中央に青く塗られたデリック(掘削やぐら)が立っており、水面(満載喫水線)から航空灯の先端までの高さが118.4mでスエズ運河を通行可能な高さ70mを超えている。おそらく現在のところ世界一。参考に、大阪の通天閣が103m、神戸ポートタワーが108m、横浜のマリンタワーが106m、サターンVロケットが110.64mである。
デリックの前後はドリルパイプ、ケーシング、ライザー管の置き場になっており、その付近に黄色く塗られた4つのナックル・ブーム・クレーン(前部2基が45トン、後部2基が85トン)がある。前部パイプ置き場の前には6階建ての甲板室があってラボ区画と居住区画に分かれている。ドリルフロアーと前部甲板室との間には採取したコアを運ぶためにキャットウォークがある。最前部にヘリデッキがある。船員や研究者の交代は原則ヘリによる。
デリックの頂部を見上げると、クラウン・ブロック(固定滑車)があり、そこからトラベリング・ブロック(移動滑車)が吊り下げられている。クラウン・ブロックに働く荷重(クラウンロードという)は12,258kN(1,250t)、トラベリング・ブロックで吊り下げ可能な荷重(フックロードという)は11,768kN(1,200t)。滑車の数は8枚、つまりケーブルには1/16の荷重が掛かる。クラウン・ブロックはドリルストリングスの上下動を緩和するためにCMC(クラウン・マウント・ヒーブ・コンペンセータ)のシリンダーに支えられている。CMCが乗っているデリック頂部の平坦部をウォーターテーブルという。
「ちきゅう」のCMCは上下加速度を積分して変位を求めてアクティブ制御でドリルストリングスの上下動を減らす高度なもの(普通の石油掘削船はパッシブ)。
デリック内の設備としては、まずドリルストリングスに回転を与えるモーターであるパワースイベル(またはトップドライブ)とそのガイドレールがある。パワースイベルはトラベリング・ブロックで吊り揚げられる。
ドリルストリングスはパワースイベル、トラベリング・ブロック、クラウン・ブロックを介してワイヤーケーブルで吊るされる。その巻き上げ専用の特別なウィンチをドローワークスという。
「ちきゅう」のパワースイベルは風変わりな運用がされる。普通のリグではトラベリングブロックの下にパワースイベルが接続された状態でドリルストリングスのハンドリングもライザーとBOPのハンドリングも行う。しかし、「ちきゅう」の場合はライザーとBOPの総重量が大きくてパワースイベルを接続したままでは吊り上げ能力を超えてしまう。このため、ライザーとBOPのハンドリング時はパワースイベルをトラベリングブロックから取り外して退避場所に移し、トラベリング・ブロックで(ライザー・ランニング・ツールを介して)直接ライザー管+BOPを吊る。
デリック内部には1本のドリルパイプを4本繋いだもの(パイプスタンドという)やケーシングパイプを3本繋いだものがあらかじめ何十本も立ち並んでいる。これらはフィンガーボードとベリーボードという櫛状の装置で保持される。
ドリルパイプやケーシングをハンドリングする黄色い巨大なロボットアームであるパイプ・ラッキング・システム(商品名:ハイドラ・ラッカー)が2台ある。ハイドラ・ラッカーのアームをピックアップ・エレベータと呼ぶ。
(ドリルフロアー)
ドリルフロアー面には、ドリルパイプなどを一時的に支えるロータリーテーブルがあり、その中央に主ウェルが開いている。ドリルパイプはネジ結合になっており、そのネジ締めに使うハイドローリック・ラフネック(別名アイアン・ラフネック)、ケーシング用のケーシング・パワー・トングがある。温室が鳥かごの中に入ったようなのがドリラーズ・ハウス(ドッグ・ハウスということもあるらしい)。この中でドローワークスやハイドラ・ラッカーなどの掘削機器を操作する。
「ちきゅう」のデリックは、将来の拡張性として、吊り下げ設備を現在のものの前方にもう1セット装備できるようになっており、その真下のドリルフロアー上に補助ウェルがある。補助ドリラーズハウスもある。
デリックの前後には逆V字状の開口があり、それをVドアーという。
(ムーンプール・エリア)
ドリルフロアーの下を覗いてみると、まず、上甲板から船底まで貫いた矩形の開口部が見える。これにはムーンプールというロマンチックな名前がついている。波のある海上でもムーンプール内の水面は月が映るほど波静かだからとのこと。
ドリルフロアーの裏(下面)にはダイバータという一種の安全弁のようなものがあり、そこからライザー管がぶら下がっている。ライザー管はやはりドリルフロアーの裏からぶら下がっている6本の巨大なシリンダー(ライザーテンショナーという)で引っ張られた状態に保たれている。
「ちきゅう」のBOP(暴噴防止装置)は380トンという巨大なものである。