■熱水噴出孔と化学合成生物群集の発見

by 山田 海人

海人のビューポート
 
2008年9月29日オープン

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 海洋科学の分野で二十世紀最大の発見は、1938年の生きたシーラカンスの発見、そして1977年の熱水噴出孔化学合成生物群集の発見です。そこで今回は、1977年の潜水調査船「アルヴィン」とアメリカの科学者が太平洋のガラパゴス沖で温水噴出域とそこに棲むチューブワームなど、これまで知られていない生態系(化学合成生物群集)を発見した経緯について詳しく調べてみたいと思います。

はじめに 熱水噴出孔とは
 これまで熱水噴出孔は1977年に発見されて以来、30年間に約100ケ所、約550本もの熱水噴出孔が発見され、月に2本のスピードで熱水噴出孔が見つかっていることになります。
 これまでのもので最も浅い熱水噴出孔はニュージーランドの水深30m、最も深いところは水深3,600mで、平均水深は2,100mです。熱水噴出孔のチムニーでこれまで最大の高さは「ロストシティー」にある55mもの大きなものです。
 そしてこれまで最も高温な熱水噴出孔は大西洋中央海嶺の407℃です。なかにはオレゴン沖の高さ9mの「ゴジラ」と名づけられた有名なものもあります。水圧のかかった海水の沸点は、水深1,000mで310℃、2,000mでは370℃、3,000mでは410℃、4,000mでは445℃、6,000mでは480℃にもなります。数千mの海底で熱水噴出孔が発見されればこれまでの記録407℃を大幅に超えた熱水噴出孔も発見されるかも知れません。
 熱水噴出孔は新しい海底ができる太平洋、大西洋の中央海嶺(長さ約7万4千キロ)にありますが、これまでの30年間で約10%が調べられています。まだまだ未知の90%が残されていますので、これからも大きな発見が期待されています。
 熱水噴出孔から噴き出す熱水は、周囲の海底の割れ目から浸みこんだ海水から酸素とカリウム、さらにカルシウム、硫酸塩、マグネシウムが取り除かれ、岩盤からナトリウム、カルシウム、カリウムが加わり、マグマによって最高温度にまで熱せられ、岩盤から銅、亜鉛、硫黄などミネラルがスープのように溶け込みます。この流体が吹き出し、冷たく酸素に富んだ海水と激しく混合し、メタルと硫黄は結合して黒いメタル、硫化鉱物が形成されます。
 最近の話題では経済産業省傘下の石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)が日本近海にある「海底熱水鉱床」の調査に着手するそうです。

1.熱水噴出孔と化学合成生物群集の発見(1977年)
 海洋科学の歴史によるとこの大きな発見は次の様に公表されています。
 1977年潜水調査船「アルヴィン」とアメリカの科学者は太平洋のガラパゴス沖で温水噴出域とそこに棲むチューブワームなどを発見しました。
 この発見とはどのような状態を言うのでしょうか? 場所を特定した時点なのでしょうか? 化学合成生物を捕らえた時点なのでしょうか? いつ?誰が?が書かれていないのは何故でしょうか? そのあたりにこだわって世紀の発見の詳細をみてみましょう。

(1)最初の熱水噴出孔の場所の特定
 1970年代頃、"深海には高温の海底温泉(hot springs)があるのではないか?"という疑問でした。
 これまでスクリップス海洋研究所の John Sclater と Kim Klitgord はガラパゴスリフト(Galapagos Rift)を1966年、1969年および1970年に地殻熱流量測定を行っていて有力な情報を得ていました。
マウンド  これを基に1972年のIDEO(国際海洋研究十年計画)の「Southtow」クルーズではスクリップス海洋研究所の海洋調査船「トマス・ワシントン」(Thomas Washington)がガラパゴスリフトで熱水噴出孔の発見を目指して調査が行われました。
 この調査では同研究所のエンジニア Fred Spiess が開発したディープ・トウDeep-Tow(深海用ソナー・カメラシステム)が使われ、ガラパゴスリフトから18〜36キロ南の海域で高さ4.5〜23m、直径18〜45mの熱水活動のサインを確認しました。
 また、この調査で活躍したのがソノブイ(sonobuoy)です。ソノブイは潜水艦の推進器の音を解析するのに使われていますが、海底下の地震の調査に使っていたカリフォルニア大学サンタバーバラ校のケン・マクドナルド(Ken Macdonald)はこの海域でミクロな海底の振動(熱水噴出の振動)をとらえていました。このマクドナルドがとらえていた位置で、5年後に「エデンの園」と呼ぶ豊かなコロニーを発見するのです。
 1974年には米仏共同による中央海嶺の調査”FAMOUSプロジェクト”が行われました。この調査では潜水調査船「アルヴィン」1,800m→4,500mや「シアナ」(Cyana)3,000m、バチスカーフ「アルシメード」(Archimede)での潜水調査が行われ、hot springs を見つけようと努力していましたがなかなか発見できませんでした。
シロウリガイ

(2)シロウリガイの大量の殻発見
 1976年5月スクリップス海洋研究所の Peter Lonsdale と Ray Weiss は海洋調査船「メルヴィル」(Melville)でガラパゴスリフトを調査し、深海曳航体「FISH」によって周囲の海水温より0.2℃高い場所を見つけました。そこからシロウリガイの殻の散らばる海底を探り当て、撮影しトランスポンダーを設置し、熱水噴出孔に最も近い地点を特定しました。

(3)生きたシロウリガイ群落の発見
 1977年2月15日「アルヴィン」の事前調査に来ていたウッズホール海洋研究所の海洋調査船「ノール」(Knorr)から深海曳航体「ANGUS」によって生きたシロウリガイヒバリガイの群落を発見し撮影をしました。
ANGUS シロウリガイ

アルヴィン

(4)生きたシロウリガイの捕獲に成功
 1977年2月17日支援母船「ルル」(LULU)から潜航した「アルヴィン」の Jack Corliss、Tjeerd van Andel、Jack Donnelly(パイロット)は、水深2,500mの海底で8℃の温水域と二枚貝やチューブワームの生態系を発見しました。
 このクルーズ(2/17〜3/19)の潜航者(24回潜航)は地球物理学者だけで深海生物学の研究者はいませんでしたが世界で初めて化学合成生物シロウリガイをマニピュレータで捕獲しました。ここで最初の項で紹介した温水噴出孔とあるのは熱水とは呼べない50℃以下の水温で発見されたためです。


(5)チムニーとジャイアントチューブワームの発見と映像記録
 1979年4月21日「アルヴィン」に乗船した Bill Normark、Thierry Juteau、Dudley Foster(パイロット)は1.8mのチムニーを発見し、32.7℃を計測しました。
 このクルーズでは主席研究者 J. Frederic Grassle はじめ深海生物のエキスパート達が乗船し、ローズガーデンでは2.4mものチューブワームを発見し、水温350℃のブラックスモーカーを発見しています。
 また.このクルーズでは Robert Ballard(研究者)と Al Giddings(水中カメラマン)がナショナル・ジオグラフィックの映像記録を撮り「深海のオアシス」として衝撃的な映像を世界に配信しました。

まとめ:
 熱水噴出孔と化学合成生物群集の発見は、スクリップス海洋研究所とウッズホール海洋研究所の海洋調査船「トマス・ワシントン」「メルヴィル」「ノール」「ルル」、深海曳航体「FISH」「ANGUS」の活躍によって海域が絞り込まれ、多くの画像が撮られ、最後に潜水調査船「アルヴィン」によって生きた化学合成生物が捕獲され、これらの調査に参加した科学者達の論文とナショナル・ジオグラフィックの驚愕の映像が世界に強く印象付けました。
 この発見は、ダーウィンの進化論の舞台であるガラパゴス諸島の沖合水深2500mで起きていました。そして生命の起源に関わる発見でもありました。今、地球最初の生命は深海のブラックスモーカーの周囲で誕生したといわれるほど、熱水噴出孔と化学合成生物は二十世紀の中で最も刺激的な発見となりました。この熱水噴出孔は地球のプレートが広がる巨大なジッパーのようなところにあって、若い科学者達のこれからの挑戦を待っている地球最後のフロンティアです。

参考:
熱水噴出孔 Hydrothermal Vents(山田海人)

The Discovery of hydrothermal Vents(ウッズホール海洋研究所)


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