■Argo計画とは?

 自動浮沈型漂流フロート3000個を世界の海洋に投入し、水深2000mまでの塩分水温プロファイルをリアルタイムで観測するArgo計画の紹介
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2008年8月10日更新

(新着情報)
2007年11月1日:フロート投入数がついに100%(3000本)を超えました。

2004年9月:Argoフロートを地球内部構造を求める地震波トモグラフィーにも応用する研究が行われている。MERMAIDMoble Earthquake Recorder in Marine Areas by Independent Divers)というもので、内蔵のマイクロフォンでP波(縦波)を捉える。2004年9月11〜12日に最初の実海域実験がサンディエゴ、ラジョエ沖で実施され、海面下700mを漂流中の MERMAID がマグニチュード6.0のP波を捉えた。

データ同化と全球的海洋システム
 気候変動における海洋の役割を解明しようとしても、広大な海洋の観測が困難なだけでなく、モデルが鉛直方向の流れの表現が苦手なことなど、乗り越えがたい困難が立ちはだかっている。そこで、大気・海洋結合モデルに、衛星(海面水温、海上風、海面高度計ほか)、ボランティア船ブイなどの全球的な常時観測データを組み込むことによって、予測精度を改善させる「データ同化」が使われるようになった。

 もっと高度なデータ同化手法として、種々雑多なデータを統合して時系列格子データセット再解析データ)とし、個々の観測だけでは捉えることが困難な大洋スケールの現象を理解する手段としても使われ始めた。

 データ同化に必要な観測データのうち、衛星については昨今目覚しい進展がある(地球観測衛星の動向)。これに比べ、海面下の常時観測データが最も不足しており、これまでのボランティア船からの投下式センサー定置ブイ(TRITON/TAOアレイなど)で全海洋をカバーするにはコスト的にも技術的にも難しい。また、投下式センサーはリード線などの投棄が将来規制される懸念もある。

Argo計画
 こういう事情の中で、スクリプス海洋研究所でまったく新しい発想の観測システムが提案された。それは、自動浮沈する多数の「中層漂流フロート」で高精度の水温塩分観測を繰り返すもので、10日おきに浮上して水深2,000mまでの水温・塩分データを衛星データ送信システムで収集する。

 このフロートは、1台約200万円程度の価格で3〜5年の寿命を目標としており、3,000個で全世界の海洋を平均約300km(緯度経度で約3度)メッシュでカバーする。寿命を3年とすると、毎年1,000個、すなわち全世界で毎年わずか20億円のフロート費用で衛星では決して得られない海面下の常時観測データ得られる。

 このように、全球的なシステムとしては画期的にコストパーフォーマンスが高いこと、また、観測船やボランティア船による観測も合理化されるかもしれないことから、大きな注目を浴びることとなった。

 このような経緯のもとで、NOAAが中心となって、国際協力により全世界の海洋に中層漂流フロートを展開するARGO計画(A Glpbal Arrey for Profiling Floarts)が提唱された。"Argo"とは、当初、"Array for Real-time Geostrophic Oceanography"の略語とされたが、"Geostrophic"が難解で評判がよくなく、現在では、ギリシャ神話の英雄Jasonが乗った船Argoにちなんだものとされ、Jason衛星との連携をなぞらえている。

国際動向
 Argo計画は、米国、英国、カナダ、オーストラリア、日本、仏国、韓国、E.U.等が参加する国際ARGOサイエンスチームで検討され、WMO(世界気象機関)及びIOC(国際海洋委員会)の全球海洋データ同化実験GODAE: Global Ocean Data Assimilation Experiment、実施時期2003〜2005年)、並びに、気候の予測可能性国際計画CLIVAR: Climate Variability and Predictability Program)で支持された。
 米国内ではNASA/NOAA/NSFの協力事業であり、米会計年度2000年より年200万ドルの支出が決められている。

 12年4月14日の「太平洋とその周辺海域におけるアルゴ計画推進のための国際会議」(東京)、6月12〜13日のG8外相会議(宮崎)、10月5日の「気候予測のための海洋観測促進に向けた国際会議」(東京)等の会議で各国の参加が表明され、Argo計画の推進に関する共同ステートメントが採択されている。
 大西洋での具体化が進んでおり、同海域のフロート投入数の目標691本に対して、2002年までに米国が175本、仏国が110本、E.U.が80本、ドイツが73本、その他合計500本まで予算的目処が付けられた。
 2007年11月1日、ついに目標の3000本を超えた。

国内動向
 1999年4月の日米コモンアジェンダで日米の参加が合意され、1999年度振興調整費(フィージビリティースタディー、SAGE)が認められてた。2000年度よりミレニアム・プロジェクトの一つとして、科学技術庁(海洋科学技術センター)と運輸省(気象庁、気象研、海上保安庁)が連携し、「高度海洋監視システムの構築(ARGO計画)」が開始。
 内閣内政審議室に「ARGO計画評価・助言会議」(委員長:浅井東大名誉教授)が設けられ、ミレニアム・プロジェクトとしての評価が行われた。
 その下に「アルゴ計画推進委員会」(委員長:平 啓介東大海洋研所長→花輪公雄東北大学教授、事務局:科学技術庁及び運輸省→気象庁及びJAMSTEC)が設けられた。
=>ミレニアム・プロジェクト「高度海洋監視システム(ARGO計画)の構築」最終評価報告書(2005年8月、ARGO計画評価・助言会議)
Argoの科学的意義
 Argoは、以下の課題を解決するための実現性の高い手段であると考えられている。

(1) 海洋表層の観測は、衛星データ(海面水温、海上風、海面高度など)である程度全球的に常時観測が可能となったが、海面下はボランティア船や定置ブイなどの常時観測データの得られる海域がごく限られていて、Argoはその空白域を埋める簡便な観測手段であること。

(2) 北太平洋の十年規模変動は、熱帯太平洋のエルニーニョ、インド洋〜アジア大陸のアジアモンスーンなどの年々変動に大きな影響を及ぼすものとして、気候変動研究の中心的課題となっている。その解明には、表層海水の亜表層・中層への潜り込み現象を理解することが不可欠であるが、モデルでの表現が難しく、直接の観測も難しい。
 Argoはその潜り込みを直接観測する手段ではないが、潜り込みが北太平洋のどの海域で起きているかもまだ絞り込まれていない現状では、Argoで大洋スケールの塩分水温分布を観測し、そこから潜り込みの大要を掴むことが急務なこと。

(3) Argoにより亜表層・中層への潜り込みを理解することは、海洋におけるCO2の収支にも大きく関係し、地球温暖化予測への大きな貢献も期待される。

(4) Argoによって世界の塩分水温プロファイルが得られれば、海洋の蓄熱量が分かって短期的な気候予測にも役立つこと。

自動浮沈型漂流フロート
 フロートは浮力調整エンジン、衛星データ送信機、CTDセンサー、バッテリー等から構成される。
 フロート本体(浮力調整エンジン)は、現在、以下のようなタイプがある。
SOLO型Sounding Oceanographic Lagrangian Observer。スクリプス海洋研(SIO)で開発され、技術仕様が公開されている(設計図・仕様書は有料)。
APEX型Autonomous Plofiling Explorer。米Webb Research社で開発されてきたALACE型(Autonomous Lagrangere Circulation Explorer)、P-ALACE型(Profiling Autonomous Langragian Circulation Explore)の最新版。ワシントン大学が採用しており、同大学はバラスト調整等を独自に行っている。
PROVOR型:a free-drifting hyderographic profiler based on MARVOR technology。仏IFREMER及びMartec社で開発されたもの。MARVOR(ブレトニア語で海馬の意味)の後継機。
NINJA型:鶴見精機で開発中。ダブル・プランジャー方式。
JAMSTEC新型:高精度ギアポンプに高粘性オイルを用いた方式。小型化が可能。

 製造者としては、
・ 米 Webb Research社(APEX型を量産中。Unversity of Wasingtonに技術移転)
・ カナダ METOCEAN Data Systems社(PROVOR型及びSOLO型。同社はMartecグループに統合された。)
・ 鶴見精機(株)(SOLO型又は独自開発のNINJA型)
・ 米 Scripps Institute of Oceanography(SOLO型。少数を供給)
がある。

衛星データ送信システム
 アルゴスオーブコム及びイリジウムがある。
 アルゴス(ARGOS: Argos satellite locatiion and data collection system)は、Argoと紛らわしいが別物。現在4機のNOAA衛星に中継機が搭載されており、フロートからのデータ送信及び測位が可能。NOAA、NASA、CNESが共同運営していて仏アルゴス社でデータ処理が行われ、電話回線でユーザーに配布される。
 2007年から運用開始されるアルゴスIIIは双方向通信、4800bpsとなった。
キュービック・アイ

 オーブコム(ORBCOMM: ORBital COMMunication satelite)は、独自の低軌道衛星シリーズ(高度約800km、2007年現在、35機)を用いるもので、衛星の待ち時間が短い(30分以内)。双方向のデータ送信はアップロード:2400bps、ダウンロード:4800bpsである。オーブコム社は一時期、会社更正法が適用されていたが、現在は問題ないようだ。
 両システムとも、測位にGPSを使用することも可能。

 イリジウムも低軌道衛星(高度約780km、2007年現在、81機)を用いた移動体通信。オーブコムよりもさらに衛星の待ち時間が短い。もとは電話のみだったが、データ通信(2400bpsだが、圧縮通信技術により9600bpsも可能?)も開始された。こちらも業績不振で一時サービスが停止された後、再開されている。
=>イリジウム衛星システムを利用したアルゴフロート

CTDセンサー
 SeaBird製(電極型)、FSI製(電磁誘導型)があるほか、鶴見精機が開発中。SeaBird製は、最近、生物付着防止対策としてTBT(トリブチル・スズ)を用い、3年以上の精度保持について好成績をあげているが、日本周辺のような生物生産の活発な海域での経年変化については、まだ試験が行われていない。

データ配信システム及びデータセンター
 即時データは、世界共通のリアルタイム品質管理の後、GTS(全球気象通信網)を通じて世界で相互に配信される。センターが実施する高度な品質管理を行ったデータ及びデータ同化により得られた時系列・格子点データセットは、主として研究者、研究機関向けにインターネットで提供する。
 国際的には、GTSのほか、世界的なデータの流通促進及びバックアップを兼ねて、ARGOデータセンターにすべてのフロートデータが一度集められ、各国のARGO参加機関(センターを含む)に配信される。これによって、センターは、世界各国のARGOデータの全てを準リアルタイムで受信できることとなっている。
 全球データセンターは、現在、仏IFREMERと米国海軍気象海洋センター(FNMOC)により運営されている。

=>仏Coliolis Data Center米GODAE Argo Page(全球データ)

=>アルゴ計画・日本公式サイトArgo計画リアルタイムデータベース(気象庁)/Argo JAMSTEC(高品質データ)

=>JCOMMOPSArgo Information Center

=>Argo.net

=>Argo Homepage(Argo Project Office、スクリプス海洋研究所)

=>ワシントン大学

=>Webb Research Corporation(米国FalmouthのScience Park内にある。ALACE、PALACE、APEX(水深1500m対応)と進化して、現在はAPEX改良型(水深2000m対応)、グライダー、RAFOSなど。Argosのみに対応)

=>METOCEAN Data Systems社(カナダHalifaxにある。NEPTUNE LS:仏Martecが開発したPROVOR型、NEPTUNE SC:スクリプスが開発したSOLO型。Argos/ORBCOMMの両方に対応)

=>?鶴見精機(SOLO型又は独自型を開発中)

1) 四竈 信行,"中層フロートとアルゴ(Argo)計画",TECHNO OCEAN 2000,Proceedings,2000,Vol.1,p.11-14


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