P34

前ページ 次ページ

ズズズ・・・
(なに)かがこすれる(おと)がして、ネコくんは()()ましました
かれはあいかわらずクジラさんの(くろ)背中(せなか)(うえ)()っていましたが
まわりにはどこまでものたうつ(なみ)のかわりに
(しろ)砂浜(すなはま)がまっすぐのびていました
(そら)はうっすらと(あか)みがかり、()()(ちか)いことをつげています
「クジラさん、(りく)についたよ
 ありがとう、おかげでたすかりました」
しかし、クジラさんは返事(へんじ)をしませんでした
いくらゆすっても(ネコくんの(ちから)ではピクリともしませんでしたが)
さけんでも
クジラさんの(くろ)(からだ)(いわ)のようにじっとしたまま(うご)きません
かれはもうクジラであることをやめていたのです
もう二度(にど)(いき)もしなければ
力強(ちからづよ)(およ)ぎを()せることも、(うつく)しい(うた)(くち)ずさむこともないのです
(あたた)かかった(つめ)(つめ)たくなるばかり
その(おお)きな(からだ)(かたち)づくっていた細胞(さいぼう)のひとつひとつが
いますべて()にたえようとしていたのでした
ネコくんはだまって(すな)にまみれた(おお)きななきがらのそばに()ちつくしました
たった1(にち)でもかれがいっしょにすごした(とも)だちの(からだ)
まもなくくちはてて(ほね)となり、もとの姿(すがた)をとどめなくなってしまうのは
たまらなく(かな)しくつらいことでした
ネコくんはクジラさんの(からだ)をほんの(すこ)しかじりとりました
(なみだ)塩水(しおみず)とで(にが)くしょっぱい(あじ)がしました
TOP English リスト