U潜隊はどういうわけかオトリのアポロノーム1には目もくれず、最新鋭のグレートガーディアンを撃沈し、ほとんどのPKN艦隊を撃沈又は行動不能にしてしまった。それに一矢報いたのは皮肉にも最も遅れて駆けつけた707二世号である。707単独でUSR潜隊の3割を壊滅させ、しかも旗艦であるUXにも多大の損傷を与えた。これはPKN側全体の戦果の半分を占める。
戦闘現場の調査によって、USRの戦術が明らかになってきた。すなわち魚雷発射機能と高度のステルス能力を有する浮遊式ロボット、トーピード・マイン・システムである。
この浮遊ロボットの存在が初めて明らかになって、USRの本拠地がどこにあるのかという問題も改めて再検討を要することになった。すなわち、USRは世界各地の交通の要所で船舶を襲撃しているが、それにはUSR潜隊をわざわざ派遣せずとも、浮遊ロボットを展開すればよいことになる。USR潜隊はむしろ補給手段としての役割の方が高かったわけである。
さらに707からUSR潜隊の高度なステルス能力が報告されたことから、従来、SOSUSネットワークから逃れずに通過することは不可能とされた海峡も改めて検討し直されることとなった。
それによって浮かび上がってきた海域、それは・・・北極海である。
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新たな展開が見えてきた一方で、PKN内でも新たな葛藤が生まれてきた。PKNは米国主導で発足したが、米国政府内も必ずしも一枚岩だったわけではない。USRによる海上交通への攻撃は国際世論も計算に入れた巧妙なものだった。すなわち爆発力の少ない魚雷で推進器に損傷を与えただけである。ダブルハルの船体から油を流出する例は皆無だったが、原油価格を上昇させるには十分な脅威となった。
一方、攻撃してくる軍艦には容赦なく撃沈するのだ。それに伴って死傷者も少なくなかったため、各国の海軍は国の威信を掛けてU潜隊を追撃する。その中で石油関連産業を重要な票田とする米国政府は、USRの殲滅を宣言する。しかしながら人道主義者として有名なレッドが、カタストロフィー的な気候変動を警告しての強硬手段に共感する国内世論を完全に無視するわけにはいかなかった。そのために米海軍が前面に出る戦いを避け、PKNを発足させて国際合意形成を図ったわけである。
無防備に行われたかのようなPKN結成式典にも、U潜隊による艦船攻撃をマスメディアに取材させてUSRの非道さを国際的にアピールしようという計算があったとの説が流れた。しかしながら必ずしもそれに成功したわけではない。
アポロノーム1の周囲の護衛艦群が全滅したかのように映像で報じられたが、実は舵や推進器を破壊されて随伴不能となった護衛艦群をアポロノーム1が置き去りにしただけという情報がインターネット上で流布された。
それだけでなく、米国が威信を掛けて建造したアポロノームがたった一発の魚雷で撃沈されるところを707の犠牲で免れたことを、やはりインターネットで暴露され、PKNまたは米政府は国際世論を完全に味方に付けることには必ずしも成功していなかったわけである。
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セブン・シスターズ、いわゆる国際石油メジャーの起源はロックフェラーのスタンダード・オイルに遡る。独禁法で33の独立企業に分割されたあと、その流れを汲むエクソン、モービル、シェブロンの3社に、テキサコ、ロイヤル・ダッチ・シェル、英国石油、ガルフの4社が加わってカルテルを結び(*12)、世界の石油市場を支配してきた。OPECなど対抗勢力に対し、米国政府とも結託することによって依然としてその支配力は衰えていない。
セブン・シスターズは世界最大の大量石油消費国である米国に深く食い込み、その雇用を大きく支え、選挙民を通じて米国政府をコントロールしてきた。米国はアラスカほか自国領土内に石油資源を持つとともに、お膝元のメキシコ湾やラテンアメリカなど近隣にも安定した供給源を持っていたが、21世紀に入って国内の油田が急速に枯渇し始め、西アフリカや中東地域への依存度を高めていた。
米国の港湾はVLCCが直接入港できない造りになっているが、海外依存を強めるにつれて沖合いでVLCCから荷揚げする方法が普及し、USRはそこを狙うことで効率的に脅威を与えることができた。
USRはこうしてセブン・シスターズに打撃を与え、その見返りとして、密かに中国の三大メジャーや日本の民族系ほか反セブン・シスターズ勢力から洋上でU潜隊への供給物資を受けてもいたのだ。
こうした巧妙な資金・物資調達もゲーデルBの優れた情報処理能力に負うところが多かった。こうしてUSRは東欧の某造船所で彼らの本拠地となる巨大浮遊基地を密かに建造し、ついに北極海の多年氷の下に設置したのだった。
*12:1890年にアンチ・トラスト法であるシャーマン法が成立し,ロックフェラーはトラスト協定の放棄を余儀なくされ,99年ニュージャージー州法人としてジャージー・スタンダード社 Standard Oil Co.(New Jersey)を持株会社として,トラスト傘下のすべての石油会社の株式を引き継ぎ,これを各州の子会社に割り当てるという形で,事実上のトラスト支配を継続した。しかし,1911年,この方式による支配もシャーマン法違反であるとして解散を命じられ,スタンダード・オイル・グループは,ジャージー・スタンダード(現,エクソン社),スタンダード・オイル・オブ・カリフォルニア(現,シェブロン社),スタンダード・オイル・オブ・ニューヨーク(同モービル社)を含む33の独立企業に分割された。
スタンダード・オイルを起源とする石油メジャーは、エクソン、モービル、シェブロンで、英国系の英国石油(=BP)、英蘭合弁のロイヤルダッチシェルは別、ガルフとテキサコはもともとスタンダード・オイルとは関係ない。(by 原さん)
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2010年以降、石油採掘コストの上昇傾向は見過ごせないものとなり、加えて炭素税が導入されたことにより、バイオマス燃料やメタンハイドレートなどの代替エネルギーは価格面だけでいえば石油に遜色のないレベルになっていた。しかしながら石油を前提に長年にわたって築き上げられてきたインフラストラクチャーを再構築するには、なお大きな障害が横たわっていた。
そこにこの海洋テロが開始され、世界はインフラストラクチャー再構築に向けて徐々に動き出す気配を見せるようになってきたのだ。
その流れに対し最も大きな抵抗を見せたのはほかならぬ米国である。石油が社会システムの隅々にまで染み付いてしまっている米国経済にあって、石油産業の衰退は到底容認されるものではなかった。20世紀末から21世紀に掛けて、石油メジャーが原発の急速な普及を恐れて環境保護団体のグリ−ン・ピースを密かに支援したとも囁かれたほどである。
それに対し、急成長を遂げた中国では原子力、石油、メタンハイドレート、バイオマス燃料、石炭液化などを等しく受け入れる柔軟性を持っていた。
パナマに端を発し、ジブラルタル、ホルムズ海峡へと広がる海洋テロに対し、中国3大メジャーである中国石油天然気集団公司(CNPC)、中国石油化工集団公司(SINOPEC)、中国海洋石油総公司(CNOOC)をそれぞれ統括する3人の総支配人たちは、自分たちの最も恐れるマラッカ海峡でのテロ発生に備えるため、とある大飯店の一室に集まった。
彼らスリードラゴンズは、そこでユウと名乗る美しい日本人女性に出会うこととなる。流暢な中国語を話すユウは、彼らに驚くべき取引を持ち掛けたのだった。
マラッカ海峡での彼らの安全を保証し、セブンシスターズによる石油市場の支配体制を崩壊させるというのだ。その見返り条件がまた彼らを驚かせた。テロで吊り上げられた石油相場によってスリードラゴンズが得る膨大な利益を、すべて中国での火力発電から原発への転換、そしてバイオマス燃料とメタンハイドレートの開発に当て、さらに石炭液化技術の開発を放棄せよというのだ。
この日からUSRとスリードラゴンズの協力関係が始まった。スリードラゴンズの支配船舶は、USRがインターネットを通じて得た潤沢な資金で調達する資機材を秘密裏に洋上で受け渡す役割を担うこととなったのである。
=>マラッカ海峡と海上テロ
=>外務省資料
=>主要国のエネルギー供給構造(アメリカの中等原油依存度は原油全体の25%)
=>アメリカのエネルギー自給
=>原油価格と石油メジャーの経営と収益構造
1) 原油価格の変動と、メジャーの収益推移が連動する
2) 上流、下流で言うと、近年下流の利益率が低下
3) 上流、下流の収益は各社いろいろ(構成次第)ただし、上記2)となれば、上流シフトありと見るべきか?
=>最新エネルギー事情と裏話
生態系システム論に基づく国際農産物貿易のモデル構築(森基金採択プロジェクト)