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ズズズ・・・
何かがこすれる音がして、ネコくんは目を覚ましました
かれはあいかわらずクジラさんの黒い背中の上に乗っていましたが
まわりにはどこまでものたうつ波のかわりに
白い砂浜がまっすぐのびていました
空はうっすらと赤みがかり、日の出が近いことをつげています
「クジラさん、陸についたよ
ありがとう、おかげでたすかりました」
しかし、クジラさんは返事をしませんでした
いくらゆすっても(ネコくんの力ではピクリともしませんでしたが)
さけんでも
クジラさんの黒い体は岩のようにじっとしたまま動きません
かれはもうクジラであることをやめていたのです
もう二度と息もしなければ
力強い泳ぎを見せることも、美しい歌を口ずさむこともないのです
温かかった血は冷たくなるばかり
その大きな体を形づくっていた細胞のひとつひとつが
いますべて死にたえようとしていたのでした
ネコくんはだまって砂にまみれた大きななきがらのそばに立ちつくしました
たった1日でもかれがいっしょにすごした友だちの体が
まもなくくちはてて骨となり、もとの姿をとどめなくなってしまうのは
たまらなく悲しくつらいことでした
ネコくんはクジラさんの体をほんの少しかじりとりました
涙と塩水とで苦くしょっぱい味がしました
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