■ライザー掘削入門

間違っているかもしれない掘削用語

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2004年11月9日更新


■掘削方法その1(ライザーレス掘削)

 地中を掘り進むというと、ジェットモグラーや轟天号のように円錐型の螺旋ネジで掘る光景が浮かびますね。ところがそうやって地層を周りに押し広げていく方法だと、地層が固くなるにつれで押し広げられなくなる。だから、削り屑(「カッティングス」という)をどんどん後ろに放り出しながら掘らないといけない。

 トンネル工法に使う「シールドマシン」と原理的には同様だが方式はだいぶ違う。どうしているかというと、中空のパイプ(ドリルパイプという)の先に掘削刃(ビットという)の付いたものを回転させながら地層を削る。ビットはドリルパイプの外径よりも大き目の穴を掘る。掘りながらパイプ内に船上から海水を注入し続ける。海水はパイプの先端から地層内に出て、穴とドリルパイプの間を通って海底面に放出される。その際にビットを冷却しカッティングスを運び去る。カッティングスは海水とともに海底面に排出されるわけ(「海水掘り」と言ったり「ライザーレス掘削」という。)。

 ドリルパイプは1本の長さが約9m。それが何十本も繋がれ、最長で10km(ライザーレスでそこまでは無理だが)にもなる。これら全体を「ドリルストリングス」という。科学掘削用のビットは中空部分の径がより大きくなっていて、穴を掘ると柱状の試料が取れる。ドリルパイプの穴は柱状試料(コア・サンプル)の採取容器(コア・バーレルという)の通り道にもなる。コアバーレルは一度に長さ約9m、直径2.875インチ?のコア試料を回収できる。

■掘削方法その2(ライザー掘削)
 地層の中は、特に海底面から浅いところでは沢山の空隙があり、そこに水や油やガスがある。
 さて、海底に穴を掘ると、穴の中の圧力は、だいたいその深さに相当する水圧と同じになる。これを孔内圧力(石油業界では「孔」の代わりに「坑」の字を使う。以下同じ)という。一方、地層の隙間の水やガスは、地層の重量も加わるのでより高い圧力となっている。これを地層圧(Formation Pressure, Pore Pressure, Fluid Pressure)といい、間隙水圧に等しい。

 海底下の掘削深度が深くなるにつれて、孔内圧力と地層圧とのギャップが大きくなり、地層内の水や油やガスが孔内に浸入するようになる(これをキックという)。ひどくなると掘削穴が壊れて埋もれてしまう。掘削穴が壊れなくても、穴が深くなるにつでてカッティングスが海底面の外に排出されにくくなり、ついには掘削穴がカッティングスで埋まってしまう。このため、海水の代わりに比重が2以上で粘性のある特殊な流体を用いる。これを「泥水」(「どろみず」ではなく「でいすい」と読む)というが、ただのドロ水ではないノウハウの塊のような流体なのである。

 泥水の比重は、常に穴の底での地層圧よりも泥水圧が高くなるように設定する。ただしあまり高くしすぎると、今度は泥水が地層内に逃げてしまう(逸泥という)。その限界圧力を地層破壊圧(Formation Fracture Pressure)=地層破砕圧力という。従って、泥水圧が地層圧より高く、地層破壊圧よりも低くなるよう泥水比重が設定される。
 泥水には孔内圧力と地層圧力のギャップを埋めるだけでなく、泥水の粘性によって削り屑を効率的に排出し、泥水のマッドケーク効果によって掘削壁面が崩れにくくなる効果もある。

 さて、注入した泥水を削り屑とともに海底面に排出していたのでは金がいくらあっても足らない。このため、泥水を船上まで回収して循環使用できるように、ドリルパイプの周りにもうひとつパイプを設けて2重管方式にする。この外側の管を「ライザー管」という。ドリルパイプの中を泥水が降下し、帰りはドリルパイプの外側、ライザー管とドリルパイプの間(このドーナッツ状の部分をアニュラーという。)を削り屑と一緒に泥水が上昇するわけである。これを「泥水掘り」とか「ライザー掘削」という。

 ライザー掘削にはほかにもいくつか仕掛けがいる。まず海底下数百mまで海水掘りで進んだ後、掘削孔が崩れないように「ケーシング」(ケーシングパイプ)という太めのパイプを挿入し、海底面には「ウェルヘッド」を置き、その上に噴出防止装置(暴噴防止装置)「BOP:Blow Out Preventer」を設置する。そのうえで船とBOPをライザー管で結ぶのである。BOPにはシアーラムというドリルパイプを切断し孔を閉鎖する油圧駆動の装置などが組み込まれている。

 ここで海底掘削が地上掘削よりも難しい大きな問題がある。地上掘削では掘削孔の底で泥水圧を地層破壊圧より低く設定すれば、かなりの距離にわたって掘削孔は安定している。一方、海底掘削では掘削孔の底で泥水圧を地層破壊圧以下に設定しても、穴の浅い方で泥水圧が地層破壊圧を超えて逸泥を生じてしまう。以下の絵を見て欲しい。

 地上掘削では地層圧と泥水圧が同じように直線的に増加するが、海底掘削では地層圧の線が海底面で折れ曲がるため、どうしても泥水圧とのギャップがどこかで大きくなってしまう。具体的には、ケーシングと裸孔の境目(「ケーシング・シュー」。たまに「シュー尻」ということも。)で逸泥が起きやすい。このため、早めにケーシングを延長していく必要がある。
 ここで困るのは、前に設置したケーシングの先に新しいケーシングを延長するためには、前のケーシングより径の小さいケーシングを投入する必要があるということである。これを繰り返していくと、ケーシングの径がどんどん小さくなってしまい、ついにはビットが入らなくなってそれ以上深く掘ることができなくなる。このように海底掘削では陸上掘削よりも遥かに難しい孔内制御が必要となる。

 ●ライザー掘削時の現象
 海底掘削してシャローガスにぶつかった場合、まだライザーレス掘削中であればあまり問題はない。監視中のROVで掘削孔から泡の上昇が観察されれば(サブシー・ブローアウトという)、上昇につれて巨大化する泡にまともにぶつかったり、炭化水素や硫化水素のガスに取り巻かれないよう、海流や風を考えて船の位置をずらす。
 掘削海域の水深が350m以上だと、上昇するガスが海中で拡散して船への危険は少ないといわれている。

 問題はライザー掘削に入ってからガス層にぶつかった場合である。たちまちライザー管をガスが上昇し、ライザー管は空になって水圧をもろに受けるようになる。それだけでなくガスが掘削船上を襲うことになる。

 実際にはそういうことが起きないように、まずはキックを起こさないよう、戻ってきた泥水内のガス成分などをモニターして泥水の比重などを調整する。それでもキックが起き始めて、戻ってくる泥水流が増加し、あるいはガス混じりの泥水が戻ってくるようになると、BOP内のパイプ・ラムでアニュラー部分を閉じ(「シャットイン・ウェル」という)、またドリルパイプ上端のインサイドBOPも閉じてガスの上昇を阻止し、そのうえで泥水を調整してキックを押さえ込む(「ウェルコントロール」という)。シャットインした後でもドリルパイプやキル&チョークラインという管から重泥水(いよいよとなればセメント)を注入したり、ガス抜きしたりすることができる。

 BOP閉鎖が遅れてガスなどがライザー管を上昇した場合には、ライザー管の上端、ドリルフロアーの下にあるダイバーターという一種の安全弁を切り替えて、ガス混じりの泥水をマッドガスセパレータに導き、そこで分離されたガスはデリック頂部から大気中に放出される。マッドガスセパレータの能力を超える場合は、ダイバータから即、ドリルフロアー下の船側・風下側に放出する。「ちきゅう」の場合は右舷30度方向から風が来るように操船することとしているので、ダイバータからのガスはドリルフロアー直下の左舷側に放出される。

 キックやブローアウトを押さえ込むには単に泥水の比重を上げればよいというものではない。泥水圧が大きくなりすぎると地層の弱いところやケーシング・シューあたりで逸泥が起こる。逸泥に対してはLCM (Lost Circulation Material)という逸泥防止剤を投入する。逸泥すると単に泥水が失われていくというだけではない。泥水面が降下して泥水圧が低下し、キックを起こしやすい。逸泥とキックが同時に起きている場合のウェルコントロールが一番難しく、しかも、そうなりがちだという。

 逸泥がもっとひどくなるなると、孔内に侵入した石油やガスがケーシングの外側を通って海底面に噴出するサブシーブローアウトを起こす。海底下深くの巨大なガス層などでサブシーブローアウトを起こすと、ライザーレス掘削時のシャローガスどころではなく大変なことになる。
 例えば、まだ掘削深度が浅いなど地盤が軟弱な場合は、キックが起きたからといってBOPを閉鎖すると孔内圧力が上がりすぎて逸泥を生じてしまう恐れがあり、そんな場合には、わざとBOPを閉鎖せず、ダイバータからガスを放出させたままでウェルコントロールを行うこととなる。これは結構危ないオペレーションである。

 シャットインした場合でも、孔内に侵入したガスはどこかに逃がさざるを得ない。BOPからチョークラインを通してマッド・ガス・セパレーターを経由してデリックのてっぺんから大気中に放出する。

 シャットインが正常に行われないと非常に危険なので、シャットインの方法として、何重もの対策が用意されている。通常の方法としてはBOPに2段のアニュラーBOP、2種類のシアー・ラム、3種類のパイプ・ラムがあり、その作動(油圧)のためのアキュムレータ(高圧エアボトル)は船上とLMRP内に設けられており、船上制御装置はUPS(無停電装置)でバックアップされており、電気信号の伝達には2重の光ファイバー多重送信(MUXケーブル)によっている。
 ライザー管がちぎれた場合など信号伝達に異常があったでも作動させるように音響信号バックアップシステムがある。それもダメな場合の最後の手段として、ROVのロボットアームでBOPのパネルを直接操作する方法が用意されている。

 さて、ウェル・コントロールを開始してからの行く先としては4つに分かれる。

i)回復
 ウェル・コントロールに成功すれば、掘削を再開する。

ii)孔井の放棄
 いくらウェウコントロールしても回復する見込みがない場合は、孔井を放棄する。
 この場合は、まず孔井が完全にシールされるようにドリルパイプからセメントを注入する。次に可能ならドリルストリングスを船上に引き上げ、ライザー管内の泥水を海水に置換する。そのうえでBOPをウェルヘッドから切り離してライザー管とBOPを船上に回収する。さらにウェルヘッドなどもケーシングから切り離して回収する。この場合はコントロールされている状態なので「ブローアウト」とは言わない。

 ちなみに、ライザーをBOPから切り離すと、ライザー管が船からぶら下がる「ライザー・ハングオフ」という状態になる。この状態で荒天になるのがライザー管の設計条件上、一番厳しい。つまり船の上下動(ヒービング)でライザー管に自励振動が起きる−ライザー管が踊る−場合がある。想定し得る海象条件でそういう状態にならないよう、あの巨大な船体寸法が決められている。

iii)ブローアウト
 石油やガスの流出を制御できない状態になった場合、具体的には圧力が限界を超えた場合、設備類に重大な故障・損傷があってウェルコントロールできなくなった場合、泥水材料が尽きた場合、可燃性ガスが機関室に吸気される恐れが生じるなど原動機を停止する必要が生じた場合などには、ブローアウトと判断され、ただちにライザー管をBOPから緊急切り離し(エマージェンシー・ディスコネクト)し、同時に乗船者全員を退避場所(テンポラリーリフュージ)に非常招集する。
 非常切り離しは、ドリラーズ・ハウスなど重要な場所にEDS(エマージェンシー・ディスコネクト・シーケンス)ボタンがあって、これを押すとあとは自動的に切り離しが行われる。

iv)別の原因での緊急切り離し
 ブローアウトの段階に至らなくとも、これとは別にダイナミック・ポジショニングであるがゆえのリスクがある。DPSの故障、一時的なトータルブラックアウト(全船的な停電)、海象条件の予期せぬ悪化、他船との衝突回避などのために位置保持できなくなった場合(「ドリフト・オフ」という)、DPSが暴走した場合(「ドライブ・オン」という)である。

 この場合、あらかじめ設定されている危険円を超えるとDPオペレーターがEDSボタンを押す。ただちにシアーブラインド・ラムが閉じ始める。たまたまその時にコネクタ部分(ツールジョイントと言う)がラム位置にあるとドリルパイプが切れないが、引きちぎる(ドリルストリングスの大部分が失われる)。そういうことが生じないよう、ツールジョイントの位置を常に把握し、切迫した状態になる前にドリルストリングスを少し持ち上げる。あとはブローアウト時と同様。


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