■「むつ」からの改造について

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2004年9月21日更新

●新しい外観
 1994年に来日した仏新鋭観測船 L'Atlante の船内は大胆で洒落た色彩が使われており、未来の観測船としてのイメージを存分に表現していた。「みらい」ではどうするか議論があったが、多数の流用扉や家具がネックとなり、船内全般について斬新な色彩を取り入れることは断念した。

 ”未来”のイメージカラーとしてはブルーがよく使われる。そのアクセントカラーであるイエローは初夏の下北半島の菜の花畑を思い起こさせる。この2色を「みらい」のイメージカラーとし、これを本船の中枢である調査指揮室に適用した。
 大会議室については「むつ」時代の士官食堂の雰囲気を残すという方針があったが、「むつ」時代を知る者が少ないため、以前の雰囲気を残した現代的な役員会議室というイメージに方針を修正した。
 研究室の扉の色については、広い船内での識別も兼ねて、衛星・大気関係は空を表わす明るい青、海水・生物関係はクロロフィルを表わす薄緑、固体地球物理関係はマグマを表わすオレンジとし、その色調も揃えるようにしたが、その他の流用扉の色がまちまちのため、通路の印象としては統一性のないものになってしまった。
 本船の正面玄関である上甲板入り口について、自然との調和をイメージさせることができないか検討を繰り返したが、流用という制約のもとで、結局、28年前と同じ状態とすることが最も自然であるということになった。

 「みらい」の船体色については、海洋科学技術センターの船舶は白と青に統一されているが、母港である関根浜港に着岸した右舷からの姿がコンピュータグラフィックスでは寒々とした印象を受け、また、船体の前後部がかさばって締まりのない印象を受けることから、マストやクレーン類を濃い目のクリームイエローとすることになった。左舷からの姿では煙突のオレンジ色も加わるため、やや雑然とした印象を受けるかもしれない。

●改造のメリットとデメリット
 「みらい」は旧「むつ」を流用したことで、必ずしも理想的な設計とは言えない点があったことは否定できない。
 例えば、深いV型という古い船首形状は、最近のU型船型と比べれば造波抵抗や水中雑音の面で不利である。しかしながら、荒天中や氷海中での観測を考えれば水中音響機器の障害となる気泡や氷片が船底に滞留しにくい点で有利でもある。このため、前部船体のラインズはまったく変えることなく流用した。その証拠として、船首部の「みらい」の船名表示の下に「むつ」の文字がうっすらと残されている。

 余り知られていないが、「むつ」は当初、原子力海洋観測船として計画され、1967年に特殊貨物船に仕様変更された際にも船型の修正が最小限に留められている。このような経緯がなければ、これほど広範な船体流用はできなかったかもしれない。
 このほか、「むつ」から流用した艤装品は約千点に及ぶ。研究上の要求にできるだけ応えるには、流用して安上がりに済むものは流用せざるを得ないという実情もあったが、このように積極的に流用してきたのは、今後、「みらい」を訪れる人たちにこの船の目的とする地球環境の重要性を理解してもらううえでも大きな意味があると考えたからである。

 工事中は、多機能な観測船ゆえに必要となる大量の電線、配管、ダクト類に対して、デッキハイトの確保や、ダクト内の空気流による騒音低減のため、造船所関係者の大変な努力があった。また、前部船体と後部船体とが異なる造船所で改造されるに当たって、例えばバラスト管の防蝕仕様が異なれば大きな問題になりかねないため、社内秘とされる造船所プラクティスまでも統一するなどの努力があった。
 その間、海洋科学技術センターの各研究者はもとより、寶田直之助横浜国立大学元教授、旧「むつ」の渡辺卓嗣元機関長、東大海洋研「白鳳丸」の村田三雄元機関長ほか優れた専門家も参画して多くの問題を解決してきた。

 1996年10月には地球変動研究を大幅に強化する新しい研究体制として「地球フロンティア研究システム」が発足した。これは国内だけでなくアラスカ及びハワイにも研究センターが設けられるなど、国内及び国際的な協力体制のもとで研究が推進されることとなっている。
 以上のように、「むつ」誕生の経緯、関係者の熱意と努力、そして、地球科学の進展により本船の目的をある程度絞り込めるようになってきたことにも助けられ、「みらい」への改造は当初考えられた以上に大きな成功を収めたと考えている。

 海洋地球研究船「みらい」は、その後約1年間の慣熟運転ののち、1998年秋より本格的な研究運航を開始した。この船が本領を発揮するまでに、まだまだ試行錯誤を経る必要があるが、そのユニークな面が十分に活用されるようになることを強く願うものである。


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