■横浜研究所に収録している主要作品紹介

 
●『海底2万里』(1869、"Twenty Thousand Leagues under the Sea", ジュール・ヴェルヌ)/『海底二万哩』(1954、ディズニー映画)
 世界で最も有名な海洋SF。謎に満ちたネモ船長とその部下たち、虐げられた者を支援するノーチラス号と、それに対する国籍不明の大型軍艦、この設定が非常に魅力ある作品を創り上げた。
 科学技術面では潜水船ノーチラス、大気圧潜水服が登場。なんと海洋温度差発電への言及もある。
 海洋科学面でも多くの記述がある。海洋生物、海洋微生物、地質時代、海洋の熱塩循環、海洋大気相互作用にまで及ぶ。特に膨大な種類の海洋生物の記述には圧倒される。これが1872年の「チャレンジャー号」による歴史的航海の前に書かれたとは、驚くほかない。
 1954年のディズニー映画では、初めて本格的な水中カメラが使用されたのだそうだ。タツノオトシゴ風の潜水艦が印象的だが、実はサメとワニをモチーフにしたとのこと。

【1900】
●「マラコット深海」(1923、コナン・ドイル、漫画版:1978、桑田二郎、主婦の友社)
 「シャーロック・ホームズ」シリーズのコナン・ドイルが「失われた世界」など4冊のSFを書いており、その一つ。
 マラコット博士らが海洋調査船<ストラッドフォード>から吊した鉄製の箱で大西洋の海底の噴火山の上、水深540mを探検中、巨大なザリガニ状生物マラックスにケーブルを切られ、8113mの海底に落下。8000年前に沈んだアトランティス大陸の末裔たちに出会う。
 ある深さ以上は圧力を打ち消す作用が働き、分厚く堆積した有機物の分解に伴う燐光で明るいという設定。ひどく妙な格好の「ブランケット・フィッシュ」、半有機体、半気体性で知性のある「プラクサ」、海なめくじ属で電波で相手を殺す「クリックスコック」、ピラニアのような「ハイドロプス黒小鱒」、長さ60m以上の海蛇、半エーカーほどの大きさの大ヒラメ、深海の竜巻などが登場。マリン・スノーなど深海底の描写が驚くほどリアル。海底で測深錘の落下を目撃する視点がおもしろい。

●「21世紀潜水艦」("The Dragon in the Sea", 1956、フランク・ハーバード)
 「デューン」の作者。東西の原子戦争中、米大陸上の全ての油田を核攻撃で失った西側陣営は、東側陣営の海底油田から原油を盗掘していた。原油は潜水曳航艦(サブ・タグ)とプラスチック製運貨船(バージ、俗称”なめくじ”)で密かに運ばれた。そのサブ・タグが相次いで20隻が失われた。
 原子力潜水艦<フェニアン・ラム号−S1881>は、ハーヴェイ・A・スパロウ中佐(艦長)、レスリー・ボネット少佐(副長)、ドン・ホセ・ガーシャ(機関士官)、ジョン・ラムゼイ少尉(電子技術者で心理調査局員)の4名を乗せて、原因究明に向かう・・・。
 <フェニアン・ラム号>は、全長140ft、耐圧限界:7000ft、船内を加圧することで8800ftまで潜航するのが凄い。推進器として耐圧殻をシャフトが貫通しないパーマー式誘導電気ドライブがユニーク。巡航20ノット、全速27ノット、馬力:273,000馬力、消音翼板装置(サイレンサー・プレーン。推進音を遮蔽するらしい)を装備。

●「海底牧場」(1957、"The Deep Range"、アーサーC.クラーク、ハヤカワ文庫、福島正実訳『海底パトロール』)
 食糧問題に直面した人類を救うために設置された世界連邦食糧機構海務庁牧鯨局のベテラン監視員ドン・バーレイ、宇宙で深い心の傷を負った元宇宙飛行士ウォールター・フランクリン、女性海洋生物学者インドラ・ランゲンバーグらの活躍を描く。
 巨大イカの捕獲、原子力プラントを使った人工湧昇による肥沃化、プランクトン農場路線か牧鯨路線かの選択、鯨乳採取、シャチを牧鯨犬にする研究などが登場する。

【1960】
●「青い世界の怪物」**(1961、マレイ・ラインスター、早川書房)
 漁船相手の電子機器、水中音響機器などを扱うジメネズ商会の電子技術者テリー・ホルトは、船舶の遭難、大量漁獲された魚から見付かった人工物、隕石の相次ぐ落下など、ルソン海溝で起きる数々の謎の事件に巻き込まれる。海洋調査船<エスペランド号>は彼の水中音響兵器を使って巨大イカと戦ううちに、もっと驚愕する事実に遭遇する・・・。
 海底地形をマッピング可能な音響測深器、深海から上昇して巨大化する気泡で洋上の船舶の浮力を失わせる武器のアイデアが登場する。

●「サブマリン707(1963-65、小澤さとる、完全復刻版:Rapport Comics Deluxe、1993、ラポート(株)、全6巻)
 1963〜65年に少年サンデー連載。自衛隊の潜水艦707(ナナマルナナ、<うずしお>、初代は米ガトー級)が活躍する海洋冒険漫画。
 U結社、巨大潜水艦母艦の<Uキャリアー>、海底のムウ帝国、ジェット海流、潜水タンカー、音響による魚群制御などが登場。3隻合体型潜水空母<アポロノーム>編の途中でアシスタントの大怪我により連載中断。それから2年後の単行本で<アポロノーム>の自爆という意外な結末により、サブマリン707は永き休眠に入る。

【1965】
●[原子力潜水艦シービュー号」(1965, シオドア・スタージョン, 創元SF文庫)/「シービュー号と海底都市」(1968, ポール・W・フォアマン, 創元SF文庫)
 米映画「地球の危機」(1961、アーウィン・アレン製作)の小説版。TVシリーズ(海底科学作戦)は1964-68。
 バン・アレン帯に異常が生じ、地球は炎の帯に包まれ、猛暑による海面上昇、微小地震の増加に見舞われる。宇宙塵の襲来によって外周バン・アレン帯の成極微粒子が巨大レンズとなり、直下の大気を加熱しているのだ。ニューヨークの国連総会で、ネルソン提督はミサイルで荷電粒子を散布しなければ炎の帯が全地球を覆ってしまうと訴える。しかし、自然消滅すると予測する物理学の世界的権威エミリオ・バッコは、荷電粒子の散布は逆の効果を及ぼすと主張。
 シービュー号は反対を押し切って発射ポイントであるグアム島北北東に向かう。それを阻止しようと各国の艦艇にシービュー号撃沈命令が下され、艦内でも何者かによる妨害工作が・・・。タイムリミットの8月25日、大気の平均気温は74度Cに達した・・・。
 前部に海中展望窓とエイのようなヒレを持つ特異な形状が印象的だった。第2シリーズではさらにSFっぽくなって、<フライング・サブ>も搭載された。

 「シービュー号と海底都市」では<シービュー号>建造のいきさつが少し伺える。数百万人の子供たちから寄付があったとのこと。海洋調査船なのに核ミサイルを積んだのは、当時の冷戦時代の反映だろうが、ネルソン提督が相当なタカ派だったことが伺える。米国大統領が「バラ愛好家」と称して<シービュー号>の黒幕となっていたことも分かる。
 大西洋で竜巻が頻発。調査に向かった<シービュー号>は、そこで中世の古城のような海底遺跡を発見。一方「バラ愛好家」から謎の文書が洋上の<シービュー号>に届けられる。それは異星人の聖典の解読書だった。
 ”電子核分解法”によって何千年も前に火星の海洋を、次に地球の海洋を異星に伝送しようとする計画が進められていた。<シービュー号>は北極で謎の氷のドームを発見する・・・。

●「天候改造オペレーション」**(1966、ベン・ボーヴァ、創元推理文庫)西村屋選
 世界最初の深海採鉱会社「ソーントン・パシフィック・エンタープライズ社」や大陸間ロケット交通網「ソーントン・エアロスペース社」を経営するソーントン家一族。中部太平洋1万8千フィート(5486 m)の海域で採鉱ドレッジ船が嵐に直撃され、2人が行方不明となる。ボストンの気候学研究所(米気象庁の一部)の一部の研究者が従来の統計的手法ではなく乱流方程式をコンピュータで解く研究を行っていた。ソーントンと研究者は「イーアラス・リサーチ社」("イーアラス"はギリシア語で風の神様)を設立し、気象予測ビジネスに乗り出す。2週間先の地域別の正確な予報を開始、さらに天候制御の研究を進める。
 ニューイングランド地方を襲った長期旱魃の解消に成功するが、天候制御については失敗した時の責任問題からなかなか許可されない。発達前の熱帯低気圧を消す<サンダー計画>(Threatening HUrricane Neutralization DEstruction and Recording)が許可され、強大化し米本土を襲う可能性の大きいハリケーンの抹消を開始する。しかし、同時発生した4つの熱帯低気圧のうち3つの抹消には成功するが、残る一つが強大なハリケーン・オメガに発達・・・。
 初のスーパーコンピュータ<クレイ>が開発される10年前の作品であるにもかかわらず、ワシントン、ボストン、ニューヨーク各支社及びMITの「スーパーコンピュータ」を接続して一つのコンピュータとするアイデアが登場する。  観測は、気象衛星、巨大な無人気象観測機<ドロームデアリー>(単峰ラクダの意味。6基のターボ・プロップ・エンジン、3日間の連続自動飛行が可能)、潜水艦で実施。気候制御は、静止軌道にある宇宙ステーション<アトランティック・ステーション>と6個の軍事衛星からのレーザー(十億ジュール規模)による大気加熱、<ドロームデアリー>ほか航空機からの化学薬品や降雨剤の散布による。
 なんと<CUSS-5号>が最初にモホール掘削を行った掘削船として登場する。1961年、米国の石油掘削船<CUSS-1号>が改造され、モホ面(モホロビチッチ境界面。地殻とマントルの境界)まで孔を掘る「モホール計画」が試みられた。カリフォルニア沖で実施されたが、わずか171mの柱状試料を得るだけに終わっている。
 ほか、時速400マイル(644 km/h)の圧縮空気列車、ヘリキャブ(ヘリ・タクシー)が登場。

●「青の6号」(1967、小澤さとる作、久松文雄アシスト。SEBUNコミックス、復刻版:1999年、世界文化社、上下2巻)
 1967年に少年サンデーで連載。太平洋中央の海底下250mにあるマラコット海山の火口に「青のドーム」があり、海中航路の安全と救難を目的とした組織「青」の本局(円波局長)が置かれている。青の所属艦隊と、世界制覇を狙う多国籍企業マックスの戦闘艦<ムスカ>、浮遊式潜水艦基地<ストリーム・ベース>、<ヤマトワンダー>(ボガー艦長)、赤ハゲとの戦い。

●『ゼロの怪物ヌル』(1967、畑正憲、原題「海から来たチフス」、角川文庫、1969、少年少女21世紀のSF 5巻、金の星社)
 科学技術庁の1万数千m深海作業船<グループ3号>が日本海溝の調査を終えて大島に立ち寄って数日後、大島ではトコブシを中心とした貝類が全滅し、不思議なかたまり「ヌル」が出現する。そしてチフスのような熱病が大島を襲う。
 大島に別荘を持つ海洋生物学者の息子で中3のケンが主人公。いとこで中2のまり子に淡い恋心を抱くが、そのまり子も熱病に襲われる・・・。
 <グループ3号>は、冷却装置を槽略した小型原子炉(自然循環型原子炉のこと?)、「測線スクリュー」という名の水ジェット推進装置を持つ。DNAやATPや生物進化の話も登場。

●「深海艇F7号の冒険」**(畑正憲、1977、角川書店)
 「海から来たチフス」/「ゼロの怪物ヌル」に次ぐ海洋モノ第2作目。
 乱獲によって漁業資源が急減した50年前、海洋資源庁が日本初の海洋牧場を開く。超音波遮断膜で囲んだ海洋牧場は今や日本だけで40カ所作られ、78種の有用魚類が増産されている。
 シーラカンス(1938年に世界で初めてマダガスカル沖で発見)が日本のある釣り場で次々と釣れる。漁船が帰港した時、謎の影に漁村が襲われる怪事件が発生。古谷博士と二人の少年少女は、博士の開発した特殊潜水服と潜水艇<F7号>を駆って、シーラカンスの棲み家を探すとともに、怪事件の解明に挑む。
 <F7号>は新エンジンであるメタボリズムプレート−取り入れたプランクトンを分解してリン酸化合物とし電気に変える−を搭載。ロックアウトのための加圧室を持っている。
 海底人の進化と肺呼吸の秘密まで考えてある、ひと味違う作品。

●「リュウの道」(1969、石ノ森章太郎、1995、竹書房文庫、全5巻)
 地球が多数の小天体衝突に見舞われ、それを誤認して始まった核戦争とも相まって、地球に<大異変>が起こった後の世界。密航により冷凍睡眠のまま恒星間飛行から地球に帰ってきた少年リュウは、やはり星間飛行から地球に戻ったマリアたちと文明を探す旅に出る・・・。
 銀河系内の星間物質が小天体衝突を介して、生物絶滅だけでなく新たな生物進化をもたらしているかもしれないという仮説が登場する。

【1970】
●「ウォータークラップ」(1970、アシモフ、『聖者の行進』に収録、創元SF文庫) New
 56ページの短編。おそらくアシモフ唯一の海洋SF(「ミクロの決死圏」も海洋SF的ですが)。
 月基地で20人もの死亡事故が発生。ルナ・シティの主任安全技術者であるスティーヴン・デマレストは、19年前に建設されて無事故記録を続けている海底植民地「オーシャン・ディ−プ」にバチスカーフで向かう・・・。
 「オーシャン・ディ−プ」はプエルト・リコ海溝の水深5マイル半(8850m)にあり、大型の耐圧球50基が立体的に接合されている。50人が居住。うち女性9人。バチスカーフは、2〜4人乗り、動力:核燃料(RI電池か)、ウォータージェット推進。
 「ウォータークラップ」は「水雷」の意味。「オーシャン・ディープ」とバチスカーフがドッキングするエアロックがなんともぶっそうな代物で、ポータブル核融合装置の374度Cの蒸気で排水。水が満たされる時に水雷のような衝撃音が生じる。
 宇宙開発と海洋開発の資金の取り合い、バラストショット投棄による海洋環境への影響、クジラやダイオウイカと潜水船との関係、バラスト投棄の要らない原子力バチスカーフなど、短編ながらさまざまな話題がさりげなく盛り込まれている。

●「海のトリトン」(1972、手塚治虫、原題「青いトリトン」、NHK放映)
 アニメ版トリトンは、アトランティス人の末裔であるポセイドン族とトリトン族が海の覇権をかけて戦うといった設定で・・・人間に育てられた少年トリトンの成長の物語。

●「日本沈没」(1973、小松左京、カッパ・ノベルズ(上下巻)、映画、TV、さいとうプロ、コミックス全5巻)
 リニアモーターカー超特急、超音速ジェット機SSTの時代。
 ガソリンを浮力材とするバチスカーフ型深海潜水艇<わだつみ号>、仏深海潜水艇<ケルマディック>が登場。<わだつみ号>が小笠原海溝の水深7000〜8000mの間に、3ノットの底層流、密度飛躍層による内部定常波、多量の重元素イオンを含む深部散乱層(DSL)、乱泥流(タービダイト)の発生を目撃する。次世代バチスカーフとしてリチウム!を浮力材とするものを想定していたのがおもしろい。

●「わが赴くは蒼き大地」(1974:SFマガジン、1976.10:角川文庫、1999:ハルキ文庫、田中光二)
 2205年、地球にエイリアンが来襲し、一部の人類が4つの海中都市、<パシフィック・シティ>、<グレートバリアリーフ・シティ>、<アトランティック・シティ>、<バハマ・シティ>に5万人が生存するばかり。エイリアンにとってある種のインフルエンザ・ウィルスが致命傷となることが判明。その培養に必要な特殊なヨードを含むピラエラという褐色藻を手に入れるため、"オセアノ−ト"、通称"エラ人間"であるチヒロとA級精神感応術者である美少女ジャンが<ノーチラス十世>で冒険の旅に出る・・・。
 <ノーチラス十世>は、全長約20m、抵抗を減らすイルカと同じ構造の人工皮膚が張られ、最高巡航速度40ノット、トリチウム増殖リアクター・エンジン、超音波音響テレビ、レーザーホログラフィ装置、超精密近距離ソーナー、テレファックス組み込み深海カメラ、電波テレビカメラ、マニピュレータ、生物水中信号送受信器、電気衝撃銛、麻酔銛、爆薬弾頭ミサイル、核弾頭ミサイル、自律判断型オートパイロットシステム"ラルフ"、テザード・ケーブル式ロボット潜水機<テレファクター>2機を装備。
 プレート・テクトニクス、東太平洋海膨や大西洋中央海嶺の火山活動、マンガン団塊が紹介されている(熱水活動と化学合成生態系は登場せず)。

【1975】
●「海の牙」(1975〜76、少年ジャンプ、78〜79、少年ジャンプ増刊に掲載。一部『イワン・デジャビュの一日』に含まれる)
 「ブルーシティー」の前編にあたる。イエルマーク艦長の息子ボビーの乗った新鋭の原潜<アクエリアス号>が遭難し、イエルマーク艦長がオンボロ第二艦隊予備潜水艦<ユーラクロン号>で救出に向かう。そこで出会った巨大生物は・・・。

●「ブルー・シティー」(1976、少年ジャンプ連載。JUMP SUPER COMIC)
 謎の細菌と人類自決指令によって地上・海上の人類・生物が全滅。人類自決指令とは、細菌を殲滅して海の生物を助けるために、地上2万mで水爆を大量に爆発させてオゾン層を破壊するというもの。残されたのは実験海底都市<ブルーシティー>の若き科学者2万人と子供10人。
 オゾン層破壊に伴って海面が30m上昇し、深海生物が移動を始め、太古から生き残っていたさしわたし500mもの海魔<コノドント群体>が<ブルーシティー>を襲う。さらに 水棲人類計画という恐ろしい陰謀が・・・。
 <ブルーシティー>は水深200mの海底に建設され、外壁全面にサンドイッチ状にマイ ナス190度の液体酸素が密閉されていて、浸水した海水をただちに凍らせる。
 そのほか、原子力潜水艦<プテラスピス号>(イエルマーク艦長)、マンガン 、ニッケルなどの鉱物採掘ロボット<ダイノテリウム>、潜水艇<イソテラス>、特殊潜水艇<ノーチロイド>、無人飛行探査機<ラムホリンクス>、宇宙ステーション<ホ リゾント>、海上基地が登場する。ちなみに、プテラスピスとは初めて淡水に適応した魚種の名前だそうです。
 本作品は続編が予定されているが、いまだ未執筆のまま。

●「タイタニックを引き揚げろ」(1976、クライブ・カッスラー、新潮文庫)/「ドラゴンセンターを破壊せよ」(1990)/「死のサハラを脱出せよ」(1992)/「殺戮衝撃波を断て」(1996)/「アトランティスを発見せよ」(1999)
 映画名「レイズ・ザ・タイタニック」。1987年9月、百万倍も増幅した音波によるミサイル防衛システム「シシリアン計画」が米大統領の秘密資金で進まれている。それに不可欠な希少鉱物のビザニウムは、ロシアのノバスゼムリヤで採掘された後、1912年に沈没したタイタニックに積まれていたという。NUMAの調査用深海艇<サッフォー1号>(7人乗り、ペイロード:2トン、潜航深度:24000ft、潜航可能時間:2ヶ月、航続距離:1500マイル)は、ローレライ海流漂流探検においてついにタイタニック号の手掛かりを発見・・・。
 引き揚げ法は、ウェットスチールで破口を塞ぎ、船内に圧搾空気を送り込み、電解質の化学薬品で底泥と船体の密着を離す。水深約4000mまで圧搾空気を送るのはかなり厳しそう。
 引き揚げ作業に海軍の深海引き揚げ船<モドック号>、圧搾空気を海中に送り込む補給船<カプリコーン>、NUMAの潜水艇<サッフォー1号>と<サッフォー2号>、米海軍の深海引き揚げ・救助用潜水艇<シー・スラグ号>、ウラヌス石油会社の潜水艇<ディープ・ファザム>などが登場。
 深海作業中にタイタニック号上で浮上不能となった<ディープ・ファザム>救難のため、急遽、タイタニック号ごと引き揚げる場面は秀逸。

 「ドラゴンセンターを破壊せよ」では、1993年10月、英海洋科学船<インビンシブル>及び深海潜水艇<オールドガート>(3人乗り、11000m級?、速力8ノット!、チタン繊維を織り込んだ透明重合体による180度視野)が水深5700mのメンドシノ断裂帯を調査中、洋上での核爆発に巻き込まれる・・・。
 今回の目玉は水深5400mに設置された海底資源探鉱基地<ソギーエーカーズ>(水浸しの土地)、DSMV(深海探鉱車)<ビッグジョン>と<ビッグベン>(空中重量15トン、小型原子炉!、海底移動速度15km時、レーザー・ソナーによる立体水中画像装置を搭載。)。
 マンガン団塊、ブラックスモ−カー、チューブワーム、1万m有人潜水船<ディープ・クエスト号>(空中重量12トン)、水中ビジュアル技術<ザ・グレート・カーナク>(サイドスキャン・ソーナーのマップ化技術か?)も登場。海溝斜面の海底断層上で核爆弾を爆発させ、島を地盤沈下と津波で壊滅させる。

 「死のサハラを脱出せよ」では、1996年5月、西アフリカ沿岸で、何者かが赤潮(渦鞭毛虫)の爆発的増殖をもたらす有機金属化合物−合成アミノ酸とコバルトの結合体を投入した。際限なく増殖する赤潮・・・。
 NUMA調査船<サウンダー号>(建造費8000万ドル、全長120m、地震探査装置(地震探知器と訳されている)、ソナー、深海測深用機器類が搭載)、NUMA高速調査艇<カリオペ号>(最高70ノット、自動式微生物培養器、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC-MS。「ガスクロマトグラフィー兼質量分析器」と訳されている)、誘導結合プラズマ質量分析計(SC-ICP-MS。「電磁結合したプラズマ兼質量分析器」と訳されている)を搭載)が登場。

 「殺戮衝撃波を断て」では、2000年1月、高エネルギー・パルス超音波を利用したタイアモンド採掘が、低周波の音響として海中を数千kmも隔てて伝播し集束することによって、太平洋の各地で生物の大量死が発生・・・。
 NUMAの双胴型極地調査船<アイス・ハンター号>、深海測量船<オーシャン・アングラー号>が登場。なんとヒューズ社のあの<グローマー・エクスプローラー号>が窮地を救う。海蛇伝説も登場。ダイアモンドが300億年前(凄い!)にマントル上部で形成されたとなっている。

 「アトランティスを発見せよ」では、紀元前7120年、彗星がハドソン湾に衝突して地殻転位が起こり、高度な海洋都市国家同盟アメネス(アミーニース)が滅びたとする、グラハム・ハンコック「神々の指紋」をモチーフとした作品。面積約64万平方km、厚さ170〜370kmのロス海棚氷を切り離すことで自転軸を狂わせるというトンデモない計画が登場する。
 2001年、謎の潜水艦<U-2015>、米砕氷船<ポーラーストーム>、米原潜<ツーソン>のほか、巨大な洋上都市船が登場する。
 <ウルリヒ・ヴォルフ号>は、全長1800m、幅450m、高さ32階、排水量350万トン、91万馬力のディーゼル推進、12万5000人を運搬。<カール・ヴォルフ号>はスーパータンカーで、5万エーカーの耕作地と5万人、<オットー・ヴォルフ号>は何十万もの食用と飼育用の動物と5万人を、<ヘルマン・ヴォルフ号>は貨物船兼整備船。5万人を収容。総数27万5000人。
 GPSは南極から1600km以内は測位精度が悪いとなっているが、本当だろうか?

●「怒りの大洋(わだつみ)」(1978、双葉社、1980、角川文庫、田中光二)/「大海神」(1984.3、角川文庫)/「大漂流」(1984.12、角川文庫)
 三部作の第一部。世界の沿岸で遊泳者を魚群が襲う事件、魚群の異常な行動による漁船の転覆事故が続発する。貨物船<ぱしふいっく丸>、鉱石運搬船<テキサス・ローズ>が巨大な何物かに襲われ沈没し、キー・ウェスト沖の水深80mの海中研究基地<インナースペース1>が壊滅する。CONSE(新しい社会の敵に対処する機関)のシートピア研究所(根岸研究所)が調査に乗り出す。海上自衛隊の観測船<あかし>が日本海溝に異常な動きをするDSL(深海散乱層)を発見し、亜深海潜水調査艇(メゾスカーフ)<おおしお>による探索が始まる・・・。

 第二部(1984年)では、全作の<おおすみ>による"海水生命"との接触から5年後、スーパー・イルカを使って、栽培漁業の脅威となるイルカ群の就餌行動をコントロールする"狩り集め=誘導"計画の実験中、第三紀中新世に棲息していた全長30mの古代ザメ"カルカドン・メガロドン"が出現。海洋開発庁オセアノート局の海洋牧場推進・開発プロジェクトチームに参加している海洋調査士(オセアノート)の沖勇魚(いさな)たちが、メゾスカーフ<おおしお>で調査に向かう・・・。
 スーパー・イルカは、バイオテレメトリ、ピンガー、PBS(Programing Brain Stimulator, 脳内電気刺激による情動制御システム)で行動制御できる。

 三部作の第三部では、第二部で活躍した沖勇魚と鳴海志保の息子、沖洋人(ひろと)が主人公。
 1995年、ODOPO(汎太平洋海洋開発機構)が設立され、海洋牧場、海底鉱山開発計画、海洋エネルギー開発計画などが進められている。2015年よりODOPO海中植民計画センターの沖勇魚所長の指揮により、三宅島沖、宇和島沖、石垣島沖で海底植民計画が開始されている。
 2001年より、ユダヤ系財閥グループが、"ネオ・エクソダス計画"として、<ポセイドニア>と<トリトニア>というエネルギー自給型・漂流型の洋上居住システムの開発に着手。その20年後にはそれぞれ人口5万人を擁するに至っている。それを爆破しようとするテロリスト集団の陰謀を阻止するため、ODOPO国際管理局UWRT(水中救助部隊)に所属する沖洋人たちが<ポセイドニア>に派遣される・・・。
 <ポセイドニア>は、長さ5km、長さ10km、厚さ30mの亀甲型をしていて、太陽熱発電所ユニットを曳航している。

●「深淵」("The Deeps"、1978、キース・ロバーツ、別冊奇想天外No.4「SFの評論大全集」)
 人口爆発によって人類の居住する都市が海底にまで広がった時代。世界で何百もの海底都市の一つ、「オーシャンヴィル」(第80居住地)が舞台。陸から移り住んだメアリ・フランクリンとジャック・フランクリンの夫婦、その間に生まれた娘ジェン(ジェニファ)と赤ん坊のデイヴィッドの一家。町の向こう側のベルモント家のダンス・パーティーに行ったジェンは夜の10時を過ぎても帰ってこない。陸上への郷愁、海中に適応していく子供たちへの不安を感じるメアリは、ジェンを探しに町に泳ぎ出る・・・。
 一家が住む海中バンガロー内からの海中の景色、空調や冷蔵庫の音、メーター類、海中にたたずむ街灯、墓場、公会堂、映画館、ショーウィンド、蒸留所(真水工場)、空気工場、ゴミ処分、潮汐力発電所など、さりげなくリアルに描いている。人々は、背負うラングの自己補償機能と信号をやりとりするための接点を喉元や背中に接点を埋め込んでいて、窒素中毒や酸素中毒を起こさないようになっている。

【1980】
●「アフロディーテ」(1980, 山田正紀、1987、講談社文庫、「人工海上都市アフロディーテ」2001初演)西村屋選
 2003年、海上都市”アフロディーテ”が完成する。人口20万人、やや裾の広がったサザエのような形をしている。前面を紫色の珊瑚礁、巧妙にカモフラージュされた防波ダンパー−幅50mのいかだ状構造物を連ねた消波装置−で囲まれている。
 海抜300mの人口の山”彼女の頭(ハーヘッド)”がある。東側が”彼女の足(ハーレッグ)”地区で、個人用のボートハーバーとして利用されている。湾の向こう側、西側の”彼女の尻(ハーヒップ)”は雑然としていて他民族地区となっている。回教徒寺院(モスク)、笑猫亭(ラーフ・キャット)がある。中央の”彼女のあそこ(ハーイットゥ)”地区はアフロディーテの中枢部であり、国連ビル、コントロール・タワー、インフォメーション・タワー、各種の海洋研究施設、美術館、豪華ホテル、ショッピング・センター、海中レストラン、ケストス広場が集中している。
 三つの地区を結ぶ手段として、深度10mの海中を結ぶプラスチック・チューブの”海洋プロムナード”、電子カーが走る”電子コントロール・ハイウェイ”がある。
 小型潜水船<ローズ・バッド>(水中ロケット推進、2人乗り、水中速力20〜25ノット)、海底ロボット<モボット>(浚渫用)、海洋計測ロボット<OSPER>(パターン認識機能がある)、超高速水中翼船(スーパー・ハイドロフォイル)が登場する。「海洋工学入門」(合田周平)が参考にされている。
 「国際連合が提唱し建設された理想の人工海上都市に夢を求めて移住した少年がいた。アフロディーテは順調に発展を続け、主人公は自分の居場所を見つけ、友人にも恵まれ、とてつもなく楽しい時期を過ごす。
 繁栄の陰に少しづつ、ほころびはじめた半独立国家アフロディーテ。時代が変わり、アフロディーテが存在価値を失い、大国の援助なしでは存続できなくなっていった。そのアフロディーテに更なる未来を与えた主人公の物語。
 若さとは、幻?。理想の社会って、何?。自分の居場所って何処?。
 これは、SFの姿をかりたヒューマンドラマです。」
【1985】
●「レッド・オクトーバーを追え」**(1985、トム・クランシー、上・下巻。文春文庫、映画:1990)
 映画版ではショーン・コネリーが主演。「キャタピラー推進」(米国側の呼び名は「トンネル推進」)と称して、超伝導電磁推進システムとおぼしきキャビテーションのない静穏推進システム(26ノットも出せる!)が登場する。「クライオスタット」とか「液体ヘリウム」とかのセリフが出てくるし・・・。小説版では、単にトンネル内に正・逆回転の推進器を並べてキャビテーションをなくしたもの(13ノット)となっている。
 <レッドオクトーバー>は、タイフーン級の全長と幅を増加させたもので、排水量3万トン。ツイン・スクリューに加えて、キャタピラー推進を備える。15人の士官と100人の兵員、SS-N-20シーホーク・ミサイル26基、それぞれ500キロトンのMIRV(多弾頭各個目標再突入弾)8個を搭載。
 ソ連の原潜がアイスランド南東のレイキャネス海嶺を横断する際、「トールの双子」という一対の海山を抜けたルート「ゴルシコフの鉄道」を高速で通り抜ける。これには、慣性航法装置と地磁気傾度測定器(グラディオメーター)で、地形と艦との位置関係を100m足らずの誤差で突き止める方法を用いるとしている。
 その他、アルファ級<V・K・コノヴァロフ>、<E・S・ポリトフスキー>、デルタ級<ロコソフスキー>、米ロサンジェルス級<プレマイトン>、<ダラス>、<ポーギ>、<スキャンプ>、老朽原潜<イーサン・アレン>、潜水船救難艦<ピジョン>、DSRV<ミスティック>、<アヴァロン>、6000m潜水調査船<シークリフ>が登場。
 地震現象に伴うシグナルからノイズを除去するためにCALTEC地球物理学研究所で開発されたというプログラムを利用したSAPS(シグナル・アルゴリズミック・プロセシング・システム)でキャタビラー推進の音を検出している。
 ちなみに、超伝導電磁推進については、発電装置だけで船が沈むとも酷評されていたが、日本財団の<ヤマト>で船として成立することが実証された。実用化については、海水の電気伝導度を飛躍的に増やす革新技術が登場しないと無理と言われ、肥大船の船尾渦の境界層制御などの用途が探られている。

●「シーナイトを救出せよ」(初刷1988、講談社/ハードカバー、ノベルズ、文庫)西村屋選
 国際謀略モノ。1963年、20億ドルを越える財宝を積んだ英海軍ドレッドノート級試験艦<ベータ10>4000トンは、「ブロッケン・ゾーン」と呼ばれる海域で、50ノットで泳ぐ100トンもの大きさの化け物<ブロッケンの怪物>に襲われ、消息を絶つ。
 1988年、米深海調査艇<シーナイト>(潜航深度4000m、小型プルーブ<ジェイ・ジェイ>搭載)は水深1500mで金色に輝く巨大な物体に襲われ、3500mの海底で浮上不能となる。支援母船でウッズホール海洋研究所の海洋調査船<スキャンパー>2300トンも、全長30m〜40mの金色に輝く化け物を目撃。
 アルテミス・ネットワーク(深海聴音ソーナー)、サイドスキャンソーナー、シー・ビーム(商品名)、無人潜水調査ロボット<アルゴ>、熱水活動域の閉鎖生態系、ジュラ紀の『イクチオサウルス』、カンブリア紀の『オパビニア』、『ハルキゲニア』、そして『○○○』も登場。なんと、「しんかい2000」がC-5B<ギャラクシー>とCH-53E<スーパースタリオン>で空輸され、安全率1.65の圧壊深度3300mを越える救難ミッションに挑む!!
 イルカとの言語コミュニケーションを図るヤヌス計画(JANUS:協同アナログ方式数値相互理解システム)、米4000m潜水調査船<アルビン号>、6000m潜水調査船<シークリフ>、仏6000m潜水調査船<ノチール>、米潜水艦救難艇DSRV-2<ミスティック>、CIAの<グローマー・エクスプローラー号>の名前も登場する。

●「DIVE−深海からの帰還」(1989、ビデオ)西村屋選
 潜水作業支援船<シーウェイ・コンドル号>は4ヶ月の飽和潜水作業を終え、帰港しようとしていた。その時、海底石油パイプラインに異常が発生。深海カメラによる調査が依頼される。カメラでパイプラインに漁網が引っかかっていることが判明。ダイバーの手でバルブを開けなければならない。
 2人のダイバーは5分で済む作業として潜水球で水深90m?の海底に降りる。しかし、バルブは固くて開けることが出来ない。潜水球に戻ろうとする1人のダイバーの循環式呼吸具のアンビリカル・ケーブルが漁網に引っかかり、呼吸具を外して潜水球に戻るが、潜水時間が伸びて24時間の減圧が必要となる。潜水球を船上に引き揚げようとするが、漁網が引っかかって水深80mで停止。おまけに予備ボンベの混合ガスがすべて漏洩してしまう。
 混合ガス・ボンベをヘリで空輸しようとするが、天候悪化で離陸が遅れて間に合わない。洋上からのスキューバ・ダイビングで到達可能な70mまで引き揚げようとするが、揚降ウィンチが故障し、潜水球吊り下げケーブルが緩んで潜水球は海底に落下。混合ガスと温水を送るアンビリカル・ケーブルが切断した。温水の供給が経たれて、潜水球内の室温が急速に低下する。
 デッキ・クレーンで揚収するために船上から無謀なダイビングが行われ、アンビリカル・ケーブルの再接続には成功。しかしクレーンのワイヤ・ケーブルの接続には失敗し、意識を失ったダイバーは死亡。
 混合ガスで足らないのはヘリウム・ガスであることから、代用品として水素が試みられるが、船上で水素生成容器が爆発。密度が濃いために呼吸の困難なアルゴンが送られる。
 修理不能となった揚降ウィンチの代わりに、ムーンプールから吊り下げられている潜水球吊り下げケーブルをデッキ・クレーンに接続することに成功。潜水球は船上に引き上げられるが、減圧が終わるまで加圧室から出ることはできない・・・。

 循環式呼吸具のアンビリカル・ケーブルを水中エレベータのハッチで切断するシーンがあるが、これは現実には難しいそうだ。

●『深海伝説−臥竜篇』**(1989、斉藤英一朗、ソノラマ文庫)
 2152年、複合大気汚染が原因となって平均気温が2度C上昇。これによって内陸部の砂漠化が進み、南北両極の氷の大半が融け、海面が20m以上も上昇した世界。海上輸送の主力が天候に左右されない海面下に。PSDF(汎太平洋防衛軍)の<大鳳>(安全深度1200m、バイパス・エンジン、4200トン、巡航速度60ノット、最高速度80ノット(24時間)、深海探査・攻撃用小型潜航艇<D・V>を搭載)、海上浮遊都市”わだつみ”(W138度20分、N30度12分、伊豆諸島鳥島西方200kmに設置、直径約5.2km、正三角形を逆さまに重ねた六角星形。人口6万8千人、1/4がPSDFの日本基地)、謎の潜水艦<ウシャス>(電磁推進、涙滴型でやや扁平、潜航深度1820m以上、72ノット以上)が登場。
 「ベルトハイム帝国」の謎が解かれぬまま未完結となっている。あとがきに、著者が「海洋冒険ものを書きたい」と編集者に言ったら「ダメ、売れないから」と拒否されたエピソードが載っている。

●「アビス」(1989、映画、小説版はオースン・スコット・カード、角川文庫)
 「ターミネーター」、「エイリアン2」、「タイタニック」のキャメロン監督による作品。さらに、「エンダーのゲーム」と「死者の代弁者」で2年連続ネビュラ/ヒューゴ賞ダブル・クラウンに輝くオースン・スコット・カードによる小説版も、単なるノベライズではなく本格的なものであり、心理描写などなかなか読みごたえあり。
 石油掘削リグでは将来の究極と想像される海底着底型が登場。また、ヘリウムや水素を使う飽和潜水技術のさらに先を行く液体呼吸技術も登場する。
 カリブ海の水深1700フィート(約520m)の海底で、ベンシック石油の海中掘削プラッ トフォーム<ディープ・コアII>が世界初の深海操業試験を実施している。そこから22マイル離れたケイマン海溝(1万8000フィート、約5500m)の縁、水深2100フィート(約640m)の海底に原潜<モンタナ>が沈没。<ディープ・コアII>は試掘井戸を閉じて現場 海域に移動し、そこで海空陸特殊工作部隊SEALチームに協力することとなる・・・。

 <ディープ・コアII>は重量5000トン、スラスタ及び潜航艇による曳航によって1.5ノ ットで移動可能。5人の作業員で運転可能な泥水循環方式の半自動式掘削装置を備える。その他ROVオペレータ、潜航艇パイロット、混合ガス制御要員など計10人で運用されて いる。
 作業用有人潜航艇<キャブ・ワン>、<キャブ・スリー>、大型の<フラットベッド>の3隻を備え、船内のムーンプールから出入りする。また有線式ROV<ビッグ・ギーグ> と<リトル・ギーク>を備える。約6度Cの海中での作業には温熱式潜水服(ドライスーツ)が用いられる。
 洋上の母船<ベンシック・エクスプローラー>と支援ケーブルで結ばれているが、荒天時は支援ケーブルを切り離す。切り離し後の通信には超音波トランシーバーUQCが用いら れる。

 船内は従来の”トライミックス”と呼ばれる混合ガス(ヘリウム・窒素・酸素)にアルゴンを加えた”テトラミックス”(水素・ヘリウム・窒素・酸素の誤りかも)で53気圧に加圧されている。酸素は混合ガスの2%に引き下げられている。
 ”テトラミックス”のおかげで加圧時間が従来の24時間から8時間に短縮され、減圧には3週間かかるとなっている。海中作業4週間、減圧3週間、陸上での休暇1週間という厳しいローテーションとなっている。その他高圧神経症候群HPNSと窒素添加による鎮静効果など飽和潜水技術の記述が詳しい。さらにその先を行く高圧酸素飽和塩溶液(液体過フッ化炭化水素)を用いた液体呼吸システム<ディープ・スーツ>が登場する。

 ここで登場するエイリアン(NTI:非地球的知的生命)はSF映画史上で最も美しいと評 された。ところが、最近、JAMSTECの<ハイパードルフィン>に搭載された新スーパーハーブ・ハイビジョンTVカメラで撮影された浮遊発光生物(カブトクラゲの仲間)が、本映画で主人公らに接触してきた生体機械に酷似しているのにはビックリ。
 小説版ではエイリアン:ビルダーズ・オブ・メモリー(記憶の建設者)のほか、ポーター(作業体生物)、ホーラー(運搬体)、メッセンジャー(伝達体)、グライダー(滑走体、水中130ノット以上)、チューブという生体機械が登場する。

【1990】
●「Dark Whisper」(1990, 復刊:2000、山下いくと、電撃コミックス)西村屋特選!
 1990-92年の作品。作者は、「エヴァンゲリオン」、「不思議の海のナディア」、「青の6号」のメカニック・デザインも担当されている。素晴らしい海洋SFコミックス。
 第三次世界大戦の勃発直後、当事国だった合衆国が謎の消滅(マジック・リヴァティー)。その8年後、海中から引き揚げられた救助待機冬眠槽(レスキューフリーザー)から蘇生した米CIA特殊工作員仕様の加工体コヨミ(NIMBUS、アリス1)。別に蘇生した6人の米兵士たちは、浮上した巨大なトリマランに積まれた宇宙往還機に乗り込む・・・。その4年後、WSA(国際海洋資源調査隊)<アルビオンIII>(英国船籍。通常とは砕氷方向が上下逆のアッパータイプの砕氷船)は、北極観光財団の双胴砕氷船の救難に向かう・・・。
 その他、主人公ネレディー(ニド)・メスティス、その後見人のMr.ルースマ、ジェフ(ティファ)、豪州外務省合衆国資産管理局情報員の<アニタ・アルバーニ>、北極の謎の少女<オーリオール、メッセンジャー、アリス2>、エノラ(コヨミと一緒に民間救助会社<ウサギちゃんカンパニー>を開業)、ネコの十兵衛、シャチのジブジブが主な登場人物。
 <アルビオンIII>と超伝導電磁推進潜水艦との北極海での闘いなど凄い迫力。海面調整堤<コントロールバリアー>と海上新産業区<プロフィティス>、海中グライダー型のLNG省力潜水タンカー<プラスボイジャー>、海上移動都市国家<ギガンティック・トウキョウ>(全長15km)
●「スタンダードブルー」(1999, 宇河弘樹、コミックス、少年画報社/ヤングキングコミックス)西村屋特選!
  2024年、沖縄の環状海上都市<スタンダードブルー>(ヴェルヌの「動く人工島」に由来)でサルベージ業「うしお海洋便利屋」を営む祖父のところに孫娘が界面翼船(シールドシップ)の定期便でやってきた・・・。  界面翼船(シールドシップ)、海洋牧場、メタンハイドレート掘削基地、観光潜水船、深海潜航救助艇DSRV、船型掘削リグが登場する。また、半潜水式リグが海底からのメタンの暴噴で浮力を失う現象、チューブワームやシロウリガイなどの熱水生物コロニー、イルカの大量座礁現象(マス=ストランド)、環境保護団体「ガイアの騎士」も登場。

 XBTなんて言葉も・・・。(by kobagenさん)
 最近のお気に入りです。どちらかというと女の子の成長物語ですが、なかなか熱い作品です。(by あんす さん)
 マイルド気味ながら、イルカとの関わりあいとかは少し啓蒙されましたし、人肌な海洋近未来を感じる良作だと思います。(by Tiさん)

●「ガイア−母なる地球−」(1990、EARTH, デイヴィッド・ブリン、ハヤカワ文庫)
 オゾン層破壊によって皮膚癌の多発、生態系破壊に直面している時代。生態系学者で”現代ガイア・パラダイムの母”と呼ばれているジェン・ウォリングは新ガイア理論でノーベル賞を受賞。この理論によって、世界中に100近くも閉鎖生態系施設が作られ、絶滅に瀕した野生種が集められている。
 一方、1990年代後半にアドラーとハートが統一理論を完成。2020年には実験室内に特異点(ミニ・ブラックホール)を作ることが可能となった。

 ジェンの孫で若き天才物理学者アレックス・ラスティグは、特異点を使った発電所作りに荷担するが、ジャ−ナリスト、ペドロ・マネラに扇動された反対派が発電所を襲撃し、送電線が切断され、磁場ケージの中の特異点が地球内部に落ちてしまった。
 アレックスは、大企業タンゴパル社の会長ジョージ・ハットンらの援助を得て、超伝導重力波アンテナを建設し、アレックスの特異点<アルファ>が核内で蒸発しつつある一方、別の誰かが作った成長しつつある特異点<ベータ>(コズミック・ノット)を発見。この重力波走査が特異点と共振して地震を引き起こすことも知る・・・。
 モホロビチッチ不連続面、マントル内のホット・プルームとコールド・プルーム、磁場逆転などの話題が登場する。マントル・核境界の超高温超高圧域で超伝導現象が生じる設定になっている。
 太陽エネルギー崇拝の<ラーの使徒>、環境技術と産児制限を推進する穏便派の<ガイア教会>、開発を全面否定する過激派の<ネオ・ガイア主義者>、遺伝子操作によって人間の捕食者を作りだそうとする<シュクリー主義者>などざまざまな宗派、思想グループも登場する。
 本作品は、「ガイア仮説」をさまざまな切り口で捉えている。中でも『「競争」と「共生」は表裏一体』という関係を、地球システムや生態系のみならず、脳の神経細胞や社会・経済システム、さらには、ネットワークにまで見出すところが興味深い。

●「ふしぎの海のナディア」(1990, 小説版は、アニメージュ文庫、上「青い光を抱いたプリンセス」中「未来を夢見る大海戦」下「はるかなる高い空」、Nadia the Movie「海から来た妖精」)
 これに登場する<ノーチラス号>とネモ船長が最もかっこよい。商船を襲ったのはガーゴイル率いるネオ・アトランティス帝国の潜水艦<ガーフィッシュ>。それに戦いを挑むのがネモ船長という設定。美女のメディナ・ラ・ルゲンシウス・エレクトラが副長。
 発明好きな少年ジャン・ロック・ラルティーグは、謎のブルーウォーター(トリス・メギストス、賢者の石)を持つ出生不明でサーカスの少女ナディア・ラ・アルウォールに出会う。グラディス、ハンソン、サンソンの3人組と万能戦車<グラタン>に追われ、ナディアの生まれ故郷であるアフリカを目指して、自作飛行機<エトワール・ド・ラ・セーヌVIII世>で逃走。海上に落下して漂流中のところ、謎の大海獣退治の命を受けた戦艦<エイブラハム号>に救助される。

【1992】
●「ブルーホール」(1991〜92、ミスターマガジン連載。ミスターマガジンKCデラック、講談社)/「ブルー・ワールド」(1995〜98、アフタヌーン連載)
 1938年に古代魚シーラカンス(ゴンベッサ)の生息が発見されたマダガスカル近海(コモロ諸島)に、白亜紀に繋がる「ブルーホール」が発見される。大渦巻に巻き込まれて白亜紀に漂着した主人公たち。その近くには、カンブリア紀に繋がる世界樹(海藻の群体)とブルーホールも発見される。ところが、6500万年前に衝突して恐竜を絶滅させた小天体(直径10km、質量1兆トン)が接近しつつあることが発見される。小天体衝突は、ブルーホールを通じて現代にも及ぶ恐れが・・・。
 海洋調査船<セーシェル>(潜水艇を搭載)、双胴型の調査船<クロノス>(潜水艇<DS-1>、探査ロボットを搭載)、深海調査艇<ウオールラス>、英国原潜<カンブリア>、米国原潜<エントラダ>が登場。シーラカンスの密漁をしてい た主人公の娘の名がガイア・ナギリ。

 続編の「ブルー・ワールド」では、現在のマダガスカル(コモロ諸島)沖から白亜紀末期のバミューダ(バハマ諸島)沖に繋がるブルーホールが封鎖され、新たに現代のネス湖で1億4500万年前のジュラ紀末期カルー地方に繋がる第2のブルーホールが発見される。
 その後、大掛かりな前線基地が作られるが、地磁気の弱まりによってブルーホールが閉じられ、現代に帰ろうとする原潜が大爆発を起こす。ジュラ紀末期に残された人々は、別のブルーホールに向かってパンゲア超大陸横断の旅に出発する。現代側では、バミューダ(バハマ諸島)沖に発見された3番目のブルーホールからカンブリア紀を経てジュラ紀末期に救出に向かおうとする試みが続けられる・・・。
 白亜紀末期に、メキシコ湾ユカタン半島に小天体が衝突する同時期に、ちょうど地球の裏側のインド半島で大陸洪水玄武岩が形成(デカン高原)されたことに着目しているのが凄い。もっと凄いのは、もし小天体衝突が中心核に影響を及ぼし、ホットプルームを上昇させたとすれば、地表面に到達するまでタイムラグがあるはずとする点。

●「レッド・マーズ」(1993、キム・スタンリー・ロビンスン、創元SF文庫)/「グリーン・マーズ」(1994、創元SF文庫)/「Blue Mars」(1995、Banbtam paperback)
 ネビュラ賞、星雲賞、英国SF協会賞受賞。
 2026年、火星の多国籍からなる植民者100人が入植する。火星環境の改造と独立戦争をリアルに描く。火星環境改造の手法として、バイオ・テクノロジー、マントルまでの掘削孔(モホール)の掘削、氷小惑星を火星に衝突させるなどが登場。小惑星の鉱物資源を利用して軌道エレベータが建設される。
 行政能力に優れ、権力志向の強いフランク・チャマーズ、最初の火星飛行士で、英雄として尊敬を集めているジョン・ブーン、美貌で多感・激情型のマヤ・トイトヴナ、天才的な土木技師で朴訥なナディア・チェルネシェフスキィなど数十人もの登場人物を描きわける力作。
 2061年に火星の第1次独立戦争が勃発、軌道エレベータは破壊され、帯水層からの水の噴出による大洪水、フォボスの落下というカタストロフィーの後、the First Fundred(最初の100人の入植者)の生き残りたちは国連暫定政府に追われ、逃亡の旅に・・・。

 続編「グリーン・マーズ」はヒューゴー賞、ローカス賞受賞。
 2061年のカタストロフィーの後、暫定政府に追われてFirst Hundredたちは南極周辺の避難所に隠れ住み、革命のチャンスを伺う。軌道エレベータが再建され、火星に降り注ぐ太陽光を増加させるための反射鏡がラグランジュ点と極軌道の昼夜境界線に置かれる。さらに、低軌道にレンズが周回し、火星表面を溶かして温室効果ガスを増加させるという過激な手段まで登場。帯水層からの汲み上げが活発化し、火星上に海が復活し始める。
 2127年、地球で西南極氷床の崩壊による6mもの海面上昇に見舞われ、それを機に、第2次火星独立戦争が勃発する。

 完結編の「Blue Mars」もヒューゴー賞、ローカス賞受賞。
 火星はついに独立した。しかし、急進派であるKakazeのKaseiたちが軌道エレベータの破壊を目論み、さらなる流血の事態が・・・。Saxに要請されたAnnは、反射鏡の除去を条件に、急進派を説得する。2128年に火星独立政府が成立。Sax、Maya、Michell、Nirgalの4人は地球に向かい、あらたな条約を締結して移民の受け入れを再開する。
 革新的な核融合エンジンが発明されて、人類は水星から冥王星まで活動範囲を広げ、2206年、ついにアルデバランへの最初の移民が出発する。長寿措置を受けたFirst Hundredたちが死亡し始め・・・。

【1994】
●「大暴風」(1994、ジョン・バーンズ、ハヤカワ文庫)
 2028年、シベリア連邦がアラスカの所有権を主張し、北極海の6カ所に抑制型弾道ミサイルを配置。その発射が試みられるのを検知した国連平和維持軍は、国連宇宙局UNSOOの25機の宇宙機から計100発以上のCRAM−圧縮放射反物質−爆弾(反中性子ベリリウム爆弾)をアラスカ北部ノーススロープ沖に打ち込んだ。
 これによって、北極海の海底のクラストレート化合物の層が崩壊し、1730億トンものメタンが大気中に放出された。これは2028年の大気中メタンの約19倍、1992年時点の約37倍に及んだ。
 温暖化が急進し、太平洋中央部で人類史上最大のハリケーン<クレム100>が発生。目の直径が約8km、中心部の風速220ノット近く。高さ140mの波が発生し、ライン諸島キングマンリーフの北アメリカ軌道サービス社NAOSの大型衛星(モンスター)打ち上げ場が破壊された。カロリン諸島とマーシャル諸島で数百人の犠牲者、サイパン島、インドネシア、南鳥島を襲う。
 <クレム100>は巨大な噴出ジェットによって予測不可能な進路を取る。そのジェットはさらに1000km離れた海面に<クレム200>(クレメンタイン)を産み出す。<クレム200>はメキシコのテワンテペク地峡を抜けてメキシコ湾に入り、猛威をふるいながら子を産みだしていく。
 海面温度を下げるため、「クリーグの風船計画」:ハリケーンの被害のため唯一打ち上げ可能なシベリアのロケット発射場を用い、何千個もの強化ポリフィルムの風船を極軌道に投入する方法、そして、「巨大な白い艦隊」:カイパーベルトにある彗星2026RU(直径790マイル、太陽から56.23天文単位)を地球のラグランジュ点に運び、そこから円盤状の氷(質量200万トン、幅1マイル)を次々と昼間側の大気中に投入して日射量を下げ、夜 間側で温室効果とならないよう水素と酸素に分解する方法が計画された。
 宇宙ステーション<コンスティチューション>のルーイ・タイナンは、テレプレゼンス(遠隔存在)によって月面のレプリケータを再稼働させ、月にある日本とフランスの基地の資材で<コンスティチューション>を深惑星探査船<グッドラック>に改造する。<グッドラック>は月から伝送された数ギガワットの電力で物質を反物質に変換し、ヘリウム3-IIと反応させ光速に近いヘリウム3の噴流を推進力とする。さらに、月から射出される資材の流れを<グッドラック>の電磁ブレーキで減速させることで4Gの加速を受けて2026RUに向かう・・・。

●「氷の帝国」(1994、リチャード・モラン、扶桑社ミステリー)西村屋選
 2000年、北太平洋中央海嶺での大規模な海底火山活動による海嶺の隆起によって、メキシコ湾流が変化し、欧州が寒冷化、さらに大噴火による噴煙によって寒冷化が劇化する。閉鎖生態系のバイオスフィアと地熱エネルギー利用。探索船<アビス>と潜水艇<イエローストーン>も登場。
 主人公のベンジャミン・フランクリン・ミードは天才的な地球物理学者で世界最大の地熱開発会社の社長でアル中暦と離婚暦と癇癪癖を持つ。ヒロインのマージャリー・グリンは分子生物学者で英国生存圏の建設責任者。この2人の人物がなかなか魅力的。

●「氷河期を乗りきれ」(1995、リチャード・モラン、扶桑社ミステリー)西村屋選
 「氷の帝国」の続編。2001年、北大西洋での海底火山大噴火が撒き散らした硫酸ガス、エアロゾルによって北半球が氷河期状態に陥り、その危機を乗り越えるためにバイオスフォイアへの移住、化学合成で成長する植物を作る研究、メキシコ湾流を変えることで北極海の海氷を溶かして温暖化させる試みなど。
 前作の2人の関係が意外な状態から物語が始まる。

【1996】
●「メガロドン(MEG)」**(1997、スティーヴ・オルテン、角川書店、角川文庫)
 『メガロドン』という太古の巨大ザメがマリアナ海溝の熱水活動域から、海面に現れて人々を襲う小説。日本の海洋科学技術センター、<かいこう>などの名前がよく出てくる。ディズニーで映画化された? 海溝底での地殻変動を観測するUNIS(無人海底情報探査機)、浮力制御型海中グライダーである一人乗り深海潜水船<アビス・グライダー>が活躍する。また、メガロドン退治のため世界初の原潜<ノーチラス号>が再就役する。
 おかしな点がかなり散見される。
・マリアナ海溝底に熱水活動域があるというのは無理がある。アメリカ西海岸で拡大軸(東太平洋海膨)と北米プレートが衝突していることとの混同か? また、冷水層の下に温水層が安定的に存在し得るか?
・<かいこう>が「1993年に10,739mで壊滅」とある。もしかすると、最初の試験潜航時1994年3月に10,900m付近で発生したブラックアウト(failure)の誤訳? 本物の「かいこう」は、その後1995年3月に再挑戦して10,911.4mの潜航に成功しているが、物語の都合から失敗したままなのはやむを得ない。
・潜航深度6,000mのシークリフがマリアナ海溝で水深9,000mに潜ったのは変。また、その減圧せずに浮上したために2人が死亡とあるが、耐圧殻内は大気圧なので、減圧の必要はない。それとも、潜航深度を増やすために加圧したか・・・。

【1998】
●「ソリトンの悪魔」(1998、梅原克文、朝日ソノラマ、ビデオ・アニメ化)
 日本推理作家協会賞受賞。
 2016年、音波をエネルギー源とする海中の巨大な存在『サーペント』が、与那国島の沖合に完成したばかりの海上情報都市<オーシャンテクノポリス>を破壊し、日本 初の海底採掘プラットフォーム<うみがめ200>を危機に陥れる。ヘリオス石油の開発部主任の倉瀬厚志、別れた妻でソーナーとオーディオの専門家の劉秋華、7才の娘の劉美玲の3人の運命やいかに・・・。
 <オーシャンテクノポリス>は5km四方の正方形デッキ4層、浮力タンク付きの脚柱1万本で海底に軟着陸させた多脚式軟着底型。寺井精英さんの海洋都市開発研究会の構想そのもの。
 <うみがめ200>はヘリオス石油が開発費2000億円を投じて水深270mに設置。双胴船型の海上支援船<うみねこ130>から電力や呼吸ガスが供給される。TOV(テレプレ ゼンス・オペレイテッド・ビークル:光ファイバーによる疑似遠隔存在型潜水機)、OMS (一人乗り潜水艇)、AWS(多機能潜水艇)、深海用潜水服(ジム・スーツ)などが装備 されている。テトラミックス飽和潜水(「アビス」と同じヘリウム・窒素・アルゴン・酸素)が使われ(水素・ヘリウム・窒素・酸素ではないのか?)、脱窒素ベクター剤で減圧時間が48時間に短縮されている。海底石油掘削プラットフォームについて、海上型と浮遊式と海底式の間の技術論争もおもしろい。
 潜水艦救難艇(DSRV)<いるか4>に装備されているホロフォニクス・ソーナー(立体音響視界)がSFで初めて登場。その他、SOSUS(海底敷設ソーナー網)、地質探 査ソーナー<アース・アイ>、ブルーグリーン・レーザー海中〜衛星通信、超電導フラーレン電池など海中工学オンパレード。
 超音波フォグ、音響発光(超音波気泡放電)、ソリトン(粒子性を持つ孤立波。波の非線形性と分散性が釣り合って半永久的に存在する孤立波)、高圧神経症候群(HPNS)、ポリウォーターなどの用語が登場。

【1999】
●「クリスタルサイレンス」(1999、藤崎慎吾、朝日ソノラマ)
 「レフト・アローン」の続編にあたる。2071年、火星の北極冠から節足動物に似た高等生物「セーガン生物群」(三葉虫のような扁平な体、カンブリア紀の『アノマロカリス』に似ている)が発掘された。奇妙なことに、外殻だけが残され、しかも不自然に偏在していた。貝塚との類似性から、縄文時代を専門とする女性生命考古学者、アスカイ・サヤ(飛鳥井沙耶)が火星に派遣される。
 発掘と同時期に、謎の鉱物の結晶、クリスタルフラワーが火星で出現。また、地球と月の間のラグランジュ点に置かれているレーザー干渉計型重力波アンテナ、LIGASが、火星からの重力波を検出した・・・。
 サヤは25才、五感アートの制作者で火炎土器からヒントを得た「クリスタルサイレンス」が代表作。のちに「宇宙生命考古学序説」を記す。地球の海底メタンハイドレートから採掘したメタンを軌道エレベータで宇宙に搬送し、メタンガスロケットで火星に送って大気を温暖化するアイデアが登場する。火星の人口1万人。米国のマーズNY、マーズLA、日本のマーズトキオ、マーズオーサカ、タルスシティ、中国のマーズベイジン、ロシアのヘベス1、ガンドール1などのコロニーが存在。
 清涼感のあるエピローグが印象的。

【2000】
●「深海の悪魔」(2000、大石英司、中央公論新社 C★NOVELS、上下巻)
 <しんかい6500>や支援母船<よこすか>のクルーがかっこよく描かれている。このほか、海洋地球研究船<みらい>、自律型無人探査機、中継ケーブルと衛星による深海実況中継など新しい技術も登場する。
 また、地球温暖化と大陸棚斜面のメタンハードレート地層の崩壊、深海の地層内に眠る太古の生物など、地球科学のホットな話題も扱われている。
 80ノットで泳ぎ、器材をも切断してしまう(!)透明な未知の生物。外套膜構造を持つ翼足類(軟体動物だそうな)らしきこの生物は「スピードフィッシュ」と名付けられ、群体として行動し、首都圏を壊滅の危機に陥れる。潜水艦救難艇DSRVの艇長を父親に持つ女子高生とその友人たちが新生児を抱えてパニック状態の首都圏をたくましく生き抜いていくエピソードが織り交ぜられている。

●「祈りの海」(2000、グレッグ・イーガン、ハヤカワ文庫SF、短編集「祈りの海」収録)
 ヒューゴー賞/ローカス賞受賞。  二万年前に惑星コブナントに移住し、「聖ベアトリス」を信奉する社会を築いた人類の子孫たち。そこで微小生物の研究を始めた敬虔な信者マーティンが知った真実とは? (短編集「祈りの海」カバー紹介より引用)
 異星に持ち込まれた文化が、異星の環境の下で変化し、生活や精神、肉体までも支配している。現在の社会の鏡になっていると同時に、複数の観点も持ち合わせている作品。ここでは、そのお題が海…という事になっています。(by sayalautさん)
 コヴナント星には陸に住む陸人と海上に住む海人がいる。この星の人類のセックスの仕方には驚き!この星に移住した人類の子孫たちは3千年以上をかけてコヴナント星の環境を創成し、新種の生物を作り出した。しかし、なぜだか不死を放棄し、星々に帰るために必要なテクノロジーを廃棄してしまっている。
 残された数少ないテクノロジーとして、海人はブリーダーの手で育てられた生きた船殻でできた家船に住んでいる。船殻の皮膚は分泌液で保護され、青い燐光を発する。環境創成後のコブナント星の海洋にはプランクトンの『ズーアイト』が大量に存在する。

●「過ぎ去りし日々の光」**(2000、アーサーC.クラーク、スティーヴン・バクスター、ハヤカワ文庫SF)
 2010年、老朽スペースシャトルとの衝突後に宇宙ステーションが放棄。同じ年に連合王国からスコットランドが分離独立。2019年にイングランドは米国の52番目の州となる。2033年、さしわたし400kmもの<<にがよもぎ>>(ワームウッド、ロシア語でチェルノブイリ)が天王星の向こうで発見。50年後の2534年には地球に衝突し、現存する科学技術では回避できず地球が壊滅することが明かとなる。
 この時代は温暖化の進行によってシベリアの永久凍土から数億トンものメタンが放出されつつあり、大陸棚周辺のメタンハイドレート地層は不安定化する。メキシコ湾流の停止によって北ヨーロッパは寒冷化し、西南極大陸氷床が崩落しようとしている。
 2035年、アワワールド社はマイクロ・ワームホールで任意の場所を映像を得る技術、ワームカムを発明した。これによって人々のプライバシーが失われ、南極氷床下の地底湖を汚染させることなく探査できるようになる。
 真空圧縮ワームホール技術によって、4.3光年離れたケンタウロス座プロキシマの惑星探査が可能となる。さらに過去の映像も得られるようになり、犯罪捜査に使われるようになり、さらにはキリストの秘密などが解き明かされる。これによって社会は変革していく。
 過去への旅は人類の祖先、白亜紀末期(6500万年前)の小天体衝突、恐竜の時代、2.5億年前の大絶滅、超大陸の分裂とその後の全球凍結の繰り返し、複雑な多細胞生物が小天体衝突や全球凍結で絶滅を繰り返す地球史が明かとなる。熱水噴出孔周りの生態系、さらには光も酸素も有機物にも依存しない地殻内超好熱性微生物がそれらの絶滅を乗り越えていく。最後から11ページ前に驚くべきことが明らかに。

【2001】
●「腐海」(2001、ジェームズ・ポーリック、徳間書店)
 殺人プランクトン、渦鞭毛虫の新種「フィステリア・ジャンカージ」を題材にしたSF。海洋調査船<エクセター号>、曳航式海中環境観測システム「メドゥーサ」、「ベティー」、セラミック製の潜水艇<シプリド号>と<ゾエア号>が登場する。
 JGOFS(Joint Global Ocean Flux Study、全球海洋物質収支国際共同計画)とその東部亜寒帯域の定点観測海域Papaと、ATOC(The Acoustic Thermometry of Ocean Climate、海洋気候音響温度測定学)プロジェクトの名が出てくるSFは初めてのもの。"Ocean Flux"を「海洋物質収支」ではなく「海洋潮流」と誤訳しているが、無理からぬところがある。
 ニセササノハケイソウなどの有毒珪藻類が作るドーモイ酸(神経を撹乱させる強力な酸)、フィステリア・ピッシータ、フィステリア・ピッシモーチュア、魚を麻痺させるヘテロシグマ、えらの組織をずたずたにするツノケイソウ、ディクチオカ、食中毒を起こすビブリオ菌、麻痺性の貝毒を作るアレクサンドリウムなど、恐ろしいものが紹介されている。

●「群青神殿」(2002、小川一水、コバルト文庫)
 八丈島東方120kmの海上で自動車専用運搬船が消息を絶つ。その4日前には、三陸沖で木材チップバルカーが沈没。
 神鳳鉱産探鉱部所有の中深海長距試錘艇<デビルソード>は、<えるどらど>(3200総トン)を支援母船とするメタンハイドレート試錘用潜水艇(全長11m、空中重量30トン、運用深度1600m、PEFC電池で連続潜航時間250時間)。パイロットの鯛島俊機と探索員の見河原こなみが乗り組む。その<デビルソード>に海上保安庁から潜航調査の協力依頼が舞い込む。沈没船には不可解な破壊孔が・・・。
 内径2m、長さ5.5mの耐圧殻に2人が10日間居住しようとすると当然生ずる心理的問題を、JAMSTECでは不可能なプライベートな方法で解決している。そのほか、海洋科学技術の最新情報とそれを越える卓越したアイデアが投入された見事な作品。

●「ザ・コア 地球が復讐する日」(2002、ディーン・ウェズリー・スミス、メディアファクトリー)
 ペースメーカーを埋めた人たちがいっせいに死亡。ハトの群が方向を見失って大混乱。スペースシャトルが間違った地点に誘導され、ロサンジェルスの河川敷に緊急着陸する事件が相次ぐ。地球磁場が消えようとしているのだ。各地にオーロラが出現し、1平方kmあたり数百個の雷<スーパーストーム>でメキシコシチューが壊滅する。急遽建造された地下穿孔船<バージル号>は、マリアナ海溝から地殻、マントル内に突入。なんらかの原因で停止しよとするコアを動かすため、200メガトンの核爆弾5個を内核表面で爆発させようとするが・・・。
 <バージル号>はダンテ「地獄篇」の地獄の底を案内する詩人から名付けられた。高周波波動レーザーと超音波共振管で岩石を溶かして掘ってインペラーから排出することで推進。24時間でマントルを通り抜け、15時間で内核に達する。掘進速度は時速100km(理論値815km)。全長60m、コックピットと6つのコンパートメントで構成。各コンパートメントの内部はジャイロ安定器付きジンバルで45度まで水平に保たれる。小型原子炉搭載。船体材料は「タングステンとチタンの基質による結晶を極低温で結合させた「アンオブタニウム」で出来ていて、工作は液体窒素で切断。華氏9000度(摂氏約5000度)まで耐える。視覚装置としては音波画像装置とMRI(核磁気共鳴?)カメラを搭載。
 マントル内に幅数kmもの晶洞「クリスタル・ジオード」が存在し、その内側にはビルより高い結晶体が林立する。

●「燃える氷」(2003、高任和夫、祥伝社)
 2011年、地球人口は80億人に達し、日本は慢性的な経済停滞に陥っていた。経済産業省資源エネルギー庁は、産学官のメタンハイドレート資源開発コンソーシアムを組織し、日本経済の復活を賭けてメタンハイドレート開発計画を押し進めていた。静岡県御前崎沖にメタンガス採取/ハイドレート製造プラント船(全長140m、幅25m、2万総トン、高さ80mのやぐら)を浮かべ、フェーズ2の最終年として海洋産出試験を開始。
 日本周辺に大量に存在する「燃える氷」、メタン・ハイドレート。燃焼時の二酸化炭素排出量が少ない利点を持つが、その商業採掘には、水深1000mからさらに海底下2〜3百mの高圧・低温環境にあるハイドレートをどうやって効率よくガス化するか、また、それをどうやって効率よく輸送するかをいう問題を解決しなければならなかった。
 それを解決する2つの技術革新によって、メタンハイドレートは商業採掘に大きく動きだそうとするが・・・。
 最近、三井造船が開発に成功したハイドレート粉末及びペレット化技術がさっそく本作品に取り入れられている。
 メタン・ハイドレートは、単位体積あたり約170倍の天然ガスを包蔵している。本ペレットは温度:約1〜8℃、圧力:約20〜50気圧で製造でき、マイナス数十度で安定化させて貯蔵できるもので、LNGのように-162℃の極低温で製造・貯蔵するのに比べ、設備費、運転費が少なくて済みむとのこと。
 本作品の主人公が翔文社「月刊ガイア」編集部に勤める編集記者との設定。まさにジェームズ・ラブロック/リン・マーグリスによる「ガイア仮説」をコンセプトとする硬派の雑誌となっている。
 本作品では、地球深部探査船「ちきゅう」が2005年に完成し、南海トラフでどんどん成果を上げ、東海地震に関する情報がきめ細かく出されるようになっているとの設定
 このほか、8000年前、ノルウェー沖ストレッガ地滑りでは5000立方kmの堆積物が800kmも移動したこと、なぜ氷期から間氷期にかけて急激に気温が上昇したのかという、研究者がみんな悩んでいる謎、それとメタンハイドレートとの関係、ポックマーク(海底のガスの抜け穴)、泥火山(フロリダ沖水深3000mの直径10kmの巨大なすり鉢上の陥没地形、ノルウェー沖ハーコンモスビー泥火山など)、冷湧水などが登場する。