■Man in the Sea

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2010年12月11日更新

海人のビューポート」(by 山田海人さんのページ)へのショートカット
深海掘削と飽和潜水SF作品紹介へのショートカット

■半没水双胴型観測船「かいよう

■海中居住実験の歴史
 人間が水圧と等しい呼吸ガスを吸いながら潜水する方法を「環境圧潜水」という。ジャック・イブ・クストーが当時の自蔵式呼吸器を改良し、吸い込んだだけ空気が供給されるデマンド式吸入弁を発明(商品名「アクアラング」)したことによって、ダイバーを吸気管の束縛から開放。これによって、人間の水中活動は著しく拡大することになる。
 しかしながら、環境圧潜水はさまざまな問題をもたらす。まず、水中時間が長くなると浮上時に血中に気泡が生じる潜水病減圧症ベンズ)に掛かってしまう(水深12.5mを越えると潜水病が起きやすくなる)。
 これを防ぐ方法として段階的に水深を減じる減圧表が作られ、また水中でのダイバーの負担を減らすために減圧タンクが使用されるようになり、さらに血中から窒素を追い出しやすくするよう高酸素分圧とする方法が編みだされる。
 水深30mあたりから窒素によってお酒に酔ったような症状が出るようになり(窒素酔い)、水深76mを越えると、錯乱・記憶障害などの症状がひどくなって潜水作業が不可能となる。これを防ぐためにはヘリウムと酸素の混合ガスが使われるようになる。
 こうした技術進歩と水中作業時間の長時間化につれて、減圧症の危険を伴う短時間潜水を繰り返すよりは、人間を水中作業以外の時間も高圧チャンバーに居住させる飽和潜水サチュエーション・ダイビング)が行われるようになってきた。
 高圧チャンバー内での長期間の居住はまたべつの問題をもたらす。ヘリウムを使用する場合は「ヘリウム・ボイス」(ドナルドダック・ボイス)化することにより会話が困難となり、また、ヘリウムの熱伝導率が高いために体温が奪われやすく、より厳密な温度管理が必要となる。さらに、高圧神経症候群HPNS)と呼ばれる問題とも取り組まなければならなくなる。

 人類の夢の一つでもある海中居住について、
「海中居住学」(Living and Working in the Sea, 1984、著者:James W. Miller, Ian G. Koblick、訳:関 邦博ほか、丸善)
に詳細に紹介されており、集大成ともいえる好著です。翻訳の関 邦博さん(現神奈川大学教授)は、JAMSTECのシートピア計画〜ニューシートピア計画の潜水医学の中心として活躍された方です。本書の一部を紹介させていただくとともに、少しずつその他の情報を付け加えていくことにします。

●「マン・イン・ザ・シーI」("Man-in-Sea"、1962年9月6日〜、米)
 地中海ビルフランシュ湾(仏リビエラ地方)、水深61mに吊り下げたチャンバー(シリンダー)で1人。24時間15分でヘリウム漏れ、天候悪化が近付くなどの理由により中止。支援船<シーダイバー号>。減圧はチャンバーごと支援船上に引き揚げて実施。
 指揮したエドウィン・A・リンクは発明家で海中考古学も行っていた。使用されたシリンダー(海中バンガロー)は縦長の円筒形。横になることもできない小さなもので、支援船から吊り下げられているので天候悪化の影響も受ける、ハビタットの前段階の実験でした。

●「マン・イン・ザ・シーII」(1964年6月30日〜)
 キーウェスト、126mに46時間、ハビタット<スピッド:SPID>(水中携帯式膨張式住居>(1人が居住)、酸素3.6%、窒素5.6%、ヘリウム90.8%。減圧には92時間を要した。水深12.2mに膨張式作業場<イグルー:IGLOO>が設置。支援船<シーダイバー号>。

●「コンシェルフI(プレコンチナンI)」("Conshelf", 1962年9月14日〜21日、仏海中調査局OFRS)
 地中海マルセーユ沖、水深10mで1週間、ハビタット<ディオゲネス"Diogenes">(2人が居住。横置きの円筒形)、通常の圧縮空気を使用。減圧には2時間30分を要す。実験期間中に心理学的試験、エクスカーション潜水(水深54.9m)、水中魚囲いを造って魚の行動の観察、海中地形学調査などが行われた。
 アクアラング(商品名)の発明者、命名者でもあるジャック・イブ・クストーの指揮。"Conshelf"は"Continental Shelf Station"の意味。「プレコンチナン計画」の呼び名の方が有名か。

●「コンシェルフII(プレコンチナンII)」(1963年6月15日〜)
 紅海ポ−トスーダンの北東約40kmシャアープルミ礁、水深11mに設置されたハビタット<ヒトデハウス"Starfish House">(5人が居住)で4週間、通常の圧縮空気を使用。エクスカーション潜水は水深50.3m。
 27.4mに設置された<ディープケビン>(縦長円筒、2階建て、2人が居住)で1週間滞在。ヘリウム50%、酸素50%。
 水ジェット推進の円盤形潜水艇"diving saucer DS2"(2人乗り、潜航深度300m)も参加。潜水艇のガレージ"Saucer Hangar"も<ヒトデハウス>の側に設置されている。洋上では「カリプソ号」が支援。実験中は海洋生物の収集・観察が行われた。
 オウム「クロード」が参加。ジョック・イブ・クストー夫人が4日間<ヒトデハウス>に滞在。映画「太陽の届かぬ世界」でお馴染み。ヒトデハウスと円盤形潜水艇がかっこよくて憧れてしまいましたね。
=>Conshelf II at Shaab Rumi

●「コンシェルフIII(プレコンチナンIII)」(1965年9月21日〜、)
 地中海モナコ近く、水深100mに22日。球形(二階建て)のハビタットに6人が居住。酸素2.5%、ヘリウム97.5%。減圧時間は84時間。室内の湿度が高すぎた。
 ハビタットがヒトデ形から一転、平凡な形に変わったが、ほかのハビタットがたいてい円筒形なのに対し、球形はユニークだったといえる。

●「シーラブI」("Sealab I", 1964年7月20日より、米海軍)
 バミューダ沖約42km、水深58.8mの横置き円筒型ハビタットで4人が11日滞在。ハリケーン接近により中止。酸素4%、窒素17%、ヘリウム79%。
 実験期間中、生物観察・写真撮影、潜水艇「スターI」による潜水艦ハッチ接続実験の観察などを実施。
=>Sealab
=>Sealab I

●「シーラブII」(1965年8月28日〜10月11日、米海軍)
 カリフォルニア州ラジョーラのスクリプス海洋研究所の沖約1/4マイル、水深62.5mに横置き円筒型ハビタット(愛称<ティルトン・ヒルトン>、10人が居住)を設置。16日でチーム交代。元宇宙飛行士スコット・カーペンターは16日+14日連続滞在。計28人が参加。酸素4%、ヘリウム85%、窒素11%。加温潜水服を使用。
 支援船<バーコーン号>にはDDC(船上減圧室)及びPTC(水中エレベータ)があり、減圧は船上のDDCで実施。減圧時間は約30時間。  実験初日、カーペンターはジェミニ宇宙船と会話。またコンシェルフIIIとも会話。イルカ「タッフィー」が参加。実験途中現れたトド(サマンサほか)が仲間になる。
=>Sealab IIその2

●「シーラブIII」(1969年2月、米海軍)
 カリフォルニア州サンクレメント島沖、水深182.9mに横置き円筒型ハビタット(8人が居住)を設置。支援船<エルクリバー号>は2台のDDC、2台のPTCを搭載。
 8人チームが12日間滞在する計画だったが、ダイバーの一人が死亡し中止。

●「??」(1965年8月〜、ユニオンカニバイド社)
 ニューヨーク州トナワンダ、水深198.2mに2日間。うち30分はネオン90%、酸素10%。

●「ハイドロラブI」(Hydro-Lab I, 1966-84、ペリー潜水艦建造会社からフロリダ・アトランティック大学、NOAA)
 1966年7月〜フロリダ州ウェストパームビーチ沖、15.2m。海中ハビタット内で減圧。減圧時間は13.5時間。直径106.7cmの窓がある。
 1968年、4人乗りLILOS<シェルフ・ダイバー>による接続・移乗を実施。
 1971年3月、大バハマ島フリーポートの海岸沖約1.6km、水深15.2mに移設。1975年にJohnson-Sea Link(LILOS:Lock in lock out submersible)による接続・移乗が実施される(Dr.Sylvia Earleも参加。)。
 1972年よりNOAAの支援で12.8m及び18.3mで海洋科学調査を実施。
 1977年、NOAAが買い取り、米領バージン諸島セントクロイクス北東沖の水深15.2mに設置。
 1966年以来、600人以上の研究者が滞在している。
=>HYDROLAB

●「ベントス-300」(1966年、ソ連、北極水産海洋学科学調査計画研究所)
 自分で移動可能なハビタット。24人、14日間、水深300m?、詳細不明。小説「原潜919浮上せず」で<ベントスV>が登場するのはこれがヒントか。

●「イクティアンドル」("Ikhtiandr", 1967年、ソ連)
 黒海タリミア海岸、同計画の中で女性医師「マリア・バラーツ」と女性大学院生「ガリーナ・グセバ」が水深12mに3日間滞在。ウザギ「ティシュカ」、テンジクネズミ、ラットが参加。
 おそらく旧ソ連SF作品「両棲人間」の主人公の名前にちなんだと思われる。

●「チェルノモールI」("Chernomor" (Tschernomor), 1968年7月18日〜、ソ連)
 黒海ゲレンジク付近のゴルバヤ湾、水深12.5mで4〜6日。乗組員4〜5人。食事が充実していた。

●「チェルノモールII」(1969〜1974年、ソ連)
 黒海。15mで15日間。25mで15日間。窒素88%、酸素12%。
 1971年、5人が15mで52日間滞在。

●「テクタイトI」("Tektite I", 1969年2月15日〜4月15日、米海軍、NASA、ゼネラル・エレクトリック社)
 米国領バージン諸島セントジョン島グレーター・レームシャー湾、水深13.1mに4人が60日間滞在。縦置き円筒が2つ横に並んだ形状のハビタット。窒素92%、酸素8%。船上のDDC内で減圧。減圧時間は19時間22分。
 長期宇宙滞在の実験を兼ねていた。"テクタイト"とは隕石衝突時にできる溶融した微少なガラス球のこと。さまざまな種類の食事が試された。快適な睡眠が取れた。
=>Tektite I
 実験が行われたセントジョン島にTektite Underwater Habitat Museumが開設されており、また同Museumと協力して、3D仮想空間セカンドライフ内のThe Abyss Observatory内に内部を再現した実物大カット模型が展示されている。

●「テクタイトII」(1970年4月4日〜11月6日)
 同じ海域(バージン諸島)の水深13.1m。バージ支援設備から陸上支援設備に切り替えられる。窒素92%、酸素8%。初めて全員女性5人のチームが組み入れられた。減圧時間は20時間22分に修正。
 初めてサンゴ礁生態系の長期間にわたる研究に使用される。Dr.Sylvia Earleが参加。

●「アトランティータ」(1969年、イタリア)
 17才の女性「シルバーナ・ポレーセ」が参加。

●「ヘルゴランドI」("HELGOLAND"、1969年7月28日〜8月19日、ドイツ、ヘルゴランド生物学研究所GKSS)
 バルチック海ヘルゴランド島2.4km沖合、水深23mに<UWL>(水中実験室、愛称:妊娠中のゾウ"pregnant elephant")が設置。4人が5〜11日間滞在。海中ハビタット内で減圧。減圧時間は24.5時間。ハビタットに入るダイバーはウェットルームに直接浮上できる。調理室が充実していた。ハビタット内に喫煙フードがあった。
=>HELGOLAND

●「ヘルゴランドII」("HELGOLAND II"、1971年8月28日〜9月3日、ドイツ、ヘルゴランド生物学研究所)
 ルーベック湾で実施。
 1973年、ヘルゴランド沖3.2km、水深22.9m

●「イージア」("AEGIR"、1969-71、米国、マカイ・レンジ社)
 ハワイ沖、水深159m、180m。洋上曳航及び海底設置が容易なハビタット。減圧にはハビタットごと洋上に引き揚げて陸上で減圧する。室温・湿度制御に問題があった。"AEGIR"は"Norse god of the sea"の名。

●「シートピア」("Seatopia", 1973年9月22日〜9月26日、JAMSTEC)
 田子港、水深30mで4人が68時間滞在。酸素4.8%、窒素16.0%、ヘリウム79.2%。減圧時間66時間。
 海中開発協会から引き継ぎ、JAMSTECの最初のプロジェクト。このハビタットは現在もJAMSTEC横須賀本部内に実物展示されている。また洋上支援船から海底に降ろす潜水エレベータPTCは本四架橋のケーソン工事にも使用され、道の駅あわじ公園内に実物が展示されている。(内部は、残念ながらハッチ閉鎖により見学不能だが・・・)=>としっぺさんのブログ

●「ニューシートピア」(〜1990、JAMSTEC)
 半没水型双胴船型の海中作業実験船「かいよう」のSDC/DDCシステムで行われた。海中居住ではなくなった。

●「ラ・チャルバ」("LA CHALUPA", 1972-75、米国、海洋資源開発財団MRDF、プエルトリコ政府が後援)
 プエルトリコ、水深30.5m。酸素8%、窒素92%又は酸素5%、窒素95%。洋上曳航及び海底設置が容易な海底ハビタット方式。ハビタットごと洋上に引き揚げ、陸上て減圧。直径106.7cmの窓がある。女性が参加。電子レンジが使われた。入口が大きくダイバーが出入りしやすい。
=>Underwater Habitats(Marine Resources Development Foundation)
=>JULES' UNDERSEA LODGE
=>LA CHALUPA

●「アクエリアス」("Aquarious"、1993〜現在。NOAA所有、University of North Carolina at Wilmingtonが運用)
 フロリダ沖サンゴ礁内、水深20mに置かれている。現在でも継続中の唯一の海中居住実験。6人が10日滞在するのがパターン。JAMSTECも参加してサンゴ礁の呼吸など物質循環に関する研究が行われたことがある。
=AQUARIUS公式サイト
=AQUARIUS

=>Underwater Habitats
=>UNDERWATER HABITATS
=>Living under the Sea(BBCのblue planet challenge)
=>National Undersea Research Center(NOAAの組織。University of North Carolina at Wilmington内にある)/NOAA's Undersea Research ProgramPhoto Library

=>CRYSTALAQUA.COM(「海中開発と人間」(関 邦博)で飽和潜水技術等が紹介されている)
=>もぐりのドクターの潜水医学入門
=>無知はダイバーにとって最悪の敵である
=>潜水および圧縮空気中での作業における損傷(万有製薬)
=>千葉県魚貝類情報.海洋技研(はらぐろきぬた さんのサイト)
=>Vintage Scuba Diver(Mistralさんのサイト)

=>My Diving Page(Lonverさんのサイト)


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