新サブマリン707教室

■キャビテーションとダクト付きプロペラ

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2002年1月9日更新(tamura@海技研さん)

■キャビテーション

 飛行機のプロペラにはなくて海中のプロペラにのみ付きまとうのが「キャビテーション」である。キャビテーションの発生には、低圧力、気泡核の存在、時間の3つの条件が揃う必要があり、以前は、海中を航行する潜水艦では起こらないと考えられて来た。

 ところが、深度により圧力が高いにも係わらず、"Tip Vortex Cavitation(TVC)"という翼端から発生するものが消えにくい傾向がある。これは、船体に付着した泡等がそこに集まることにも起因するのかもしれない。あとは、ボスの先端から発生する"Boss Cavitation"も消えにくい。
 TVCは、商船のプロペラ翼背面(プロペラ前面)に生じる大きな"Sheet Cavitaion"のように、効率が落ちたり、翼がエロージョンを起こすことはあまりないと思われるが、騒音という面では問題があり、こうしたことがハイスキュー、フォワードスキューやダクト(ノズル)の採用が潜水艦で進んだ要因。

 TVCは、水深が1000m又はそれ以上の高水圧下では、よほどひどい設計をしない限りは、たぶん生じないと思われる。

 ちなみに、船体全体をシート・キャビテーションで覆うアイデアもある(日経サイエンス2001年8月号「謎の新兵器 超音速魚雷」参照。かなり眉唾もの)が、それより、泡で境界層を制御する方が現実的であり、そうした実験を海上技術研究所(前の船舶技術研究所)で始めている。あんまり泡だらけにすると、プロペラ効率も落ちてしまう。

■プロペラの効率
 プロペラの効率は、非粘性の軸方向の運動量理論から求まる理想効率を超えることはできない。理想効率と実際の効率との差は、プロペラが後流に残す旋回流による損失と、プロペラ翼面での粘性に起因する(摩擦)損失による。

 したがって、効率の高いプロペラの多くは
A)プロペラ翼の荷重度を下げることにより理想効率の高い側でプロペラを作動させる
B)旋回流による損失を減少させる
C)粘性影響を減少させる
という3つのどれかによって実現している。

 単一プロペラで高効率を実現する方法として考えられているのは、次の4つ(それぞれが上のどれを利用しているかを示す)。

低回転大直径プロペラ→A)
ブレードレットプロペラ→その他(翼端渦エネルギーを回収)
Tip Vortex Free プロペラ→B)
境界層制御プロペラ→C)

 「ブレードレットプロペラ」とは、翼端に小翼をつけたもので、ジャンボジェットのウイングレットと同じ発想。小さな翼を翼端につけて、渦糸の放出を止める。ウイングレットでは、有効なアスペクト比が増して楊抗比が大きくなる、アスペクト比を大きくした場合に比べ、翼根部の応力が小さくなる等の利点があるが、ブレードレットについても効率が数%向上するとの報告がある。

 「Tip Vortex Free プロペラ」はスペインで開発されており、いわゆる翼端板を取り付けたもの。ダクトと組み合わせると大幅な性能向上が見込まれるとのことだが、疑問を挟む専門家が多い。ダクトなしでは本当に効率が上がるのかはかなり疑問。

 「境界層制御プロペラ」は、実現していないのでどうなるかわからないが、例えば翼の前縁から突起を素早く出し入れして境界層の剥離を防ぐとか、境界層を吸い込むとか、マイクロバブルを前縁から放出するとか境界層内にフィン(LEBU)を配置するといったもの。もっと境界層や乱流についての知識が上がり、かつマイクロマシン技術などが進歩すれば有効だと考えられている。海技研で研究されている。

知的乱流制御研究センターミラーサイト

 さらにプロペラ単体以外の効率化方法を考えると、
1)複数個のプロペラによる旋回流の回収
2)ダクト付加による整流効果によって効率高化+ダクトの推進力負担によるプロペラ荷重度低下
3)フィンの付加による旋回流の回収

 2重反転プロペラはその1)で、その効果はA)+B)(特にB)に属する。

■ハイリースキュード・プロペラ(Highly Skewed Propeller)
 翼端渦を起こりにくくして誘導抵抗を減らすとともに、プロペラの見掛けのアスペクト比が大きくなって揚力が増大する。

■2重反転プロペラ
 2重反転プロペラは、魚雷のようにキャビテーションの発生を押さえることより、旋回流による損失を回収することや、旋回流による運動性能の問題(ねじれ等)解決の部分が大きいかと思われる。

 2重反転プロペラの前のプロペラの回転流を後ろのプロペラで回収するので、通常同一の半径である。厳密に言うと、前のプロペラで加速された分、連続の法則で流れの半径は小さくなるから、後ろのプロペラがほんのちょっと小さくてもおかしくない。

■「ダクト付きプロペラ」と「ポンプジェット」
 まず、ダクト式推進器には加速流型と減速流型がある。ダクトをリング状の翼と考えてみよう。リング翼の背面(凸な方)がダクトの内側を向いているのが加速流型、リング翼の背面がダクトの外側を向いているのが減速流型と考えるとよい。

 加速流型の水ジェットやダクトプロペラというのは、流路やダクトによって水を強制的にプロペラ(インペラ)に導き、流れ込む水の質量を大きく、プロペラ前後での水の速度差を小さくして効率を向上させるもの。したがって、加速流型であれば、プロペラのみの効率は上がるが、ダクト自体に粘性抵抗が生じるために、常にプラスの効果があるとは限らない。押し船又は曳き船は低速状態で高い推進力が要求され、加速流型である。

 推力がアップするかどうかは、プロペラ径との兼ね合いもある。ダクトを付ければ、全体のサイズはどうしても元のプロペラ径より大きめになってしまう。言い換えれば、ある全体サイズの制約のもとでは、ダクトをつけた方がプロペラ径が小さめになってしまう。
 荷重度の高い砕氷船や作業船には、加速流型ダクト付きのCPP(可変ピッチプロペラ)がベストの推進器である。また、原理的には加速流型ダクトによる高速化も可能と考えられる。

 一方、減速流型は、流れ込む水の質量を少なく、プロペラ前面での流速を減らしてプロペラ翼背面の負圧を押さえてキャビテーションを起こしにくくするもの(by SiD艦長)。

 ダクトプロペラの特長には他に
1)翼端の物理的な保護
2)キャビテーション発生時の船底への変動圧力の低下
というのがあるが、2)は潜水艦には関係ない。

 「ポンプジェット」の場合は、いわゆるウォータージェットとダクトの中間のようなもので、中に整流用の翼も入り、ダクトもやや長くなる。なお、ポンプジェットを最初につけたのは英国の潜水艦。(トムクランシーの原潜解剖あたりを参照のこと)

 タンカーの様な肥大船にノズルを付ける場合があるが、こちらはWID(Wake Inproved Duct)とか、それぞれの会社によって違う呼び名があるもので、プロペラ上方の伴流を整流化することによって船体側での流れを改良して船体効率向上をねらうもので、ちょっと働きが異なる。

 まあ、未来のプロペラといえば、境界層制御のフィンをつけたプロペラ等が考えられるが、まだ実用化されていない。

■プロペラは船尾に付けなければならないのか?
 船体とプロペラとの流体力学的な干渉影響は2つに分けられる。まず、プロペラが船体の後ろにある場合を考えると、1つは船体の後ろに伴流ができ、その中の遅くなった流れをプロペラが加速するので推力が増す。これを通常は伴流係数1-wとかで表す。もう一つはプロペラが船体を後ろに引きつける効果で、これは1-tで表し、推力を低下させる。

 それに対し、船首プロペラの場合は、伴流は利用できないが、船主と船尾の形状の違いによって、プロペラの後流によって船体が後ろに押される影響は後ろにつけた時より小さくなる。この合算で考えると、通常は効率だけ言うと船首のプロペラは不利。

 ただし、キャビテーション発生を押さえにくい原因の一つは、伴流が上下で異なるため、プロペラの翼に対する水の流入迎角が異なることによるから、そうした意味では伴流のない船首プロペラは意味がある。ただし、潜水艦はその特異な形から伴流影響は非常に小さいかと思われる。

 もう一つは舵の利きの問題。舵の直前にプロペラがあった方が、利きは良くなる。船首だと舵の場所が悪くなる。

 こんな訳で、ほとんど全ての商船でプロペラは後ろに着いているが、最近アジポッド付のDATという船首部の船底に突き出して付けたものも出始めている。

 707ジュニアの推進器とは違うかも知れないが、舵のいらないバリアブル・ベクトル・プロペラ(Variable Vector Propeller)というものもある。

 小澤さとるの席の新707の33ページなんて見ると、形もぴったり。

 小澤さとる先生によると、707連載当時はバリアブル・ベクトル・プロペラというものはご存知なかったそうである。しかし、当時、ジュニアのプラモデルがまったく舵が利かず直進のみだったそうで、池で遊ぶと、曲がって帰ってこないため、池に沈めてしまった子供が沢山いたとのこと。従って、ジュニアは必然的にバリアブル・ベクトル・プロペラを採用していたことになる。