■小澤さとるQ&A

 7月20日、日本そば屋の「瀧乃家」で小沢先生に質問。YASUさんのサイト「小沢さとるの席」の宣言参照のこと。YASUさんが家業にいそしんでいる間のインタビュー内容をまとめました。YASUさん以外は一面識もない面々を相手に6時間もお話し頂きました。
 先生は、アイヌの民族衣装の雰囲気のあるいでたちで登場。若々しさと好奇心の強さと表現への意欲がなみなみと感じられたのには驚かされました。


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2002年2月9日更新

Q.漫画家を目指すようになったきっかけ?
 高3(県立川口工業高校)の頃、サッカー部の先輩で出版社に勤めている某氏に誘われて手塚治虫のペン入れのアルバイトをすることになった。手塚先生から海と波と岩の絵を渡され、「好きなように着色してみなさい」と言われ、テストされることに反発したら、手塚先生がしどろもになって、結局テストなしで任されることになったという(1日700円)。

 当時の小澤青年は手塚先生のことを「ベレー帽をかぶったジャガイモ」ぐらいにしか思っていなかったというから驚き。最初から「一枚いくら」と尋ねるなど態度が珍しかったようで、なぜ任されるようになったかは未だに謎であるという。

 当時、手塚治虫の元には、永島慎二、桑田次郎、横山光輝、松本零二、石森章太郎、赤塚不二雄、石川球太らがアシスタントをしていた。各人がアシスタントをしながら自分自身の作品も描くというのが普通だったとのこと。

Q.当時としても現在でも、海洋や潜水艦のSF作品が多くないが、なぜ、潜水艦SFを描こうと思ったのか?(その頃はまだスティングレイもシービュー号もなかったのに)
 子供の頃からよく父親の出張に付いていって各地の港を見て回ったことがあり、将来は造船技師になろうと思っていた(父親が息子を造船技師にならせたがった)。「世界の艦船」も愛読していた。

 なぜ船よりも潜水艦を描こうと思ったのは、海の中の世界は広大で地球の中の宇宙とも言える存在に惹かれていたことから。中1の頃、原潜ノーチラス号が進水し、中2の頃に夏休みの工作で、ホウノキを削ってゴム動力の潜水艦模型を7隻、先の丸いのから尖ったのまで、いろんな形状のものを作り、先の丸いタイプが最も速いことを発見したことがある(学校の先生にはふざけるなと叱られて、教室の後ろに立たされたそうだが)。

Q.最初は少女漫画を多く描かれていたのに、旧707、青6時代は、ほとんど女性が登場しない理由と、新707F、新青6になって、女性キャラが大活躍するようになった理由?
 「男は歴史を切り開く義務があり、女性は歴史を繋ぐ者である」という先生の父親の影響で、女性は戦場に出るものではないという意識が強かったため。「黄色い零戦」を描くことで漫画家を嫌っていた父親との折り合いを付けた後は、編集者の要望にやむなく応じて女性キャラが登場するようになったとのこと。

 小澤先生の父親は、戦前の燃料研究所(その後の工業技術院公害資源研究所)で燃料・潤滑油の研究をされていて、そこで零戦の開発にも携われたという。その父親が、漫画家というものを非常に軟弱な職業、「アホウの代表」として否定しており、小澤先生をなかなか認めなかった。「黄色い零戦」はその父親と折り合いを付けるため、認めてもらうために描いたとのこと。

Q.小澤作品では、よく大物があっけなくやられる理由は?(707のアポロノーム、青6のビッグ・マックス)
 編集者がこの次にはもっと凄い相手を登場させるように要求してくる。それに答えて、より凄い相手を次々と登場させていくうちに、描いてるのが嫌になってしまうためとのこと。
 小澤先生は、凄い相手との戦いよりも、ポンコツ同士であっても男と男の戦いを描く方が好きなのではないだろうか。あるいは、凄い相手があっけなく滅びることに先生の一つの主張があるのではないか、そんな答を期待していたが、とりあえず今回のところはこのような答だった。

 編集者の要求というのは、かなり作品に大きな影響(どうも先生にとってはいい方の影響ではないらしい)を与えているようで、潜水船のデザインにまで及んでいるらしい。小澤先生のリアリズムからすると、船型は涙滴型、推進器はポンプジェットが一番合理的と考える。でも、編集者にかかれば地味すぎるとして却下されてしまうだろうとのこと。作者のわがままと出版商業主義が常にぶつかり合う。このため、編集者に干渉されないネット上での作品発表を本気で考えられているようだ。

 新青の6号(SEBUNコミックス)は、編集者と喧嘩のあげく、6巻の予定が5巻に繰り上げとなり、1巻分の原稿が出版されずじまいとなったとのこと。(2002年2月3日)。

注:小澤作品では、海の男同士の熾烈な闘いの後の、黒幕との対決はあっけなく決着する特徴がある。
・U結社編で北極海でのUキャリアー対多国籍艦隊の対決。攻撃開始後わずか8ページ。

・ムウ潜団編:ブラック・ジャック撃沈後、ムウの人々の救出はたった1ページ。

・ジェット海流編:ZP-5が白旗を上げた後、707対モビーディックの対決は、6ページ。707のライナー1発で撃沈はあんまり。

・アポロノーム編:707はアポロノームを一度も攻撃していないまま終わる。「まさにあっけない結末であった・・・」と書いてある。:この時は、先生のアシスタントが重大な怪我を負ったことが原因(YASUさんのサイトの宣言参照)。

・青の6号対ストリームベース:3ページ。ビッグロック6発の一斉発射で終わり。

・ベルグ大佐のムスカ1号。丸腰の青の6号を見逃した後、たった1ページで水中対決シーンもないままコーバック号に撃沈されるのはあんまり。

・ビッグマックス対青の6号も特殊魚雷がたった1発。

 その後、1970年頃より作品数が激減、1983年10月に交通事故で重傷の頸椎捻挫。4年目に奇跡的に回復するまで闘病生活。

Q.コーバック号へのライバル意識などを見ると、先生は米国が嫌いなように思えるが?
 敗戦後、自宅が進駐軍司令部に徴用された(2年後に返還)など戦後の経験から、当然、反発がある。しかし、偉大な面は率直に尊敬する気持ちもあるとのこと(先生は米国車の熱烈なフアン)。
 先生は、36年前の質問では「巨人ファン」と答えていたが、今回、再度質問すると、アンチ巨人に変わっていた。なんとなく、アンチ巨人の方が先生らしく思えて納得。

 先生は、アメ車が好きで、また、高速道路網の無料化を主張する。これは環境派の小澤先生に似つかわしくないと尋ねたが、日本のあちこちを移動していろいろなところを見るのが好きだからとのこと。できれば飛行機に乗って外国にも行きたいが、昔の交通事故と最近の怪我のせいで、飛行機による気圧変化に適応できなくて、自動車で移動せざるを得なくなっているとのこと。

Q.「サブマリン707」の由来?
 就航したばかりのボーイング707のイメージを取り入れて付けたもの。戦記ものを要求する編集者は「伊号○○」とか「くろしお一家」などの題名を主張し、「サブマリン707」とするのに一苦労したとのこと。
 「サブリマン」と読み間違える読者も多かったとか(実は西村屋も小学生だった連載当時に長らく「サブリマン」と間違えていた(苦笑))。

Q.なぜ青の1号コーバック号は、米空軍のマークを表示しているのか?
 海中という宇宙空間を飛び回る気持ちを込めた。

Q.青の1号コーバック号のセイル・プレーンが出たり消えたりする理由?
 不明。突貫6号さんによると浮上中又は沈没時に出現するという。

Q.青の3号マラコット号(KNBS-3)の国籍?
 英国。KNBSのKはKingdom

Q.青の7号タルボット号(ANBS-7)の国籍?
 オーストラリア。ANBSのAはAustralia。

Q.青の2号と4号はなぜ登場しないのか?
 不明。うーん、ほんと、気になる・・・。

Q.青の6号が6である理由
 最初は「青の6号」というスパイものの主人公(秘密諜報員)の名前だった。007よりも一つ上の意味で6としたとのこと(2002年2月3日瀧乃家での先生の誕生会にて)。

Q.ムスカの耐圧殻の形状?
 前部は円筒型。中央部以後は2つの円筒がめがねのように組み合わさった複合円筒型(伊400と同じ)。

Q.小沢作品の中で最も好きな潜水艦は?
 サブマリン707(二世)とのこと。コーバック号も好きだが、実はマラコット号も好きだそうです。マラコット号(実は、707ジェット海流編のモビー・ディック号とそっくり)は、先生の母親が洗い張りした布にアイロンを掛ける思い出から浮かんだという。てっきり白鯨をイメージしたと思ったらアイロンだったとはビックリ。

注:初代707(707一世)はガトー級原型のまま。船首にU-7の魚雷を受けて沈没し、運良く水深70mの浅瀬に流れ着いてサルベージ・改造されている(707一世改)。スキップ・ジャックの装備、海中航行速力が12ノットから22ノットへと大幅に増速。後にジュニアも搭載されなど、かなりの増強。その後、無人401(コッド・フィッシュ)に撃沈されて、新造艦が707の名を継いでいる(707二世)。
 「707一世改」は機能一新しているものの、あくまでも改造は改造なので、新造707を「707号二世」と考えるのが正しい(復刻版3巻p.217の司令の言葉)。実は、小澤先生自身は、当時、707一世改を二世と、707二世を三世と考えておられたのは面白い(2002年2月3日)
 その後、いわゆる「アジのタタキ編」で特務艦に改造されている(707二世改)。

Q.707一世、707一世改、707二世のうち、どれが本当に描きたかった707か?
 ガトー型は戦記物が好まれていた当時、編集者が望んだため。本当は「707二世」が最初から描きたかったもの。このため、はやく707一世を沈めようと狙っていたそうで、最初に沈めたときは乗員だけ助けて引き揚げ不可能としたところ、読者からの抗議ハガキが殺到して、引き揚げて改造せざるを得なくなり、二世の登場時期が先送りになったとのこと(2002年2月3日)。

Q.「707二世」の動力源は? シュノーケルが付いているからディーゼルか?
 自衛隊の「はるしお」が707に倣ってシュノーケルに顔の絵を描いているのを「世界の艦船」で知って、いまさら707のシンボルであるシュノーケルを外せなくなったもので、搭載機関がディーゼルという訳ではないとのこと。といって、「原子力」ともおっしゃらない。先生としては原子力以外の新しい原理の動力源を搭載したい意向のよう(深海の高圧をエネルギー源とするスカラー・ホルム・エンジン?)。
注:この707のシンボルともいうべき顔の絵のあるシュノーケルは、青の6号二世にも付いている。つまり青6二世は同時に707三世でもあった、というのが西村屋の推理。
 この青6二世は涙滴型船体の上面がわずかに波打っている不思議な形状。かなり力の入ったデザインであり、小澤先生の性格としては古くさい船型の青6一世(特に船尾下面の一軸がダサい!)よりも青6二世の方が好きだったのでは・・・。そして、もっと長い物語が用意されていたに違いない気がする・・・。

Q.なぜ原子動力には反対か?
 原子動力に絶対反対というわけではない。絶対に安全だという態度で住民説明したりしている点に問題がある。炉からの距離に応じて被爆服を用意するなどの安全対策も考えていくべきとのこと。
 「少年タイフーン」では堂々と原子力空母、原子力フリゲート艦、原子力潜水艦が登場しており、この頃に批判されたのかと聞いたら、そうではなくて、その前の作品である「海底艦隊」の頃だったとのこと。その作品中の原子力についてずいぶん厳しいバッシングを受けて、それで、原子動力の採用に慎重になったとのこと。

Q.小澤作品の絵の魅力の秘密?
 小澤作品は、後の作品になればなるほど、描かれる船、潜水艦、メカ、それだけでなく、それらを取り巻く海や波や自然の風景の描写が非常に美しく印象的である。この点を先生に伺ったところ、意外にも、先生としては自分の絵は人(漫画家仲間?)から変だとよく言われるとのこと。3次元の立体の構図も正確ではないし、光線の方向も無頓着で陰影を省いているとのこと。それは、絵画的な絵よりは、図面的な絵が好きだからだそうだ。先生のアシスタントをする人は描くべき影が描かせてもらえないなど苦労するとのこと。
 そのくせ、斜め前から見た絵では見えるはずの船尾を省いてしまったりもする(斜め後ろから見た絵では船首を省いたりしていますね。)。自分の絵は方向性のない「スカラーマンガ」と自称されている。波も決して本当の波ではないという。
 そう言われればそうだが、他の劇画的な絵よりも強く惹かれるのは不思議だ。

 707Fの聟島(むこじま)を空から見下ろした絵(水路部発行の海図の等高線から描き起こしたとのこと)とか、707アジのタタキ編のアジとカモメの乱舞する中の707二世改(完全復刻版707の第6巻p.310。リハビリを兼ねて本人一人で描かれたという。)も非常に魅力的で、まさに芸術作品と思ってしまう。しかし、それはエンジニアが精緻な図面を美しいと思う感覚に似ているのかも知れない。柳原良平の船の絵にも共通する美しさが感じられる。
 瀧乃家オフで驚かされたのは、大きな絵を、色紙を横に並べて描く手法である。潜水船を横から見れば、船首と船尾は斜めに見えるはずであるが、そうは描かず、船首から船尾まですべて真横から見たように描く。

 先生は、外観上のリアリズムや現実の世界にこだわらず、SFとして空想の中でリアリズムを追究する。青6の世界で国際組織を作り、支援艦隊を作り、本部「青のドーム」の構造図を作る。新707Fでは相対性理論や進化論やエネルギー法則の穴があることにして、物理法則までも空想の中で構築しようとする。
 先生は、進化論が正しいならなぜ猿だけが知能を持ったのか? 相対性理論が正しくて光速が越えられないなら人類は太陽系の外に出られないことになるが、自然はそんなに無慈悲なのか? 重力は落ちるばかりでその逆はないのか? 押し寄せる波の中に澪(みお)という沖に向かう流れがあるじゃないか・・・。
 こうした疑問に対して、ワープや波動砲で一気に解決するような安易なことは好まない。たとえワープしたとしても、通常空間に戻った瞬間の異常な衝撃のためタンクに亀裂が入って飲料水を喪失してしまうとか、暗黒星雲を回避する際の膨大なエネルギーの損失など、人間の造った物に当然付きまとうさまざまなトラブルも描きたいという。

 これも先生が子供の頃に、父親から哲学の大切さを徹底的に教えられてきた影響とのこと。哲学を持たない人間はダメだ。文明・文化なんぞやを常に考えるのが、人間の身だしなみだと・・・。
 このように国際社会システムから物理法則まで独自の世界を創り上げていこうとする小澤先生のこだわりが、1枚1枚の絵にも凝縮されているかのようだ。

注:国際機関
 小澤作品は、1967年の「青の6号」において、「青」という国際組織を詳細に書き込んだ点で、マンガ、SF小説を問わず、また、当時としてのみならず現在においても画期的な作品ではないだろうか。

 その原型が707(1963〜65年)に見られる。707第一部、U結社への対抗措置として、日本から707と708が、米国から301と917(トレッド号)が、カナダから245(ブルーシャーク号)が参加している。その後、第2部ムウ編で、レッド提督のブラック・ジャックを撃破した後、ムウの人々を解放するため再結成される。第3部ジェット海流編で、P.S.G(パシフィック・シー・ガード)が設立され、本部がハワイに置かれる。日本から707、米国から567(トライトン・ジャック、ホーキンス艦長)、カナダから245(ブルー・シャーク)が最初のP.S.G.潜水艦隊となっている。

 1964年の「冒険日本号」でも、世界の首脳からの同意書を集め、世界中から300人の乗組員を集めて冒険航海に出発する。

 1966年に放映された「サンダーバード」の国際救助隊は、なんと、大富豪が息子たちと設立した私設救助隊。同じく66年には「ウルトラマン」で科学特捜隊が登場している。それらと、世界中の国が人や船を出し合う青の組織との考え方・スケールの違いが興味深い。

Q.小沢先生の今後描きたい作品?
・SFと現実の間をつなぐ物語が現代にはない。それを書きたい。小説を書こうとしたことがあるが出版までには至らなかった。
・一隻の潜水艦を生物のように描きたい。
・理念を切り崩さずに、遠い未来に目標を置いて・・・。
・レーザーズの物語:氷期の訪れによって地球を離れざるを得なくなった太古の人類の過酷な運命を描いた作品という。
・新たな707の物語:圧力そのものを動力源とする。涙滴型、ポンプジェットの707とコーバック号のあまりにまっとうな、でもどこか生物的というか、特異なフォルムに鳥肌が立ちました。

その2(2001年11月「瀧乃家」にて)


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