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2007年9月4日更新
「放射」と「アルベド」と「顕熱」と「潜熱」
- 熱の伝わり方には、電磁波によるもの(放射フラックス)と、分子が動くことによるものがある。
熱を持つ物体は電磁波を放射し、他の物体に熱を伝える。途中が真空であっても伝わる。高温であるほど短い波長の電磁波を放射する。高温である太陽からの放射を「短波放射」という。太陽に温められた地球が放射する電磁波を「長波放射」(赤外放射)という。昔は「輻射熱」と言っていた。
太陽からの短波放射は、雪や海氷など反射率(アルベド)が大きさに応じて地球外に反射されたり、大気で散乱したりする。地球からの長波放射の一部は、雲や温室効果ガスによって地表に向けて反射又は散乱する。
分子の動きによる熱の伝わり方としては、空気の加熱がある。加熱された空気は主に対流によって熱を運ぶが、乱流拡散や分子拡散によっても熱を運ぶ。当然、大気がなければ熱は伝わらない。この熱を「顕熱」という(空気加熱)。
水が蒸発すれば、周りから気化熱を奪う。この負の熱を「潜熱」という。蒸発量と顕熱とは裏腹の関係。蒸発した水蒸気が大気中を運ばれ、凝結して雨となると、そこで熱を開放し大気を温めるので、潜熱/蒸発量は大気中熱輸送の重要な担い手である。
- 「フラックス」と「乱流フラックス」
- ある境界面を考えて、そこを単位時間に通過する物理量を「フラックス」という。水フラックスは、降水量、蒸発量と流出量。熱フラックスは、短波放射、長波放射、顕熱、潜熱。運動量フラックスは風と海流。
フラックスには平均的な流れ(移流、対流)によるものと流れの乱れによる乱流拡散によるもの(乱流フラックス)と、乱流でなくとも分子が移動する分子拡散によるものなどがあり、このうち陸面/海面フラックスにおける顕熱フラックス、潜熱フラックス、CO2フラックスでは乱流拡散によるものが重要。
乱流フラックスは、一般にはバルク法という近似法によって計算するが、より厳密に測定するには超音波風速計(3次元)と赤外線アナライザー(水蒸気やCO2を測定)から渦相関法(これも一種の近似?)で計算する。(皆さんからのご指摘をお待ちしています)
=>森林総合研究所フラックスネット(フラックスとは? 観測システム)
=>熱帯雨林が気候に及ぼす働きを測る(半島マレーシアにおける森林−大気間のエネルギー・水蒸気輸送量のモニタリング、森林総合研究所森林環境部のサイト)
=>森林におけるCO2およびH2O移動現象に関する研究(1999年,田中広樹 京大農学部地域環境科学専攻)/地表面上(森林樹冠上)の乱流フラックス観測研究における問題と展望(pdf、田中広樹、名古屋大学環境学研究科)
=>全球乱流熱フラックスデータの現状と今後の展望(pdf, 富田裕之、東海大・海洋)
=>「川の流れ」という流動現象について/その2/その3(移流、分子拡散、乱流拡散)
- 「地衡流」と「吹送流(風成流又はエクマン流)」
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「流れ」というものは、本来、圧力の高いところから低いところへと流れる。ところが、自転する地球における海流の場合、海面の低い方(圧力の低い方)に流れ始めるとコリオリの力が働いて流れの向きが変わってしまい、最終的にはコリオリ力と圧力差(圧力傾度力)とが吊り合う流れが生じる。これを「地衡流」という。(傾斜流という用語もあるようだが・・・。)
北半球では、コリオリ力は時計回り方向に働く。このため、「北半球の渦は時計回り」と短絡的に考えると間違う。すなわち、低気圧中心に向かって風が吹くと、時計回り方向のコリオリ力を受けて右に曲げられ、結局、「圧力の低い方を左に」(又は「圧力の高い方を右に」)に見て流れる。従って、低気圧性の渦は反時計回り(高気圧性の渦は時計回り)となる。海流の場合も同じ。
海上風による海面応力によって引き起こされる表層付近の流れを「吹送流(風成流又はエクマン流)」という。この吹走流も赤道域を除きコリオリ力のせいで偏向する。
実際の海の流れは地衡流と吹送流の合計、つまり、圧力傾度力とコリオリ力と風応力が吊り合うように流れる。このような海洋表層の循環を「風成循環」という。
このほか、海水の水温・塩分の変化により海洋表層から深層までをゆっくりと巡る循環を「熱塩循環」という。
=>海流の常識とわれわれの常識(「海の不思議」より。(財)日本水路協会海洋情報研究センターのサイト)
- 「コリオリ力」と「ベータ効果」と「ロスビー波」と「西岸境界流」
- 地球を北極星の方から見下ろすと、反時計回りに自転している。この地球表面上で物質が動くと、自転とは無関係に真っ直ぐに動こうとする性質(慣性力)のため、あたかも、時計回りの方向に曲げられるような力が働いているかのように運動する。この見かけの力を「コリオリ力」という。南極方面では、反対に反時計回りの方向に曲げられるようにコリオリ力が働き、中間の赤道上ではコリオリ力は働かない。
高緯度に向かうほどコリオリ力が増大することを「ベータ効果」といい、大規模でゆっくりした運動に対して、東西方向の変化を小さくする効果がある。すなわち、東西方向に変化が生じると南北流が発生し,これが渦の運動になって東西の違いを平均化しようとする。このとき発生する波が「ロスビー波」であり,西向きにしか伝搬しないという特異な性質を持っている。
「ロスビー波」は中緯度に見られ、重力波ではなく、いわばコリオリ力を復元力とする。黒潮流域の南方で中規模渦が西進するのがこれ。
西太平洋の亜熱帯では時計回りの「亜熱帯循環系」が、同じく亜寒帯では反時計周りの「亜寒帯循環系」が存在するが、ロスビー波の効果のせいで、西岸に押しつけられ、その結果、西岸付近に生ずる強い海流を「西岸境界流」という。
=>なぜ黒潮は太平洋の西側を流れるのか(JAMSTECの解説)
上記の赤字部分の説明は理解しにくいので、以下のように訂正。あわせて引用元であるJAMSTECの解説のリンクも削除する。(2007.10.10、再修正10.17)
高緯度に向かうほど地球回転の効果が増大することを「ベータ効果」という。
北半球で考えると、ある水柱C(Center)が高緯度方向に動くと、絶対座標から見て反時計回りの回転がより強くなるが、絶対座標に対する渦度(渦位)が保存されるため、相対座標に対する渦度が減少し、その結果として時計回りの渦が生じる。
水柱Cが高緯度方向に動くと時計回りの渦が生じる結果、西隣の水柱W(West)も同方向に動いて時計回りの渦が生じ、東隣の水柱E(East)は逆方向(低緯度)に動いて反時計回りの渦が生じる。
この両隣の水柱WとEの渦はどちらも水柱Cを低緯度に、つまり元の位置に向わせる。
このように、ベータ効果は水柱の南北方向の動きに対し復元力となり、西向きに伝搬する波動を生じさせる。これが海洋のロスビー波であり、海面の上下が復元力となる重力波とは異なる。
=>藤尾伸三さんの解説(PDF)
=>啓林館 地学I改訂版
=>Jacso Palace気象用語
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- 「ジオイド(面)」と「海面トポグラフィー」と「海面高度」
- 地球表面を完全な楕円体で近似したものを「準拠楕円体面」(reference ellipsoid又はspheroid)という。
これに対して、等重力ポテンシャル面(「等重力面」ではない!)を「ジオイド(面)」といい、海嶺や海溝の存在や地表面下の物質の影響による重力の地域差のため、準拠楕円体面に対して凹凸がある。準拠楕円体面に対するジオイド面の高低を「ジオイド高さ」という。
ジオイド面に対して、海流、波高、潮流のような海洋力学過程によって生じた海面の凹凸を「海面トポグラフィー」という。海面トポグラフィーが分かれば地衡流場を求めることができる。
実際の「海面高さ(海面高度)」は、ジオイド高さと海面トポグラフィーの合計である。すなわち、衛星高度計はジオイド高さと海面トポグラフィーの合計を観測していることになる。
もし、地衡流場のうち、比較的周期の早い時間変動場だけを知りたければ、衛星高度計による海面高度の変動成分から求めることが可能だが、海流など定常成分を分離するには、ジオイド高さを別の独立した方法で求めて差し引く必要がある。
ジオイド高さは、衛星軌道から地球の重力場を直接測るとともに、その衛星の軌道高度を精度よく計測することによって直接求めることができる。今や、重力偏差計(Gradiometer)の発達や、マイクロ波又はレーザー干渉測位技術の発達によって、ジオイド高さのみを直接精度よく求めることが可能な時代になろうとしている。これによって、地衡流場どころか、ジオイド自体の長期的な変動も得られる可能がでてきている。
=>福田洋一さんのサイト(京都大学大学院理学研究科・地球惑星科学専攻(地球物理学教室)。海面高度計の利用、超伝導重力計、衛星アルティメトリィと衛星重力ミッションなど)
=「衛星重力ミッション」へのショートカット
- 「重力波」と「ケルビン波」
- 海面高さを復元力とし、非常に速く伝播する波動を「表面重力波」という。塩分躍層の深さの違いを復元力とし、ゆっくりと伝播する波動を「内部重力波」という。
自転する地球の海洋の東西が大陸で区切られている場合、北半球だけに着目すると、岸を右に見て進む内部重力波が存在し、これを「沿岸ケルビン波」という。赤道も一種の壁のような存在であり、赤道では東進する内部重力波が存在し、これを「赤道ケルビン波」という。
=>見延庄士郎さんのサイト(北海道大学大学院地球惑星科学研究科地球惑星流体科学講座海洋物理学研究室。海と気候の用語集、ケルビン波とロスビー波のアニメーションがある。)
=>大気化学勉強会 講義ノート(層、風、波、渦)
- 「順圧成分(順圧モード)」と「傾圧成分(傾圧モード)」
- 上から下まで同じ水平流速を持つ,浅水流体の運動を「順圧成分(順圧モード)」という。流速の上下の平均成分からのずれの成分を「傾圧成分(傾圧モード)」という。
- 「混合層」と「塩分躍層」
- 海面からある水深までの間、海上風や波による鉛直混合が活発なことにより塩分及び水温がおおむね一定となる層を「混合層」という。
海面付近に低塩分の水塊ができるなど、塩分変化の著しい層を「塩分躍層」という。塩分躍層は対流を妨げる。例として、北極海ではシベリア等の大河川などを起源とする低塩分水が表面を覆い、海氷が作られやすくなっている。
北大西洋の北部では、通常、北極海の海氷による冷却効果によって活発な沈降があり、これが海洋大循環コンベアベルトの駆動力となっているが、この海域の降水量や河川からの淡水供給が地球温暖化によって増えると、塩分躍層が発達して表層海水が沈降しにくくなり、コンベアベルトが減速してノルウェー沿岸が氷結することが心配されている。
熱帯西太平洋では積雲対流の降雨が暖水プール上に低塩分水層(バリアーレイヤー)を作ることによって、海面水温がより上昇しやすくなり、それがさらに積雲対流を発達させるというフィードバックが働いていると考えられる。
上記赤字部分を下記のとおり修正(2007.10.17)
熱帯西太平洋では積雲対流の降雨が暖水プール上に低塩分水層を作り、あるいは移流してきた高塩分水が低塩分水の下に潜り込むことによって、混合層が等温層よりも薄くなり、海面水温が上昇しやすくなって、それがさらに積雲対流を発達させるというフィードバックが働いていると考えられる。
上記のように、等温層より混合層(低塩分水層)が薄い時、等温層のうち混合層の下の高塩分水層をバリアレイヤーと呼ぶ。
西部熱帯太平洋におけるバリアレイヤーと淡水フラックスの関係(武井 誠司)
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- 「鉛直混合」
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- 「サブダクション」
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