■深海調査の歴史

Discoveries in the Deep
- A Chronology of Undersea Exploration -
訳 山田 海人

海人のビューポート
 
2007年5月15日更新

 ここに紹介する Discoveries in the Deep には欧米の先駆者達が未知なる深海に挑戦してきた歴史が書かれている。なかでも世界の深海調査のリーダーシップをとってきたアメリカ海軍の想いを克明に紹介している点は興味深い。
 一方、戦後の日本の技術も分け隔てなく扱っており、JAMSTECの有人潜水調査船「しんかい6500」、無人探査機「かいこう」については賛美の言葉で表現され、我々には気づかなかった一面を教えてくれている。
 最近の記事は1997年までであるが、それぞれの年代を短く深海探査の背景まで紹介している。併せて山田 海人のビューポート(覗き窓)で紹介している「海洋科学の歴史」、「潜水船開発の変遷」なども参考にして頂ければ幸いです。

1997年☆アメリカのスミソニアン研究所は、ニュージランド沖で深海の巨大な生き物ダイオウイカを調査するためROV「Odyssey」を投入した。
1996年☆Gorda Ridgeの海底火山活動を監視するため、海軍製の水中マイクロホン(deep microphones)による熱水活動域の噴出孔からのけたたましい音とクジラの声(volcanic eruptions and whale songs)を聞くことができた。

☆ROVの「Jason」(海軍の1980年代の最も深く潜航できる深海観察機器)は、大西洋中央海嶺の熱水噴出孔の調査を行った。

☆アメリカ海軍は、海底火山噴火およびクジラの声に興味をもつ個人の聴覚の観測所の開発を促して、そのdeep microphonesへのアクセス範囲を広げた。

☆最新のROV「Tiburon」はパッカード研究所(Packard's institute)によって水深4,000m, 2マイルおよび半マイルの範囲の調査が開始される。

☆フランスの潜水調査船「Nautile」はタイタニックの船内からの遺物回収の様子を撮影した。

☆一人乗り潜水船「Deep Flight」は、Hawkesによって7マイルまでの潜航を行った。これはチャレンジャー海淵への潜航へ向けての第一歩である。

1995年☆JAMSTECの無人探査機「かいこう」は世界最深部のチャレンジャー海淵の海底の暗く冷たい環境(icy darkness)に生息する small animals を発見した。

☆Paul Tidwellは、大西洋の3マイルを超える水深から大量の金塊を積んで1944年に沈んだ日本の潜水艦「イ-52」を発見する。

☆Robert Ballard は 海軍の「NR-1」で地中海を潜航し、二千年以前の deep Mediterranean wrecks の海底地形図を作成した。

☆ロシアの潜水調査船「Mir」はハリウッド映画タイタニックの撮影を行う。

☆アメリカ海軍は海底重力計によるデータ(seafloor gravity data)を公開し、地質学者はこれを基に海底地質図(map of the global seabed)を作成した。

☆Navy microphones を使って、太平洋を横断する broadcasting deep sounds の移動時間を計測して地球温暖化の計測を開始した。

1994年☆アメリカ海軍は、北極研究のため民間の科学者とその攻撃型潜水艦(attack submarines)を利用することに合意した(SCICEX)。

☆アメリカ海軍は、不要となった無索ロボット(Advanced Unmanned Search System)を民間会社へ提供することになった。

☆「しんかい6500システム」は大西洋における有人潜水調査船の水深記録を作る。これは深海地質学のための調査であった。

☆ロシアの「Mir」は、大西洋中央海嶺の huge volcanic mound を調査するため、英国人の研究者を潜航させた。

☆フランスの「Nautile」は、タイタニックの遺物を回収するため潜航した。

☆国連の海洋法条約(Law of the Sea)議論に熱が入る。

1993年☆アメリカの民間企業2社は海軍が開発し、これまで機密機器だった laser cameras を使って海底地形図(Map of the Juan de Fuca Ridge)を作成した。

☆科学者は海軍の deep microphones を使って大西洋の Juan de Fuca Ridge の海底火山がどのようにしてジャングルのような生命環境を造り出すことができたのか調査した。

☆JAMSTECは世界で最も深く潜航できる(the world's deepest-diving robot)無人探査機「かいこう」を試験潜航させる。

☆フランスの「Nautile」は、タイタニックの遺物を回収するため潜航した。

☆Ballardは海軍の「Jason robot」を使って、1915年にドイツによって Celtic Sea で撃沈された「Lusitania号」の調査を行った。

1992年☆科学者は大規模な海底調査の後に、深海には1000万種の生命がいるかも知れないとの結論を出した。

☆Ballard は海軍の潜水調査船「Sea Cliff」と海軍の「robot Scorpio」を使って Guadalcanal で第二次世界大戦で沈んだ14隻の船舶を調査した。

☆CIA 長官はロシアのエリツィン大統領に「Glomar Explorer」が6人のロシア軍人の遺体を収容したと伝えた。

☆アメリカ海軍は深海のエキスパートの規模を縮小して、浅海と海域に重点をおいた戦略を展開させる。

☆ビジネスマンは沈んだタイタニックの商業的サルベージのためにアメリカ海軍関係者と契約した。

1991年☆アメリカ海軍は科学者にロボットと潜水艦を含む deep exploratory craft 艦隊の共有に合意した。

☆ロシアの「Mir」 は、2マイルを超える潜航を行い、カナダのIMAXの映画のための沈んだタイタニックを映画化した。

☆ソ連の船「Yuzhmorgeologiya」(それは、アメリカ海軍の潜水艦を以前スパイ行為をした)は、深海の生態学に関する研究を行うためにアメリカ政府によって雇われた。

1990年☆アメリカ海軍は科学者に「NR-1」(a deep-diving nuclear submarine with lights, windows, and wheels)への利用アクセスを広げた。

☆JAMSTECは the world's deepest-diving piloted craft である「しんかい6500」の運航を開始した。

☆ロシアの「Mir」のクルーがモントレー海溝へ潜航する。冷戦以降ロシア人がアメリカ領海内を潜航するのははじめての出来事である。

1989年☆Ballardは、大西洋で曳航体「Argo」を約3マイル潜航させて、ドイツの戦艦ビスマルク(battleship Bismarck)から多くの銃とナチスのロゴを見つけ出した。

☆Ballardは、海軍のトップROV「Jason」を使って、地中海に沈むローマ時代の船から積荷を回収する。この年ベルリンの壁が無くなった。

1988年☆サウスカロライ沖の1マイルを超える水深でトレジャーハンターは、中央アメリカから大量の金を積んで1857年で沈んだ木船の残りを見つけた。

☆Ballardは、「Argo」を使って、4世紀の古代ローマ船の墓地を発見する。

1987年☆アメリカの企業は、タイタニックの遺品(子供の大理石彫刻品や女性用の腕時計など何千もの遺品)を回収するためフランスの「Nautile」をチャーターした。

☆核兵器の縮小を図るため東西間の条約が調印される。

1986年☆アメリカ海軍は最新のROV「Jason Junior」を使って、タイタニックの船内、沈んでねじれた様子の潜水艦「Thresher」 と「Scorpion」を極秘に調査した。
1985年☆Ballardは、「Argo」を使って、氷のような海底(icy seabed)に二つ分割され、散在するタイタニックを発見する。

☆Graham Hawkesの「Deep Rover」は、億万長者の David Packard の支援を受けて Monterey Canyon の中・深層の生物を調査した。

1984年☆ Ballardは「Argo」を使って、潜水艦「Thresher」の上を走査し、その様子をビデオ撮影した。

☆「Alvin」はフロリダ沖で冷水湧水域(cold springs)に群がる新種の生態系を発見する。

☆ソ連の新しいリーダー、ミハイル・ゴルバチョフは東西間の和解政策を始めた。

1983年☆レーガン大統領は、アメリカの排他的経済水域を宣言する。
1982年☆太平洋の海底火山には、コバルトを含む希少金属で覆われていることが判明する。国連海洋法条約で、深海の鉱物資源は世界の人々の所有と批准される。
1981年☆レーガン大統領は、潜水艦など深海の武器強化を開始する。
1980年☆科学者は、地球すべての生命誕生の場は深海の温泉(hot springs)であると発表。
1979年☆「Alvin」とアメリカの科学者は、カリフォルニア湾で鉛を溶かす熱いブラックスモーカーを発見する。
1977年☆「Alvin」とアメリカの科学者は、太平洋の volcanic rift で温水噴出域(warm springs)とそこに棲む未知のチューブワーム(長い直立したチューブなどのこれまで知られていない生態系)を発見する。
1974年☆「Glomar Explorer」は、太平洋の海底に沈んだソ連の潜水艦を巨大な爪で回収した。

☆国連の海洋法会議は、貧しい国家を豊かにするために seabed miners に課税することを検討した。

☆フランスとアメリカの科学者は、大西洋中央海嶺で海底の溶岩を発見する。

1973年☆アメリカ海軍は、落下物の回収のため無索ロボットの開発をスタートさせる。
1971年☆アメリカ海軍は、深海に沈んだ潜水艦の救難用2人パイロット艇を開発する。
1969年☆海軍の新しい深海潜水船「Trieste II」は、海底2マイルに沈んだ「Scorpion」の残骸を調査し、六分儀を回収する。
1968年☆ソ連の潜水艦は、暗号本と核弾頭を海底に散らかして太平洋の深海へ沈む。

☆「Halibut」は、極秘裏に沈んだソ連の潜水艦を調査した。

☆アメリカの潜水艦「Scorpion」は、99人の乗組員と核兵器を搭載した魚雷2基とともに大西洋に沈む。

1967年☆地質学者は激論の末に、海底のプレートはゆっくり拡大し移動し、陸地を押し上げていることに合意した。
1966年☆「Alvin」 と Navy robot は、地中海へ沈んだ水爆を調査する。「Halibut」は海底に落ちているソ連の弾頭を撮影する。
1965年☆アメリカ海軍は最初の海中ロボットのテストを行った。

☆アメリカ海軍は、スパイ行為をするために「Halibut」を開発した。「Halibut」は、照明とカメラなど装備している。

1964年☆海軍は、深海の暗さの中で効率の良い調査することができる新しい探索機器を開発するために Deep Submergence Systems Project を立ち上げた。

☆海軍は「Alvin」(深淵を調査できる最初の piloted craft)の運航を開始する。

1963年☆海軍で最も高度な潜水艦「Thresher」は129名の乗組員を乗せたまま1.5マイルの深海に沈む。

☆「Trieste」は、5ケ月の捜索の後に海底で粉砕されている「Thresher」を発 見した。

1961年☆アメリカの掘削船「CUSS-1」は、メキシコの沖合で2マイル以上掘ることに成功して深海掘削の記録を作った。

☆音響探査の研究者 Robert Dietz は、深海に幾つも広がるひび割れは新しく誕生したプレートによるものと提案した。

1960年☆Jacques Piccard と Don Walsh は「Trieste」で Challenger Deep の底7マイル下まで潜航した。
1958年☆アメリカの海軍は「Trieste」を買い、その耐圧容器を改造する。
1953年☆Auguste Piccard と彼の息子 Jacques は「Trieste」に乗船して2マイル近く潜航した。
1952年☆音響測深の研究者 Marie Tharp は、深海なるがゆえに隠されていた大西洋中央海嶺の長い地溝を発見する。
1951年☆英国の調査船「Challenger II」は、音響探査によりグアム島近くに7マイル近くの最も深いチャレンジャー海淵を特定した。
1950-52年☆デンマークの海洋調査船「Galathea」は、海の中で最も深い海溝へドレッジを投下して無脊椎動物などを採取した。
1948年☆Auguste Piccard は、「bathyscaph」(無索で最初の潜水船)で深海へ潜航した。
1938年☆南アフリカの漁師は、5フィートのシーラカンス(恐竜の時代に消滅したとされる生きた化石)を捕獲する。
1934年☆William Beebe と Otis Barton は、有索潜水球で半マイル潜航し、発光する奇妙な魚を観察した。
1925年☆Fritz Haber は、ドイツで開催された気象展示会で海水中から金を取り出すイベントを行った。
1920年☆Alexander Behmは、北海の航海で新しく開発された音響測深方法を試した。
1892年☆モナコのAlbert皇太子は、新しい種類のウナギ、魚およびイカを発見して、深海の中・深層の調査を開始した。
1872-76年☆英国の海洋調査船 「Challenger」は、世界一周航海で深海に長く続く山脈へドレッジなど降ろし、何百もの深海生物を採取する。
1870年☆ジュール・ヴェルヌ(Jules Verne)は、「海底二万リーグ」を発刊し、深海の世界に関心を集めた。
1864年☆ノルウェー人は、1億2千万年前の化石でしか見つかっていなかったウミユリを深海から採取した。
1859年☆ダーウィンの「種の起源」は、深海が生きた化石の宝庫であるとも述べている。
1858年☆大西洋横断の最初の電信ケーブル敷設のために深海底調査が行われた。
1843年☆Edward Forbes は、300尋より深いところには生命は存在しないと宣言した。
1818年☆John Ross 卿は、北大西洋で1マイル以上の深さに索を降ろし、大きなヒトデと虫を採取した。

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