■ノーチラス号とネモ船長−2万リューとは?

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2007年6月25日更新

 原題の「2万リュー(Vingt Mille Lieues)」(仏語)に対する英訳は「2万リーグ(Twenty Thousand Leagues)」であるが、その邦訳にはいろいろある。「海底2万リュー」は原題の直訳だからさておき、「海底二万里」だと8万キロ。「海底二万海里」、「海底二万哩」、「海底2万マイル」はいずれも海マイル(1.852km)だとすると3万7千キロ。「六万英里:海底紀行」は現在"1(nautical) league/Lieue"="3 (nautical) miles"であることを踏まえた翻訳であり、やはり海マイルだとすれば11万5千キロとなる。いったいどれが正しいのだろうか?

 リューの執筆当時(1869年)の距離を知るため、まず米仏のWikipediaを見比べてみた。
(仏、リュー):http://fr.wikipedia.org/wiki/Lieue
(米、リーグ):http://en.wikipedia.org/wiki/League_(unit)

 これらによると必ずしも3マイルと決まっていたわけではないが、いずれも1時間で歩ける距離4〜5kmではあるようだ。
 それに対し、ハーバード大F.P.Walterのサイト:TWENTY THOUSAND LEAGUES UNDER THE SEAS - Units of Measureでは「lieue」の換算を「2.16 miles」とし、かつ「1 mile」=「10/6 km」、つまり陸マイルとしているので、「1 lieue = 3.6 km」ということになり、7万2千キロとなる。
 しかしsynaさんによると、これは陸マイルと海マイルの取り間違えだそうで、すると1リュー=2.16マイル×1.852キロ=4.0キロ=1里となる。なんと、本題名は「海底ニ万里」で正しかったわけである。
 挿絵にある航跡図

ヴェルヌ海外サイトよりダウンロード)

を見ると、アロナクス教授たちはノーチラス号で地球を、
・東西方向にほぼ一周(日本近海からポリネシアまで東進後、西進に転じてインド洋、地中海、大西洋まで)
・南北方向には3/4周(南極点までの往復+北極海スピッツベルゲン諸島に行ってからノルウェー沖で脱出)
で、航跡の距離を丁寧に計れば、Synaさんの解釈のとおり、8万kmになりそうな気がする。

 ヴェルヌの頭の中では地球1周=約1万リューというのがあって、東西・南北方向にほぼ地球2周というイメージで「海底2万リュー」と名付けたのかもしれない。
 訳語として「里」はもはや古いし、陸上の距離でもある。「海底8万キロ」ではなにか味気ない。
 あるいは「海底世界二周」でもいいのかもしれないが、南北方向には南極点と北極海のスピッツベルゲン諸島との間の往復であって一周したとは言えない。「海底世界二周相当」あるいは「海底世界一周と南北縦断」なんてわけの分からない題名よりは、「海底4万3千海里」がよいかもしれない。


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