■アーサー C.クラークの海洋と深海のSF作品紹介

  クラークが著名なSF作家の中でも海洋に関心が深いのは有名。この巨匠が海洋・地球SFをなんと6冊も。スリランカでスキューバダイビングを随分たしなんだようだ。

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2003年8月9日更新

●「海底牧場」**(1957、"The Deep Range"、アーサーC.クラーク、ハヤカワ文庫、福島正実訳『海底パトロール』)西村屋選
 食糧問題に直面した人類を救うために設置された世界連邦食糧機構海務庁牧鯨局のベテラン監視員ドン・バーレイ、宇宙で深い心の傷を負った元宇宙飛行士ウォールター・フランクリン、女性海洋生物学者インドラ・ランゲンバーグらの活躍を描く。巨大イカの捕獲、原子力プラントを使った人工湧昇による肥沃化、プランクトン農場路線か牧鯨路線かの選択、鯨乳採取、シャチを牧鯨犬にする研究などが登場する。
=>天酒房−楽古堂(大内史夫さんのサイト)>『海底牧場』論
=>アーサー・C・クラーク『海底牧場』ファンのページ()

絶版本を投票で復刊!「海底牧場」
絶版本を投票で復刊!「海底パトロール」

●「イルカの島」**(1963、アーサーC.クラーク、創元SF文庫)西村屋選
 家出少年ジョニーが密航した船が沈み、イルカたちに助けられ・・・。

●「輝くもの」(1964、アーサーC.クラーク、『太陽からの風』**に収録)
 スリランカ(セイロン島)東岸の良港トリンコマリーに熱水発電設備が建設されたが、発電所開設式の3週間前に発電停止の事故が起こる。水深3000フィートのトリンコ海淵に民間深海作業会社の作業用ミニ潜水艇<ロブスター>が潜ると、そこに据え付けられたグリッド電極はめちゃめちゃに叩き潰されていた。
 回収した電極を調べたところ熱電素子の一部が何者かに奪い去られていた。それを捜索するために再度潜航した<ロブスター>は、そこで長さ20フィートの発光するイカ2匹が、発光によって体表に図形を浮かび上がらせて会話していることを発見した。そこにはとてつもなく大きいイカが表示された・・・。
 揚水して低圧蒸気機関で発電する海洋温度差発電OTECとは異なり、これは<熱電>効果によるもの。地上側には濃い塩水の浅い池で底を黒くしているソーラーポンド(華氏200度まで温度が上昇する)を置いている。

●「星々の揺藍(ゆりかご)」**(1967、アーサーC.クラーク、ジェントリー・リー、ハヤカワ文庫)
 「スフィア」に似たコンセプトのファースト・コンタクトもの。

●「メデューサとの出会い」**(、アーサーC.クラーク、1973年S-Fマガジン9月号、短編集『太陽からの風』に収録)
 クラゲ(メヂューサ)をモチーフにした作品。<クイーン・エリザベス四世号>(全長500m、上空5kmを180km/時で航行、直径100m以上の10個のガス球で浮揚。うち6個はヘリウム、4個は核融合動力炉の廃棄熱で膨張する空気、バラスト用水200トン)が試験航海中に墜落。遠隔操縦されている取材用TVカメラ飛行機が、衛星経由となって半秒のタイムラグが生じていることに気付かず、グランドキャニオンの乱気流に対して操縦不能となったのが原因。その時の船長ハワード・ファルコン大尉は瀕死の状態からサイボーグ化によって生還する。
 それから12年後、木星の有人探査が行われる。ガニメデからの中継では6秒のタイムラグが生じることから、ファルコン中佐がパイロットとなって<コンチキ号>(核融合炉で加熱する熱水素気球数千立方m、原子力ラムジェット)で探査する。ひれの端から端まで100mの巨大なマンタ・エイ、さしわたし5000kmもの”ポセイドンの車”(地球で海底地震の結果として生じる光る全長200〜300ヤード車輪に似たもの)、さしわたし2kmのクラゲ(数百mの無数の触手)を発見する・・・。

●「ビッグ・ゲーム・ハント」(白鹿亭綺譚より、1980、アーサーC.クラーク、ハヤカワ文庫)
 30mの大イカを電気信号で操って映画を制作しようとするが・・・。

●「2019年7月20日−Life in the 21st Century」**(1986、アーサーC.クラーク、旺文社)
 2019年までの科学技術、文化の未来予測。海洋に関する記述はごくわずか。
 ホバークラフトによる海上高速フェリー、海軍艦艇。
 電磁流体力学MHD推進(セシウムなどの金属を混入して導電性を高める)による高速で静穏な潜水艦。水の抵抗を減らすための滑らかでゴムのような船体皮膜、ミクロン単位の気泡や粘度の高い重合体による抵抗軽減。
 原子炉からの微量な赤外輻射、スクリュー渦による海面傾斜による潜水艦探知法。

●「グランド・バンクスの幻影」**(1990、アーサーC.クラーク、ハヤカワ文庫)
 <タイタニック号>をペルティエ冷却効果、ガラス球、電気分解などのアイデアを用いて引き揚げる試み。「レイズ・ザ・タイタニック」で400気圧もの海底に圧縮空気を送ることが現実的でないことを指摘している。同じく同映画で使われた?ヒドラジンはブルーピース(グリーンピースのもじり)の反対でとん挫したのが面白い。
 引き揚げ作業に従事する<グローマー・エクスプロラー号>がハワイ沖5000mの海底に沈没した核搭載ロシア潜水艦を引き揚げたエピソード、沈没したアルヴィンが数年後に引き揚げられた際、乗員の昼食が酸素含有量が少ないためほとんど有機的分解されずに残っていたエピソードが登場する。
 米海軍3人乗り深海潜水艇<マーヴィン号>(内燃機関で水深4000mまで1時間で到達。アルヴィン号の後継艇)、人工知能海中ロボット<ジェースン・ジュニア>(国際海底機構に所属し、船隊を組んで海底を1mの精度で調査)、一人乗り<ディープジープ>、海底に電力を供給する退役原潜<マシュー・フォンテーン・モーリー号>及び<ピョートル大帝号>とその暖水による湧昇効果、北極海の氷冠の下の海底光ファイバー・ケーブル、深海観光潜水船<ピカール号>などの海中技術が登場。
 ニューファンドランドの水深100mにある海底石油生産マニュホールドがさしわたし100mの大タコ<オスカー>に破壊される。海底地震と深海の乱泥流(タービダイト)、海底下の炭化水素の貯蔵庫とその噴出と爆発という問題も登場する。

ジェースン・ブラッドリー:21才(74年夏)ジェニファー計画に参加。
ドナルド・クレイグ:15歳
イーディス・クレイグ:女性プログラマー。”99年ファージ”〈ダブルゼロ〉の発明者。ドナルドの妻、トリントン診療所に入院。
エイダ・クレイグ:ドナルドとイーディスの娘
ドロレス:看護婦
ロイ・エマソン:百万長者。音波式フロントガラス・ワイパーの発明者
ウィリアム・パーキンスン=スミス:
ルーパート・パーキンスン:
グローリア・ウィンザー・パーキンスン:
アーノルド・パーキンスン:
=>Hughes社のGlomar Explorer号>CIAのProject Jennifer

●「イカ!」(1992、Sauid!, アーサーC.クラーク、米<オムニ>1月号)
 エッセイ。巨大イカ(学名:アルキテウティス)とクラークとの関わり。

●「神の鉄槌」**(1993、アーサーC.クラーク、ハヤカワ文庫)
 彗星カーリー(「シヴァ神降臨」のシヴァの伴侶の破壊の女神の名をとったそうな)に宇宙船ゴライアスが接近し、マスドライバーを設置して地球との衝突を回避させようとする。これと「地球最後の日」が合体して映画「ディープインパクト」が作成されている。

●「マグネチュード10」**(1996、アーサーC.クラーク、マイク・マクウェイ、新潮文庫)
 2024年、プレート衝突による巨大地震の予測とそれをなくす試み。プレートを溶接するという発想は、むしろ地震をより巨大化すると思われ、いただけない。地震発生時のエネルギーは、固着した岩石を溶融させるほどだという。「地球シミュレータ」に類する装置が登場する。

●「過ぎ去りし日々の光」**(2000、アーサーC.クラーク、スティーヴン・バクスター、ハヤカワ文庫SF)
 2010年、老朽スペースシャトルとの衝突後に宇宙ステーションが放棄。同じ年に連合王国からスコットランドが分離独立。2019年にイングランドは米国の52番目の州となる。2033年、さしわたし400kmもの<<にがよもぎ>>(ワームウッド、ロシア語でチェルノブイリ)が天王星の向こうで発見。50年後の2534年には地球に衝突し、現存する科学技術では回避できず地球が壊滅することが明かとなる。
 この時代は温暖化の進行によってシベリアの永久凍土から数億トンものメタンが放出されつつあり、大陸棚周辺のメタンハイドレート地層は不安定化する。メキシコ湾流の停止によって北ヨーロッパは寒冷化し、西南極大陸氷床が崩落しようとしている。
 2035年、アワワールド社はマイクロ・ワームホールで任意の場所の映像を得る技術、ワームカムを発明した。これによって人々のプライバシーが失われ、南極氷床下の地底湖を汚染させることなく探査できるようになる。
 真空圧縮ワームホール技術によって、4.3光年離れたケンタウロス座プロキシマの惑星探査が可能となる。さらに過去の映像も得られるようになり、犯罪捜査に使われるようになり、さらにはキリストの秘密などが解き明かされる。これによって社会は変革していく。
 過去への旅は人類の祖先、白亜紀末期(6500万年前)の小天体衝突、恐竜の時代、2.5億年前の大絶滅、超大陸の分裂とその後の全球凍結の繰り返し、複雑な多細胞生物が小天体衝突や全球凍結で絶滅を繰り返す地球史が明かとなる。熱水噴出孔周りの生態系、さらには光も酸素も有機物にも依存しない地殻内超好熱性微生物がそれらの絶滅を乗り越えていく。最後から11ページ前に驚くべきことが明らかに。


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