■「ちきゅう」案内

間違っているかもしれない掘削用語

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2004年11月9日更新

■「ちきゅう」の構造
 ●全体
 まず「ちきゅう」を離れたところから眺めよう。全長210mの白い船体。掘削船で全長が世界一なのは"Discoverer Deepseas","Discoverer Enterprise","Discoverer Spirit"の三姉妹船の254.5m。
 幅は38m。パナマ運河を通航可能な幅32.3mを超えている。満載喫水は9.20mで、主要な港湾(水深10m)には入港可能。満載喫水線から上甲板までの高さ(乾舷)は7m。
 総トン数が約57,500トン(貨物船の尺度なのであまり意味はない)、満載排水量が59,500トン。掘削船の尺度であるVariable Load(載貨重量のようなもの)が25,000トン(metric ton)で現在のところ世界一。2位は小説などによく登場する"Glomar Exploler"の23,899 metric ton。

 中央に青く塗られたデリック(掘削やぐら)が立っており、水面(満載喫水線)から航空灯の先端までの高さが118.4mでスエズ運河を通行可能な高さ70mを超えている。おそらく現在のところ世界一。参考に、大阪の通天閣が103m、神戸ポートタワーが108m、横浜のマリンタワーが106m、サターンVロケットが110.64mである。
 デリックの前後はドリルパイプ、ケーシング、ライザー管の置き場になっており、その付近に黄色く塗られた4つのナックル・ブーム・クレーン(前部2基が45トン、後部2基が85トン)がある。前部パイプ置き場の前には6階建ての甲板室があってラボ区画と居住区画に分かれている。ドリルフロアーと前部甲板室との間には採取したコアを運ぶためにキャットウォークがある。最前部にヘリデッキがある。船員や研究者の交代は原則ヘリによる。

 ●機関部
 海面下なので見えないが、前部と後部の船底にそれぞれ3台ずつのアジマス・スラスタがぶら下がっている。後部の2基(固定式)を除く4基のアジマスは船底からぶら下がった形に突き出ている(突出量4.935m)ので、入港時には船内まで引き揚げられる。つまり出入港時は2基の固定式アジマスと船首のサイドスラスタ(トンネル式)で航行する。昇降式アジマスは、メンテ時にはクレーン船で完全に上に引き抜くことができる。
 アジマス1ユニットの重量は160トン(うち電気モーター20トン)。出力4200kW、プロペラ直径3.8m、4翼、固定ピッチ、ダクト外径4.668m。
 アジマスに供給する電気は、主発電機5000kW×6基、補助発電機2500kW×2基が作る。主発電機の原動機はADD型ディーゼル(三井ADD3V、12気筒、出力5270kW/7170PS、720rpm、シリンダ内径300mm、ストローク480mm)

 ●掘削部
 デリックは、正確には掘削作業を行うドリルフロアーより上の部分を言う。ドリルフロアーは甲板室の屋上と同じレベル、すなわち、上甲板から21.3mの高さにある。それより下の部分、すなわちドリルフロアーを支える構造物をサブストラクチャーという。ちょうど東京タワーやエッフェル塔の脚のようなもの。
 デリックといえば船のデリッククレーンを思い浮かべるが、掘削やぐらが本来の意味。デリックは今でも溶接ではなくボルト締め構造である。これは溶接歪みで組立て精度が悪くならないようにとの考え方だが、陸上の油田のデリックが井戸を変える際にバラして運べるようにボルト絞めとなっていることに引きずられている気もする。

 デリックの頂部を見上げると、クラウン・ブロック(固定滑車)があり、そこからトラベリング・ブロック(移動滑車)が吊り下げられている。クラウン・ブロックに働く荷重(クラウンロードという)は12,258kN(1,250t)、トラベリング・ブロックで吊り下げ可能な荷重(フックロードという)は11,768kN(1,200t)。滑車の数は8枚、つまりケーブルには1/16の荷重が掛かる。クラウン・ブロックはドリルストリングスの上下動を緩和するためにCMC(クラウン・マウント・ヒーブ・コンペンセータ)のシリンダーに支えられている。CMCが乗っているデリック頂部の平坦部をウォーターテーブルという。
 「ちきゅう」のCMCは上下加速度を積分して変位を求めてアクティブ制御でドリルストリングスの上下動を減らす高度なもの(普通の石油掘削船はパッシブ)。

 デリック内の設備としては、まずドリルストリングスに回転を与えるモーターであるパワースイベル(またはトップドライブ)とそのガイドレールがある。パワースイベルはトラベリング・ブロックで吊り揚げられる。
 ドリルストリングスはパワースイベル、トラベリング・ブロック、クラウン・ブロックを介してワイヤーケーブルで吊るされる。その巻き上げ専用の特別なウィンチをドローワークスという。

 「ちきゅう」のパワースイベルは風変わりな運用がされる。普通のリグではトラベリングブロックの下にパワースイベルが接続された状態でドリルストリングスのハンドリングもライザーとBOPのハンドリングも行う。しかし、「ちきゅう」の場合はライザーとBOPの総重量が大きくてパワースイベルを接続したままでは吊り上げ能力を超えてしまう。このため、ライザーとBOPのハンドリング時はパワースイベルをトラベリングブロックから取り外して退避場所に移し、トラベリング・ブロックで(ライザー・ランニング・ツールを介して)直接ライザー管+BOPを吊る。

 デリック内部には1本のドリルパイプを4本繋いだもの(パイプスタンドという)やケーシングパイプを3本繋いだものがあらかじめ何十本も立ち並んでいる。これらはフィンガーボードとベリーボードという櫛状の装置で保持される。
 ドリルパイプやケーシングをハンドリングする黄色い巨大なロボットアームであるパイプ・ラッキング・システム(商品名:ハイドラ・ラッカー)が2台ある。ハイドラ・ラッカーのアームをピックアップ・エレベータと呼ぶ。

ドリルフロアー
 ドリルフロアー面には、ドリルパイプなどを一時的に支えるロータリーテーブルがあり、その中央に主ウェルが開いている。ドリルパイプはネジ結合になっており、そのネジ締めに使うハイドローリック・ラフネック(別名アイアン・ラフネック)、ケーシング用のケーシング・パワー・トングがある。温室が鳥かごの中に入ったようなのがドリラーズ・ハウス(ドッグ・ハウスということもあるらしい)。この中でドローワークスやハイドラ・ラッカーなどの掘削機器を操作する。

 「ちきゅう」のデリックは、将来の拡張性として、吊り下げ設備を現在のものの前方にもう1セット装備できるようになっており、その真下のドリルフロアー上に補助ウェルがある。補助ドリラーズハウスもある。

 デリックの前後には逆V字状の開口があり、それをVドアーという。

ムーンプール・エリア
 ドリルフロアーの下を覗いてみると、まず、上甲板から船底まで貫いた矩形の開口部が見える。これにはムーンプールというロマンチックな名前がついている。波のある海上でもムーンプール内の水面は月が映るほど波静かだからとのこと。
 ドリルフロアーの裏(下面)にはダイバータという一種の安全弁のようなものがあり、そこからライザー管がぶら下がっている。ライザー管はやはりドリルフロアーの裏からぶら下がっている6本の巨大なシリンダー(ライザーテンショナーという)で引っ張られた状態に保たれている。
 「ちきゅう」のBOP(暴噴防止装置)は380トンという巨大なものである。

■掘削船の中の動物
ドッグ・ハウス」:ドリラーズ・ハウスのこと。
モンキー・ボード」:デリックの上の方の作業プラットフォーム。「ちきゅう」の場合はシンカーバー・プラットフォームと呼ぶ。
マウス・ホール」:コアバーレル等のパイプ類を一時的に保管
スパイダー」:ライザー管を一時的にドリルフロアー上のロータリーテーブル上に吊るすためのもの。ジンバルとペア。
キャットウォーク」:ドリルフロアーに通じる渡り廊下。

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