■西村寿行

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2003年11月9日更新

●「蒼き海の伝説」(1975、西村寿行、徳間書店のTOKUMA NOVELS)
 西村寿行というとバイオレンス・ポルノとまではいかないが、伝承+暴力+ロマンの入り混じった作品で人気の作家ですが、本作品は極めて珍しく本格的な推理モノ。
(永瀬唯さんによると、もともとは本格ミステリーでデビューされていて、ノンフィクション『世界新動物記』も出版されており、薬品会社のプロパーという職歴をお持ちで、野生動物や博物学、生物学への造詣もきわめて深い方だとのこと。)
 8月17日に小型の台風が四国を縦断。日本海に抜けた8月19日に異常高潮が沖縄から千葉県までの太平洋沿岸全体に発生。満潮時より1.2mも高いこの異常高潮は11日間居座った後に消えるが、その8月30日、高知県足摺岬で若い女性の溺死体が発見されるところから始まる。
 死亡経過日数は約十日前後と推定され、黒潮の上流である九州南方から沖縄までのどこかで入水したと推定されるが、該当するような行方不明者の届出はなく、事件は迷宮に。
 ところが別の医療過誤事件に絡んで、看護婦の日野克子が8月19日に伊東のマリーナから病院長とボートで沖に出たのを最後に失踪。刑事は病院長が伊豆半島沖で克子を殺害したことを立証しようとするが、その克子が黒潮を600キロも遡った足摺岬の溺死体であることが判明・・・。
 スリルあり、人妻とのロマンスあり、医療事故隠蔽など社会問題ありと、さすが売れっ子作家ならではの内容。
 熊野の渡海信仰、漁師たちの「お化け潮」の噂などをヒントに徐々にその謎が解き明かされていきますが、運輸省異常高潮調査委員会なるものとその事務局の海上保安庁水路部海象課長が登場するという点でもなかなかユニークな推理小説です。

●「屍海峡」(1974、西村寿行、サンケイ出版、1976角川文庫)
 小説家としてのデビュー作『瀬戸内殺人海流』は読み逃してるので、海洋としての瀬戸内海がどれだけ深く扱われているかはわかりませんが、『屍海峡』は、ミステリーとしても本格であると同時に、本格派の海洋「学」テーマの小説でもあります。
 ミステリーとしてのトリックとゆうか仕掛けのキモは二つ。
 一つは医療技術がからんだもの。
 そして、もう一つは、海産生命、この場合はタコの大量死の原因となった、ある現象。水産ならびに海洋生物学では常識の現象で、しかも、場所は、工業化による汚染がすすんだ瀬戸内海となれば専門家にはいわでもがなのことなのですが、あえて、ここでその現象の名をはっきりとは書かないのは、トリックそのものではなく、犯罪の立証にからむ証拠の発見に、この現象が深くからんでいるため。
 その、余りにも凄絶で美しい光景の印象から、ぼくはいつも、タイトルを、西村屋さんが紹介してる『蒼き海の伝説』と混同してしまいます・・・・・・って、あっ、ネタばらしもいいとこでありました。
 ウェブでチェックしてみたら、ミステリー好きの方が詳しいストーリーを紹介されてましたが、お気の毒に、専門知識がないため、上記二つの仕掛け、本当に成立するのだろうかと首をかしげてました。
 阿笠湖南さあん、ぜえんぶホントのことですからね。(by 永瀬唯さん)
=>書評(阿笠湖南さん)
 東京の安アパートで安高恭二36才が青酸で殺された。唯一ボトルに残された指紋から容疑者として秋宗修が逮捕された。安高の顔にはケロイドの跡があり、殺される前に頭痛と船酔い症状と視力障害、そしてある男を恐れる拘禁様症状に見舞われていた。そして秋宗には安高に鯔漁妨害と養殖ダコを全滅させられた恨みを持つと見られ、精神異常と診断された。
 解決したと思われた殺人事件だが、安高が殺されたアパートの無人の隣室には干からびた数匹のゴキブリの幼虫が。そして秋宗は公害省公害第4課の調査官(環境Gメン)松前真五の元を訪れ、「青い水」の分析を依頼しようとして姿を消していた。捜査本部の中岡知機刑事は精神異常の秋宗がボトルの指紋を除き全て拭き取っていたことに疑問を持つ。瀬戸内海の島に向かう。???


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