターを通じて行ふ。

(2)潜水操作は特種ポンプにより水をタンクに注入し、重力及び浮力を均衡せしめ、翼及び上下舵の操縦にて適当の角度となし、推達器の推進力により潜水せしむ。而してコントローラーにより速力を自由に加減し円滑なる運転をなし得るを以て潜航中所要の位置(中間、海底若くは断崖等の論なく)に随時停止するを得。且つまた巧みに断崖を登り、岩礁を超え、谷を渡る等その運航の自由なること魚類の静かなる遊泳或は停止状態と何等異るところなし。殊に断崖又は岩角上等に定着し得る様、特殊係留装置を装備する故、潮流甚しき箇所に於ても、その作業毫も支障を來すことなし。

(3)船体は所要の水圧に耐え得るやう特殊造船規格により建造せられ、且つ厳重なる水圧試験を行ひたるものなれば、制限内の深度に於ける潜水にては絶対に破損する虞なし。正確なる深度測定のため船内二箇所に水圧メーターを備ふ。假令機関が停止し、機関の機能を失ふとも、飛行機の如く墜落の不幸なく、船体はその位置に停止する故、斯る危機に遭遇せし場合には、船外に懸垂せる重量物を船内より把手にて切放すことにより、船体は急速に浮力を増大し、加速度を以て水面に浮揚す。從て水圧制限外の深度潜水を爲さざるに於ては危険は絶無なり。(編者註、去る九月五日熱海附近に於て、實際の必要に迫られ之を行へり)

(4)船内には炭酸ガス測定器、空気清浄装置、酸素補給設備等完備せるを以て空気の溷濁に依る被害を蒙る惧れなく、且気圧は常に大気圧を保持せしむる故何等の苦痛を感ずることなく何人も自由に潜水し得るものなり。

(5)船内には低圧及び高圧の「ボンプ」設備あり、低圧『ボンプ』は水上に於て注水排水を行ひ、高圧「ポンプ」は潜水中の高圧下に於て注水、排水し常に浮力を加減せしむ。

(6)船内には写真撮影の特種装置あり、特別なる放射電光により海底の状況を、固定及び映画に撮影することを得。

(7)潜行中はコンパスにより針路を定め、且つ母船とは特殊装置の無線及有線により通語し通話を保たしむ。尚ほ無線電話は未だ完成し居らざるも、目下研究中にして完成近きにあり。

(8)潜水深度は、建造計画の設計により如何とも爲し得るものにして、一千メートル以上の深度と雖(いえど)も可能なり。又潜水時間は積載せる電池の容量に支配さるゝものにして連続航走に於て八時間内外とす。而して此の間船内空気は前述の清浄装置あるを以て、長時間に亘るも何等支障なし。

 以上の概説は、唯構造及び性能の一端を示すのみにして、各部門の詳細なる説明は、専門的に亙るを以て之を省略すと雖も、実船に就き実地研究をなすに於ては、其の巧妙なる性能を充分に首肯さるべきものとす。