=SF年表
しかしながら、「2001年宇宙の旅」(68年)のHAL、「猿の惑星」(同年)の核による人類滅亡のように、科学の反逆、文明批評をテーマとした作品も登場する。
また、SF界の巨匠アーサー・C・クラークが「海底牧場」(57年)や「イルカの島」(63年)で海洋牧場などの夢を描き、現実の海底居住計画:仏「プレコンチナン計画」(65年、水深120m)や米「シーラブ計画」(68年、水深180m)より先行している。
そんな中で、1972年にアポロ計画が終了した宇宙開発については、79から81年にかけてボイジャー1号、2号、パイオニアが木星、土星とその衛星の鮮明な映像を伝送。スペースシャトル「コロンビア号」が初飛行し、新たな宇宙時代の幕開けとなるとともに、かけがえのない地球像を提示する。
アーサー・C・クラークが45年に予言した衛星通信は63年にケネディー暗殺のニュースを衛星中継したが、70〜80年代に広く普及し、グローバル化の波は経済だけでなく人々の心にも徐々に浸透していく。
一方、海洋開発分野では、オイルショックが海底資源への関心を高め、1976年頃から200海里時代が幕を開けた。マンガン団塊や熱水鉱床などの深海資源にも関心が高まり、84年に米、仏の6000m有人潜水調査船が進水。
日本でもオイルショックの危機を乗り越え、沖縄海洋博(74年)、筑波科学博(85年)、児島・坂出ルート開通と青函トンネル開通(88年)などバブル期の絶頂を迎える。
その他、最初のスーパーコンピュータCRAY-1の開発(76年)、TCP/IP方式のインターネットの開始(83年)などコンピュータとネットワーク技術の進歩があった。高温超伝導物質の発見(87年)もあらたな物質科学の可能性を開いた。
生命科学分野では、遺伝子組換技術の開発(73年)、試験官ベービー誕生(77年)などの進歩があった一方で、エボラ出血熱(同年)、エイズ(81年)、狂牛病(86年)などの発症報告が相次いだ。
その中で、ビッグバン、クェーサー、パルサー、ブラックホールなどの科学的発見と、スペースコロニー構想などの影響を受けて、「宇宙のランデブー」、「プロテクター」(73年)、「星を継ぐもの」、「ゲイトウェイ」、「悪魔のハンマー」(77年)、「竜の卵」(80年)、「ロシュワールド」(84年)など数々のハードSFが登場するようになる。
前の時代に大ヒットしたスーパーサブマリンは、松本零士「潜水艦スーパー99」(72年)、「レッド・オクトーバーを追え」(85年)があるが、あまりヒット作品に恵まれなくなる。
その中で、日本で大ヒットしたSF作品として小松左京の「日本沈没」(73年)がある。プレート・テクトニクスをいち早く取り入れただけでなく、現在でもまだ解明されていない背弧海盆の形成メカニズムを日本沈没に結びつけた画期的作品であった。
その他、バチスカーフ型の「わだつみ号」が小笠原海溝底で3ノットの底層流、密度飛躍層による内部定常波、多量の重元素イオンを含む深部散乱層(DSL)、乱泥流(タービダイト)に遭遇する。最近、海溝陸側斜面に2ノット以上の深層の西岸強化流が発見されているのが予言されていたわけである。
また、地球を海洋、大気、地圏、生物圏を含むシステムとして捉える考え方が書かれているのも興味深い。長文引用となるが、田所博士の以下の言葉が感動的。
「(略)わしらには地球がある。大洋と大気の中からもろもろの生物を何十億年にわたって産み出し、ついには人類を産み出し、自分の産み出しはぐくんだそいつらに、地表をめちゃくちゃにされながら、なおそれ自体の運命、それ自体の歴史をきざんでいく。この大きな−しかし宇宙の中の砂粒より小さな−星がある。大陸をつくり、山をつくり、海をたたえ、大気をまとい・・・氷をいだき、それ自体の中に、まだまだ人間の知らない秘密をたたえた、この地球がある。(中略)−このあったかい、しめった、凸凹の星を・・・あんなに冷たい真空の、放射線と虚無の暗黒に満ちた宇宙から、しめっぽい大気でやさしくその肌をまもり、その肌のぬくみで、こういった大地や、緑の木々や、虫けらを長い間育ててきた、この何か知らんやさしげな星を・・・太陽系の中で、ただ一つ、子供をはらむことのできたこの星を・・・地球はむごたらしいところがあるかもしれん。だが、そいつにさからうことは、あまり意味がない。(略)」
なにやら本作品の科学アドバイザーだった竹内 均さんら地球科学者のつぶやきのようにも聞こえる。
新しい潮流として、地球環境に関心を向けた宮崎駿の「未来少年コナン」(78年)と「風の谷のナウシカ」(84年)が登場している。
一方、世界では1989年にベルリンの壁が崩壊して東西冷戦構造が崩壊し、東西ドイツの統一(90年)、ソビエト連邦の崩壊とカンボジア和平(91年)、南アフリカがアパルトヘイト(人種隔離)政策を放棄(マンデラ政権誕生)(94年)、EU内通行自由化(97年)、イスラエル・パレスチナ和平合意(99年)、南北朝鮮首脳会談(2000年)など、平和への明るい兆しが見える一方で、宗教や民族の違いによる地域紛争が勃発する時代に突入する。
この時代は、凋落した日本に代わって、米国が長い繁栄を謳歌するが、2001年の同時多発テロ事件(世界貿易センタービルの倒壊)によって新しい局面に入る。科学技術面では、ハッブル宇宙望遠鏡の打上げ(90年)、国際宇宙ステーションの建設の開始(2000年)、超音速旅客機コンコルドの墜落(2000年)などがあった。生物分野では、クローン羊の誕生(97年)などをはじめゲノム研究に大きな進展があった。
また、地球環境変動を扱った作品が急激に増える。ジョン・バーンズの「大暴風」(94年)は、海底メタンハイドレ−トの崩壊による地球温暖化に伴って熱帯性低気圧が強化されるとの仮説に立った作品。台風強化説そのものは否定される方向にあるが。また、西南極大陸氷床の崩壊を扱った作品にモランの「南極大氷原北上す」(68年)、カッスラーの「アトランティスを発見せよ」(99年)がある。
巨匠アーサー・C・クラークも、巨大地震の制御を扱った「マグネチュード10」(96年)、小天体衝突を扱った「神の鉄槌」(93年)、タイタニックを引き揚げる「グランド・バンクスの幻影」(90年)を発表。
JAMSTECの登場する作品も増える。
スティーヴ・オルテンの「メガドロン(MEG)」(97年)ではJAMSTEC「かいこう」がマリアナ海溝底でメガロドンに破壊される。大石英司「深海の悪魔」(2000年)では「しんかい6500」、「よこすか」、「みらい」が大活躍する。
「ガメラ3 〜邪神(イリス)覚醒〜」(99年)では、無人深海探査機「かいこう」が沖ノ鳥島沖海底でガメラの墓場を発見する。ガメラは海棲生物カメに由来するだけに、シリーズ当初から潜水艇がよく登場していた。
「ゴジラ2000〜ミレニアム〜」(99年末)では、危機管理情報局(CCI)が、ゴジラの出現をいち早く予測するため、深海潜水調査船「しんかい6500」、調査母船「かいれい」で日本海溝にGセンサーを設置する。しかしそこで別の謎の物体(古代UFO)を発見し、それを引き揚げるため、なんと「かいれい」型が5隻ぐらい登場する。
海洋SFだけでなく、推理アクション、ミステリー、ホラーでもJAMSTECが活躍するようになる。映画「ホワイトアウト」 が大ヒットした真保裕一の推理小説「震源」(96年)には「なつしま」と「ドルフィン3K」が登場し、サイレント・アース・クエークも登場する。小中千昭のホラー小説「深淵を歩くもの」(2001年)では、「しんかい6500」が日本海溝で発見した「マネキンの首」が登場。田中光二の超常もの「異界戦艦「大和」」2001年)ではかつてNHKがJAMSTECの「ホーネット500」で大和を探索したことが書かれている。戦記もの「レッド・ホット・デイ」(2001年)では「しんかい2000」がロシアの海底戦車を拿捕する。
意外にも、科学進歩が新しいSFを産み出してきたか必ずしも明瞭ではない。既成概念を打ち破るところで、科学技術とSFは協力していく関係であるべき。
1) 大石英司の「シーナイトを救出せよ」(88年):「しんかい2000」がC-5B<ギャラクシー>とCH-53E<スーパースタリオン>で空輸され、安全率1.65の圧壊深度3300mを越えて沈没した潜水調査船を救助する。特選!
2) 真保裕一の推理小説「震源」(96年):「なつしま」と「ドルフィン3K」が登場。
3) スティーヴ・オルテンの「メガドロン(MEG)」(97年):「かいこう」がマリアナ海溝底でメガロドンに破壊される。
4) 明石散人の超常もの「鳥玄坊−時間の裏側」(98年):JAMSTECの海洋学グループの青山主任研究員、石神亜玖梨博士と名乗る怪しい男女が登場する。
5) 大石英司「深海の悪魔」(2000年):「しんかい6500」、「よこすか」、「みらい」が大活躍する。
6) 「ガメラ3 〜邪神(イリス)覚醒〜」(99年):「かいこう」が沖ノ鳥島沖海底でガメラの墓場を発見する。
7) 「ゴジラ2000〜ミレニアム〜」(99年末):ゴジラの出現をいち早く予測するため、「しんかい6500」、「かいれい」で日本海溝にGセンサーを設置する。しかしそこで別の謎の物体(古代UFO)を発見し、それを引き揚げるため、「かいれい」型が5隻ぐらい登場する。
8) 小中千昭のホラー小説「深淵を歩くもの」(2001年):「しんかい6500」が日本海溝で発見した「マネキンの首」が登場。
9) 田中光二の超常もの「異界戦艦「大和」」2001年):かつてNHKがJAMSTECの「ホーネット500」で大和を探索したことが書かれている。
10) 戦記もの「レッド・ホット・デイ」(2001年):「しんかい2000」がロシアの海底戦車を拿捕する。
11) 藤崎慎吾「2031年、さようなら「うらしま」」(2001年):30年後の「うらしま」が活躍。
12) 小川一水「群青神殿」(2002年):「みらい」などが登場。民間海洋調査会社に勤める主人公がJAMSTECにトラバーユするか悩む。うれしいことに、著者あとがきに西村屋への謝辞が載っています。
13) さいとうたかお「ゴルゴ13シリーズ第413話」(2001年、ビッグコミック):H2-Aロケットエンジンの発見のエピ−ドが登場。