■ブルース・スターリング

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2004年1月19日更新

●「塵クジラの海」(1977、ブルース・スターリング、2004ハヤカワ文庫FT)西村屋特選!
惑星<水無星(みなぼし)>の赤道には深さ約110キロ、幅800キロの巨大クレー ターがある。これは約10億年前に反物質隕石の集中的衝突によるもの。大気の90%以 上がクレーター内に溜まり、その下方はほぼ単原子からなる塵が積もった海となって いる。居住可能地域はクレーター内に限られ、しかし不思議なことに大気の希薄なク レーター外の地域に先行文明の遺跡が存在する。
 クレータ内には最大の都市「高つ嶋」、鴎半島、五星諸島(入植地アルナールほか)、足折諸島(水耕栽培場がある)、高さ110キロ、幅80キロの<崖>、堅忍(宗教と政治の中心地)、寸光湾(縦80キロ、横42キロの卵型)などがある。
 塵海最大の生物が塵鯨。空気呼吸する冷血動物で、体長20m、幅約10m、ヒラメのような形で体の大半が頑丈な髭のびっしり生えた巨大な口。全身に黒と灰色の八角形の市松模様。血液は紫色。その腸はシンコフィーネ(隠語フレア)という麻薬の唯一の原材料となっている。塵鯨は養殖されていて、一頭を殺すたびに受精卵(幅30cm、重さ25キロ)3個を塵海に散布することになっている。
 塵海にはこのほか飛び魚(パイロット・フィッシュ)を伴う鮫の群れ、オキアミ、シリコンの外殻を持ったさまざまな色と形状のプランクトン、節足動物、小魚、蟹、蛸(草食)、何百万匹も海面を埋め尽くす塵馬(ちりんぼ)、何百平方キロにも広がるリリパッドという光合成植物(一枚の丸い葉が直径何mもあり、厚さは2cm以下)、鰯もどき、葉齧り、葉掘り、茎穿ち、葉吸い、根食い、虫瘤作り、絶滅危惧種の磯巾着(成長すると)、磯巾着、がいる。
 この塵海は音響探査も光学的探査もできず、超セラミックの釣り糸で測深をしてもその測深のたびに水深が食い違い、途中で切断されてしまう。
 この海に主人公は捕塵鯨三胴船<ラングランス号>(長さ31.5m、最大幅27m、マスト4本、20種類の帆、乗組員26人)で乗り出す。ついには、この海の謎を解くために船長らは塵鯨の外殻を使った潜塵艇を組み立てて潜航し・・・。
(乗組員)
主人公ジョン・ニューハウス、
デュモンティ(モンティ)・キャロスリック
ニルス・ディスペランドゥム船長
フラック一等航海士(医者)
グレント二等航海士
ボーガンハイム三等航海士
樽職人2人
メグル少年:給仕
二等水夫15人:パーカム、マーフィグ、グレント、銛打ち砲手のブラックバーン
ダルーサ

●「クラゲが飛んだ日」**(1994、ブルース・スターリング&ルーディ・ラッカー、ハヤカワ文庫『タクラマカン』に収録)New
 数学おたくのプログラマー兼水族館員のタグ・メソグリーアは、自宅の水槽に「ミズクラゲ」、吊り鐘型クラゲ、「ヤナギクラゲ」、毒キノコみたいな斑点のあるクラゲ、「クシクラゲ」(テノフォール)、「鉢クラゲ」ほかを飼っている。タグは、人工クラゲ・アルゴリズムと圧縮プラスチックのマイクロビーズ成形材をレーザービームで焼結することによって、ゼラチン質のロボットクラゲを開発することに成功する。
 一方、ベンチャー投資家のレヴェル・プランはテキサス州ディザリーの油田から滲み出る「ウルシュライム」(Urschleim)を持参してきた。彼はこれを地球内部深くからやってきた原初のスライムと信じている。このウルシュライムを空気で膨らますと、なんとタグの人工クラゲとそっくりの空気クラゲが生まれる。実はタグがレヴェルに送った人工クラゲがプールから地層内に染み出てしまった後、この空気クラゲが誕生するようになったのだ。
 2人は人工クラゲとウルシュライムによる空気クラゲで一儲けしようと企むが・・・。

●『スキズマトリックス』(1985、ブルース・スターリング、ハヤカワ文庫SF)西村屋特選!
 そのラストで人類が海生/水生の「ポストヒューマン」に変容、ユーロパの内部大洋に移住しますが、その変容のための遺伝子を採取するため、立ち入り禁止になっている地球圏の深海底の熱泉生命の採取がおこなわれます。この際、偶然、沈潜となった原子力潜水艦の廃炉を熱源とするミニ生態系が発見されます。この手のアイデアとしてはたぶん最初のものではないかと思われます。(by 永瀬唯さん)
 宇宙に2億人の人類、何百もの居住空間が進出。月周辺にいくつものスペースコロニーが建設され連鎖国家を成している。さらに小惑星帯と土星の輪にも広がろうとしている。人工器官で人体改造する<機械主義者>とバイオテクノロジーによる<生体工作者>が対立する世界。

=>書評

(用語)
<機械主義者>:人の工器官で人体改造する超大党派。<機械派>、電線野郎、<上級機械主義者>
<生体工作者>:バイオテクノロジーで能力アップする超大党派。<好作派>
<サワー>:農場区の腐敗物が土になろうとしている沼状の場所
<維持主義者>:反動的若者運動。博物館を政治的拠点とする。<生体工作者>の一派。
<ラディカル・オールド>:富める貴族階級。<維持主義者>と対立。<機械主義者>の一派。
<ネフリン・ブラック・メディカル>:<財閥>にある<工作者>の裏の世界の分派に属する犯罪的生化学者グループ
<芸者銀行>:娼婦兼金融業者
ポストヒューマニスト:
 <母両極性>
 <血浴族>
 <内部共生体>
幻日:(サンドッグ)亡命者、国外追放者、無法者のこと。 <分離床>(スキズマトリックス):ポストヒューマンの太陽系のことで、分離していながら統一され、寛容が支配し、あらゆる分派にそれぞれとり分が与えられるという意味。
<ゼン・セロトニン>:哲学
<大変革論者>
<深夜党>:リンジーとノラが主催。マーガレット・ジュリアーニ、ボンピアンスキュールら。
<カーボン党>:ウェルズが主催
<親生命党>(ライフサイダー)
<ポリカーボン党>
<緑の結社>
<銀河主義>
<ルック>:特殊なコミュニケーション
キネシックス:「しぐさの意味」
<蝉>(シーケーダ)の党
ブリゴジン的事件
<存在> 海サソリ(エウリプテロイド):液体エタンの海に棲息。幅50cm、長さ3m。
剣尾目(カニ)
<天使>:エウロパの海用にデザインされた水生ポストヒューマン。化学合成細菌と共生(寄生バクテリアが胸に詰まっている)。

(国家・連合)
<連鎖国家>:月を回る10カ国の人工居住地の連合
<晴れの海環企業共和国>:月を回る10の人工居住地の一つ。のちに<幼形成熟(ネオテニック)文化共和国>となる。
<静かの海環人民財閥>:月周回する別の人工居住地。土壌の酸性化が猛烈に進行している。
<危難の海ソヴィエト社会主義共和国>
<コペルニクス連邦>
<工作者リング議会>:土星を巡る軌道上。
<ゴールドライヒ・トレメイン(GT)議会国家>:<共和国>よりも十倍規模が大きい。
<カークウッドの間隙>
<カッシーニ・クラスター>:
<ジャストロウ・ステーション>:<スキマー連合>の次に首都
<シンクロナス>
<ダーモット・ゴールド・マレー>
<牡牛座相>(トーラス・フェイズ)
<エンケ・クラスター>
<スキマー連合議会国家>:環タイタン軌道にある。ある時期、首都
<アーセナル>

<機械主義カルテル連合>(<機械派>カルテル):小惑星帯
<デンポウスカ・カルテル>:小惑星。直径200m。<機械主義カルテル連合>の一員だが除名寸前。キツネの根拠地。外飼育器(エクストラテラリウム)と観測球<カルナッソス宮殿>がある。
<ツァリーナ・クラスター人民企業共和国>(CK):<投資者>の変態女王を女王顧問官として迎え、《ツァリーナの宮殿》で統治。木星系区。
<テラフォーミング・クラスター>:ウェルスプリングが女王と設立.
<火星クラスター>:?
<ニサ・カルテル>:アステロイド。75年に<機械主義者>を脱退して<リング議会>に参加し、<ニサ企業条約国>となる。
<ディオティマ・カルテル>
エルサイスXII:小惑星エルサイス89-XII、長さ0.5km、<工作者>の前哨基地。
<フェルツナ鉱区民主国>FMD:小惑星<フェルツナ>を起源とし、今は戦闘用艦船《レッド・コンセンサス》を根城とする海賊国家。人口11人、
異星種族
<隕石球顆(コンドリュール)雲処理者>
<神経サンゴ水生物>
<文化幽霊>
<フォーマルハイトの気嚢生物>:ガス巨星
<投資者>:超光速運行技術を持つ。
<ハイジャック支持者>:卑劣。超光速運行技術を持つ。

(登場人物)
・アベラード・マルコム・タイラー・リンジー:主人公。<生体工作者>の教練を受けている。<維持主義派>。<静かの海環人民財閥>で《歌舞伎イントラソラー》の林時、<フェルツナ鉱区民主国>の国務長官、<ゴールドライヒ・トレメイン>で劇団支配人、アベラート・アヴリデス大尉博士、アンドルー・ベラ・ミロシュ教授
・アレキサンドリーナ・タイラー:リンジーの最初の妻で、3人目の妻、50才年上。<機械派>、のちに立派な<維持主義者>。
・フィリップ・クーリー・コンスタンティン:リンジーの15年来の政治的同志、平民出。<生体工作者>の教練を受けている。昆虫を研究。エコロジー技術者。のちに宿敵
・ヴェラ・ケランド:芸術家、役者、貴族。リンジーの一人目の恋人。<維持主義派>、26才で死亡。
・ジェイムズ:リンジーの叔父
・コーリー・プレージャー博士:<ネフリン・ブラック・メディカル>の一人
・フョードル・リューミン:<財閥>のジャーナリスト、<機械主義者>、天才的戯曲家。
・キツネ:<芸者銀行>の黒幕。リンジーの2人目の恋人。のちに<デンボウスカ>で<壁母>(質量40万812トン)
・大統領、下院議長(大統領の妻)、国務長官、上院1、上院2、上院3(女)、最高裁長官(老<機械主義者>、エヴァン・ジェイムズ・ケランズ)、次席裁判官/第2判事(老女、船医)、判事3、下院1(女、上院1の妻)、下院2、下院3
・ノラ・マヴリデス博士:27才、リンジーの2人目の妻、大佐博士、ノヴァ・エバレット
・クレオ(女40)、ファザール17、パオロ17、イアン17、アグネス17
・フェルナンド・フェッテルリンク:劇作家
・カール・ツォイナー:劇作家、ファシスト、コンスタンティンの手先
・クレオ・マヴリデス:リンジーとノラが養うクレオのクローン。フェルナルド・フェッテルリンクの妻
・ディートリッヒ・ロス修士中尉:<深夜党>員
・チャールス・フェッテルリンク:<深夜党>員、前摂政
・マーガレット・ジュリアーノ学長将軍:<深夜党>員、平和主義、<大変革論者>、アイス暗殺されていたが、のちに解凍される。心理技師ばあさん
・ジークムント・フェッコ:<深夜党>員、6人のうち最長老の<機械主義者>の反逆者・グレタ・ビーティ警妾:ゼンの尼さん、<機械主義者>
・ミカエル・カルナッソス:デンボウスカの異星大使館の外生物学者。2百人の妻がいる。ビーティと肉体関係。のちにキツネの庇護下に。異星大使
・ウェルズ/ウェルスプリング:リューミンの弟子で<機械主義者>。のちに<ケレス・データコム・ネットワーク>CDNの社長
・サイモン・アフリール大尉博士、ベセツヌイ(女)、ヴォーデン、パー、レン:リンジーの教え子たち
・ネヴィーユ・ポンピアンスキュール:<深夜党>員、老医師、ポンじいさん、ネオテニック)文化共和国の<監督>、のちにアレクサンドリーナと結婚
・アデライデ・ガルザ:<超英才>
・パオロ・マヴリデス:46年には9才
・ランダ・フェッテルリンク:46年には6才。
・ナタリー・コンスタンティン:パオロの妻、コンスタンティンの妻、のちに<スキマー連合>の人気娼婦。
・イフェゲニー・ナヴァーレ教授:膜化学の専門家、懐疑派
・アベラート・ゴメス:超天才。コンスタンティンの血を引いている。ヴェラ・コンスタンティンと結婚し離婚、ジェイン・マレー計画部長と結婚。
・ジョージアーナ:コンスタンティンの最初の妻

(リンジーの年表)
15年12月27日:<環企業共和国>でヴェラ26才の墜落死の後、リンジーが<環人民財閥>に追放される。そこでリューミン142才に出会う。
15年12月28日:<フェルツナ鉱区民主国>が<環人民財閥>を襲う。
16年1月2日:キツネに出会う。
16年6月2日:コンスタンティンが差し向けた刺客を殺し、<フェルツナ鉱区民主国>の宇宙船《レッド・コンセンサス》で亡命。
16年12月21日:小惑星エルサイスXIIに到着。ノラ27才と出会う。
17年3月1日:マヴリデス一族と<フェルツナ>の間で殺し合い。リンジーとノラだけが生き残る。
17年7月17日:異星人<投資者>と出会い救出される。
32年4月3日:<ゴールドライヒ・トレメイン議会国家>、リンジー51才。
46年12月26日:リンジー61才。娘クレオ・マヴリデスとフェルナンド・フェッテルリンクが結婚。パオロ・マヴリデス9才。
53年4月16日:リンジー68才、若返り療法を受ける。
53年9月18日: 53年9月29日:リンジーが<投資者>の交易船で亡命。<投資者>司令官(女王)の秘密を知る。
53年10月10日:<デンボウスカ・カルテル>
53年10月24日:リューミンと再会
53年10月31日:キツネと再会
57年頃:ノラがグレアム・エヴァレットと再婚
58年2月14日:コンスタンティンの命により<深夜党>メンバーが次々と暗殺。
75年5月15日:リンジー90才、最初の妻アレクサンドリーナと再婚
83年6月23日:コンスタンティンが捕らえていたパオロ・マヴリデスを殺害。リンジーの生存を知る。
84年1月3日:デノボウスカで<ツァリーナ・クラスター>が成立、反逆罪で起訴されていたノラが自殺。
86年2月14日:リンジーとコンスタンティンが《アリーナ》で決闘。
91年6月17日:リンジー、<共和国>で意識を取り戻す
91年12月15日:リンジー160才。CKに移動。環太陽系人口は32億人。4百ある主要<機械主義者>アステロイドでは80億の自己増殖型採鉱ロボットと4万の完全オートメーション工場が稼動。
101年2月21日:リンジー、キツネと<デンボウスカ>で再会、軟禁されていたヴェラ・コンスタンティンを解放
154年1月13日:アベラート・ゴメス85才。女王がウェwルスプリングに連れ去られる.
154年4月14日:リンジーとヴェラ・コンスタンティンが封鎖された地球の深海化学合成生態系を探査
186年8月8日:<ネオテニック共和国>でコンスタンティン学長将軍が目覚め、自殺する。
186年12月25日:リンジー、<存在>と出会う。


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