●ジェームズ・ラブロックとは?

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2007年5月19日更新

 ジェームズ・E・ラブロックは、1957年、ガスクロマトグラフでハロゲン化合物を検出するための電子捕獲型検出器(ECD)を発明。それを用いて、DDTやPCBやフロンが地球規模で広がっていることを明らかにしました。これは、レーチェル・カーソンの「沈黙の春」(1962年)に客観的データを提供して環境保護運動が強まるきっかけを与えました。またフロンが精度よく測定できるようになったという点で、オゾン層破壊の問題にも貢献したといえます。

 さらに、硫化ジメチルDMSやヨウ化メチルなどイオウやヨウ素の海洋−大気−陸域間の循環を発見し、地球生化学(geo-bio-chemistry)という学問分野を確立した立役者と言ってもいい人です。海洋生物を起源とする硫化ジメチル(DMS)は大気中で、雲の凝結核となることから気候変動研究でも大いに注目されている物質です。

 ラブロックは研究スタイルの点でもユニークな人だったようです。専門分野に分化されていた既存のアカデミズムから距離を保ち、都会を離れて豊かな自然の中で暮らす生活を続けながら、領域を横断して仮説を自由に発展させる研究スタイルは、仮説と実証の積み重ねを重視する側からの批判にもよく晒されたようです。

 ラブロックは、1997年に第5回ブループラネット賞を受賞していますが、その受賞理由は彼がどんな人であったかをよく言い表していると思います。現在でも健在、というより劇的な心境の変化が訪れたようです。

1919・英ハートフォードシャーで生まれる。子供の頃はH. G. ウェルズとジュール・ヴェルヌの小説が好きだった。
 ・ロンドンのスプランド学校卒業。
 ・働きながら夜間学校 Birbeck College を卒業。
1941・マンチェスター大学を卒業。
・ヘレン(Helen Mary Hysop)と結婚。その後2男、2女をもうける。
1941-63・ロンドンの国立医学研究所に在籍。
1948・London School of Hygiene and Tropical Medicine で薬学博士号(PhD Medicine)を取得
1954・ロックフェラー奨学生としてハーバード大学薬学部で研究。
1954-55・エール大学で教鞭をとる。
1956・ECD(電子捕獲検出器)を発明する。
Lovelock, J.E. 1958. A sensitive detector for gas chromatography. Journal of Chromatography, l, 35-46.
1958-59・ハーバード大学で教鞭をとる。
・エール大学 Medical School の客員研究員。
1959・ロンドン大学で生物物理学博士号(PhD Biophysics)を取得
1961-63・ベイラー大学 College of Medicine の教授。
1961・家族5人でヒューストンに移動。
・NASAのジェット推進研究所JPL顧問としてバイキング計画(火星生命探査)で使用する生物用実験器具の設計を請け負う。JPLではカール・セーガンと同室。リン・マーギュリスと共同研究を開始。
・その頃、火星大気の分光分析により火星には生命が存在しないことを同僚ダイアン・ヒッチコックと発見。
Lovelock, J.E. 1965. A physical basis for life detection experiments. Nature, 207, No. 4997, 568-570.
Hitchcock. D.R. and Lovelock, J.E. 1967. Life detection by atmospheric analysis. Icarus, 7, 149-159.
1964・家族5人は英国に帰国。南中央イングランドのウィルトシャーにあるバウアチョークに住む。NASA顧問を継続。
1969・英国のノーベル賞作家ウィリアム・ゴールディングの薦めで「ガイア」と名づける。
1971・大気に関するゴードン会議でディナースピーチとして「大気を通してみるガイア」を発表。
Lovelock, J.E. 1972. Gaia as seen through the atmosphere. Atmospheric Environment, 6, 579-580.
1971-72・英調査船「シャックルトン号」で南極まで航海し、ECDによりフロンガスの大気中の蓄積を証明。Natureに発表。
Lovelock, J.E., Maggs, R.J. and Wade, R.J. 1973. Halogenated hydrocarbons in and over the Atlantic. Nature, 241, No. 5386, 194-196.
1972・「ガイア仮説」をまとめる。
Lovelock, J.E., Maggs, R.J. and Rasmussen, R.A. 1972. Atmospheric dimethyl sulphide and the natural sulphur cycle. Nature, 237, No. 5356, 452-453.
Lovelock, J.E. and Margulis, L. 1974. Atmospheric homeostasis by and for the biosphere: the Gaia Hypothesis. Tellus XXVI, l-10.
1973・フロンガスが生物学的に分解されずに大気中に蓄積することをNatureに発表。危険性が生じるとは考えられないと記載。
1975・ガイア論の共鳴者による論文「ガイアの探求」がメディアの注目を浴びる。
1979・最初の著書「地球生命圏−ガイアの科学」の出版。世界中で大反響を巻き起こす。
1981・モデル「デイジーワールド」を作成
Watson, A.J. and Lovelock, J.E. 1983. Biological homeostasis of the global environment: the parable of Daisyworld. Tellus, 35B, 284-289
・1億年後には現在の生物圏の状態が保持できないことをマイケル・ホイットフィールドと推定。
Lovelock, J.E. and Whitfield, M. 1982 The life span of the biosphere. Nature, 296, No. 5857, 561-563.
1984・マイケル・アラバイとの共著でSF小説「火星の緑化」を出版。
1986・海藻由来の硫化ジメチルDMSが雲の形成に関係していることを発見(シアトルの同僚との共同研究)
1988・米地球物理学連合AGU主催「ガイア理論についてのチャップマン会議」が開催。(3月)
・「生き残りのためのグローバル・フォーラム」開催。ダライ・ラマ、カンタベリー大主教、マザー・テレサ、ラブロック、カール・セーガンらが招待。(4月)
・「ノーバート・ジュルビエ賞」を受賞(ロバート・チャールソン、M・O・アンドレーエ、スティーヴン・ウォーレンと共同)
・2番目の著書「ガイアの時代」(「地球生命圏」の更新版)を出版。
・フロンガスの危険性を認める。
1989・先妻ヘレンが長い闘病のすえ死亡。
1991・サンディ(Sandra Jean Orchard、米科学者)と再婚(2人の画像
・3番目の著書「惑星治癒のための実践科学(原題)/癒しのガイア(米国版)/ガイア−生命惑星・地球(日本版、糸川英夫訳)」出版
1994・自前のガイア学会を主催(第1回オックスフォード会議)
・デイジーワールドよりも現実的なモデルをNatureにリー・クンプと発表。
Lovelock, J. E. & Kump, L. R.,"Failure of climate regulation in a geophysiological model", NATURE 69, pp.732-734, 1994
1994-・オックスフォード大学Green Collegeで名誉客員研究員(Honorary Visiting Fellow。現在に至る)
1995・ジョン・メイナード・スミス、ウィリアム・ハミルトンとの意見交換を開始。
1996・ガイア協会の設立。
1997・旭硝子財団プループラネット賞を受賞。
1998・同僚のティム・レントンが「ガイアと自然淘汰」をNature誌に発表。
Lenton, Timothy M.,"Gaia and natural selection", NATURE 394, pp.439-447, 1998
2000・自伝「ガイア礼賛」を出版
コーンウォール半島、デヴォン州に所有する12万平方メートルの土地に在住。独立自営。
(出典:NNDB、「ガイアの復讐」、http://www.jameslovelock.org/、「ガイア 蘇る地球生命論」)

(著作物)
・Lovelock, J.E. 1972. "Gaia as seen through the atmosphere." Atmospheric Environment, 6, 579-580.
・Lovelock, J.E. and Margulis, L. 1974. "Atmospheric homeostasis by and for the biosphere: the Gaia Hypothesis." Tellus XXVI, l-10.
・"Gaia, a new look at life on earth", Oxford University Press, 1979/「地球生命圏−ガイアの科学」(スワミ・プレム・プラブッダ訳、工作舎、1984)
・Lovelock, J.E. 1982. "From gas chromatography to Gaia." Chromatographia, 16, 26-31.
・Lovelock, J.E. and Watson, A.J. 1982. "The regulation of carbon dioxide and climate: Gaia or geochemistry." Planet. Space Sci., 30, No. 8, 795-802.
・Lovelock, J.E. 1983. "Gaia as seen through the atmosphere. In: Biomineralization and Biological Metal Accumulation", ed. Westbroek, P. and de Jong, E.W., 15-25.
・Lovelock, J.E. 1986. "Gaia: the world as a living organism." New Scientist, 18 December 1986, 25-28.
・"The ages of Gaia: a biography of our living earth", W. W. Norton, New York, 1988/「ガイアの時代」(スワミ・プレム・プラブッダ訳、工作舎、1989)
・Margulis, L. and Lovelock, J.E. 1989. "Gaia and Geognosy, in Global Ecology: towards a science of the biosphere", ed. Rambler, M.B., Margulis, L. and Fester, R. San Diego, Academic Press Inc., l-29.
・Lovelock, J.E. 1989. "Geophysiology, the science of Gaia" Reviews of Geophysics, 27, No. 2, 215-222.
・Lovelock, J.E. 1989. "The First Leslie Cooper Memorial Lecture: Gaia" Journal of Marine Biology, 69, 746-758.
・Lovelock, J.E. 1990. "Hands up for the Gaia Hypothesis" Nature, 344, No. 6262, 100-102.
・"Healing Gaia: Practical Medicine for the Planet", Gaia Books Ltd., UK/ Harmony Books Ltd., New York, 1991/再販"Gaia: medicine for an Ailing Planet", Gaia Books, London, 2005/「ガイア−生命惑星・地球」(糸川英夫監修、NTT出版、1993)
・"Homage to Gaia: The Life of an Independent Scientist", Oxford University Press, Oxford, 2000
・Lovelock, J.E. 2006 "The Revenge of Gaia"/「ガイアの復讐」(中央公論社)

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