■半没水双胴型観測船「かいよう」誕生物語

(1985,世界の艦船,8月号など)
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2001年8月5日更新

 「かいよう」は、半没水型双胴船という特殊な船型をした研究船で、当初は300m飽和潜水技術「ニューシートピア計画」のための海中作業実験船として 1985年5月31日に三井造船千葉事業所から海洋科学技術センターに引き渡された。
 ニューシートピア計画の終了後は、海洋観測や地層探査のための研究船として活躍している。

■飽和潜水技術と海中作業実験船

 有人の海中作業には、人間が大気圧(1気圧)の耐圧殻の中から操作するか、又は、スキューバ・ダイビングのように人間が高圧の呼吸ガスを吸うことによって直接水圧にさらされながら作業する方法がある。
 後者の場合、水深の増加につれて減圧症などの問題が増大するため、窒素/酸素ガスの変わりにヘリウムを主体とした混合ガスを用い、長期間を高圧状態のままで過ごす飽和潜水技術が開発されている。

 日本では海洋科学技術センターにおいて「シートピア計画」と称して、海底に居住区画(ハビタット)を設置した飽和潜水実験が1972年から1975年にかけて水深30m及び60mで実施された。
 ところが、ハビタット方式では水深の増大につれてダイバーへのサポートの制約が大きくなるため、船上加減圧室(DDC: Deck Decompression Chamber)内で居住し、水中エレベータ(Submersible Decompression Chamber)で作業場との間を往復する「SDC/DDC 方式」に切り替えられることとなり、そのための海中作業実験船として「かいよう」が建造された。

 「かいよう」は水深300mまでの沿岸域でのスラスタによる定点保持(DPC: Dynamic Positioning System)の能力を持ち、かつ、動揺の少ない船型として半没水型双胴船型(SSC: Semi Submerged Catamaran、別名 SWATH: Small Waterplane Area Twin Hull)が採用された。
 SSC は、それまで米海軍の Kaimalino(190総トン)、日本のシーガル(670総トン)など数隻の建造実績があるのみで、それらを大幅に上回る 2,849総トンという外航の可能な大型 SSC は「かいよう」が初めての試みであり、この建造経験を元に、その後、自衛隊の海中音響計測艦や海外の大型旅客船が建造されている。

 この船型は前進速度が増大するにつれてダウントリムになる傾向があるため、ロワーハルの前後内側にフィン(固定)が装備されている。
 当初の計画では、シートピア計画の終了後、ただちに普通の単胴船型の海中支援船が建造される構想だったが、「しんかい2000」/「なつしま」システムの建造が先となってしまった。このため、海中支援船の建造計画が大幅に遅れ、船上のSDC/DDCシステムだけが先に建造され、そのあと、「かいよう」の建造となった。
 その間、深海調査ニーズの高まりとともに、日本初のマルチナロービーム音響測深機及び「ドルフィン-3K」母船としての機能も要求されたため、動揺性能と海中雑音低減の観点から、世界初の外洋航行可能な半没水型双胴船型が採用されることになったもの。

■船酔いとクラック
 「かいよう」の特徴として、半没水型双胴船型による動揺の少なさがあるが、といっても、波長の長いうねりの中では大きく揺れるそうである。それも単胴船とは揺れ方が随分違うそうで、「かいよう」に初めて乗りこんだ機関長が生まれて初めて酔ったというエピソードがある。
 2つのロワーハルを繋ぐ連結甲板下面から海面までのクリアハイトは3.5mであり、有義波高が3mを超えると底打ちが始まること、風圧面積が大きい船型であること、船速が遅いことから、実際には外洋向きとは言い難く、沿岸での定点保持実験に最適な船型選択だった。しかし、それにもかわらず、赤道域のエルニーニョ観測などに何度も従事している。

 未経験な特異船型であるため、就航後しばらくは船体構造にクラックが発見され、補強されている。船体連結部の下を覗き込めば、その補強の跡が分かる。

■水中雑音
 DPS は8基ものサイド・スラスタと2基の主推進器で実現されている。これらは、ディーゼル発電/電気推進方式となっている。
 発電機は上甲板上に置かれており、水面下は電気モーターだけなので、水中放射雑音が少ない利点があり、当時、米国SeaBeam社のマルチナロービーム音響測深機が国内では初めて搭載された。
 しかし、最近の観測船に比べて、水中放射雑音は別として、発電用ディーゼルが4基、上甲板上に搭載されていることもあり、「かいよう」の船内は随分うるさい方である。

■海洋観測船へ
 エルニーニョ現象や地球温暖化など、地球規模の気候変動現象の解明・予測という社会的ニーズの高まりに伴い、海中作業実験船としてよりも、海洋観測船として赤道太平洋の観測に従事することが多くなった。「かいよう」には気象衛星観測データの洋上での受信能力も備えていて、衛星観測と連携した海洋観測の先駆者でもある。

■マルチ・チャンネル、OBS
 その後、最近、SDD/DDCが撤去され、マルチチャンネル反射法地震探査システム(MCS)(3D wide-angle OBS survay対応、24ch、1500 cui×4×2本(同時発信))や、100台の自己浮上型海底地震計(OBS)による屈折法地震探査など、海底下深部の構造探査能力の向上が図られている。

■ハイパー・ドルフィン
 さらに、高感度ハイビジョンTVカメラ(新スーパーハーブ)を搭載し重作業用ROVである「ハイパー・ドルフィン」を搭載し、浅海で地殻構造探査を行う際に、漁業者に配慮して、音響切り離し装置とシンカーを海底に残さないOBS展開・回収も可能となっている。


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