●ラブロックと地球温暖化問題

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2007年5月19日更新

 ラブロックは、オゾン層問題にしろ、地球温暖化にしろ、人間にとっては大変でも、ガイアにとってはなんてことのない変動のひとつに過ぎないと、いささか超越したような立場というのか、楽観的過ぎるというか、ラブロックを信望してきた環境運動家を面食らわさせることが多かったのです。

 例えば、オゾン層保護のためのフロン規制や、DDT、PCBなど化学物質の環境汚染について、ラブロックはそれらの測定を可能とした画期的なECDガスクロマトグラフィーの発明者であり、しかもそれらの物質が環境に蓄積されていることを明らかにした当人でもあります。そのくせに、オゾン層に対するフロンガスの危険性をなかなか認めようとせず、またDDTの途上国での使用禁止はマラリアによる死者が増えると批判するなど行き過ぎた化学物質批判をいさめる立場をとっています。

 どちらも本当にラブロックの見解が正しいのか、それともいささか「ガイアの調整機能」への信仰が過大すぎなのでしょうか?

 ところがつい最近、次の著書で態度を一変させました。

・「ガイアの復讐」(2006、ジェームズ・ラブロック、中央公論社、2006.10)

 なんと本書でラブロックは現在進行している温暖化はガイアにとっても有害であると明言しています。以前は、ガイアが白亜紀にもっと高いCO2濃度を経験していることもあり、「ガイアが嫌がっている」なんて表現は見たことがなかったのですが。

 こういう危機感を持った理由として、ラブロックとクンプが開発した気候モデルにおいて、大気中CO2濃度が500ppmに近付くと気候調整が働かなくなり、気温が突然跳ね上がるという結果を示したからです。
 このモデルは、藻類が放出する硫化ジメチルが雲の凝結核となって雲によるアルベドを変化させる効果等を組み込んであるもの。

Lovelock, J. E. & Kump, L. R.,"Failure of climate regulation in a geophysiological model", NATURE 69, pp.732-734, 1994

 ここでおおいに注目されたのは、CO2削減対策として、今、直ちに効果を上げる実用的な方法としては原子力発電所が唯一としたところ。そのためにはラブロックは「世界中の高レベル放射性廃棄物を自分の私有地に引き受けてもいい」とまで言明しています。

=>地球環境ガイア理論と人類の課題(日本原子力文化振興財団)

 これに対して、当然のことながら環境団体からの反論が殺到しているようです。

=>地球温暖化問題と原子力の関わりについての公開質問状(グリーンピース・ジャパン)

 その他の意見;
=>読書ノート(増田 耕一)

 ラブロックらのモデルは1次元だそうで、そのせいかIPCC第4次評価報告書のWG1(科学的根拠)のフルレポートで、エアロゾルとDMSに関する項目を読んでもラブロックへの言及はありません。その他の研究成果では温暖化の進行によってDMSは若干増加するものの、大きな影響はないという評価となっています。

 本当にそうなのか、ちょっと心配です。


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