DAMOS:Dynamic Adaptive Multi-vehicle Observation System
動的適合多点観測システム

 
2009/5/12更新

科学的成立性
シミュレーションの高度化
 地球シミュレータは、大気・海洋結合モデルの解像度を100kmメッシュから10kmメッシュにすることを開発目標としていた。これは計算能力をこれまでの10^3=1000倍にすることを意味する。ところが雲を解像するには10kmメッシュでも不足で、1kmメッシュでの計算が必要と考えられていたが、それにはさらに1000倍の能力を持つ次世代機の開発を待たなければならないと考えられていた。
 ところが、2002年に完成した地球シミュレータは、大規模な流体計算でネックとなるデータ転送速度の高速化にとことんこだわった設計が功を奏し、計画を大きく上回る実効性能を発揮。なんと3.5kmメッシュでの雲解像・非静力学モデルの全球計算に成功した(プレスリリース)。
 さらには連結階層シミュレーション、すなわち支配方程式の違いに応じたメッシュサイズで計算する"Dynamic adaptive mesh refinement schemes"を用いれば、雲の領域を念願の1kmメッシュで全球にわたって計算することも、次世代機を待つことなく、リプレース後の地球シミュレータ2上で達成できると期待される。
=>Multi-Scale Weather/Climate Simulations with Multi-Scale Simulator for the Geoenvironment (MSSG) on the Earth Simulator(高橋桂子、pdf)

 これによって、雲解像モデルだけでなく、地球温暖化の不確定要素のひとつである海洋生態系〜物質循環モデルも、プランクトン・パッチなどの空間分布に応じた解像度での全球計算が期待できるようになってきた。

観測網とのギャップ
 このようにパラメタリゼーションに頼らないシミュレーションが可能となるにつれて、その初期値となる観測データの解像度が追いつかなくなってきた。現実に地球シミュレータで用いられる初期値は、気象庁の300kmメッシュデータを高解像度シミュレーションで補間したものが使われている。

 そうなると高解像度モデルがどこまで現実を表現できているかを検証するため、また、データ同化によって高解像度モデルによる予測の精度を上げるため、観測手段の方の高解像度化も必要となってくるだろう。しかし、衛星の光学センサーでは観測できない雲の中とその下の海面、そして海中についてその要求を満たす観測手段はまだ存在しない。例えば、Argo計画では3000基もの観測フロートの投入が達成されているが、それでも平均間隔は300kmである。

 もし解像度1kmの観測を現実性のある手段で行おうとするなら、連結階層シミュレーションの発想と同様に、積雲対流や湧昇域など観測対象とすべき領域に投入したのちは、その領域の移動を追いかけていくような観測システムを考えざるを得ないであろう。このように観測対象に動的に適合しながら多点観測を行うことができるシステム、Dynamic Adaptive Multi-vehicle Observation SystemDAMOS、動的適合多点観測システム)を考える、それがこのサイトの目的である。

海洋生態系・物質循環の観測システム
 IPCC第4次レポートの大きな成果は、世界の観測網で実際に温暖化が進行していることを検出した点にあるが、第5次レポートで焦点となるのは、台風が凶暴化するかなどの極端現象の問題と、温暖化フィードバック、すなわち「温暖化によって、自然の吸収力が弱まる」かどうかの問題であろう。
 それには地球シミュレータのような高解像度の地球システム・モデルによるシミュレーションと、海洋生態系・物質循環の観測システムによる検証が必須である。

 温暖化の進行を検出するには、高精度な水温・塩分センサーを持つ使い捨てのArgoフロートが全球観測手段として有効である。しかし、海洋生態系・物質循環の観測については、化学センサーのキャリブレーションの問題もあり、使い捨てでバラけていくだけのArgoフロートではなく、動的適応可能なあたらな多点観測システムが必要である。

動的な生物・化学観測とは?
 水平方向の変化がなだらかな海水温や塩分濃度に比べ、生物・化学観測ではプランクトン・ブルーミングのように観測対象がパッチ状であり、まんべんなくばら撒いた観測網で捉えることは難しい。
 一番単純なのは、SeaWiFSなどの衛星海色センサーによる植物プランクトンのクロロフィル分布画像を元に、DAMOSをプランクトンの分布域に集める方法だが、衛星海色センサーでは雲の多い海域や季節ではリアルタイムの観測が難しい場合がある。

 次の方法としては海洋大循環モデルに海洋生態系モデルを組み込み、衛星で観測した海面水温、海上風、海面高度のデータを海洋大循環モデルに同化し、それによってシミュレーションされたプランクトンの分布域に集める方法である。
 海洋生態系モデルについてはNEMURO.FISHなどが開発されている。また、基礎生産力の高い沿岸域の海洋モデルについてはPOPベースのPFESを用いたJCOPE2による漁海況予測を目指したFRA-JCOPEシステムの開発が進められている。

=>NEMURO.FISH - Model descriptionFish growth comparisons around Japan using NEMURO.FISHOverview of application of the NEMURO-bioenergenic coupled model on north-westurn Pacific fishesサンマ太平洋北西部系群の資源変量と海洋環境の関係生態系モデルテキスト2(岸道男)第19回海洋物質循環セミナー地球環境変化に伴う生態系変動の診断と予測に関する研究日本近海における物質循環と生態系に関するモデリング漁業における衛星データ利用

=>FRA-JCOPE 太平洋及び我が国周辺の海況予測モデル海況予測モデルFRA-JCOPE を用いた海況予測の試みマイワシ加入モデル海況予測システム(FRA-JCOPE)の期待される波及効果についてJCOPEモデルでの予測の現状

 もっと夢のような方法として、魚群がどうやって餌の豊富な海域に集まるかを解明し、海水温、塩分、栄養塩、溶存酸素、溶存二酸化炭素などのスカラー量の濃度勾配を観測しつつDAMOSを構成する個々のビークルを魚と同じように行動させて観測する方法がある。このためには、ビークルに搭載するセンサー類についてさまざまな開発動向に注目する必要がある。

・表層CTD:
・溶存酸素:SeaBird社のSBE-43(電気化学的に測定)/Aanderaa社のOPTODE-3830(光学的センサー)
・溶存二酸化炭素:=>海洋二酸化炭素センサー(JAMSTECむつ研究所)JAMSTEC における技術開発 海洋表層二酸化炭素分圧観測装置の開発
・粒子状炭素:
・クロロフィル:WETLAB社のECO(蛍光光度センサー)/同社のFLNTU(同左)
・硝酸塩:紫外線域の吸収を利用 =>PROSPECTS FOR A “C-ARGO”:A NEW APPROACH FOR EXPLORING OCEAN CARBON SYSTEM VARIABILITY(pdf)
・リン酸塩:比色法で測定 =>In situ ultraviolet spectrophotometry for high resolution and long-term monitoring of nitrate, bromide and bisulfide in the ocean
・基礎生産速度:高速フラッシュ励起蛍光法 =>月刊海洋
・海上雨量・海上風速:ハイドロフォン
・沈降粒子の捕集:pdfA Neutrally Buoyant, Upper Ocean Sediment Trap

 以上のような考え方を熱水噴出孔周りの局所的な生態系に適用したともいえる研究として、以下のものがある。
=>マイクロ流体デバイスを用いた深海現場複合計測と熱水プルーム の4次元マッピング熱水プルームの挙動に関する研究:物理化学計測法と熱流動モデル深海熱水地帯における現場複合計測技術の開発.熱水プルームマッピングと現場遺伝子解析の試み
=>水曜海山カルデラ内のpH マッピングと海水流動
=>自律型海中ロボットによるカルデラ内部の観測方式の開発と熱水活動探索

DAMOSの構成要素
 DAMOSを構成するひとつひとつの観測手段は、多点展開できる比較的安価なものでなければならず、しかも観測対象の変化・移動に追従可能な移動能力を持たなければならない。そのような要求を満たすものとしては、現在のところ水中グライダー、セイリングロボット(無人ヨット)、エアロゾンデ(無人小型飛行機)がある。

水中グライダー
 これは浮力可変機構を持つArgoフロートに、翼を付けて揚力により移動可能としたもの。Argoフロート(Profiling Float)は4年前後の寿命の間に100回程度の浮沈を繰り返すのに比べ、水中グライダーは水深方向の水温変化を利用したサーマルエンジンを採用したものでも寿命は1〜2年に留まる。
 だから実用性が劣るというわけでは必ずしもない。
 塩分・水温のみを観測するArgoフロートでは水深2000mでの塩分・水温の季節変化・年々変化が少ないのを利用してドリフト補正でき、そのお陰で長期間の観測が可能なわけである。もしクロロフィル、栄養塩、溶存CO2なども観測するのであれば、キャリブレーションなしに長期観測することはできないので、それほどの寿命は必要ないことになる。
 一度投入したらほとんど回収できないArgoフロートと違って、DAMOSは回収を前提とする運用も可能なので、寿命は1〜2年で十分といえるし、繰り返し利用が可能なのでArgoフロートより高価になってもペイし得る。

 問題があるとすれば、現在の水中グライダーの移動速度が0.5ノット程度と遅い点である。したがって、予定測線を往復させるような使い方は難しく、観測対象とともに移動する間、ビークル同士の間隔をなるべく維持するため、あるいは回収しやすいように分散を最小限に抑えるための移動能力と考える方がよい。流れの速い海域では流れが弱くなる水深まで潜ってから揚力推進するとか、補助的に推進器を併用するとかも考えられる。

 米海軍が開発中のステルス戦闘機のような形の次世代水中グライダーは理論的最高速度が5ノットとあり、注目される。

 海中で高解像度を要する研究対象を考えると、台風直下の相互作用とか、海洋生態系/物質循環のうち有光層での現象と考えられるので、設計条件を水深100mあたりまでと想定すれば、浮力変化に空気を利用したり、太陽電池で充電したり、機器の収容性のよい円筒形以外の耐圧容器を採用したり、魚網に引っかかっても網を破らないよう鋭い翼のないスペースシャトルや円盤のような揚力体とするなどの発想も考えられる。

 水中グライダーは移動速度がわずか0.5ノットであっても強潮流域の観測に有効との意見もある。通常のArgoフロートでは水深1000mより浅い沿岸域では着底による亡失の恐れがあるため、沿岸近くに投入できないが、双方向通信により移動方向や潜航深度を逐一指示可能な水中グライダーであれば沿岸近くまで投入できるというのがその理由。

=>SPRAY(スクリプス海洋研究所)
=>Sea Gliders Show Underwater and Off-World Potential(NASA)
=>Underwater Gliders for Ocean Research(pdf)
=>SEAGLIDER(ワシントン大)
=>Autonomous Underwater Gliders(pdf)
=>Slocum Glider(Webb Research社)
=>XRay
=>全翼型水中グライダー(米海軍)
=>航行型無索無人潜水艇「PTEROA150」自分で泳ぎを勉強する海中ロボット
=>バーチャルモアリング用円盤型水中グライダー(BOOMERANG)
=>主翼独立制御型水中グライダープレゼンテーションpdf(大阪府立大学有馬研究室)

セイリングロボットセイルボートウインドシップ
 セイリングボートは帆で海上風を利用して移動する。ウインドシップは風車の回転力でスクリューや振動翼を駆動して風上に向かって推進する。太陽電池が使えるので補助的に推進器を使うこともできる。海上気象、海面水温・塩分のみならず、海上のビークルからセンサーを昇降させることで水深数十m程度までの観測も可能となれば、海洋生態系〜物質循環研究には強力な手段となりうる。
 1〜2年で回収することを前提にすれば生物付着によるセンサーの劣化や海鳥の糞による太陽電池の汚損の問題も少ないと考えられる。

 問題点は厳しい海象条件にどこまで耐えうるかということであるが、大型化・強度向上に頼るのではなく、小型・低価格なまま強風や波浪を柳のように受け流すことのできるものが開発できるかどうかがカギになると考えられる。
 もし激しい風浪に耐えられた場合、表層ブイの係留が困難な海域での大気海洋相互作用の観測手段として期待されるが、激しく動揺したり横転・水没を繰り返すセイリングロボットで有意な観測が可能なのかが、次のポイントとなる。

=>Autonomous Robot for Oceanic Observation (AROO)
=>A hardware proof of concept of a sailing robot for ocean observation(pdf)
=>AI on the Ocean: the RoboSail Project(pdf)
=>Autonomous Sailboat
=>SailBot: Autonomous Sailboat Competition:クイーンズ大学のサイトUBCのサイト(pdf)
=>Solar Powered Autonomous Underwater Vehicle(Falmouth Scientific, Inc.)/Field Test
=>ウインド・シップ−科学工作館振動翼で風力櫓船−科学工作館Wind−土浦工業高校理科研究部オヤジ塾
※SailingBotプロジェクト/ジュール・ベルヌ杯(長距離無人ノンストップ自律航走レース):2015〜2020年に実施する構想。日本ではJASNAOEに自律型無人ボード研究委員会が設けられている。

エアロゾンデ
 多数の小型無人プロペラ機を衛星通信などを利用して操縦し、雲・降水等を観測するもの。すでにオーストラリアの民間会社が商業運用している。離陸には自動車の屋根を用いることも可能で、着陸には網を使って捕獲することも可能とのこと。その点では洋上の船舶からの発進・回収ができる可能性もある。
 問題はプロペラ機のため飛行高度に限界があり、熱帯の積雲対流の観測には能力が不足する。またラジオゾンデと違って相対速度がある状態での観測データが研究上の要求精度を満たすか、また航空機からドロップゾンデをばら撒く方式と比べて費用対効果はどうかなどについて注意を要する。

=>エアロゾンデ観測Typhoon Hunter 2000宮古島近海での台風観測(気象研、別所康太郎)
=>北極海への応用(JAMSTEC、猪上淳)
=>多目的小型無人機(JAXA、鈴木教雄)
=>aerosonde-"LAIMA"(GLOBAL ROBOTIC OBSERVATION SYSTEM)
=>GeoRangerpdf
=>Scarlet Knight Glider(Rutgers University)

POPPSブイ
 海洋の生物生産は海表面から数十mにある有光層が重要であるが、10m以上の波浪が生じる海域で有光層を観測するには通常の係留系では困難で一工夫を要する。浅海型の水中グライダーや吊り下げ観測の可能なセイリングロボットも一つの回答案だが、水中ウィンチで海面下の任意の深度で観測を行う方法も考えられる。
 名大の才野らが日油技研等と開発している水中自動昇降ブイシステム(POPPS: Project on Ocean Productivity Profiling System)は海面下150mに設けた水中ウィンチから海面近くまでのデータを取得するもの。

=>Underwater Winch System衛星利用のための実時間海洋基礎生産計測システム(名古屋大学、才野敏郎)

DO-NET
 やはり上述のDAMOSとはタイムスケールが大きく異なるものの、現象に適合展開する観測システムとして、地震・津波観測システムDO-NETがある。これは地震サイクルシミュレーションなどの評価結果によりいつ起こってもおかしくない海域に数十点の地震計・津波計ネットワークを展開し、地震が発生した後は次に発生の可能性の高い海域に移設するという発想のもの。

航空機投下型センサー:AXBT/ACTD
 航空機から安価な使い捨てセンサーを投下して、スナップショット的に観測する方法もある。
=>Synoptic temperature structure of the East China and southeastern Japan/East Seas(Heather H. Furey, Amy S. Bower)

 以上のとおり、DAMOSの構成要素となりうるビークルについて、空中、海面、海中にわたってすでに多くの取り組みがあるが、まずビークルありきの発想ではなく、まったく違った観点からの解決策もありうることを忘れないようにしなければならない。

衛星通信
 アルゴス、オーブコム、イリジウムのいずれもが双方向データ通信をサポートするようになった。ARGOS-3(欧州の衛星MetOp-A、米国の衛星NOAA-19に搭載、双方向4.8kbps)は高速だが衛星の数が少なく待ち時間が長い。オーブコムはアップロード時の通信速度が遅い(2400bps)。イリジウムは衛星が81機で待ち時間が最も短く、通信速度も圧縮技術によって9600bpsも可能といわれているので、これが最も有望と思われる。
 以上は低軌道衛星だが、静止衛星を利用しているスラヤ(洋上移動体とのデータ通信速度:2400又は9600bps)は捕捉率が高いのはもとより、携帯アンテナで捕捉可能であり、イリジウムとのデュアル使用も可能なので有望である。

自律制御/Micro-AUV/マルチエージェント
 衛星通信は常時接続ではなく間欠的な接続なので、非接続の間はビークルは自律制御となる。一般的な自律型無人機というと、位置情報、移動速度、水圧、水温、塩分、相対流速などさまざまなセンサーからの情報をもとに行動を決定する必要があり、慣性航法装置やADCPなどが必要となってどうしても高価なものになり、ビークルの小型化も難しい。

 これに対して、DAMOSは多数のビークルを最適配置に保つのは陸上のホストコンピュータが行うので、ビークル単体のセンサーと自律制御能力を大幅に観測することができる。すなわち、各ビークルのGPS情報と観測データは衛星通信でホストコンピュータに送られ、ホストコンピュータは衛星画像や海洋大循環シミュレーションなどの結果をもとにすべてのビークルの行動パターンを決定しそれを各ビークルに伝達する。

 個々のビークルはホストコンピュータから与えられた指示と必要最小限のセンサー及びマイクロ・プロセッサにより自律制御を行えばよい。そのようにすることで個々のビークルのコストを低減することができる。

 このような考え方の自律型ロボット:Micro-AUVに関する水中ロボコンが2006年にシンガポールで開催されている。
=>Underwater Robotics CompetitionMicro-AUV

 また水中マルチ・ビークルの制御については以下の研究がある。
=>Coordination of an Underwater Glider Fleet for Adaptive Sampling
=>Autonomous Ocean Sampling Network -II (AOSN-II):モントレイ湾水族館博物館のサイトプリンストンのサイト
=>Adaptive Sampling And Prediction (ASAP) projects
=>水中マルチエージェント”TAMA”(渡邊啓介)
=>群れで泳ぐ自律ロボット潜水艇原文Naomi Ehrich Leonard
=>群知能海中ロボットシステムの調査研究ホームページ(大阪府立大学・有馬 正和)

 一般にはマルチエージェントというと、サッカーロボットのように、全体を統括するホストコンピュータなしでビークル同士の情報交換で行動パターンを決定させる研究が多い。しかし、DAMOSは高解像度シミュレーションとの連携に主眼があるので、ホストコンピュータからの衛星通信を前提とし、衛星通信できない間は自律制御とするのが現実的であろう。

展開・回収方法
 悩ましいのが展開・回収方法である。ビークルひとつひとつの移動能力は格子間隔を保つ程度しかないので、船舶で展開し、回収する必要がある。特別な装備を持たない船舶でもハンドリングできるよう、ビークルはできるだけ小型・軽量であることが望まれる。人の手で容易に運べる数十kgまでに押さえる必要がある(Argoフロート(APEX型)が26kg、サーマル型Slocumグライダーが60kg)。
 もしこの程度の重量に抑えることができれば、海洋生態系/物質循環で注目される海域には漁船、漁業調査船、大学の練習船等が集まると考えられるので、それらの船舶の航海予定を把握できるようにして、投入・回収を委託する方法が望ましい。

 翼を柔構造とするなど、漁船の魚網で漁獲されても網を傷つけないような構造・材質とすることも考える必要がある。

開発・運用体制
 多数のビークルを運用するにあたって、1台1台のビークルは繰り返し使用するといっても低価格化に努める必要があり、多機能化せずにミッションの目的に応じた必要最小限のセンサーセットに入れ替えながら運用することが必要であろう。
 このため必要な技術者と小規模な工場を備えたガレージ・ファクトリー方式の開発・運用体制を考えるべき。

 またビークルそれぞれの開発については、ビークルのサイズが水中ロボットとしては比較的小型であることから、スイミングプールで開催される水中ロボコンで競うことも可能である。ビークル群の集団行動制御のアルゴリズムの開発についても、ロボットサッカーリーグのように大会運営側で基本モデルを用意し、大会参加者にプログラミングを競わせる方法が考えられる。

 運用(展開と回収)については、Argoフロートの運用において、各機関の研究船、水産大等の練習船、民間商船等の運航計画を把握し、フロートを送って投入を委託するというロジスティクスが手本になりそうである。

DAMOS Concept Studyへの参加呼びかけ
 以上のとおり科学的ニーズの点からDAMOSの必要性は高いと考えられ、また構成要素となりうるビークルの開発も進行しているものの、展開・回収方法を含めて技術的成立性についての見通しが得られているとはいえない。これに関し興味をお持ちいただいた方にはぜひConcept Studyに参加いただきたく、ご連絡お願いいたします。

提案者:西村 一(JAMSTEC)


(経緯)
 本DAMOS構想は、水中ロボコンの会場であるスイミングプールの制約である人力で持ち運び可能な小型軽量の水中ロボットの開発モチーフとして公表したものです。
 「Multi-vehicle Observation System」というネーミングは高橋桂子氏の"Dynamic adaptive mesh refinement schemes"が元となっています。
 セイリング・ロボットの存在は野本昌夫氏と山本郁夫氏から教えていただきました。水中グライダーによる強潮流域観測については安藤健太郎氏より、衛星通信方式と回収方法については中川隆政氏(JOGMEC)より助言を頂きました。