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2003年7月31日更新
- ■海中での通信手段?
●光は?
- 太陽光が到達するのは、せいぜい水深100〜200mまでである。赤い光は散乱しやすく、すぐに減衰してしまうため、深くなるほど青い光の割合が多くなる。このため海中での短距離光通信にはブルーグリ−ン・レーザーを使う。
植物プランクトンは水深30mあたりにピークがあり、数十mまで太陽光を利用して光合成を行っている。
潜水船から肉眼で見通せる範囲は、せいぜい10mぐらいである。
- ・「ブルーグリーン・レーザー通信」
- 現実なのかSFなのか分からないが、海中での透過性のよい「ブルーグリーン・レーザー」を用いて、海面下十数mあたりから衛星まで通信する方法が小説などで登場するのが見られる。
- ・「Super-HARPハイビジョン深海カメラ」
- 電子のなだれ増倍(アバランシェ増倍)現象を利用した新スーパーハープ(HARP:High-gain Avalanche Rushing amorphous Photoconductor)方式撮像管を用いた深海用TVカメラで、通常のCCDカメラの約100倍の感度がある。CCDでハイビジョン化すると、被写界深度が浅くなって頻繁に焦点合わせをする必要があるが、Super-HARPカメラでは、高感度なことを利用して絞りを絞り込めるため、奥行きのある映像を撮ることが可能。
カメラの性能だけでなく、照明も当て方も工夫が必要。カメラの位置から照明を当てると、マリンスノーで反射して見にくくなるので、左右に展張したアームの先から照明を当てるようにする。
すでに暗視能力としては人間の目を越えているが、解像度と視野の広さでまだ人間の肉眼に負けている。あともう一息で逆転するかも知れない。そうなれば、狭い耐圧球に乗り込むより、船上で大きな画面を見る方がよい時代が来るかも・・・。
- ●電波は?
- 水中、特に海水中では電波がすぐに減衰してしまう。波長10〜100kmの超長波(VLF、3〜30KHz)なら水深10mまで到達する。波長が波長1000km〜1万kmの極超長波(ELF、300Hz〜3KHz)なら水深100mまで到達する。
淡水中なら、ラジコン潜水船の27や40MHzくらいの電波は水中2メートルくらいまで届くらしい。
- ・「ELF(Extra Low Frequency)通信」
- 非常に波長の長い極超長波による通信を「ELF通信」という。非常に長い曳航式アンテナを伸ばすことによって、大深度でも受信が可能であるが、伝送速度が非常に遅いので、通常は短縮コード表により通信が行われる。陸上送信施設(周波数 76Hz )がミシガン州(アンテナ長45km)とウィスコンシン州(アンテナ長90km)にあるらしい。
- ・「VLF(Very Low Frequency)通信」
- 「VLF通信」は、海面下数mまでブイ・アンテナ又は曳航式フローティング・アンテナを伸ばして通信を行う。この陸上施設が「象の檻」と呼ばれているやつらしい。
- ●音は?
- 音は、空気中で約340m/秒、海中ではその4倍以上の約1500m/秒のスピードで伝わる(海底下ではその4倍前後の数千km/秒)。光や電波の伝わりにくい海中では、音波が通信や探査手段の主役になっている。
海中では水温が低下するにつれて音速も低下する一方、水圧が増加するにつれて音速は増加する。その違いは数%以内である。
=>海中音速の経験式(農工大の山田研究室サイトの音響工学より)
- ・海洋の水温構造は?
- さて、まず、海洋の水温構造がどうなっているかを見ると、海面近くでは風や波や渦や冷却効果などによって上下混合が活発で水温がほぼ一定な層があり、これを「混合層(mixed layer)」という。この混合層の厚さは、海域によって異なり、熱帯では百m前後、高緯度では200〜400m。季節によっても異なり、冬季には季節風や冷却のため混合層が発達する。
その下には、北大西洋北部や南極周辺で海水が冷却されて沈降した冷たくて膨大な量の中・深層水が存在する。混合層と中・深層水の間に、温度勾配の大きな層があり、「温度躍層」という。
- ・海中での音波の伝わり方は?
- これによって、音波の伝わり方はどうなるかを見ると、まず、混合層の中では水温一定のため、圧力が増大するにつれて音速は増大する。混合層の下端で音速が極大になり、これを「層深」というそうだ。この結果、混合層内では音線は上方に曲がり、海面で反射を繰り返して遠方まで到達しやすい。このため、混合層内を「表面層ダクト(surface duct)」といい、混合層内(つまり層深より上方)の潜水艦は水上から発見されやすい。
ただし、混合層の表面付近では、べた凪の日中に海表面が温められて温度勾配が生じ、すなわち、深度とともに水温が低下し、音速も減少するため、音線が下方に曲がる時がある。この時は海中に死角ができることになる。これを「昼下がりの効果」というそうだ。
混合層の下の温度躍層では、昼下がりの効果と同様に、水深とともに音速が減少し、音線が下方に曲がる。通常の海では、水深千mあたりで最も低速となる。この最低速層のことを「SOFARチャンネル」又は「サウンド・チャンネル」という。北極海など低温の海では、SOFARチャンネルは海面に一致する。
あとは、水圧の増大による効果が上回って、ずっと音速が増えていく。
層深とSOFARチャンネルの間では、音線は深い方に曲がる性質がある。反対に、SOFARチャンネルから海底までは、音線は浅い方に曲がる性質がある。したがって、SOFARチャンネルで発信された音波は常にSOFARチャンネルに戻ってきて、遙か遠方まで伝えることができる。
また、層深より下方にいる潜水艦でも、海底方向に発せられた騒音が深海にまで達してから上方に向かって水上船舶に捕らえられる場合がある。このようなゾーンを、「コンバージェンス・ゾーン(Convergence Zone)」という。条件がよければ、海底反射(Bottom Bounce)によって捕らえられる場合もある。(以上、参考文献 3))
別の例を挙げると、数千mの海底にある音響トランスポンダから半球状に発信された音波は、広がるにつれて上方に曲がり、SOFARチャンネルの上方で変向し、最終的に洋上で受信可能な範囲は、音響トランスポンダから真上に伸ばした鉛直線に対してだいたい45度の角度をなす円錐の範囲内に限られてしまう。
- ・周波数と伝達距離
- 音波の伝達距離は、周波数によっても異なり、低周波であるほど減衰が少なく、遠方まで到達するが、解像度は悪くなり、音響通信で送れる情報量も少なくなる。
人間が空中で聴ける音(可聴音)は30Hz〜20kHz程度であるのと比べると、1mという高解像度のサイドスキャン・ソナーはJAMSTECでは40kHz前後の超音波を使うが、海底から100m程度の近距離でしか使えない。一般的には100k〜500kHzである。ADCP(音響式流向流速計)、潜水船に搭載する前方障害物ソーナーや海底からの高度計も超音波なので聞こえない。
1万mまでの海底地形を描くマルチナロービーム音響測深機は、12kHzという比較的高い可聴音を利用する。送波ビームの範囲(ビーム幅1-2度と非常に狭い)に偶然入って、距離が近ければ、「ピン、ピン」または「ピキーン」という音として聞こえる可能性がないこともない。
海底下数m程度の地層を探査するサブボトム・プロファイラーでは4kHz。低い周波数3k-7kHzをスイープするチャープ信号という物で、パルス幅が長い(数十ms)ため、「ピュー、ピュー」というかんじに聞こえる。
1000kmの伝達距離の海中音響トモグラフィーでは200Hzというやや低目の音を使う。「ブォーーーー」という威圧感のある音。
米軍のソナーの周波数とダイレクト・パスでの有効距離の関係は、以下の通り。4)
・1950年代半ばのSQS-4:14kHz(可聴音)で4,500m
・1950年代末のSQS-23:4.5〜5.5kHzで9,000〜11,000m
・1960年代初めのSQS-26(改良型はSQS-53):1.5〜4kHzで18,000m
- ・「水中通話機」と「音響画像伝送」と「音響リンク」
- 洋上と海中、又は、海中同士の通話(1万mぐらいまで)は、もっぱら、音声を音響信号に変換して送信する「水中通話機」が使われている。
「しんかい2000」や「しんかい6500」の水中通話機は、救難時の互換性から、潜水艦でも使っている8kHz(可聴音, AMETEK社の市販品)の搬送波に帯域約2kHzの変調波がのったSSB(上側波帯)である。
さすがに「しんかい6500」では市販品そのままというわけにはいかず、支援母船「よこすか」からのサービス・エリアは、位相合成で9本のビームを形成して自動的に「しんかい6500」を追尾するようになっている。
画像を音響信号に変換して伝送するのが「音響画像伝送」。デジタル伝送方法としては、従来のASK(振幅変調)方式やFSK(周波数変位変調)方式に変わって、理論的に優れたPSK(多値の位相変調)方式が開発されている。
伝送路中の音波の吸収損失、伝搬距離の変動、音響送受波器の特性、船舶の動揺などによって、時々刻々変化する海中の音波の振幅と位相を補正することで、最大16kbpsの伝送速度を実現している。これによって、水深6500mで、約8秒で1枚の鮮明なカラー画像を連続的に伝送できる。
この開発によって、「よこすか」上に残されたさまざまな分野の研究者が現場観測の情報を準リアルタイムで共有できるようになった影響は大きい。同時に、「しんかい6500」の3名の乗船者にとっては、「よこすか」からの指示が急増し、非常に忙しい仕事場となった。
支援母船では水中通話機を通じて鯨の歌声がよく聞こえるときがある。音響トランスポンダの「ピキーン」という音に興味を持って近付く場合があるらしい。
音声や画像は多少のノイズが入っても人間が判断できるが、データ・テレメトリやコマンド送信を行う「音響リンク」では誤りが許されないので、さらに難しくなる。自律型巡航無人機「うらしま」では、水深3500mまでの音響リンク及び音響画像伝送に成功している。中心周波数20kHz(可聴音の上限ぎりぎり)で、変調範囲が18.75〜20.25kHzなので、超音波の範囲に入っている。
JAMSTECの志村拓也さんらは位相共役波(時間反転波)による水平方向の長距離音響通信の研究を行っている。
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(続く)
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