水中ロボコンを考える

水中ロボコン情報メーリングリスト
管理人 西村 一
1.はじめに
 各種ロボコン、鳥人間コンテスト30人31脚などのTV番組を見ると、その水中ロボット版があったらと思う人は、この会報の読者の中で私だけではないだろう。
 なぜ面白いのか? 参加作品の多様さと競技内容の面白さにもまして、製作した学生たちの失敗と成功の悲喜こもごもがいい。30人31脚などは教師の教える工夫や情熱にも興味を惹かれる。鳥人間コンテストは飛翔するという人の夢が叶うことと、洗練された技術の美しさも魅力である。
 技術的なコンテストに絞って、社会的な意義はどうだろう? 資源の乏しい日本にとって科学技術の重要性は言うまでもないが、それに反して、子供たちの(あるいは親たちの)理工系ばなれ、製造業嫌いが進み、"ものづくり"の危機が叫ばれている。TVゲームでは中身の仕掛けを考える必要は一切ない。子供たちは手作り工作をしなくなり、プラモデル市場もいまや接着剤不要のものしか売れなくなっている。
 技術に興味を持つ子供を育てるため、なにかやらなければ・・・・・・。特に団塊の世代の大量退職時代を迎えて、技術開発や製造の現場で人材確保に悩む方なら誰でもそう考えるのではないだろうか。
 ロボコンが果たした役割を考えると、技術に関心を持つ子供の裾野を広げるという以前に、それまで工場の機械にしか過ぎなかったロボットのさまざまな可能性を社会にアピールしたことを見逃すことはできないだろう。お茶の間での(親の)関心の高まりが、子供の技術への関心を高めることに大いに影響していることは間違いない。
 そう考えると、水中ロボコンを我々も開催しよう。しかしどうやったら魅力あるコンテストになるだろう。またどうやったら広く参加者が集められ、実行力のある運営組織ができるだろうか、という"方法論"の問題で悩み、関係者の間で知恵を出していくための議論、活動が自然発生していって欲しいものである。
 しかし話はそんなに簡単ではなく、「水中の分野でなぜロボコンが必要か」、「水中ロボコンを開催してどんな意義があるのか」と疑問を呈する部内関係者も少なくない。それはとりもなおさず、水中技術の難しさと魅力を伝える努力が不足している証拠かもしれない。身内・関係者内にアピールできないようでは社会へのアピールもおぼつかないだろう。
 そんななかで、2006年10月21日、全国的な規模のものとしては初めての"第1回水中ロボットフェスティバル"が神戸大学深江キャンパスで開催された。
 その公式報告はまだ取りまとめの途中なので、本稿ではこの開催に至る道のりと周辺環境を中心に紹介することとしたい。

2.陸上ロボコンの現状
 まず陸上ロボコンの現状をざっとおさらいする。
 NHKの"高専ロボコン"(アイデア対決全国高等専門学校ロボットコンテスト)、"大学ロボコン"、その優勝チームが外国代表と競う"ABU(アジア太平洋放送連合)ロボコン"、各国の学生の混成チームで設計段階から競う"IDCロボコン"がお茶の間では有名。高専ロボコンを目指す落ちこぼれ生徒の青春を描く映画「ロボコン」まで製作されるほどである(2003、東宝)。
 しかし、TV放映されなくとも工業高校等の生徒に身近なものといえば、全工協(全国工業高校長協会)が主催する"全国高等学校ロボット競技大会"、"高校生ロボット相撲全国大会"、"マイコンカーラリー"、"技術・アイデアコンテスト"などがある。毎年各県持ち回りで開催される"さんフェア"(全国産業教育フェア)では、ロボット競技大会のほか工業・商業高校、農業・水産高校、看護学校などの生徒の多彩な活動を発表する一大祭典となっている。
 一方、多くの大学・研究機関等が参加しているプロジェクトとしては、"ロボカップ"(RoboCup)が有名。完全自律型ヒューマノイド(人間型ロボット)でなんとワールドカップ優勝チームと対戦することを公式目標として話題を呼んだ。阪神大震災等を契機に始まった"レスキューロボットコンテスト"(レスコン)も多くの大学等が参加している。
民間主導のものとしては、エンターテインメント性を重視した二足歩行ロボットによる格闘競技大会"Robo−One"がある。
 AIBOを契機としてペットロボットも各種登場。タミヤLEGOなどの教育キットも市販されており、ロボット専門誌としては「ロボコンマガジン」と「ROBOT LIFE」などがある。秋葉原にはロボット専門店(ツクモロボット王国)まで開店している。
 このように技術情報や材料・パーツの入手のしやすさというのは教育現場にとっても重要である。
 2001年に神奈川及び大阪で開催された"ロボフェスタ"以来、さまざまなロボット展示会が開催されている。そこでは最先端の二足歩行ロボット、介護用ロボット、美人?のコンパニオンロボなどが展示され、ロボットサッカーのデモ競技が行われ、子供向けの工作教室が開かれ、玩具ロボ、教育キット、関連書籍が販売され、親子連れの入場者を満足させる工夫がされている。
 以上でお分かりのように、TV放映だけがロボコンではない。大学・民間等での最先端の技術開発、工業高校等の先生方の地道な活動、教材・玩具・専門誌等の販売、各地でのイベント開催などさまざまな活動があるのである。
こうした多彩な取り組みの基礎には、大学や高校の名物先生による地域や各コミュニティでの教育実践活動があるということを忘れてはならない。
 もちろん、なにごとにも光と影があり、教育現場では指導教師がさまざまなロボコンに"参加させられる"ことへの疲れがあったり、競技ルールによってはアイデア・工夫よりも実戦性が有利な場合も多く、生徒への動機付けとして「ものづくりを楽しむ」ことより、勝ち負けを優先する風潮がないかと懸念する声も聞かれる。このことは水中ロボコンを考える上で肝に銘じておくべきだろう。

3.これまでの水中ロボコン
 以上は陸上ロボコンのごくおおまかな現状だが、水中分野でも地域レベルの活動が存在する。
3.1 全国海岸清掃ロボットコンテスト
http://iseem.fc2web.com/contest.html
 毎年6月に岡山県玉野市渋川海岸で開催されており、今年で9回目を数え、数ある陸上ロボコンと比べても歴史が長い。岡山商科大学付属高校の小山実教諭が中心となって開催している。
 中学生の部と高校生以上の部に別れ、砂浜の空き缶やペットボトルを回収して海上のビーチボールを回ってゴールするまでの時間を競う。岡山県下の高校、工業高校などを中心に十数チーム程度が参加している。
 自然環境の中で行われるロボコンはこの海岸清掃ロボコンが唯一といってよい。その日の風や波に影響され、独特の魅力があるとの評価が高い。一方、海水に漬かるため部材が錆びて使い回しが難しいのが悩みとのこと。

図1 全国海岸清掃ロボコン風景

3.2 堀川エコロボットコンテスト
http://www.qitc.nitech.ac.jp/ecorobocon06/
 名古屋市内を流れる堀川の浮き桟橋をメイン会場として8月下旬に開催。名古屋工業大学ものづくりテクノセンターと名古屋堀川ライオンズクラブが主催し、今年が2回目。2003年にものづくりセンター長の藤本英雄教授が中心となって都市河川対応型エコロボット・プロジェクトが始まったことが契機。
 決まったルールは設けず、「堀川の浄化・美化に役立つかどうか」という点だけで表彰作品が選ばれる。堀川はいささか人工的な都市環境とはいえ、やはり青空のもと、環境を考えさせる点で海岸清掃ロボコンに通ずるところがある。

図2 堀川エコロボットコンテスト風景

3.3 JMSSとAMM
http://www.jmss.jp/
http://aquarobo.web.fc2.com/
 海水ではない清水のプールであれば水深3m以上でも通常のラジコン電波が届く。
 "JMSS"(Japan Model Submarine Society、日本模型潜水艦協会)は、六甲アイランドの人工河川リバーモール(水深50センチ)を拠点とするラジコン潜水艦の愛好者グループ。2002年から神戸サブマリンクラブとして活動し、その後現在の名称に変更。
 リバーモールでは毎週日曜日に定期走行会を開いており、また毎年9月に六甲アイランド内の大学の競泳プールで"ジャパン・サブレガッタ"を開催している。また、夏休みに2回、神戸ポートピアホテルとタイアップし、夏休みの子供向け(小学生対象)として、牛乳パックで作るモーターライズボートやペットボトルで作るモーターライズ自動浮沈潜水艦の工作教室を開いている。
 一方、"アクアモデラーズミーティング"(AMM)は、海洋研究開発機構(JAMSTEC)の潜水訓練プール(水中ロボットワークショップとして開催)とオフシーズンの横浜市営プール(本牧市民プール又は横浜プールセンター)で交互に、月1回の割合でプールを借りて自由走行会を実施している。インターネットで広く参加を呼び掛けており、学生と先生、見学者を参加費無料としており、ようやく学生も参加し始めている。

図3 アクアモデラーミーティング風景

 このほか、東京都練馬区の石神井池でも毎週日曜日にラジコン模型船の走行会が開かれているが、水の透明度が悪いので潜らせるにはかなりの勇気が必要。
 JMSSもAMMも、特徴は"造り手中心"の集まりという点。競技ルールはなく、自分が作りたいものを作り、造り手同士で技術交流する。自然なこととして、製作者が感情移入しやすい"カッコいい作品"を目指すことになる。
 型取りから始めてプール内でまともに動作するようになるまでに1年以上かかることはざらであり、外形を独自に作る(「フルスクラッチ」という)のはさすがに大変で、市販のプラモデルを利用する人も多い。軍艦が多いのは軍事愛好者というわけではなく、利用できる市販プラモデルが著作権等の問題のない軍艦が多いからであって、最近は徐々にバラエティーが増えている。
 毎年5月に開かれるJAMSTEC一般公開では、潜水訓練プールでラジコン潜水船の水中デモンストレーションと体験操縦を実施しており、毎年JMSSとAMMに協力いただいているほか、海上安全技術研究所の魚ロボットや大阪府立大学の水中グライダーも参加したことがある。SF作品に登場する潜水艦や潜水調査船、エイ型ロボットなどのほか、最近は水中を宇宙の無重力環境に見立てた宇宙船など子供に夢を与える作品が増えている。

3.4 フネカンとN−con
http://www.funekan.net/
http://chikyu-to-umi.com/n-con/
 東京お台場の「船の科学館」で毎年8月最終日曜日に"船の科学館 水のもフェスティバル"(フネカン)及び"オレっちのノーチラス号コンテスト"(N−con)が同時開催されている。
 フネカンは艦船プラモデルのコンテストで、水中モーター使用のスピードレース、自動浮沈模型のレース、ペットボトル製潜水艦のレースなどがある。
 N−conはジュール・ヴェルヌ没後100周年を記念して2005年から開催されているもの。130年も前に出版された『海底2万里』をはじめとして数々の技術予測を行ったヴェルヌを偲び、新しい未来の海底世界一周の物語に登場する自分だけの海中航行観測船、搭載潜水艇、海底・海上基地、海洋モンスターなどのデザインを競う。造形部門、CG・イラスト部門、ペットボトル部門などに分かれている。
 このほか船の科学館では春休みに水中ラジコン模型のデモンストレーションと体験操縦も行われている。
 実は、大学等の試験水槽を除くと、以上紹介してきた活動拠点が、一般に国内で水中ロボットを動かせる場所のすべてといっても過言ではない。高校等にある競泳プールが水泳以外の用途に使えるケースはまれである。これが国内で水中ロボコンの下地を作るのが難しい理由でもある。

4.海外の水中ロボコン
 一方、海外ではどうなのだろうか。
4.1 International ROV Competition
http://www.marinetech.org/rov_competition/
 学生のみを対象とするテザーケーブル付きのROVによる競技会で、2002年以来今年で5回目。その徹底した取組み方には圧倒される。
 地方大会も徐々に拡大し、現在ではハワイを含む米国各地のほか、ホンコン、カナダなど13地域で開催されるに至っている。
 主催者は、MATEセンター (Marine Advanced Technology Education Center、海洋先進技術教育センター) とMTS (Marine Technology Society、海洋技術学会)ROV委員会。MATEセンターは全米科学財団(NSF)のAdvanced Technological Education (ATE) Programの補助金によってさまざまな分野ごとに設立された11のATEセンターのうち海洋技術分野の教育センター。海洋技術専門の教育センターが設置されているとは凄い!
 スポンサーにはMTS、IEEE/OES、ウッズホール海洋研究所、スクリプス海洋研究所、モントレー湾水族館博物館、NASA、NOAA、NSF、米海軍などの公的機関に加えて、海底石油掘削関係の機器メーカーがずらりと顔を並べている。注目すべきは、これらスポンサーが単なる開催経費の負担だけでなく、学生たちの設計・製作に助言したり、部品や材料を安く提供したり奨学金を出したりという積極的な役割を果たしていることである。
 さらにうらやましいのは、地方大会を含む全参加チームには材料費として100ドルが配布され、全国大会出場チームには往復旅費とホテルの部屋が提供される。ここまでくると、国ぐるみで人材を育てることへの意気込みが分かるというもの。
 動機付けにも工夫が凝らされている。毎年異なるミッション・シナリオが提示され、それに即した障害物競走を行ってタイムを競うのだが、そのミッション・シナリオがなかなかSF風で面白い。
2002 沈没した古い海賊船の財宝の回収。
2003 海底に眠るタイタニック号の船内探査。
2004 大戦中に沈んだUボートからの有害物質の漏洩防止と化学合成生態系の調査。
2005 木星の衛星エウロパの海洋探査、海底石油掘削坑井の封鎖、光海底ケーブルの修理、ハッブル宇宙望遠鏡の機能拡張。
2006 海底ケーブルで互いに結ばれた生態系長期観測システムの展開と機能拡張。
2007 国際極域観測年(IPY)を踏まえた極域探査。
このように宇宙テーマも取り入れられていて、2005年にはNASAジョンソン宇宙センターの宇宙遊泳訓練用プールが会場となっている。

図4 International ROV Competition風景

4.2 International AUV Competition
http://www.auvsi.org/competitions/water.cfm
 こちらは先端的な自律型無人機の競技会で、すでに9回を数える。AUVSI(Association for Unmanned Vehicle Systems International) と ONR(Office of Naval Research) が主催する。
 競技はドッキングステーションとのランデブー、パイプラインの検査とマーキング、音響ビーコンにより所定のゾーン内に到着するという高度なもの。
サイズは1.83 m×0.91 m×0.91 mの立方体に収まるものとし、重量は50 kgを超えるとペナルティーが掛かり、軽いほどボーナスポイントが貰える。
 優勝賞金はなんと2万ドル!
 2006年8月、サンディエゴのSpace and Naval Warfare Systems Centerの大会には、初めて日本から九州工業大学の石井研究室のチームのAquaBoxが参加している。

図6 International AUV Competitionに初参加した九州工業大学石井研究室のチームとAquaBox

4.3 Underwater Robotics Competition
http://www.arl.nus.edu.sg/urc/
 もっと小型安価なMicro-AUVの競技会。展示会場の特設水槽で実施できるとした点が面白い。
 第1回はシンガポールでOceans'06の一環として開催されたが、今後は独自にシンガポールか南アジアで毎年開催するよう目指しているらしい。
 この競技会のAUVは、完全独立な自律型ではなく、電波、音波又はケーブル経由で陸上や船上にある外部コンピュータに自律判断をさせる方式を推奨している。それによってビークル自身は簡単なマイクロコントローラーで済ませて小型安価を目指すというもの。
 ジュニア向けに、テザーケーブル又はラジコンで操縦者が手動操縦するカテゴリーも設けられている。
 水槽は幅40センチ、深さ40センチ、縦・横140センチずつのL字形。水槽の底の黒い線を追ってL字形の角を曲がった先の終端にある鉄製のディスクを磁石でピックアップし、再び元のスタート位置に戻ってくるというもの。
 公式サイトにはビギナー向けの技術情報として、水密容器、コネクタ、浮力と重心、マイクロコントローラ、ハイドロフォン、ラジコン、水中光センサー、測位と方位、モーター、推進軸の水密などの自作情報が掲載されていて、見習うべき点が多い。

4.4 Student Autonomous Underwater Challenge - Europe(SAUS-E)
http://www.dstl.gov.uk/news_events/competitions/sauce/index.php

5.なぜ水中ロボコンが必要なのか?
 陸上ロボコンの活動の幅広さと、米国の水中ロボコンの充実ぶりを見れば、我々も負けずに本格的な水中ロボコンを開催しなければと思っていただけるだろうか。いや、「これだけ取り組まれているならいまさらやらなくても」とか、「人材育成は陸上分野に任せておき、技術者が必要なら陸上分野から来てもらえばよい」という意見も耳にしてガッカリしたことがある。
 本当に人材育成を陸上分野に任せておいてよいのだろうか? 日常生活に身近な役割が期待されることの多い陸上ロボットに比べて、水中ロボットの活躍の場は日常生活からは目につきにくい。しかしそこは人を取り巻く環境の重要な領域であり、電波も光も届きにくく、それゆえ自律して行動できるロボットの役割は大きいだろう。
 そこに特別な技術は必要ないのだろうか? 高校生に水中ロボットを作らせようとした場合の難度の高さを考えれば、答えは自明と思うが、世間一般的には必ずしも自明ではない。
 実際にどんな高校生なら作れるだろうか。
 まず第一に、陸上ロボットも同様だが、工作設備を持つ工業高校又は工業高専でないと難しいだろう。普通高校にも大学の工学部に進学希望の生徒はいるが、工作設備はないし受験勉強でそれどころではない。
 次に試験水槽を持つ学校でないと厳しいだろう。東工大附属科学技術高校では生徒が魚ロボットを作った実績があるが、同校の水泳部が比較的不活発なためスイミングプールが利用できたお陰という。それを例外とすると、まずは試験水槽を持っている造船学科のある工業高専や商船高専を対象とするのが順当かもしれない。
 3番目に製作期間と難度の問題がある。学校のカリキュラムとして、1作品に掛けられる製作期間はせいぜい3〜4ヶ月という。ところが水中ロボットの場合、最低でもメカを水密容器に収めて軸貫通部を水密にする手間と技術が余計に必要。潜水させるなら浮力調整の問題が、さらに流体力学的な形状にするには外殻の成型でもっと苦労することになる。
 ひとつの解決策は、重要部分を内蔵する水密ユニットを提供することである。JAMSTECは2004年のテクノオーシャン・ユースでこの方法によりROV工作教室を開催したことがある。しかしこの水密ユニットの価格はどうしても数万円程度になってしまい、配布可能な高校に限りがあるし、またデザインを大幅に規制してしまう。
 第4に指導者の問題がある。工業高校の先生の話によると、教師は自分で作れるものでないと生徒には教えないものだそうだ。ということは、まず水中ロボットの研究室と工業高校等との交流がないと、ことは始まらない。
 筆者が運営する水中ロボコン検討メーリングリスト(http://groups.yahoo.co.jp/group/aqua-robocon/)ではこうした水中ロボコン実現に必要な環境作りなどの議論を続け、協力の輪を広げてきた。その結果、以下の環境作りについて大学・試験機関等の協力・連携を進める提言を行っている。
・デモンストレーションの実施
・近隣高校等への試験水槽等の使用機会の提供
・指導、技術情報の発信など人的支援・技術支援
・各機関の公式サイトによるイベント等の広報協力
・地域のボランティア、OB等との連携・協力

6.第1回水中ロボットフェスティバル
http://aquarobo.web.fc2.com/kobe/
 以上のような各方面の取り組みの中で徐々に気運が高まり、ついには"Techno-Ocean 2006/ 19th JASNAOE Ocean Engineering Symposium"の一環として"第1回水中ロボットフェスティバル"(水中ロボフェス)が開催されるに至った。MTS日本支部とIEEE/OES日本支部から共催者として資金援助を受け、会場となった神戸大学から献身的な協力をいただき、地元のJMSSからもダイバーによる水中撮影ほか積極的な協力をいただいた。
 冒頭に述べたとおり公式報告はまだ取りまとめ中なので、ここでは会場の問題など特にポイントとなる点について私見を述べたい。
 まず会場について、重量物の搬入や万一の油汚染も考えれば、会場は大学等の試験水槽が無難。しかし社会にアピールするうえで、大勢の観客が安全に入場できる試験水槽はどうやら国内にはなさそうだ。
 交通の便がよくて大勢が入場できる会場というと、どうやらスイミングプールしかない。今回、神戸大学のプールを使わせていただくにあたって、人が泳ぐプールで水中ロボットが油漏れを起こさないか、プールサイドで整備作業中に落ちた小片等で水泳部員が怪我しないか、観客の入場を考慮していないプール棟に多数の参加者が押し寄せて事故や汚れが生じないか、クレーンがなく重量物を安全に搬入できるかなど、安全・汚染防止の対策を考えるのに腐心した。
 その検討作業が長引き、また、実際にどうなるかの不安もあったため、今回は広報を抑え気味にし、メールによる事前申し込み制とした。また出品者への参加の働きかけもかなり遅くなった。
 それでも2校の高校を含む20以上のグループ・研究室、40以上の作品が参加し、参加者総数約180人(一般見学者約120人)という結果となり、幸い心配した事故もなく無事に終えることができた。
 もうひとつの課題が、水中の見せ方である。理想は水中映像をプールサイドの大スクリーンに流せるといいが、簡単にはいかない。しかし意外にもプールサイドからよく見えたという見学者も多かった。
 陸上ロボコンでも、TVカメラがアップで写すNHKロボコンは別として、一般のロボコンでは参加チームの人垣で観客からは見えにくく、また運動範囲が狭くて見栄えはさほどではない。それに比べて広いプールの中で縦横に動く水中ロボットは水面の波越しでも十分楽しいようだ。観客に見せにくいのが欠点と思っていたのだが、そうハンデに思わなくていいのかもしれない。
 理想を言えば、観客席と大型スクリーンを持ち、水深も深いシンクロナイズドスイミングや高飛び込みの競技場がいいのだろう。その場合も、油漏れ防止と安全のための重量制限は必要である。特に重量制限は実際に活躍している水中ロボットにとっては厳しいが、前述の国際大会でも重量は制限されているので、「人の手で安全に搬入可能なもの」という条件は今後も必要だろう。
 今回、AUVや魚ロボットなど海洋工学のコミュニティだけでなく、ほかのロボコンの主催者も参加し、技術面だけでなくロボコンの運営方法や教育活動についても意見交換できた。参加作品がバラエティー豊富だったことは見学者にも好評だった。
 今後、高校等の参加には長い目で取り組み、まずは幅広くさまざまな研究室からの参加を着実なものとし、一般市民も楽しめるバラエティー豊富なイベントを工夫していくとよいのではないだろうか。