(初出:2007/12/22)

速報! ザトウクジラ捕獲中止へ

昨日(12/21/2007)の報道で、日本政府が今年度予定していた南氷洋での調査捕鯨においてザトウクジラ50頭を捕獲対象に含める計画を一時中止するとの発表がありました。報道されたように、オーストラリア政府による捕鯨船監視宣言に対し、外交上配慮したものとみられます。

筆者自身は、ミンククジラを含めた公海上での商業捕鯨/調査捕鯨を全面的に禁止するよう求め、また沿岸も含めて商業捕鯨全般をできることならやめてもらいたいという立場ではありますが、今回の日本政府の決定に対しては英断として歓迎し、日本・オーストラリア両政府に対し感謝の意を表したいと思います。ただ、非常にデリケートなこの問題をめぐる今後の展開次第では、両国の関係(クジラたちの将来もですが)がどう転ぶか予断を許しません。筆者としては、両政府が自重しつつ、なおかつ問題を直視することをはばかることなく、より建設的な解決への道を模索するよう望むものです。

オーストラリア側は日本政府の発表に一定の評価を示しつつも、引き続き調査捕鯨自体の禁止を求め、空海からの監視も実施する姿勢を崩していません。捕鯨反対の立場からすれば、ある意味当然であり、ザトウクジラにまで食指を伸ばそうとする日本の"強硬路線"こそが問題なのだと肯けなくはありません。これを梃子に、圧力をさらに強めることで日本政府から更なる譲歩を引き出せるのではないかという考え方もあるでしょう。もっとも、あえて指摘するなら、毅然とした態度表明に誕生したばかりの労働党政権による国内向けのリップサービスとしての側面があることも否定はできますまい。それはあらゆる国の政治の舞台につきものの要素ではありますが・・。しかし、一日本人として、クジラたちの真の利益のためにも、ここはぜひとも慎重を期してもらいたいと願ってやみません。
今回の決定は水産庁の担当者ではなく、日豪関係の配慮を優先する上の判断によるものであることは間違いありません。関係者、そして捕鯨応援団の文化人らは内心非常に面白くないでしょう・・。NHKを含め今回もすでに偏った報道をしているマスコミの対応からも、オーストラリアに対する過激な敵視も含めた反発が噴出する可能性があることは容易に想像できます。外圧によってねじ伏せられたという印象が、ごく少数の捕鯨シンパのみならず、実際にはほぼニュートラルな立場の多数派の日本人に対しても不愉快な感情をもたらしかねません。それは決して得策ではないはずです。
(クロ)ミンククジラの捕獲頭数自体は(冷凍鯨肉の在庫が積み上がっていてなお)増加していますし、他項で述べたようにまさしく北朝鮮型の外交路線で本来なら譲歩などととてもいえませんが、ここはオーストラリア政府に対して大人の対応を示してもらいたいと思います。実際の話、今までの経緯を考えても"初志貫徹"、"既成事実化"がモットーとすらいえる捕鯨外交においては、ずいぶんあっさりと引き下がったとはいえますし。実際、前任の首相・内閣ではありえない決断だったでしょうから。正直、ミンクには気の毒ですが、ザトウを外してもらったことには筆者は心底ホッとしています・・。
より具体的には、内向け外向けの使い分けで結構なので、今回の日本政府の決定をまず肯定的に評価すること(ベタ誉めとまではいわずとも・・)。日本政府は"一時"中止といっているので、北朝鮮のミサイルじゃないけどヘソを曲げて撤回しないとも限りません。。もちろん、日本政府にとってみれば「"たかがクジラ"で日豪関係の悪化を招きたくはない」のが本音であり、その点北朝鮮とは事情も異なりますが、やはり下手に刺激しないにこしたことはありません。一日本人として「その心配はない」と断言する自信がないもんで・・。そのうえで、"南極の自然が荒らされること"、"南半球の海で血が流れること"に対し、"遺憾"、"悲しみ"の念を表明していただきたい("怒り"、"抗議"ではなく)。監視については、必要性はあるものの豪政府が実施する労力に見合うかどうかは疑問です。監視されていれば行儀よく粛々と進めるでしょうから(それはそれでやりたい放題よりマシですが……日本国内向けに自分たちの正当性を訴える"材料"に使うだろうことも忘れぬように)。どうせなら、極端な致死的調査への偏向の問題を、他の鯨種、他の野生動物とからめて取り上げ、索餌海域におけるミンククジラ等の行動・生態観察調査隊を組織して、調査捕鯨船団による妨害という形で国際世論に訴えたほうが得策なんじゃないですかね・・(筆者はコスト試算までできませんが)。そして、対日本と同時に対諸外国に対し、自国に渡ってくる野生動物に対する損失、南極という次世代に遺すべき世界の遺産に対する北半球の一国による突出した搾取という面を強調し、日頃IWCで日本が見せる居丈高な唯我独尊主義をひけらかすことなく、科学・理性・感情のバランスのとれた意思表明として打ち出してもらえれば、いうことはありません(なかなか難しいでしょうけど・・)。
もう一つ、確かにクジラたちには申し訳ないけれども、捕鯨の即時全面禁止は現実的ではありません。日本の公海上の商業捕鯨は、国の経済・産業構造・文化の根幹に関わるものではまったくないので、政府の決断一本で済む話ではあります。各地の野生動物や汚染、地球温暖化などの諸問題に比べればあまりにもシンプルでスパッと解決されていいはずの代物です。しかしそれでもなお、日本自らの意志で調査捕獲枠漸減−>公海からの撤退という段階を踏むことなくしては、後腐れなくクジラたちに真の平和をもたらすことはおそらくできないでしょう(日本の200海里内を回遊するクジラたちには、しばらくより世知辛い世の中になる可能性もありますが・・)。捕鯨モラトリアムは成果であると同時に、現状の膠着状態を生んだ原因でもありました。ナショナリズムの問題は、国境を越えた国際協調の時代にあって別途取り組まれるべき課題ではありますが、ともかく結果を出すためには、方便でもいいから「よくぞ思いとどまってくれました」と"顔を立てる"なりして、体面を重んじるこの国が潔く、周囲に讃えられながら自ら身を引けるような環境を醸成する道を、もちろん他の各国とも連携して切り開いていってほしいと思うのです──。