■新サブマリン707教室

西村屋トップメニュー>小澤さとるのUndersea Would>新サブマリン707教室気楽にメッセ−ジ・ボードへ検索エンジン
 
2002年2月26日更新

■潜水艦の推進器(プロパルサー)の歴史
 ●2軸から1軸へ
 昔の潜水艦は水上艦と同様に2軸が主流だった。707一世もそうですね。2軸にすることで冗長性を持たせる意味が主だったと思われるが、静穏性の観点から負荷を2軸に分散させたり、浮上中のプロペラ深度をなるべく大きくすることでキャビテーション(*)が起きにくくなる利点もある。静穏性が要求される海洋観測船も2軸である。世界初の原子力潜水艦である米ノーチラス号は、船尾の下面ではなく両側にある変則型だった。
 その後、水中性能を重視した涙滴型になって、1軸になった。707二世からそうなりました。プロペラに流入する流れが整流されて、不均一流をなくす効果も大きい。ただし、2軸の利点はあるので、2軸が採用されてもおかしくないと思われる。
 707に登場のブラック・ジャック(復刻版5巻P.319)と青の6号に登場のムスカ(復刻版上巻p.112)が2軸。


がる〜さん作。要"Flash Player 6"(無料ダウンロード))
*:翼背面(プロペラ全面)の負圧が大きくなって、水が水蒸気になる現象。騒音、振動、推力ロスの原因になる。騒音を問題としない魚雷用のプロペラは、翼断面をくさび形にして、キャビテーションを積極的に利用する「スーパーキャビテーション・プロペラ」が使われているはず。

 ●多翼へ
 3〜4翼だったプロペラは、製造技術の向上、強度の向上によって5〜7翼へと翼数が増えた。こうすると負荷が多数の翼に分散され、1翼あたりで受け持つ力は当然小さくなってキャビテーションが生じにくくなる。ただし、摩擦は増えて効率は悪くなる。

 ●「ハイスキュード・プロペラ」と「フォワード・スキュード・プロペラ
 昔のプロペラは丸形、幅広で3〜4枚だったが、最近のプロペラは三日月のように曲がっていて、幅も狭くて、5〜7枚になっている。
 特に曲がりの大きなプロペラを「ハイスキュード・プロペラ」と言う。ハイスキューとなると圧力の変化が緩やかになることと、キャビテーションが消える位相がプロペラ半径によってずれるため、結果的に騒音や起振力(船底がぶるぶるという)が小さくなる。その分、設計・製作も難しいようだが。
 新707二世改では、この多翼ハイスキュード・プロペラの二重反転になっている。

 普通は、回転方向に向かって後方に曲がっている(バックワード・スキュード・プロペラ)。後退翼みたいのもの。
 それに対し、回転方向に向かって前方に曲がっているプロペラを「フォワード・スキュード・プロペラ」と言う。通常のプロペラでは内側から翼端に向かって翼面の境界層が発達し、剥離し、キャビテーションが発生する。フォワード・スキュード・プロペラでは、翼端から内側に向かって境界層が発達するので、剥離やキャビテーションが発生しにくいのだそうだ。前進翼機が失速しにくいのも同じ原理とのこと。強度上は大変そう。

 最近の「そよ風」を売り物にした扇風機も三日月型・多翼でフォワードスキューになっている。これは騒音(風きり音)低減が主な採用理由とのこと。

 フォワード・スキュード・プロペラをダクトなしで使うと、ちょっとのことで浮遊物なんかを巻き込みやすくて怖いため、ダクト付きでしか使われていない。「みらい」のサイドスラスタに使われている。

 ●「ポンプ・ジェット」と「ダクト・プロペラ(コルトノズル・プロペラ)」と「シュラウド・リング
 プロペラの周りにダクトを付けると、プロペラ翼端渦をなくし、誘導抵抗が減るように思えるが、その方面にはあまり効果はないようだ。むしろ、加速型、減速型など複雑な効果があるようだ。

キャビテーションとダクト付きプロペラ(Special Thanks:tamura@海技研さん)New

 曳船や押船のように低速時に要する船のダクト・プロペラは、ダクト内の負圧の合力(揚力)が前進方向に向かうように、ダクト形状がデザインされているが、高速船ではそのようなデザインは難しく、抵抗になってしまうとか、プロペラ負荷が上がるとキャビテーションが起きやすいなど、不利な点ばかりかと思われるが、そうでもないかもしれない。

 ダクト内に、回転する動翼だけでなく、整流効果のある静翼も付いているものを「ポンプ・ジェット」(by SiD艦長)といって、最近、採用が増えている。ダクトが長め。ダクト内面にマスキー効果(**)を持たせてプロペラ騒音を押さえているとの説もあるが不明。前述のフォワード・スキュー・プロペラになっている可能性もある。曳航式ソナーなどを曳航しても巻き込みにくい利点もあるかと思われる。
 青の6号に登場するムスカが(ダクト・プロペラ風の)ポンプ・ジェット。ウォータージェット推進は、707登場のUX号と、青の1号コーバック号。

 騒音をあまり気にしない魚雷でも、最新型のMk46(60ノット)ではダクト付き二重反転プロペラが採用されている。これは、あまりに速くプロペラを回すので、キャビテーションによって進まなくなるため、ダクト付の二重反転にして途中の圧力を上げてやって(ポンプと同じ)、キャビテーションを防ぐもの。(by tamura@海技研)

 DSRVや潜水調査船など低速の艇のプロペラに付いているリングは、「シュラウド・リング」というらしい。単にプロペラ・ガードを兼ねているだけで、推力アップには効かない。
 アルビンは最初は「しんかい2000」と同じようにただのガード代わりのシュラウドリング付きプロペラ1基が船尾に付いていたが、
=>アルビンの初期状態(2枚目の写真)
その後、小型のダクト付きプロペラ3基に換装された。
=>改造後のアルビン
 これは、応答性の悪い大型モーター1基の代わりに、応答性のよい小型モーター+加速型ダクト・ペラを3基とすることで、機敏に運動できるようにしたらしい(船尾だけじゃなく、その他あちこちにも付いている)。静止に近い状態からの運動なので、押し船や曳き船のように加速型ダクト・ペラが有効なんですね。
 「しんかい6500」の現在のモーターもスタートして全速になるのに30秒もかかって、それでは自由に制御できないので、多数の小型ダクト・ペラをあちらこちらに沢山付けることの効果を実験的に評価中。といっても、ざらにある1ノット程度の底層流の中で運動を自由に制御するのは至難の業。効果が乏しいのではとの厳しい意見もある。

**:マスキー効果:気泡は音響を吸収する効果があり、これを利用して自船の放射雑音を減らしたり、相手からのアクティブ・ソナーにより探知されにくくすることに使われた。だが、エア・コンプレッサーの騒音のせいか、最近はあまり使われていないかも。気泡を海中にまき散らすとプロペラ・キャビテーションも起きやすくなるのでは。

 ●「二重反転プロペラ
 2重管構造のプロペラ軸によって、反対方向に回るプロペラを同軸上に並べたものを「二重反転プロペラ」という。推進効率は非常によいと言われているが、構造が複雑で、ギアの騒音が大きそうだ。魚雷ではよく採用されている。凄いことに、リモコン潜水艦で二重反転プロペラを装備したものもある。
 新707二世改でも多翼ハイスキュー二重反転プロペラが採用され、これとクイック・ブローによる緊急浮上で得た加速によって、ホーミング魚雷の追尾を逃れている。

 ●「魚やイルカの推進方法
=>魚ロボット・ホームページ(海上技術安全研究所)

=>アクアバイオメカニズム(東工大の中島 求さんのサイト)

=>The Fish Project

 ●「超伝導電磁推進
 「レッドオクトーバーを追え」で有名になった超伝導(超電動)電磁推進は、超伝導コイルの強力な磁場に直交するように海水中に電流を流すと、推力を発生するもの。
 当初、超伝導コイルの重さだけで沈没するだろうと酷評されていたが、日本財団の超電導電磁推進船「ヤマト-1」はちゃんと船として成立することを立証するとともに、数多くの技術的副産物(スピン・アウト)をもたらした。
 ネックは、液体窒素でも動作する高温超伝導コイルがまだ開発されていないこと(セラミック系高温超伝導物質はコイル化するのが困難)、また、海水中の電気伝導度を飛躍的に増大させる方法が見付からないこと。どこか水銀の海のある異星では凄い推進効率を達成するはず。
 現状技術でも、振動や騒音の原因となるキャビテーションが発生しない利点はあるが、塩素ガスは発生する。強力な磁場の発生などのため高出力のディーゼル発電機が発する振動・騒音がせっかくの長所を打ち消してしまう。

(続く)


西村屋トップメニュー>小澤さとるのUndersea Would>小澤さとるのUndersea Would新サブマリン707教室気楽にメッセ−ジ・ボードへ検索エンジン西村屋