生物それぞれは互いに「自分勝手」に生存競争していますね(「日和見主義」という)。それでいて、生態系全体としては地球環境が生存しやすいようにフィードバックを及ぼしているのではないか?、これがガイア仮説です。・「地球生命圏−ガイアの科学」(1979、ジェームズ・ラブロック、工作舎1984)
・「ガイアの時代」(ジェームズ・ラブロック、工作舎1989)
前作「地球生命圏」の方が有名ですが、これをその後の科学的知見を元に全面書き直ししたのが「ガイアの時代」。したがって、前作を読み飛ばして「ガイアの時代」を読む方が著者の真意が理解しやすいと思います。
デイジー(ひなぎく)で覆われた惑星を例にあげて、明るい色の品種のデイジーは暑い気候を好み、暗い色のデイジーは寒い気候を好む(のは本当か知りませんが)。寒冷化すると暗い色のデイジーの割合が増えて太陽熱を吸収し、温暖化すると明るい色のデイジーの割合が増えて太陽熱を反射する。すると、うまく環境をコントロールします。デイジーの多様性を増やせば増やすほど、その安定性が増大します。これがデイジーワールドで、スーパー・ファミコンの「シム・アース」にも出てきますね。
ラブロックは、NASAの火星の生命探査計画に参加している時、火星や金星の大気が化学的に平衡状態であるのに対し、地球大気は平衡にはほど遠く、生物の大きな影響を受けていることに気付く。皮肉にも、このことからラブロックは火星には生物が生きていないと結論付けることとなり、これによってNASAをいったん首になっている。
これをさらに発展させ、太陽系が誕生して以来、太陽がその光度を増大させてきたにも関わらず、なぜ地球の環境が生命を存続させ続ける範囲に維持されてきたのか? その理由として生物の多様性があるのではないか? それが「ガイア仮説」の着想に繋がったようです。このガイア仮説は、地球生命というべき不可知な意思が存在するかもしれない、と拡大解釈されて、1980年代に一大ブームを巻き起こしました。その頃、私の実家の近くの生駒山遊園地に「GAIA」というスリラーハウスが出来たのは驚いたものです。
1990年以降のものだけでも、以下のような論文が本人又は他の研究者から論文が出されています。"NATURE"によく掲載され、"SCIENCE"には掲載されないのが面白い。
・Lenton, Timothy M.,"Gaia and natural selection", NATURE 394, pp.439-447, 1998
・Lovelock, J. E.,"A geohysiologist's thoughts on the natural suiphur cycle", Phil. Trans. R. Soc. Lond. B 352, pp.143-147, 1997
・Lovelock, J. E.,"The Ages of Gaia 2nd edition", Oxford Univ. Press, Oxford, 1995
・Harding, S. P. & Lovelock, J. E.,"Exploiter-mediated coexistence and frequency-dependent selection in a numerical model of biodiversity", 182, pp.109-116, 1996
・Kump, L. R. & Lovelock, J. E.,"in Future Climates of the World: A Modelling perspective", ed. Henderson-Sellers, A., 537-553, Elsevier, Oxford, 1995
・Lovelock, J. E. & Kump, L. R.,"Failure of climate regulation in a geophysiological model", NATURE 69, pp.732-734, 1994
・Lovelock, J. E.,"A numerical model for biodiversity", Phil. Trans. R. Soc. Lond. B 338, pp.383-391, 1992
・Lovelock, J. E.,"Hands up for the Gaia hypothesis", NATURE 344, pp.100-102, 19901988年にはAGU(米地球物理学連合)で第1回ガイア仮説に関するチャップマン会議が開催され、そこでつぶされることなく、2000年には第2回ガイア仮説に関するチャップマン会議/AGUサイトも開催されています。地球がホメオスタシス(恒常性)を持っているか、すなわち、生態系と地球環境との間で負のフィードバックが成り立つかどうかは、その真偽はともかく、豊かな科学的論議を引き出すものであることは確かなようです。